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第11節―2


「それで?」

「あれ? えっと、ほら。その話してたドラゴンがどうかしたんですか? 話ってたぶんそれですよね。今は私が完全に話をそらしちゃいましたけど」

「ああ……」


 私がドラゴンのことについて聞くと、本題を思い出したのか、彼は嘆息するようにして頭を押さえてしまいました。よほど疲れているのか、もう片方の腕を机の上に置いて体重を預けていました。

 本当に珍しい。相当お疲れのようです。


「そうだな。どうも襲われた時の様子を聞くと、ここ数日その子竜が活発になってしまったらしくてな。子供の竜とはいえあれを放っておくのは良くはない。人形娘の命令で俺も周囲の村や地域に出向くことになったんだ」


 彼の話を聞いて、彼がお疲れの理由がなんとなく察しがつきました。

 たぶん、彼が元帝国騎士だということはそれなりに周知されているのでしょう。この村に住んでいるのなら、村の警護をさせるという領主なら思いつきそうなことでした。

 だから、時々出て帰って来る彼もお疲れなのでしょう。

 納得しながらお茶を飲んでいると「それでなんだが」とリオさんが言うので、何を言うのかと待っていると、だいぶ戸惑った様子で言葉を続けました。


「この前お前と会った場所だけじゃなくて、他の草原や山岳地域を回ることになった。なにかない限り、数日は帰ってくることは無いと思う。だから、その間は家の管理は任せたい」

「は、はあ……。あれ、もしかして初のまともなお仕事って認識でいいんですか?」

「……そうだな。使用人としてはまともな仕事だろう」

「やった! 誠心誠意、真心こめて務めさせていただきますね!」

「……そこで本気を出すのか?」

「いけませんか? だって、普段何もすることないじゃないですか。お互いがお互いのことはしちゃいますし」

「いや、少し。いやだいぶ意外だっただけだ。今までのお前の行動を見ていると、面倒くさがりのほうが強い傾向があった気がしてな」

「それは嫌味ですか? だいたいまともな仕事をさせてくれないあなたが――」


 そんな文句を言おうと思って彼の方を見て言葉が止まりました。

 彼はどこか照れくさそうにそう言うと、そっぽを向いてしまうのが見えたからです。

 もしかして、彼の言葉は嫌味のように聞こえましたけど、褒めた……つもりだったのでしょうか。

 どこが褒めたのかと言われると、だいぶ遠回りですし、自分の気のせいな気がしてしょうがないのですが。

 それよりも、この人の中で私はぐうたらの印象しかなかったのがちょっと悔しいです。

 そこだけは反論しなければなりません。

 気を取り直すために、カップを持っていない方の手の指を立てて抗議することにしました。


「そもそも、この村で使用人のまねごとをするなんて思いませんでしたし、それに半ば無理やりですよ? なのに相手の人ったら使用人の扱いに慣れてないじゃないですか」

「悪かったとは思うが、仕方ないだろう。元々農民出の騎士なんだ。騎士だった時代だって従者なんて居なかったのに、従者の扱いを期待する方が間違ってる」

「そりゃあ、私だってそこは否定はしませんけど……。それでも面倒くさがり、なんて言われるのはとっても心外です。私はもともと働き者ですよ? 孤児院の掃除や料理だって私一人で回していましてたんですから」


 私がそう反論すると、まるでおかしいものでも見たとでも言いたげな顔になるのを目撃してしまいました。


「お前、家事が出来たのか」

「ええ、何を隠そう、私の家事の腕前は一級品ですよ? まあ、掃除と帝国の貧民料理に限っての話になりますけど」

「なら、なぜ料理を作らなかったんだ。それも仕事だろう」

「それを本気で言ってるのならさすが帝国人って感じですね。最低限の自分のことをしろとは言われましたけど、家事をしろとは言われてませんよ。お金だってどこに使っていいって言われてないので、勝手な判断をして行動するわけにはいきませんので。そこで自分勝手に判断をするのは仕事としては三流以下です。合理的かはともかく」

「それは……。たしかに俺が悪い」

「ご理解いただけたようで、ブランはとてもうれしく思います。まあでも、人間でいう貴族の人が多い魔族相手なら家事ができたのかっていうのも、間違った認識じゃないですけど。でもそれ、女の人に言って殴られたことありません? 少なくとも男性が台所に入るよりは当たり前だと思うんですけど」


 私がそう返すと、彼は黙り込んでしまいました。あてずっぽうでしたけど、どうやら本当にそう言ったことがあるらしい。

 暫し、ばつが悪そうにそっぽを向いていましたが「とにかくだ」と話しを切り返してきて、テーブルに手を付いて私の方を向いてきました。


「数日の間でいい。この家を――ひいては村の事をお前に任せたい。翼魔族の魔力は魔族の中でも随一と聞く。ここは村の入り口だ。ここに何かあれば村にも被害が出る可能性が高い。お前に任せても大丈夫か?」


 いつになく真剣に言った彼に、思わず面食らってしまいました。

 それほどまでに、彼にとってこの村が大事なのでしょうか。

 事情は聴きましたけど、帝国人であるはずの彼が敵国でもあったコアコセリフ国の村に入れ込むなんて思わなかった、というのもあります。

 たしかにミユネーヌはとてものどかで、発展もしている良い村です。

 彼は亜人戦争から数年、ここで過ごしていたと聞いています。それはアレシアさんからも、シュクラさんたちからも聞いているので間違いないと思います。

 でも、帝国人は本来自分たちの国の事しか考えていなくて、他種族なんて、それこそ虫ほどの理解しようとしなかったでしょう。

 なのに、彼はこうしてここまで真剣に私にこの家の守護を任せると言い切りました。

 どれほどの信頼が、私に対してあるのかはわかりません。

 わかりませんけれど、どうして彼はここまで真剣に頼み込むのでしょうか。


 ――まあ、それよりも今はお仕事の話ですかね。


 彼が真剣であるのなら、私も茶化すのをやめて、真剣にお仕事をすることにしました。

 椅子から立ち上がり、お茶を淹れていたカップをテーブルの上に起きます。ゆっくりと寝間着の裾を持ち上げて、恭しく頭を下げることにしました。


「はい、不肖ながら人間の地に住まいし魔族、ブランめにお任せくださいまし。この村のことは魔族の名においてお約束します」

「……任せたぞ」


 私の態度に驚いたのでしょう。少しどぎまぎとする彼の態度に苦笑しながらも、私は一度着替えるために自分の部屋へと下がりました。




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