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生徒会室で

 八坂高校の小さな良心と呼ばれている生徒会。各学年にニ名ずつ存在しており、六月の下旬に新しい一年が入って来ると二年が会長副会長になり、三年はその補佐となるので、高校生活せいしゅんのほぼすべてを生徒会役員は生徒会の仕事に費やす事となる。選ぶ時はある程度の良識を持っているかどうかが基準だ。もちろん拒否権はない。

 この学校における生徒会の主な役割は一般生徒とヤンキーとのいざこざをできるだけ迅速かつ穏便に処理する事だ。基本的にはヤンキー同士のいざこざには不介入だ。だが、いくら穏便にとは言っても相手はヤンキーである。荒事になる事も少なくない。その為生徒会役員は身体を鍛える事が推奨されている。選ばれた当初はモヤシであっても卒業する頃には鍛え上げられた肉体と精神を有しているのだ。

 つまり、生徒会とは三年間強制的に校内の火消しをさせられる可哀想な組織なのであった。

 昼休み。

 二号館二階、普通の教室二クラス分はある広い部屋、生徒会室に春斗は弁当を持って訪れていた。その部屋の半分は事務机やソファーなどが置いてあり居心地が良さそうな空間となっている。もう半分には筋トレする為の様々な器具が並べてある。ここで生徒会役員は日々、己の肉体を鍛えている。誰が何と言おうとここは生徒会室なのである。

 その生徒会室にはすでに貴明ともう一人、少女が来ていた。

 この少女は二年生で副会長の鈴風桃花(すずかぜももか)である。桃花の頭は春斗の肩にも届いておらず、童顔であり、可愛らしい顔立ちをしている。童顔と背の低さも相まって、春斗は知り合って四ヶ月たった今でも桃花が先輩であるという事に違和感が拭えずにいた。


「お疲れ様です。鈴風先輩も来たんですね」


「うん!今日はなんとなくここで食べようかなって」


「山田君も来たしそろそろ赤崎さんの話しの続きをしようか」


「え゛」


 変な声を上げると桃花の動きが止まった。


「ど、どうしたんですか!?鈴風先輩大丈夫ですか!?なんか顔色悪いですよ⁉︎」


 いつも明るく、ムードメーカーの桃花が突然変な声を上げて動きを止めたのだ。春斗の心配ももっともだった。


「ははは、いつもの事さ。僕は話しを聞いただけだが鈴風はあの事件を直接見てしまったからね、トラウマになってるのさ」


 桃花の異変を笑って済ませるあたり貴明はいい性格をしている。


「さて、あの事件の話しをする前にまずは赤崎さんの前の番長の事を話しておこう」


 貴明はそう言うと淡々と語り出した。

 前番長、早水剛毅(はやみごうき)。彼は入学当初体格が良く大柄ではあったがとても物腰柔らかで大人しい生徒だった。授業態度は真面目で、服装も一般的な高校生となんら変わりなく、無遅刻無欠席と、何故八坂高校に入学したのか分からない程普通の生徒だった。それは二年生になっても変わらなかった。学校では、模範生を演じていた。

 だが、学校外では人知れず身体を鍛え、喧嘩を繰り返していたのだ。全ては三年になった時にこの学校の番長に君臨する為に!その為だけに早水は二年間誰にも悟られないよう牙を研ぎ続けたのだ!

 ノーマークの自分が番長になる事に意味があると考えた。つまり早水は、若干中二チックな思考回路をしていたのだった。

 春斗はここまで聞いて、なんでそのエネルギーを喧嘩に向けたんだよ!とか、どうせ身体鍛えるなら部活でもすれば良かっただろ!とかいろいろツッコミたかったが、まだ貴明の話しが続いていたので呑みこんだ。

 早水は三年生になった初日に牙を剥いた。当時の番長に素手喧嘩(ステゴロ)を挑んだのだ。双方一歩も引かずボロボロになりながら勝負は一時間以上続いた。最後は早水の渾身のストレートが決まり決着が着いた。


「おー!それでその早水先輩とやらは番長になれたんですね」


「そうだよ。その一週間後に赤崎さんに負けたけどね」


「一週間!?二年間番長になる為に頑張ったのに一週間んん!?」


「ちなみに三対一だ。早水先輩と当時のナンバーツーとスリーが相手だった」


「三対一!?一年の女子相手に三対一!?」


「もう一つ付け加えると三人ともワンパンで吹き飛んだらしいよ。比喩じゃなくね」


「赤崎先輩マジぱねぇ!?」


「その時の文句のつけようもない圧倒的な強さから悪鬼と呼ばれ恐れらているんだ。まあ中にはその強さに憧れる人もいるみたいだけどね。」


「あー、いろいろ言いたい事あるんですけど一つだけ聞いてもいいですか?最初の早水先輩の下りまるまるいらなくないですか?」


 春斗がそう尋ねると貴明は俯き徐々に肩が震え出した。


「だ、だって、くく、に、二年間も、人の目を忍んで喧嘩の腕を磨いていざ番長になったら、い、一週間でその座を奪われるなんて、は、話の種にでもしてあげないと、ぷっ、早水先輩が可哀想じゃないか!」


 震えたような声でそこまで言うと貴明は耐えきれずに腹を抱えて笑い出した。春斗はと言うとドン引きしていた。貴明の腹黒さにドン引きだった。古今東西ほとんどの場合、生徒会長は腹黒いと相場が決まっているのだ。


「う〜、水嶋君は直接見てないからそんなに笑えるんだよ!」


 終始無言で弁当を食べていた桃花がやっと会話に復帰した。が、まだ若干顔色が悪い。


「だって早水先輩のあの巨体が二十メートル以上は吹き飛んだんだよ⁉︎」


「わかったわかった。怖かったね〜涼風さ〜ん。ここには赤崎さんはいないから大丈夫だよ〜」


 貴明は子供をあやすような口調で言うと桃花の頭を撫でた。


「あー!そうやってすぐ水嶋君は私を子供扱いしてからかうー!止めてよね!後輩の前でこういう扱いされると先輩としての威厳が薄れるでしょー⁉︎」


 桃花は貴明の手を払いのけると、頬を膨らませ腕組みをして、そっぽを向く。こういう所が子供っぽいのだが本人は気付かない。春斗も、「もう手遅れです」とは言わない。

 桃花は喧嘩ばかりの八坂高校でも珍しい癒やしキャラなのであった。


「そろそろ戻ろうか」


 貴明がそう言うと同時に生徒会室の扉が慌ただしくノックされ、一人の女子生徒が入ってきた。


「失礼します!二年一組で喧嘩をしようとしてる人がいるので止めて下さい!」


 窓から二年一組を見ると廊下には人だかりができていた。


「おや、君は同じクラスの牧瀬さんじゃないか」


「あ、水嶋君もいたんだ。じゃあ丁度いいね!」


 この時点で喧嘩をしようとしてる人が誰なのか、三人全員が察したのだった。


「よし、向かいながら聞こうか。二人とも、行こう」


 生徒会はヤンキー同士のいざこざには不介入だが何事にも例外は存在する。それが授業の妨害になったり、周りの迷惑になる時だ。要するに時と場合を考えろ、という事だ。


「わかりました」


「はぁ、行きたくないなぁ」


 三人は急いで弁当箱を片付けると牧瀬と生徒会室を出る。


「で、予想はつくけど誰と誰が喧嘩をしようとしてるって?」


「さっきいつもの三人組が赤崎さんに喧嘩売りに行くって話してるのを聞いたんだ!」


「懲りないよねー、あの三馬鹿君達も」


「なら話しは早い。例によって僕と涼風さんが三馬鹿、山田君が赤崎さんを相手にしよう」


「はい!…て、毎回思うんですけどそれおかしくないですか!?主に僕と会長の役割が!」


「何もおかしい事はないさ。いいかい?互いにやる気満々なんだ。それを互いに引き下がって貰うには如何に機嫌を損ねないかがポイントだ。喧嘩自体は放課後にでも機会を設けて勝手にしてもらえばいいからね。その点君だったら大丈夫だ、たぶん。君と話す時の赤崎さんは少しだけ楽しそうだからね、恐らく。これは君にしかできない事なんだ!」


 貴明は勢いよく捲したてる。


「そ、そうですか?そこまで言うなら。はい、わかりました。仕方ないですね」


 その勢いに春斗は不承不承ながら頷いたのを見ると貴明は春斗に見えないよう悪どい笑みを浮かべ、人だかりに向かって行った。

 山田春斗は押しに弱い。生徒会役員全員の共通見解だ。桃花は同情するように春斗の肩をポンポンと叩いてから貴明に続く。春斗は腑に落ちない、と言う顔をしながらも二人に続いた。


 人垣を掻き分けて行くと杏果の怒鳴り声が聞こえてきた。

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