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廃ゲーマーへの説明回


 私の名はアイリーン。世界最高の天才魔術師だ。


 そんな私の元には様々な依頼が舞い込んでくるが、当然魔術に関する依頼が多い。

 その日受けた依頼もその一つで、内容も私にとっては大したことないものだった。


『この魔法陣よりも遠くまで届く会話用魔法陣を作成してほしい』


 依頼してきたのは獣人族の軍部。

 獣人族の国は非常に範囲が広い。

 持ってきた魔法陣で端から端まで情報を届けようとすれば百回以上繰り返す必要があるだろう。

 今までは各地に中継用の兵を置き対応していたが、時間もお金もかかるため改善したいと言っていた。


 当然私にかかれば容易い事。

 だが技術や知識は安売りするものではない。

 そのことを十分に理解している私は、報酬に見合った性能のものを用意した。


 今までの魔法陣に比べ距離は変わらないが消費魔力は半分。

しかも以前のものは距離が固定されていたが、こちらは流す魔力を増やせば距離も延びるという性質を加えた。

 以前と同じ量の魔力を流せば約二倍の距離まで伸ばすことができたため、兵の配置によっては半数近くまで減らせるし、魔力さえあれば獣人国全域でも届くという優れものだ。


 なのに連中は不満そうだった。

 もっと消費魔力を小さく、距離を長くと言う。

 当時の私は正直者過ぎた。

 迂闊に出来ると言わなければそれ以上面倒なことにはならなかっただろう。

 『やって欲しければ報酬を上げろ』と言えば『本当は出来ないんだろ』と売り言葉に買い言葉。

 技術を出し渋り、報酬を釣り上げようとしていると疑う軍の連中。

 そもそも大きな報酬なんかいらない、ただ報酬に釣り合う仕事をするだけの私。

 面倒な交渉の日々が続き、日に日に苛立ちが募った。

 耐えに耐えた私が怒りを表に出したのはほんの僅か(砦が三個崩壊)で済んだのは、ひとえに私が優れた人格者であったことの賜物だろう。

 その後色々(関係者全員が僻地へ異動)あったものの、結局向こうから謝罪(獣王の土下座)があって最初に渡した魔法陣で落ち着いた(あと私の機嫌が)。

 

 しかし事が終わった後でも私の中には一つの言葉が引っかかっていた。

 相手の言い分に乗せられた私は『どこまででも届く魔法陣を作れる』と言っていた。


『どこまででも届く』


 本当にどこまででも届くのか?

 距離という意味なら簡単だ、魔力消費効率を改善し魔力を大量に用意したらいい。

 世界の広さは分からないが、それを繰り返せば最終的には世界の端から端まで届くだろう。

 だがそんな当たり前の事では面白くないと、天才たる私は考えた。


 結界を超えても届くというのはどうか。

 すぐに出来てしまった。突き詰めた結果、初めて見る未知の結界でも食事する程度の時間で届けることができるようになった。


 時間を超えても届くというのはどうか。

 結界よりは時間がかかったが出来た。未来の私と会話することができたが、時間軸が捻じれる可能性があったため破棄した。


 そして、世界を超えても届くというのはどうか。

 思いのほか時間がかかったが出来た。

 だが実際に会話しようと思って気付いた。


 異世界からいきなり話しかけられて、相手の人はどう思うか?


 全くの突然、誰も居ないのに声が聞こえる、誰かが居ても違う声が聞こえる。

 はっきり言ってあやしい。不気味だ。自分の頭がおかしくなったんじゃないかと考えるかもしれない。

 そんな状態で話しかけてもまともな会話はできないだろう。

 ではどうするか。

 突然話しかけるからあやしいんだ。

 話しかけるかことをあらかじめ予告する、あるいは向こうから話しかけるように仕向けるメッセージを送ることを考えた。

 都合のいいことに私が観測している異世界の住人は、その多くがメッセージを受信できるものを所持していた。

 更にいきなり会話するのはハードルが高いと考えた私は、文字を送って反応があったのであれば文字での会話のほうがスムーズに進むと思い、文字で会話するための簡易空間を作成した。


 そして私は一人の人間にメッセージを送り、会話することに成功した。




URL:http://www.isekai.xxx/[4^2g=~|○○○-rwe/chat.cgi


【チャットルーム:Isekai】


Information >《でっていうサン》 さんが入室しました。


《でっていうサン》夜勤から帰宅っ。


《でっていうサン》さぁ続きを話せ!



 元気だなー。

 ほっとくとうるさいしさっさと繋げよう。



Information >《アイちゃん》 さんが入室しました。


《アイちゃん》おはよう。


《でっていうサン》はよー。


《アイちゃん》あさごはんなう。


《でっていうサン》俺にもくれ。


《アイちゃん》朝食.jpg


《アイちゃん》ほれ。


《でっていうサン》オイシイナー。


《でっていうサン》では続きを。


《アイちゃん》どこから?


《でっていうサン》魔王なんて居ないのに人間は魔王が居るって言ってるとこから。


《アイちゃん》わかった。


《アイちゃん》まず前提として、魔王は居ません。


《でっていうサン》せんせーしつもーん。


《アイちゃん》却下。


《でっていうサン》(´・ω・`)


《アイちゃん》質問タイムは作ってあげるから少し待ちなさい。


《でっていうサン》はーい。


《アイちゃん》で続きだけども、人間が魔王が復活したと考えた理由は、魔物が多くなったから。


《アイちゃん》魔王が復活した→魔物を増やして戦力強化した→人間族の国に攻めてきた→勇者召還して対抗しようぜ! と考えているわけ。


《アイちゃん》ここまでで質問は?


《でっていうサン》はーい。魔王が居ないのに魔物が増えた理由はあとで説明がありますかー?


《アイちゃん》次はそれについての話。


《でっていうサン》続きをお願いします。


《アイちゃん》魔物が増えた理由は、源の泉と呼ばれる世界に四か所しかない魔力の湧き出す地が原因。


《アイちゃん》魔力が湧き出す、他では存在しない属性の無い魔力、この二つが源の泉が特別な理由。


《アイちゃん》そして源の泉はその湧き出す魔力が大きくなる時期がある。


《アイちゃん》四か所の泉のうち一か所が人間族の城の地下、他は別の国にあるんだけど、その泉がそれぞれ約五十年ずつ強くなる期間があって、約二百年で一巡する。


《アイちゃん》五十年と言ったけど、魔物が多くなるほど泉の力が強くなるのは真ん中の十年前後。


《アイちゃん》魔物はこの属性の無い魔力に集まってくる習性があるので、どうしても泉の周辺は魔物が多くなる。


《アイちゃん》それをどういうわけか人間族は魔王の仕業と考えている。


《アイちゃん》ここまでで質問は?


《でっていうサン》なんで魔物が増える原因を魔王のせいだと思ってんの? 魔人族の言うことは聞かなくても他の国が教えるとかしないの?


《アイちゃん》どこの国の言うことも聞かないから。


《でっていうサン》………………………は?


《アイちゃん》人間族はものすごく排他的というか人間至上主義が多くて、基本的に他の種族は受け入れようとしないんだよね。


《でっていうサン》えええええええええええええええ。


《アイちゃん》私が今ここにるのも宰相が相当無理したからだしね。


《でっていうサン》鎖国状態なのか……。


《アイちゃん》何それ?


《でっていうサン》他の国との外交が無いとか孤立してるとかそんな感じ。


《アイちゃん》そっちでもそんなのあるんだ。


《でっていうサン》とりあえず魔物に関しては人間族の勘違いってこと?


《アイちゃん》その通り。


《でっていうサン》うわぁぁぁぁぁ。


《でっていうサン》でもそう考えるようになった原因とかってないの? 魔人族が魔物召還してるの見つけてそいつを魔王と思うようになったーとか。


《アイちゃん》その辺は知らなーい。あったとしても相当昔だしねー。


《アイちゃん》でも昔から人間族は魔人族を敵視してたってのは事実らしいね。いろんな本に記録が残ってた。


《でっていうサン》昔戦争やってたとか。


《アイちゃん》その記録は見つけてない。


《でっていうサン》そっか。


《アイちゃん》ある本での研究例を出すと、人間族と魔人族の見た目がそっくりなのが敵視されるようになったきっかけらしい。


《でっていうサン》見た目が一緒って、見た目が違うならこっちの世界でもあるけど、同じなのに?


《アイちゃん》こういう話はどこの世界でも一緒かー。


《アイちゃん》人間族と魔人族の場合は、見た目は一緒なのに能力が違うってのが問題だったらしいね。


《でっていうサン》あー。確か魔人族は魔術が得意なんだっけ。


《でっていうサン》『おめーらこんな簡単な魔術も使えねーの? ププッ』って魔人族が考えてると思い込んでこうなったと。


《アイちゃん》その本にはそんな感じで書いてあったね。


《でっていうサン》でも魔人族は目の色が紅いんじゃなかったっけ? アイちゃんもでしょ?


《でっていうサン》でも目だけじゃ気付きにくいか。


《アイちゃん》そのとおり。妖精族は耳が特徴的だし獣人族は耳と尻尾ですぐ分かるけど目は近づかないとねー。


《アイちゃん》私の場合は魔術で隠してるから妖精族だと思われてる。


《でっていうサン》なるほどー。


《でっていうサン》ところでなんで魔王が居ないの? 人が多くいれば上に立つ人が居てもおかしくないと思うんだけど。


《アイちゃん》魔人族は四種族中唯一、種族名があるのに国の無い種族なんだよね。


《でっていうサン》そういえば妖精族の国と獣人族の国は聞いたことあるけど魔人族の国は聞いたことない気がするな。


《でっていうサン》確かアイちゃんは妖精国で生まれて獣人国と魔人族の『領域』を旅したと言ってたような。


《アイちゃん》よく覚えてるねーその通り。


《アイちゃん》魔人族は人口がかなり少なくて、町ごとでまとまりはあるけどそれ以上は結び付こうとしないんだよね。


《でっていうサン》なんで?


《アイちゃん》人口が少ない上に町と町が遠すぎるから。


《アイちゃん》遠すぎて環境がかなり変わるから、隣町でも特色というか考えが異なる場合が結構ある。


《でっていうサン》じゃあ町ごとに一つの国みたいな?


《アイちゃん》それに近いね。


《アイちゃん》ほとんどの町にまとめ役みたいな人がいて、最終的にはその人がいろいろ決めたりしてる。だからその人達のことなら無理矢理魔王と呼べなくもない。


《でっていうサン》大体わかってきたなー。


《でっていうサン》(人)魔王が復活した!


《でっていうサン》(魔)そんなのいませーん。


《でっていうサン》(人)魔物使って攻めてきた!


《でっていうサン》(他)源の泉のせいだから落ち着け。


《でっていうサン》(人)人間じゃねー奴の言うことなんざ信用できるか!


《でっていうサン》(人)なんでもいいから魔王ボコったるわー!


《でっていうサン》(魔)居ないのにどうやって倒すんだよ……。


《でっていうサン》こんな感じ?


《アイちゃん》そんな感じ。


《でっていうサン》人間族……周りから見たらただの珍走団……。


《アイちゃん》ぶふっ、珍走団っ。それいいっ。


《でっていうサン》生暖かい目で見てあげてください。


《アイちゃん》はーい。


《でっていうサン》あとは勇者の話かな? 今までも召還してたのになんで今回はアイちゃんがするの?


《アイちゃん》いや一度も成功してない。試みたけど失敗してたらしい。


《でっていうサン》らしいって。


《アイちゃん》ほとんど記録が残ってないんだよねーこの国。


《アイちゃん》一応歴代の国王が書いた日記という名の中二病全開妄想小説には召還したけど出てこなかったようなことが書いてあった。


《でっていうサン》なにそれ読みてぇwww


《アイちゃん》読むと中二病に感染する呪いの書です。騎士が数人犠牲になって……かわいそうにっ。


《でっていうサン》軟弱な騎士共め。


《アイちゃん》ホントにねー。


《アイちゃん》話し戻すと勇者の召還に成功してるのは伝説の中でだけ。


《アイちゃん》私が呼ばれたのは、異世界と会話できる魔術を持った私のことを知った宰相が、人間族の魔術師にさせるより可能性が高いと判断したから。


《でっていうサン》人間族じゃないからアイちゃん呼ぶの苦労したんでしょ? なんでわざわざ。


《でっていうサン》今までも失敗してたならいいじゃん


《アイちゃん》今の国王馬鹿だからね、出来なかったってだけで殺される。


《でっていうサン》宰相が?


《アイちゃん》宰相と巻き込まれたかわいそうな私が。あと多分宰相の一族も。


《アイちゃん》今の王になってから下らないことで不況買った貴族がいくつも取り潰しされてるらしいからねー。


《でっていうサン》そりゃ必死にもなるわ。


《でっていうサン》でも魔王居ないのに勇者呼んで大丈夫? 魔王居なかったら魔人族殲滅とかにならない?


《アイちゃん》その辺は大丈夫。


《アイちゃん》歴代国王は勇者がいなくても魔王討伐隊を魔人族の領域に送り込んでたみたいだけど、魔人族の町同士が協力してお帰り頂いてたみたいだから。


《でっていうサン》適当にあしらわれてるwww


《アイちゃん》魔人族は魔物を閉じ込めたそれっぽい城とか洞窟とかを用意してそこに討伐隊を誘導。


《アイちゃん》魔物と人間族を適当に戦わせた後それっぽい演出で魔王(役者)が登場して、やられた振りをしてれば満足して帰っていくらしいから。


《でっていうサン》なんという道化www


《でっていうサン》でもそれじゃ魔物が増えてる原因は解決してないのにいいの?


《アイちゃん》魔王を倒した後は次第に平和が訪れるんだそうです。次第に。


《でっていうサン》もしかして、その頃には魔物が増加する時期が過ぎ去ってるから魔物も減っていってるとか。


《アイちゃん》せーかーい。


《でっていうサン》完全なる独りよがり……もう勘弁してあげてください……。


《アイちゃん》いつも魔物増加に気付くのは遅いし討伐隊もたどり着くのに時間がかかってるからそうなる。


《アイちゃん》今回は勇者が居る分いつもより早く着いてしまうから、何か違うことで時間稼ぎしないとねー。


《でっていうサン》大変ですねー。(アイちゃん以外の魔人族の皆さんが)


《アイちゃん》そうですねー。あと私も入れて。


《でっていうサン》ところで人間族以外は魔物の増加どうしてるの?


《アイちゃん》獣人族は普通に魔物と戦ってるね。


《アイちゃん》妖精族と魔人族は泉の魔力を溜めすぎないように散らしてしまって、増加を抑えつつ戦う。


《アイちゃん》魔力を散らすと強力な魔物が現れにくくもなるから。


《でっていうサン》獣人族そのまま戦ってるのか。やっぱ強いの?


《アイちゃん》身体能力で言えば最強。魔術はへっぽこ。


《でっていうサン》脳筋www


《アイちゃん》そのとーーーーーりっ。


《アイちゃん》でも妖精族と協力して泉の魔力を利用した強力な魔道具とか作成しまくってるからかなり強い。


《でっていうサン》妖精族と魔人族は魔力を散らすから相手が弱いけど泉の魔力は利用できない。


《でっていうサン》獣人族は相手は強いけど自分らも強化してるからばっちこーいと。


《アイちゃん》理解の早い人は助かるなー。はなまるをあげよう。


《でっていうサン》やったー。


《でっていうサン》ちなみに獣人国と妖精国が協力するってことは仲いいの?


《アイちゃん》ちょっと言い方悪かった。


《アイちゃん》獣人国は範囲が広いこともあって各種族が混ざりまくってる。


《アイちゃん》さっき言った妖精族の協力っていうのは()が協力してるんじゃなく、あくまで獣人国に住んでる妖精族が協力してるってこと。


《でっていうサン》国同士の話じゃないから妖精国の魔物増加には手を貸してない、だから妖精国は魔力を散らす方法をとってると。


《アイちゃん》そういうこと。


《アイちゃん》とりあえず人間族以外は種族間でのいがみ合いなんて特にしてないよ。個人的にとかはあるけど。


《でっていうサン》なるほどねー。


《アイちゃん》他に質問は?


《でっていうサン》もういいかな、大体分かった。


《でっていうサン》まぁなんだ、人間族頑張れ。


《でっていうサン》それ以上にアイちゃん頑張れ。


《アイちゃん》応援はいらないから協力してよ。


《でっていうサン》え、やだよ。


《アイちゃん》勇者やってよ。


《でっていうサン》スルーすんなし。


《でっていうサン》ていうか俺が勇者(笑)とか無理に決まってんじゃんwww


《アイちゃん》えー。


《でっていうサン》えーじゃありませんw


《アイちゃん》君ならできるよ! 世界が君を呼んでいる! さぁ君も英雄になろう!


《でっていうサン》その程度の煽りじゃびくともせんなぁ。


《でっていうサン》勇者業はこないだやったからしばらくいいっす。


《でっていうサン》まだメタ○ギアも終わってないし。


《でっていうサン》ガン○ムオ○ラインのアプデ来たばっかだしもうすぐF○ll○ut4出るし。


《でっていうサン》他にも出るから忙しいんだよ!


《アイちゃん》娯楽で忙しいって……。


《でっていうサン》遊びじゃねぇんだよ!!


《アイちゃん》あっ、はい。


《でっていうサン》分かればよろしい。


《アイちゃん》この廃ゲーマーめ。


《でっていうサン》褒め言葉ですね。


《アイちゃん》気が変わったらやってねー。


《でっていうサン》気が変わったらなー。


《アイちゃん》じゃ私研究始めるから。


《でっていうサン》おーう。俺もゲームしてくるわ。


《アイちゃん》夜勤明け?


《でっていうサン》何それ美味しいの?


《アイちゃん》この廃ゲーマーめ。


《でっていうサン》以下繰り返し。


《アイちゃん》じゃ。


Information >《アイちゃん》 さんが退室しました。


《でっていうサン》ノシ


Information >《でっていうサン》 さんが退室しました。




 さてあと一杯お茶飲んだら研究始めようか。今日はまず魔力流動の安定化やって次は……。


「あの……」


「何?」


 研究について考えてたらなんだか怯えたようなセリオの声が。


「食事美味しくなかったでしょうか……」


 なんだそんなことか。


「うん。美味しくは無い」


 もちろんはっきり言ってあげるとあからさまに落ち込むセリオ。

 しょうがないよー私の基準は高いからねー。

 少なくとも私より美味しくなければ美味しいの評価はあげません。


「あう、やっぱりそうですよね……。食べながらものすごく表情変わってたので……」


「いやそれは関係ない」


 彼との会話は声に出さずにやってるから表情だけ変わってるとそう見えるか。

 今は食事中だったから味について表情に出たと思ったんだろうけど、何もしてない時に会話してると間違いなく不気味に見えるね。


「よくわかりませんが……でも美味しくないのは本当なんですよね」


「うん」


「あうぅ……」


 そんなことでいちいち落ち込まないでも……そもそもセリオは料理しに来てるわけじゃないんだから。

 ……て言うとまた気にするんだろうなーこの子は。なのでほっとこう。


「改善したいなら止めないけどね。するなら一応期待してる」


「はいっ、すぐには無理ですが必ず美味しい食事を作れるようになりますっ」


 ふんすっ、と気合を入れ始めた。

 やる気出したからこれで良し。

 魔術師としての方向じゃないけどそれは当てにしてないので気にしなーい。

 がんばれ料理人セリオ!

 私の健康は君の手にかかっている!




「なーんてあのころ考えてたんだけど本当に美味しくなってきたね。いっそ料理人になったら?」


 あれから一か月ほどしか経ってないのにかなり美味しくなってきた今日この頃。

 今食べてる野菜スープも以前だったら味が全くしないか濃すぎるかのどちらかだったのに、今では野菜の味が上手に混じりあい一緒に煮込まれたお肉にしっかりと染みてなかなかの出来になっている。

 美味しいの評価はまだあげてないけどこうなると時間の問題だね。


「嫌ですよ、僕は魔術師なんですから」


 ついでに来たころのいつもこちらを伺うような雰囲気は消え、はっきりと拒否の言葉も言えるようになってきた。

 決して私の扱いがぞんざいになったわけではない。


「でも勉強に行った食堂でいつでも雇うよーって言われてるんでしょ」


「それはそうですが……」


 少しの間だけ現場で勉強してきますっ、と言ってわざわざ町の宿屋(しかも私が初日に泊まってたとこ)に頼み込んでいろいろ教えてもらってきてたんだよね。タダ働きで。

 五日間程度だったけど何か得るものあったらしく、それから凄い勢いで上達した。


「ほらほらー求められてるんじゃない君のことー。もう料理人なっちゃいなよー」


「確かに料理の勉強もしましたし修行として食堂でもお手伝いしましたが、それはアイさんに万全の状態で研究をしてもらうためで」


「ふーんへーほー。本当にそれだけー?」


「……料理するのはどんどん面白くなってきましたが」


「やっぱり好きなんじゃなーいほらほらー無理しなくていいんだよー好きなことしていいんだよー」


「でも魔術も好きなんですっ」


「一度も魔法陣の作成は成功してないのに」


「あうぅ……」


 私の書いた魔法陣を写すだけならもちろん成功してる。

 でも自分で一から魔術を法として構築し、陣として形成する作業は一度も成功していなかった。

 特に法の構築で躓いている。

 とはいえこれは他人から教えるのは限界がある。

 魔術は同じような内容に見えても人によって異なる術で発動することがほとんどだ。

 その自分の中にある(やりかた)を明確な(ルール)として定める必要があるのだが、当然人によって違うものだから一定のやり方なんてない。

 実は無いわけでもないのだけど、それを教えてしまうと誰が作っても同じ魔法陣しかできないという非常につまらないものとなってしまう。

 特に彼は人間族で初めて魔法陣を学ぶ人間なんだから、そんな未来を狭めるようなことは教えられない。

 大変だけど頑張ってもらうしかない。


 決してセリオのうんうん悩んでる表情が可愛いとか、出来上がって喜ぶ表情を崩したいとか、失敗した時のへこんでる表情がそそるからという理由ではない。断じてない。


「でも昨日は成功しそうでしたから、今日こそ成功して見せますっ」


 来た当初に比べて立ち直りも早くなってしまった。

 落ち込んでる顔が見れなくなってお姉さん悲しい。


「あーうん、わかったわかった。でそれよりも」


「うー信じてない……」


「お姉さんはいつでもセリオのこと信じてますよー。だからお茶淹れてね」


「すっごい投げ槍……それにお茶今飲んでるじゃないですか」


「私のじゃなくて」


「?」


 私が視線を投げ、セリオがその視線を追うとほぼ同時に食堂のドアが開いた。

 ドアから現れたそこには一人の男性。

 シンプルだが最上級の仕立ての服に包まれた、冷ややかな印象を与える容貌を持つ男が食堂へ入ってきた。


「勝手ながら失礼させていただきました」


「宰相閣下……」


 突然の来客に驚いたセリオが言葉をこぼした。

 驚いたのは宰相がここにいることだろうか、それとも随分と疲れて見えるその表情だろうか。


「失礼だしそんなツラだと迷惑だから帰って欲しいんだけど」


「アイさん!?」


「あなたは元気そうですね……」


「でも帰らせるともっと面倒なことになるんでしょ。まぁ向こうも我慢したほうかなー」


「流石に分ってるようですね」


 冗談にのった宰相は軽く笑みを浮かべたがやはりそこには疲れが滲んでいた。

 しかし次の言葉を告げるその顔は、国の政を司る宰相としての、その力を十分に感じさせた。


「勇者召還の日取りが十日後に決まりました。つきましては召還の儀の準備を始めていただくようお願い致します」


 今日から十日後。

 国王に謁見してから丁度二か月となる日。

 私は、勇者召還を行うことになった。




獣王=出番はもうありません。


でっていうサン=プレイするゲームジャンルは特に拘らない。オンもオフもソシャゲもACもCSもPCもエロもグロももちろんBLでさえもプレイします。最後のは主にネタとして。


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