私はショタではない
私の名はアイリーン。世界一の名探偵だ。
私は今回、とある怪奇事件の捜査のため人間族の都までやってきた。
その事件とは、王都の外れにある屋敷で起きた不審死の謎を追うことだ。
そう、不審死だ。何の前触れもなく、突然全ての住人が亡くなっていたというのだ。
死因も不明。犯人も不明。結果へ至った全てが不明という難事件。
臆病な私は正直に言えば関わりたくなかったが、この国の宰相に脅され無理やり調査することとなった。
嫌々ながらに始めることになった事件の調査だが世界一の名探偵であるこの私。
きっかけはどうあれ、関わってしまった以上は解決するのが私の信条だ。
なけなしのやる気を振り絞り事件の調査を行った。
まずは玄関ホールだ。
広々としたホールは派手な装飾の無い落ち着いた趣があった。
住人が住んでいた頃も調度品は少なかったのではないだろうか、貴族にしては質素な印象がある。
思い出せば初めからだ。
ホールと外を繋ぐ大きな扉。
その扉にしても、大きさの割に装飾がされていない。
いや、気付いてみればそれはむしろ大き過ぎるのではないか?
あれでは力の無い者には一苦労だろう。
今扉を開こうとしている少年のように――
「きみ誰?」
「うわぁっ」
食糧調達のついでに屋敷の不審死について宰相に報告(ついでに宰相で遊んできた。生意気にも抵抗したのでアマンダ夫人に嘘をつけなくなる呪いをかけておいた。もちろん夫人には報告済み)して戻ってきたら男の子が扉にくっついてた。
そういえば鍵かけてなかった。まぁ取るもんなんて無いけど。
「あっあのっ、アイリーン様でよろしかったでしょうかっ」
振り向いた少年は柔らかそうな栗色の髪に同じ色の瞳のなかなか整った顔立ちの少年。
年は多分十二歳前後……に見えるけど、魔術師団のローブ着てるので成人だから十五歳以上。
まだ成長しきってないあどけない可愛らしさの残る少年だ。
そういえば宰相が人をやるから好きに使ってくださいとか言ってたなー。
必要なければそれでも良いって言ってたし……よし追い返そう。
「違います」
「えっ」
「ただのアイリーンじゃありません」
「えっと……て、天才魔術師のアイリーン様……」
「世界最高の」
「せ、世界最高の天才魔術師様です……」
「よろしい。で最初の質問の答えは?」
「失礼しましたっ。ぼく……私は王国魔術師団より派遣されてきました、三等魔術師のセリオ・パーンと申します」
おおぅ、背伸びしようと頑張ってるねーいいねー。
さて事務的な対応から冷たい対応にちぇーんじ。それから邪魔ですよオーラも装着っ。
「……派遣って何?」
「ひっ。……あ、の……あ、アイリーン様の研究を……」
「私の、研究を、何?」
「え……っと、す、少しでもお役にたた……立てるよう、補佐をするようにと……」
何とか言い切ったけどついに視線がふらふらするようになってきた。
こわくないよーこわくないよーにっこりー。
「へぇ、研究を補佐してくれるの」
「はっ、はい!」
「勝手に家に入ろうとして、自分の名を名乗りもせず、相手の名を尊称もつけずに呼ぶ、たかが三等魔術師が、私の研究を補佐?」
上げたら落とす。これ常識。
勝手に家に入ろうとしたのは呼び出しの魔道具外してあるからだし、名乗りが遅れたのはは先に私の質問に答えからだし、三等魔術師がどんなもんか知らないし、尊称に至っては完全に言いがかり。
私ってばいじめるのだけが得意な無能上司みたーい。
「もっ申し訳ありません!」
「謝罪なんかしてる暇があれば私の質問に答えなさい」
「頑張って精一杯補佐します! たっ確かに僕は三等魔術師ですがっ、僕にできることならどんな事でもします!」
目をちょっとだけ潤ませつつも勢いに任せて言い切る男の子……その必死な感じがいいねっ。
ちなみにショタではない。
私の守備範囲は広すぎて理解できんと言われたことがあるけども。
しかも今聞き捨てならんことを言いましたね。
「どんな事でも、ですか」
あーんなことやこーんなことも……ぐっへっへ。
といってもセリオ君は将来が楽しみだけど今はおもちゃ兼観賞用ってとこかなー。
「はい! 魔術を勉強するためなら、なんでも! だから……」
「じゃあまずお茶淹れて」
「…………えっ」
冷たい対応からいきなり普段の調子に戻して言うと、後が無いような雰囲気を出してたセリオ君が気の抜けたように固まった
「茶葉は厨房にあるから適当に使って淹れたお茶は研究室まで持ってきて。研究室は一階の西奥ね。あとついでにこの食料片づけといて。きみの部屋は二階の客間を適当に使って。私の部屋は二階の西奥だけど何があろうと絶対に入らないように。それから私は君のことをセリオとだけ呼ぶ。私のことは好きに呼んでいいけど面倒な呼び方はダメ。質問は随時答えるけど今は一つだけしか答えない。何か聞くことは?」
やっぱり気が変わった。追い返さずこき使ってみよう。
それに魔術の勉強のためになんでもってところは気に入ったしね。
そういうがむしゃらに頑張ろうとするところポイント高いよー。いいねー若いって。
しばらく待っていると、私の言葉を咀嚼できたセリオはようやく口を開いた。
「あの……アイ様と呼んでもいいでしょうか」
「様はだめ。『アイちゃん』か『アイ姉さま』だったら魔術講義の時間を作ってあげよう」
「……すみません、アイさんでお願いします……」
むぅ、残念。
でも質問にそこを選ぶとはなかなか面白い子だなー。
せっかく宰相が送り込んだ子なんだから手間にならない程度に可愛がってあげようか。
屋敷の事件も解明できてるからセリオが不審死することも無いし。
「わかった。ひとまずよろしくセリオ。それじゃお茶の用意お願いねー」
「わかりました!」
さて研究始めますかー。
ではまずは整理しよう。
私は勇者の伝説について調べたのは、勇者がどんな人で、何をするのかをはっきりさせたかったからだ。
口伝だけあって内容は人によって違いはあったが、全てにおいて同一だったのはこの二点。
一、魔王が復活し人間族が窮地に陥った時に勇者が召還される。
二、魔王は勇者によって倒される。
一に関しては今となってはどうでもいいだろう。確認してないのに人間族は魔王が復活したと思い込んでるから、真実がどうであろうと私には関係ない。
二に関しても簡単だ。強ければそれでいいということだ。
なので勇者は“強い人間”で、“魔王を倒す”事が出来ればそれでいいということだ。
以上。
「えっと……確かに勇者様は強いと思いますがそれだけでは……」
「それは無理」
「まだ何も言ってませんが……」
「何が言いたいか分かるし今なら人間族の誰より勇者に詳しい私が言うんだから無理なもんは無理」
魔王を倒すこと以外に勇者が何をしたのか、伝説によって違いがあると言ったが総じて同じ傾向があった。
例えば、勇者は召還された直後から強い。
召還された直後に魔物に襲われたり町が魔物に襲われ助けに行く等、召還直後に魔物と戦っても絶対に勝つ。
その後どんな強敵が出てきても絶対に勝つ。
また、勇者が行くところには必ず事件が発生する。
魔物の少ない街道には強い魔物か多数の魔物が現れ、寂れた村に行けば病気の大人、それを助けようとする子供がおり、大きな町では必ず貴族が圧政を敷いていてその正体は魔王の配下だ。
どんなに平和な場所でも勇者が行くと事件が起きる。
その一方で運もいい。
唐突に貴重な魔道具を見つけたり誰も知らない抜け道を教えてくれる人が現れるし、何時の間にか持っていたゴミの呪いを解いたら伝説の道具になったりする。
そして何故か中盤以降で必ず一回以上は窮地に陥り、奇跡の力で状況を打破する。
人質を取られたり毒を盛られたり必ず絶体絶命の状況が訪れるが、そんな時だけ神の力が発現し強くなる、回復する、魔物の能力が無効化されるといった現象が起きる。
ようやく魔王を倒した勇者は王女と結婚し幸せな生活を送るか、そのまま行方をくらませてどこかへ行ってしまうのどちらかだ。
しかも行方不明の場合は絶対に誰にも見つからない。
大まかにはこんなところだが細かく挙げればキリがない。
どんなに弱い仲間でもいつの間にか勇者と一緒に強い魔物と戦えるようになる。悪人をこらしめれば改心して仲間になる。会ったことも無い辺境の村でさえ勇者の顔を知っている。事件に女性が関わっていると絶対に惚れられる。どんな高価で貴重なものでも事件を解決すると貰える。偏屈な物知り爺さんがが洞窟か山の上に住んでいる。信じた魔族に裏切られ、その後ピンチになった時にその魔族に庇われて助かる。魔王の城近く、あるいは内部で伝説の武器が見つかる。魔王の側近は四天王。魔王と戦う前に大量の魔物に襲われ仲間を置いて先に行く。魔王を操る真の敵がいる。などなど。
「そんな勇者が本当に存在すると?」
「そう聞くと無茶苦茶ですね……いやそうではなくてっ、僕が言いたいのは勇者様の性格というか人となりのことです」
「人となりねー。勇敢で慈愛に溢れ清廉潔白な賢くも決断力のある人だったらそれでいいんでしょー」
「確かにそうですが、それだけではなく勇者として正しい行いをする人でないと……」
「『どんな状況でも決して諦めません!』とかそれっぽいセリフを言うだけなら誰でもできる。でもいざその状況になったら実際どうするかなんて、その時にならないと分からないでしょ。逃げだすかもしれないし味方を盾にするかもしれない。どんなに性格の良い人を召還したって未来の話なんて分からないって」
「それはそうですが……」
「もし伝説と同じ勇者が存在したとすれば、それは世界中で起こり得る全ての現象を操作できる人間か、物語を現実として再現できる人間だけだよ。そんな人間が存在したらその人間のことはなんて呼べばいいと思う?」
「……神、でしょうか」
「正解。というわけで私が召還するのが神ではなく勇者である以上、さっき言った条件以上のことはできないの」
「はい……」
言葉では頷いていたが、その表情は納得できないと主張していた。
……仕方ないな。
「勘違いするな」
「っ!?」
話が終わったと思っていたところに冷え切った声を投げかける。
「過程を重視するのは分かるが本当に大事なのは結果。勇者の伝説は結果だけ語れば魔王が倒されたというそれのみ。そこに至る波乱万丈な出来事など蛇足に過ぎない」
伝説で最も描写が少ないところは最初と最後。
『人間族の窮地に勇者が召還された』で始まり『魔王は倒れ平和が訪れた』で終わる。
勇者の活躍として語られるのは結末に至る道中ばかりではっきり言えば結果には何ら関係が無い事ばかりだ。
そしてセリオの言う“人となり”とは勇者の素晴らしい活躍を求めているだけであり、その活躍の結果を求めているものではない。
「魔物が倒され村人が助かった、それをたった一人の勇者が行おうが、勇者が騎士団に知らせ百人の騎士が魔物を倒そうが結果は一緒。君の考える勇者はどちらを選択する? それとも君だけでなく人間族の村人は助かるかどうかの絶体絶命の状況でも演劇のような展開を求めている? だったら勘違してた、平身低頭謝罪するよ。確実に魔王を倒す勇者ではなく、魔王を倒せるかどうか分からない役者を召還すべきだね」
「……そんな……ことは……」
「君が求めているのは“伝説の”勇者。伝説の勇者はいつも勇ましく見える戦いを行い、慈悲深いと取れる行動をし、時に無謀と思われる作戦も成功させるのが伝説の勇者。その結果、戦いの裏で関係ない人が死に、無暗に助けられた人が後の生活に苦しみ、無謀な作戦の裏で大金が消費されようが、そんなことはどうだっていいんだよね」
「……申し訳ございませんでした」
無理に納得してもらう必要も無いけど後々面倒になっても嫌だしはっきり言ってやった。
結果ではなく過程を求めていた、少なくともそこには気づいてくれたセリオは落ち込んでいるようだ。
「まぁさっきも言った通りセリオの言いたいことは分かるよ。一応、だけどね。力は強いけど趣味は女漁りとか私だって勘弁してほしい。『人間以外は敵だー』って魔王どころか妖精族に向かってこられても困るしね」
顔を上げこちらを見るセリオに、だから、と続ける。
「強い勇者の“強い”には、欲や堕落に負けない精神や、状況に流されず自ら思考する知性といった武力以外も含めてる。あと性格もいい人が召還されるような魔術を構築するつもりだから、少しくらいかっこ悪いのは勘弁してよ。魔王に負けるよりはマシでしょ」
そう軽い調子で伝えればセリオも少しだけ軽い声で、死ぬよりはいいですねと答えた。
言い過ぎたかなーかなり嫌らしい言い方したしなー。
なんかこのままだと引っ張りそうだし仕方が無い。とっておきの真実を教えてあげよう。
「まーそもそも伝説の勇者が召還されないのは国王のせいだから諦めなさい」
「……ぇぇぇぇええ!?」
おー驚いてる驚いてる。
「最初に言ったでしょ勇者は『人間族が窮地に落ちった時』に召還されるって。どの伝説も町がいくつも滅んで王都付近も危なくなってからようやく召還されてるんだよね。でもさっき宰相に聞いてきたけど、今のところどの町も滅んでないし数人の怪我人出てるだけだってさ。これって窮地だと思う?」
「いえ流石にそれでは……」
「伝説では『窮地に陥った人間のために神が異世界より勇者を遣わした』ってなってる。つまり伝説の勇者を召還できる条件が整ってないのに勇者召還しろと言われてるわけ。命令した国王のせいでね」
「……かといって条件が整うまで待つと大勢の人が死んでしまうんですね」
「さっきの話を理解してくれて何より。ここで窮地になってから召還すれば―とか言い出したら放り出してたよ」
きちんと学んでくれる子はいいねー。
「そんなわけで神の力は当てにできない、人の力で最大限できることをするしかないの。納得できなくても理解はしといてね」
「……はい、わかりました」
噛みしめるように頷いてくれた。
そんな気負ったようにしなくてもいいんだけど……その辺はおいおいかな。
「ところで気になっていたんですが、先ほどから何を書いているんですか?」
「魔法陣だけど。召還術の一部分だけの」
最初から話しながら手は魔方陣を書いてたんだけど、なんで今更?
「まほう? じん?」
え、何その言葉自体を初めて聞きました的な反応は。
ちょっと待ってーまさかまさかー。
「魔術を、法に則って、陣にした物。だから魔法陣」
「……つまりその模様のようなものが魔術そのものということですか?」
「大体その通り。これは普通のインクで書いたけど、本当は砕いた魔石を混ぜたインク『魔墨』で書く。それに魔力を流せばその陣の通りの魔術を行使できる」
「……ふぁぁ! すごいです! 魔道具ではなくこんな物で魔術を使えるなんて!」
えぇ……なんかキラキラした目で見てるんだけど……。
「これは国を挙げて称賛されるべき凄い技術ですよ! 流石はアイリーン様! こんなにも素晴らしい魔術師とは思いませんでした!」
えがおがまぶしい……。
「魔法陣は誰でも使えるんですかっ? 作るのは魔術師じゃないとダメですか? 魔石はどんなものでもいいんですかっ? どんな魔術でも再現できるんですかっ?」
「魔力を扱えるなら誰でも使える。作るだけなら陣さえ知っていれば魔術師でなくても作れる。魔石は魔術が発動すればいいならどんなものでもいいけど魔力が大きいもの方が込める魔力も少なくて済む。理論的にはどんな魔術でも再現できるけど高度な魔術ほど大きくて複雑な陣になる。要は形は違うだけで基本は魔道具と一緒。だからとりあえず落ち着け」
まさか魔法陣でこんなに大興奮するとは思ってなかった……。
確かに魔法陣には魔道具に無いメリットが多数ある。
魔道具は魔石に直接魔術を埋め込み、それに魔力を流して魔石に込めた魔術を発動させるものを指す。
魔術を埋め込む作業が必要だから魔術師にしか作れない。
魔法陣の場合も最初に陣を作るまでは魔術師でないと作れない。
けれど一度陣を作ってしまえばその後は誰でも作れる。この差はとても大きい。
しかも魔道具の場合は作成する魔術師の技量、魔石の品質によって魔術の効果が大きく変わってしまう。
けれど魔法陣の場合は陣と魔墨が同一でさえあれば作成者によっての差は出ない。
更に魔道具は魔石のもつ魔力の大きさだけではなく形状によっても差が出てしまうのに、魔法陣では魔石を砕いて使えるのだから形状なんて関係ない。
魔力にバラツキのある魔石ばかりでも、混ぜることで品質を整えることもできる。
他のものと差をつけたければ魔墨の品質を変えるだけで出来るのだから、魔道具に比べ非常に自由度が高くそれでいて作りやすい。
もちろんその分デメリットも多いんだけどそれは置いとこう。
にしてもなんで人間族の魔術師が知らないの……こないだ市場で買った本でも研究されてたんだけどなぁ。
大雑把な内容としては、魔道具に模様を刻むことで質の悪い魔石に強い魔術を埋め込んだり、少ない魔力で発動させるといった魔道具の性能向上についての考察。
『今までのとは違う魔道具が作れるかもしれない』と書いてあったけど誇張でも何でもない。
まだ体系立ってはいなかったけどあのまま研究が進めば間違いなく魔法陣までたどり着く内容だった。
特に紙に書く魔法陣は平面的なものだけど、本では魔道具に直接書いていたから立体的な模様として考察されていて非常に面白い内容だった。
知識が非常に重要なはずの魔術でも本が失われる弊害が出てるってホントに本の価値が無いんだなぁ……。
「あっあのっ……魔法陣について教えていただくことは……」
「あーうん、簡単なのなら教えてあげるから」
言いながら魔墨を使って火種の魔法陣と微風の魔法陣を書いていく。
しかも陣の意味を理解しやすいように選択、励起、指定、充填、発動の各工程を分かりやすくして書いておいた。
普段通り書くと各工程を省略した上に全てを一工程でこなせるよう最適化し、更に他人には理解できないようにごまかしも入れる。
手の内を漏らしたくない魔法陣ならそうするけどこんな単純な魔法陣でそんなことする意味は無いしね。
「はいできた。火の魔法陣と風の魔法陣。それぞれ魔力を込めて『火種』『微風』の言葉で発動するようになってるから」
「ありがとうございます! でも魔力を込めるだけでは発動しないんですね」
「……そうしないと二枚持って魔力込めたら二枚とも発動するでしょ。しかも今はともかくずっと二枚しかないわけじゃないんだから。沢山作って本にしておけば、本一冊持ち歩くだけで色んな場面で使えるでしょ」
「あぁっ! すごいですよ、それだとあらゆる魔術を一人で使うこともできるんですね!」
「それはそのままあげるから、あとは人間族で研究してね」
簡単なのは教えた。私嘘ついてなーい。
けどこれで魔術師も本というものに価値を見出してくれるでしょう。
魔法陣だけでも引き継がれればどんどん魔術も向上していくはずだ。
宰相も既に色々な出来事を記録して残すよう動いてるし、次に私みたいな目に合う人も助かるに違いない。
未来の勇者召喚士は私に全力で感謝して敬うがいい。
といっても召還魔術そのものを残すつもりは無いけどね。
こんなの人間族に残しといたら魔王とか関係なく召還して魔人族以外にも攻めてくるかもしれないし。
私の人間族に対する信用度と言ったらその程度だ。
そもそも魔法陣で召還術を発動させるつもりもない。
さっき召還術の一部を魔法陣として書いてたのはあくまで確認のため。
頭の中で考えた術式を一旦陣に書き起こして間違いが無いか目視で確認、手間に見えるけど複雑な魔術を構築するときにはこれが一番効率がいい。
目で見ると頭だけでは思いつかなかった改善点も思いつくしね。
今後も魔法陣を書くけど全て魔墨で書かないし、省略して書くから読み解くのも難しいし、更に部分的にしか書かないから書いたとこがどんな意味を持つのかなんてまず分からないだろう。
セリオの目に触れないように隠すつもりは無いけど、最後には処分するから再現は困難なはず。
もしこの僅かな欠片から何代にもわたって研究を重ね再現するようならそれはもう人間族の者だ。
むしろ称賛するね。
っと、いつの間にやら日が暮れ始めてた。
「セリオは料理できる? できるなら夕飯の準備お願い」
「……あっすいません、つい魔法陣に夢中になってました」
そんなので喜んでくれてお姉さん嬉しいナー。
「料理は簡単なものしかできませんがそれでよければ」
「食材の冒涜にならない程度だったらいいよ。じゃよろしく」
わかりました、と言って厨房へ向かっていった。
さて夕飯ができるまでもう少し……いやたまには彼と話でもしようかな。
最近なんだかんだで話してなかったし。
では早速。
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《でっていうサン》マジひさしぶりだな。
《でっていうサン》つか名探偵って何。
《アイちゃん@名探偵》貴族の屋敷で起きた不審死事件の全貌を解明したから。
《でっていうサン》ちょっwww
《でっていうサン》何それすげぇw
《アイちゃん@名探偵》もっと褒めてもいいんだよー。
《でっていうサン》こないだ人間の町に呼ばれたーって言ってたのそれか。
《アイちゃん@名探偵》いやそっちは勇者召還してって言われたから。
《でっていうサン》全然ちげぇwww
《でっていうサン》何してんのwww
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《でっていうサン》解明しないと住めないwww
《アイちゃん@名探偵》解明までしなくてもよかったんだけどね、ついカッとなってやった。今は満足している。
《でっていうサン》そっすかw
《でっていうサン》ところで勇者召還についてkwsk
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