勇者召還せよ!
初めての投稿となります。
拙い文章ですが読んでいただけましたら幸いです。
最後まで書き終わってます。7話で終わります。
初めてなので短く終わらせました。
長いのはまだ無理だと思ったので……。
暇つぶし程度に読んでやってください。
「邪悪なる魔人族に打ち勝つため、異世界より勇者召還を行うのだ!!」
場所はクレアルード王国王城、謁見の間。
国王であるデゴニア・クレアルードの、自身の持つ威厳の全てをもって放たれた言葉が響き渡った。
その言葉を受け取るはこの私、アイリーン。世界最高の天才魔術師だ。
“世界最高”の“天才”。
女の身でありながら魔術師の頂点に立つ、唯一の存在がこの私だ。
この身に求められる異世界からの勇者召還は、未だかつて誰も成しえていない伝説の召還魔術。
今まで何人、何十人といった魔術師が試みたが、誰一人、何一つの結果を残していない。
伝承のにのみあるとされ、その異世界召還魔術についてわかっていることは何もない。
ただ勇者が召還されたという事実のみが語り継がれているという。
だが“世界最高”で、“天才”たるこの私。こと魔術において、不可能という言葉は存在しない。
故に、返す言葉はたった一言。
「御意」
確信と言えるほどの自信を込めた言葉に満足した王は鷹揚にうなずいている。
当然だ。世界最高の天才魔術師たるこの私の言葉を疑うなど、いやそもそも疑問を持つことすらあり得ない。
分かっていることは何もない?
当然だ。この私が研究していないのだから。
未だかつて誰も成功していない?
必然だ。この私が施術していないのだから。
一年だ。一年で全てを解き明かし、召還して見せよう。
今まで数多の魔術師ができなかったことを、たった一年で? 先人達を馬鹿にしている?
それは違う。先人達がどれほど優秀だったのかは知らないし、どれほど努力したかも知らない。知らないことは褒めることも貶すこともできない。
ただ“私が”行う以上、必然としてその結果が訪れる。それだけのことだ。
王よ、貴方はそこで待っているだけでいい。
この私がもたらす、その素晴らしい結果を受け取るだけでいい。
せいぜい一年後を楽しみにしているがいい。そして――
「では余の名をもって命ずる!今すぐ召還を行うがよい!!」
……………………えー、コホン。
私は世界最高の天才魔術師だ。
突然だが、魔術を行使するには魔術式を構築し、魔術展開、魔力充填、そして発動を行うことで発動する
それらの工程は通常順序立てて行うものだが、優れた魔術師は工程を短縮、あるいは同時に行うことで発動までの時間を短くしたり、逆に必要な工程を長くすることで効果を高めたりする。
私はその中でも複数工程の同時展開を得意とし、多数の魔術を状況に合わせて使い分けるスタイルを好む。
ようは複数の作業を同時に行うのが得意ということだ
……何が言いたいかといえば、さっきの言葉を考え事をしていたがための幻聴とするのは、私の能力を私自身で貶めてしまうということに他ならないわけで……。
いやいやいや。ちょっと待って。今すぐって。
無理に決まってるでしょ!
これから研究するんだから展開要領どころか術式構築だってできてないよ!
図面も手順書も無いけど城を作ってねっ。ついでに材料は自前で用意してねっ。期限は明日までだから頑張れ☆ って言われるようなもんだよ!
けどこの愚かも……コホン、国王にそんなこと言えば、間違いなく『余の命が聞けぬと言うかー!!』とか言い出すに決まってるしなぁ。
何度も言うが私は天才だ。絶対に召還を成功させる自信はある。根拠だってある。というかそれが原因で私がここに呼ばれたんだけど。
しかし現時点では無理というしかない。
今の私の魔術できるのは“異世界の人間と会話する”ということだけなんだから。
にしても……宰相? 私言ったよね。私にできるのはそれだけだって。
あんたも言ったよね? それを手がかりとして勇者召還を研究してくれればいいからとりあえず謁見してくれって。
どういうことだコラ……って目線だけ向けてみれば、うわー宰相の顔真っ青。
目線だけで『どうしよう……今回失敗したら一族郎党処分される……』って訴えてきてるし。
あーこれ宰相も国王にやられたくちかー。
あれか、この愚かな肉のかたま……ウォッホン、国王に勇者召還しろーって無茶振りされて、ようやく見つけた私の魔術を盛り盛りしながら話したら、いつの間にか召還できることになってたと。
……ちょっとしか盛ってない?いやそんなことはどーでもいい。
とりあえずどーすんのさこれ。
目の前の愚かでスライム並みの頭脳しかない肉のかたま……ゲフンゲフン、国王ってばさっきのセリフ言った直後から『決まった……』って満足そうな顔してんだけど。
ここに『今すぐとか無理でーっす☆』とか言ったら私どーなんの。
……何とかして? だから誰のせいだと……追加報酬出す? それは当たり前だ。
……あーもうわかったから、とりあえず落ち着け。
仕方がない。自分だけ逃げるのは簡単だけど、それだと私にとっても都合が悪いのは事実だし、何とかしましょう。
世界最高の天才魔術師たるこの私、こと魔術に関することならそうそう不可能という言葉を使ったりはしない。
「陛下。恐れながらお伺いしたいことがございます」
「よかろう、申してみよ」
機嫌よさそうだなー。さっきのやりとりってそんなにテンション上がるものなの?
「今すぐに召還とのことですが、それほどまでにこの国は窮地に陥っているのでしょうか」
「当たり前である。港町が何度か魔物に襲われたそうだ。これが窮地でなくてなんだというのか」
“何度か”“襲われたそうだ”ってずいぶん曖昧な。
ついでに辺境では町が魔物に襲われるなんて日常茶飯事なんだけど。
「これは魔王復活の兆しに違いないと、賢明なる余はすぐに気づいたのだ!!」
あれ、なんか語り始めた。
「下賤なる魔人族は我等に気づかれぬよう、少しずつ攻めてきておるのだ。徐々に勢力を広げ我等を疲弊させる。そして準備が整った時! 奴らは一気に攻めてくる気なのだ!!」
立ち上がって熱弁振るい始めましたよー。腕とか振って役者さんみたいですよー。
劇場じゃなくて路上でおひねりもらう方だけど。
「そこで勇者召還だ! 敵の攻撃が弱いのは魔王が復活してまだ間がないからに他ならない!だからこそ今勇者を送り、力を得ていない魔王を打ち滅ぼすのだ! そもそも魔人族は――」
すいませーん串焼き二つとビールくださーい。
え、だめ? だっていつ終わるのこれ。日が傾き始めたよ?
《デゴニア・クレアルードによる人魔大戦期~第一章・予兆~》からやっと《第二章・勇者》になったと思ったらまさかの《第三章・誕生(自分)》とは思わなかった。なんでそこで自分の幼少期を語りだすわけ。
しかもまだ始まってもない戦争の回顧録を今から作るってとんだ妄想だね。
……もうすぐ終わるから大丈夫? 五章まで持たないからって何が……ああなるほど。体力が持たないのか。
「……ハーッ、ハーッ、故にっ……ハーッ、我らは……ハーッ……戦わねばならぬのだ……ハーッハーッ……」
流石は愚かでスライム並みの頭脳しかない妄想癖の強い肉の塊のような国王。そんなのがあれだけ身振り手振りで熱弁してればすぐに体力尽きてしまうと。
では普段から回ってない頭が疲れで完全停止した今がチャーンス。
その前に国王を形容する言葉に汗臭いも追加しとこう。くっさ。
「さすがは陛下。素晴らしいお考えです」
「ハーッ、そうだろう……ハーッ、ハーッ、余は当代きっての……ハーッ、切れ者だからな……ハーッ、ハーッ」
痴れ者の間違いじゃなかろうか。
「ですが陛下の戦いには、たった一点だけ、物足りなく思います」
「ハーッ、物足りない……?ハーッ、ハーッ、どういうことだ……」
「陛下の戦いに対するお考えは確かに素晴らしいものです。敵の体制の整わないうちの短期決戦。必ずや成功を収め、陛下の功績は後の世に語り継がれることでしょう」
というか戦い方についてはこれしか言ってない。
あとはいかに魔人族がアレで自分が素晴らしいかを語るだけ。
それだけで日が傾くほど語れるんだから、そこは誇っていいと思うな。
「ですが! それでは人間族の強大な力を示せないではありませんか!」
「ハーッ、ハーッ、強大な……力……?ハーッ、ハーッ」
はい食いついたー。
「そうです。確かに今すぐ勇者召還を行えば、陛下の考える短期決戦を実現できるでしょう。ですが“源の泉”はまだ力を強めている最中。そんな中召還される勇者に、いかほどの力が備わっていましょうか!」
勇者召還について何もわかっていないと言ったが、一つだけわかっていることがある。
世界に四か所、源の泉と呼ばれる魔力の湧き出す地がある。
そこから湧き出す魔力を利用して召還されるということだ。
そもそも“魔力”とは、“魔素”が集まり、“属性”を持ったもののことを指す。
火の属性を与えれば火属性の魔力が生まれ、火魔術を使用する際の効果、効率が向上する。
力の属性なら身体能力についての魔術、毒の属性を与えれば水を毒水に、武器に毒の効果をと言った風に使う。
源の泉が特殊とされる点。その一つは、湧き出す魔力には属性が無いという事が挙げられる。
属性があるから魔力として成立するにも関わらず、その属性が無いにも関わらず何故か魔力として成立している。
その矛盾した存在ともいえる魔力が“湧き出している”。源の泉の二つ目の特徴だ。
何も無いところから泉のように魔力が湧き出していること、その魔力は何ものでもない無属性の魔力。
それらの事から全ての始まりという意味を込めて“源の泉”と呼ばれるようになったそうだ。
これだけ聞くとただ魔力が湧き出しているように聞こえるが、源の泉の魔力は時期によって増減するという特徴がある。
そして魔力が増加するということは、そのまま魔王が復活する予兆だと考えられている。
何故魔力が増えると魔王復活の予兆なのかといえば……なんともアホ臭いんだけども、源の泉の魔力は神の力で神は人間族を見守っているよー魔王復活したから泉の魔力を増やしといたよー危ないからこの力を使って早く魔王を倒しなさいよーという言い伝えらしい。
なんて都合のいい神様だ。そこまでするなら自分で魔王を倒せばいいのに。
まぁ今はそのことが自分にとっても都合がいい……いややっぱ神が魔王倒せば自分いらないよね。そっちのほうが都合いいんだけど。
というわけで何とかしてよーカミサマー。
……無いものねだりしてもしょうがないしいい加減この演劇も終わらせよ。
「勇者は源の泉を用いて召還されることはご存知のはず。そして泉の魔力が増加した時に勇者召還は行われる。ということは! 泉の力が勇者の強さに影響するということに他なりません! つまりは泉の力が最も大きくなった時に召還を行うことで最強の勇者を召還できるのです! ……賢明なる陛下は、既に理解していらっしゃるのでは?」
「ハーッ、ハーッ、……当然だ……ハーッ、余は……賢明だからな……ハーッ、ハーッ」
「流石は稀代の賢王! しかしです。力を得ていない魔王を倒された魔人族はどう考えるでしょうか?『今代の魔王は完全ではなかった。脆弱な人間族は完全な魔王に勝てないから弱い魔王を狙った。人間族など、やはり恐れるに足るものではない』と、そう考えるに違いありません! そんな風に侮られてもよろしいのですか!?」
「何だと……ハーッ、ハーッ、下賤な魔人族めぇ……ハーッ」
あーはいはい下賤ですねー。ていうかいつまで息切れしてるの。
息が臭い。じゃなかった息も臭い。
「であれば! 今は窮地を耐え忍び、完全なる源の泉の力を用いて最強の勇者を召還する! その強大なる力をもって魔王を打ち滅ぼしてこそ! 人間族の力を知らしめ、ひいては陛下のご英断を称えることになりましょう!!」
「素晴らしい! そなたの言葉、しかと受けとったぞ!」
ここまでやっとけば大丈夫だろうけど、もうひと押しやっとこうかな。
終了したと思ってからが本番だよねー。
「いいえ、これは私の言葉ではございません」
「何だと?」
「これは陛下の素晴らしいお言葉を頂いたからこそ導かれたもの。陛下から始まった言葉が私に力を与え、その結果生まれたものに他なりません。であれば、それは即ち陛下のお考え、陛下の素晴らしき知略が生み出したということ! ……これは陛下自身の高貴なお考えを、我等平伏すべし者たちに理解させるための、陛下の慈悲であるということ、今更ながらに理解いたしました。その深いお考えに、私は敬服の念を禁じえません」
「うむ! そこまで理解しているとは、さすが世界最高を名乗るだけはある!」
ちょろい。
「余の名をもって命ずる! 勇者召還は源の泉の力が極限まで大きくなった時、召還を行うよう取り計らうのだ! そして悪しき魔人族を滅するため――」
とりあえず私が世界最高ってことだけ理解していればいいよ、って立ち上がって何? また演説……じゃなかった演劇? 決して逆ではない。
演劇はほっとこう。
とりあえずこれで時間稼ぎは成功っと。
宰相ー、ホッとしてるとこ悪いけどあまり時間無いのは変わらないんだからねー明日から忙しいからねー。
うん顔を青くしてももう伸びないからねー、死ぬ気で何とかしなさい。
確保した時間は源の泉の力が最大になった時。
宰相にも言っといたけど時期はおおよそ半年から一年先ってとこだから、半年で見とくべきだね。
一年あれば確実なんだけどなー……まぁ、なんとかなるか。私も死にたくないし。
死ぬといえば、勇者召還されるまで魔物に襲われる町や村は大変だろうけど頑張れーって……うっ、こわっ。騎士団長のおじさんものすごいこっち睨んでるーっ。
そりゃすぐ勇者が召還されれば騎士団も戦う機会が減って被害が少なくなるわけだしね。民も騎士団も。
それをあからさまに延期させたら怒りたくもなるのわかる。でも無理なもんは無理なんだから諦めなさい。
っていうか、どうせあんなみたいのが後で国王に進言して急かすってわかってるから、一年じゃなくて半年で計算してるんじゃないか。
むしろもっと短くなるんじゃないかな?
私だって命がけなんだしあんたも命がけで民を守る。ほーらお互い仲間ナカーマ。
……無理? ですよねー。
同じ時間稼ぎでももうちょっと命を考えたこと言ってればここまで睨まれなかったんだろうけど、あの愚かでスライム並みの頭脳しかない妄想癖の強く悪臭を醸し出す肉の塊のような国王と呼ばれてるらしい芸人さんをノせるには、自尊心とか顕示欲とかそーゆーのをつつくのが一番確実だったんだからしょうがない。
犠牲になる人のことも考えろってことかな?考えはするし気の毒にも思うけどそれだけかな。私には関係無い事だ。
だって私、人間族じゃないし。