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第六話 鶏小屋の探索

 この日はほとんど、このさくら山を改造した、鶏人間達のアジトの探索で終わった。

 一階から四階までは、全て鶏人間達の居住スペースになっていた。かつては多種多様な商品が置かれていた光景はなく、あのプレハブがぎゅうぎゅう詰めになっている。

 何だかテレビで見た、災害後の被災地の光景を思い出す。


(そもそも何で、こんなせまっくるしい建物中で、こんな暮らし方をしてるんだ? 駐車場とか、外で空いてるところは、いっぱいあるだろうし、マンションとか人の家とかもあるし……ああ、外にはあの変な生き物がいたな)


 ヤキソバは、あの蜘蛛怪人の姿を思い出す。そう言えばアデルは自分を人妖だと言って、一方的に攻撃を仕掛けてきた。

 その“人妖”と呼ばれる存在は、やはり彼らにとっては脅威なのだろう。そんな者が、外にウロウロいては、そうそう外に居を構えることなど出来ない。こういった場所で一カ所に固まって、守りを固めた方が、安全だろう。

 それに他所様の家には、もしかしたら住んでる人がいるのかも知れない。


(この世界がどうなってるのか・・・・・・俺以外の人間はまだいるのか、そのうち確かめないとな……)


 そんなこんなでエスカレターを跳ねるように昇り、五階にまで辿り着いた。ここがさくら山の最上階の筈だ。

 いくつもの飲食店とゲームセンター、そして大型のプールと浴場があった場所だ。


(ここは全然変わってねえんだな……)


 下の居城区と違って、五階は以前の面影を強く残していた。ゲームセンターなどはそのままだ。よく見ると客がいる。

 ゲームセンターはガラガラだが、数人ほどの鶏人間の客が、クレーンゲームやシューティングゲームをしていた。今でもここでポイントを得ると、景品を貰えるのかどうかは不明だが。


 飲食店は依然とは店のジャンルが変わっている。かつてそば屋だった場所は、焼き肉店になっている。パフェ店だった場所は、焼き鳥専門店だ。

 いずれも看板は、達筆な書道家が書いたと思われる、大きな筆文字だ。さっきアデルは、自分が異世界人であるかのような発言をしていた。

 だがこの和風な看板は、彼らが書いた物だとすると、色々疑問が沸いてくる。それともう一つ疑問に思うことがあった。


(一階の店といい……肉屋ばっかりだな。こいつら肉食な種族なのか? 鶏っぽいのに)


 次に訪れたのは、浴場だった。ここは一つの入り口から入って、更衣室から通路が別れて、浴場とプールを行き来できる。

 プールは外側の壁に作られており、ガラス越しに外の光景が見えるはずだ。これは全て、彼が幼い頃に入った記憶なので、それ以降どうなったのか判らない。ましてや鶏人間達が改造しきった今は、現存すら不明だ。入ってみたら中は古い記憶のままだった。

 赤いカーペットに覆われた、受付席のある広いロビーの中。右手側には浴場への入り口が、左手側には広い座敷の宴会場がある。彼にとっては小学校以来に入る風景だ。ここを見ると、色々と幼い頃を思い出す。


(そういや父さんと母さん、今どうしてるだろうな……)


 彼が見た範囲では、病院や映画館付近には、人の姿が異様なほど存在しなかった。その代わりにあの蜘蛛みたいなやばそうな怪物と、幽霊やら鶏獣人やれが、入れ替わるようにして住んでいる。

 だが別に誰も、人類が滅亡しているとは言っていない。自分が意識を失っている間に何があったかは判らないが、皆どうにか無事でいて欲しいと、彼にはそう願うしか出来ないが。


「何だ? お前風呂に入りたいのか?」


 彼の後ろをずっとついてきていたアデルが、浴場のロビーの前で考え事をしていたヤキソバに、そう語りかけてきた。

 それは会話を行おうというより、ペットを愛でて話しかけるような雰囲気である。


「そうだな・・・・・・よし、今晩辺りに一緒に入るか?」

(えっ!?)


 さりげない爆弾発言。女子が男子に一緒に風呂に入ると言っている。まあ相手は動物と同じように考えているようだし、そもそももう一つの疑問に、彼はぶち当たった。


(そういえばこいつ・・・・・・女なのか?)


 体格や顔で、アデルを女性だと思っていた。だが口調は不良男児のようだし、胸もない。こうなると華奢な体格・中性的な容姿の男性かも知れない。

 名前も、性別の違いが分からない感じだし。それを確かめたい気分になり、彼は心の中で同室入浴に頷いた。





 さくら山には専用の立体駐車場がある。本店と隣接していて、各階ごとに、短い橋で繋がっている。

 五階から橋を渡り、上から下へと、その駐車場を見学した。その大きさは、昨日ヤキソバが目覚めた、あの映画館の駐車場よりも少し大きい。


 まず五階から三階は、何やら工場のような鍛冶屋のような、製造施設になっていた。カンカンと鉄を打つ音と、溶けた鉄の熱気が充満している駐車場内部。石造りの炉や、打ち終わった物を冷やす水の入れ物など、本格的な鍛冶屋の光景があった。

 最もヤキソバは、本物の鍛冶士の仕事場がどんな物かは知らない。ただゲームなどで見る鍛冶屋の光景に、そこはよく似ていた。

 三つある炉からは、上に煙を逃がすための煙突が伸びており、それが屋上を貫いている。これで初日に見た、煙の正体が判明した。


 ここで働く職人達は、皆年若い少年少女だった。漫画などで良くある、親方風の者は一人もいない。先程医者らしき少女もそうだったが、彼らの年代層はどうなっているのか?

 彼らが打っているものは、まだ形が整っていない鉄塊が多いため、何を作っているのか不明だ。だが長物が多いからして、もしかしたら武器かも知れない。


(そういえばアデルは、不思議な武器を使ってたな。忍者刀は判るとして、あの不自然に飛ぶ手裏剣はいったい……もしかしてそれもここで作っているのか?)


 鍛冶の技術などに無知な彼には、目の前で繰り広げられている作業が、どのような技術が使われているのか、全く判断できない。

 そんな中、一仕事終えたらしい鍛冶士の少女が、こちらに話しかけてきた。


「あれそいつヤキソバじゃん。もう怪我が治ったの?」

「ああ、やっぱり霊獣だけあって、治りもとんでもねえな。今砦の中を走り回っててな、俺もそれに付き合ってるとこ」

「へえ……ここを縄張りにしたいのかもな。案外好都合じゃん」


 そんな風にアデルと話し合っている少女は、上半身が裸だった。彼女だけでなく、この場にいる者は、男も女も関係なく、皆半裸で作業をしている。

 男がいる部屋で、女が平然と胸元を見せている事実よりも、その恰好で、熱気溢れる工場で働いているのが気になった。


(そんな姿でこんな仕事して……火傷とかしたら、どうすんだよ? いや、そういうの気にならないような技術でもあんのか?)


 ますますもって、おかしな種族だとヤキソバは思った。






 その階から降りて、三階に入ったヤキソバとアデル。三階には何か、変な器具がいっぱいあった。

 グツグツと変な色の液体が煮えている巨大な釜・巨大なフラスコのようなガラス瓶に、変な液体が混ぜ合わされている作業場など、何とも異様な雰囲気である。

 例えるならば、特撮などにある、悪の秘密結社の研究施設のような場所である。

 働いている者達も、これまた若い奴らばかりで、全員白衣のように真っ白な着物を着ている。あれは先程会った、ニーナという少女と同じ服装であることに気づく。


 そして一階二階は、巨大な倉庫になっているようだ。そこにもプレハブのような、巨大な箱が敷き詰められている。

 ただし外装はかなり異なっており、頑丈そうな金属の壁で作られており、四角い鋼鉄の塊のようだ。残念ながら、その内部には入ることは出来なかった。

 中に何が入っているのか気になったが、あまりせがむと、アデルから不審に思われるかも知れない。だが一階の倉庫には、何が入っているのか大体見当がついた。

 一階は五階とは対照的に、実に気温が低かった。今の季節は不明だが、そこは真冬の街のよう。

 その原因はすぐに判った。一階にある物入れの巨大箱には、いずれも『冷凍物注意』もしくは『冷蔵物』という文字が書かれていた。どうやらここは大きな冷蔵紺置き場のようだ。恐らく内部には食べ物が入っているのだろう。


「こらっ! 外は駄目だ! 危ないだろ!」


 駐車場の出入り口から、そのまま外に出ようとすると、アデルに抱き上げられて制止される。あの蜘蛛怪人のこともあったので、彼は抵抗せずに、そのまま外出を諦めた。


(どうにかして外の様子を確かめたいんだが……しばらく様子を見るしかないか?)


 その後もう見るところもないと思って、彼は最初に自分が目覚めた、アデルの部屋であるらしいプレハブに戻っていった。

 その様子を見て、自分を完全に手懐けたとでも思ったのか、アデルは妙に上機嫌だった。


 ちなみにその後、探索中に彼女が言っていたように、今夜ヤキソバはアデルと共に入浴した。石造りで、銭湯としてはやや狭めの浴場は、昔のままであった。

 そこで確かめられたのは、やはりアデルは女性だったということだ。


(ここの水道どうやって水を引いてるのか?……を気にする前に、こいつら男女とか気にしないのか?)


 アデルにゴシゴシと石鹸で洗われながら、ヤキソバはそう思った。男女の区分けなど無く皆で一緒に風呂に入る鶏人間達。

 ちなみに彼の身体を泡で包ませている石鹸は、元々日本で販売されている、市販の製品であった。





 風呂から上がり就寝前の時間、アデラの部屋の中で、彼女はずっとゲームをしていた。

 部屋の中のテレビの前で行儀悪く座り、ピコピコとコントローラを動かしている。使用しているテレビやゲーム機は、いずれも日本製の機械だった。

 テレビの下の部分に、見覚えのある社名が英文字で書かれている。そしてプレイしているのもまた、日本製のゲームだった。

 内容は王道のファンタジーRPGで、グラフィックがかなり豪華だが、あまり人気の出なかった作品だ。ヤキソバも名前は知っているが、プレイしたこともなければ、欲しいとも思わなかったゲームだ。

 その様子を、ヤキソバは自分に与えられた、動物用ベッドの上で、黙って見ていた。そのゲームはプレイヤーの職業を、任意で選べるシステムで、アデルは「忍者」でプレイしている。


(そういえばこいつ、何で忍者の仮装してたのかも謎だよな。まさか単に忍者が好きだからか?)


 そんな馬鹿なと思いたくなる疑問も、何となく本当のような気がしてくる。だが今このさくら山(アデルは“砦”と呼称していたが)に見かけた鶏人間達が、全員着物姿だったことを考えると、それだけが理由ではないのかも知れない。


 アデルのプレイ時間は長かった。夜中の12時を過ぎても、ぶっつけでプレイしている。正直見せゲーというのは、あまり面白くない。そもそもゲームのストーリー自体も、あまり面白くなかった。

 アデルの方はモクモクとプレイしていたが、長いイベントが入ると、退屈なのか派手に大口開けて欠伸をしたり、背中や尻を手でボリボリかいたりしている。

 先程風呂場で、女性であることを確認したが、その素振りには女性らしさは微塵も感じられない。最も、これは日本人であるヤキソバの感覚からで、彼ら鶏人間の感覚では、これが普通である可能性もあるが。


(そもそもこいつら何者なんだよ? 俺みたく、元々いた人間が変化したわけじゃないよな?)


 アデルは自分がこの世界の人間ではないような事を言っていた。そもそも名前からして日本人ではない。

 だが異世界人ならば、他に色々と疑問に思うことがある。何故彼らは、普通に日本語で会話しているのか? 彼らは自分が言葉を理解できるのを知らないので、こちらに判るように故意に母国語を使わないわけではないだろう。

 それに彼らの食べる料理も、肉料理ばかりだったが、全て日本語でも食べられている物で、料理名も日本語だった。

 何よりアデルのあの忍者ルック。あれが彼女の戦闘装束らしいが、何故あんなフィクション系の忍者の姿なのか? あの姿だと、戦闘で効率が良かったということはないだろう。実際に彼女は、忍者系武器を使いこなせず自滅している。


(こいつらが別の世界の人間なら、元いたこの世界の人間は、今どうしてるんだ? 何でこんな奴らが、街に住みついて、他所のデパートを勝手に改造しているのを、国が見逃す? 分かんないことだらけだ。本当に……俺はこれからどうなるん……)


 アデルが何時までゲームをしていたのかは知らない。彼女が終える前に、ヤキソバは眠気を堪えきれず、そのまま深い眠りについたからだ。


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