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第二十四話 除霊

 ゴブッ!


 今組み合っているガルゴと石眼と比べると、遥かに小さいそれが、下から上へ飛び、そしてその通過点にある障害物=石眼の胴体の一本に、衝突事故を起こす。


「ブギャッ!?」


 その激突した首は、今ガルゴの右の脇腹に噛みついている者であった。長い胴体が、一時的にグニャリと曲がり(骨折の可能性もあるレベル)、その痛みの反応で、口を大きく開けて、牙をガルゴの身体から引き抜いてしまった。

 石眼の口から、透明な液が吹き出て、ガルゴの皮膚を少し汚す。


 出てきたそれは、激突した後、反動で下に落下する。今し方自分が出てきた穴のすぐ脇に落ちて、すぐに立ち上がって、その場から駆けだした。

 ガルゴと石眼の右脇の方へと走り、百メートル程距離を取ったところで、立ち止まって振り返る。


『ヤキソバ~~今まで何処に行ってた!』


 ガルゴが横目を向けて叫んだ相手は、当然のごとくヤキソバである。彼は今までタンタンメンやガルゴに散々撃ったあの気功突進で、石眼の首を打ったのである。


『おりゃあっ!』


 ヤキソバが再び飛ぶ。あの気功突進でロケットのように空中推進し、石眼に向かって飛ぶ。先程驚異的な俊敏性を見せた石眼も、ガルゴを捕らえるために組み付いている状態では、その突進を避けようがない。


 ゴブッ!


「ブギャッ!」


 先程と全く同じ、激突音と悲鳴が響く。ヤキソバの突進により、ガルゴに噛みついていた頭の一つが、再びガルゴの身体から離れる。

 そして先程と同じように再びヤキソバは距離を取り、三撃目の気功突進を放つ。


『うおっ!』


 だが今回はさっきと同じようにはならなかった。今の状態を維持するのは危険と判断した石眼が、ガルゴを捕らえていた頭を、一斉に離し、素早く後退したのだ。

 ヤキソバの突進が、ガルゴと石眼の間の空間を通り抜ける。


『ちいっ!』


 攻撃失敗を悔しみながら、的を外した突進にブレーキをかけて、ブーメランのように推進しながら、地上に降り立った。

 そしてさっき自分に声を投げかけ、たった今石眼から解放されて膝をついたガルゴに叫び返した。


『地中を迷子になってる間に、少し落ち着いたぜ! ……そんでこのでかい蛇、何だ!?』


 どうやら今の今まで、地中を潜行しながら彷徨っていたらしい。そして今の彼の様子は、先程の暴走状態よりも、大分収まっている。そうなると現段階、問題とすべき点は一つだけだ。


『こいつは人妖だ! そんで世界を石化させた奴の親玉だよ! 要はこいつを倒せば、全てが収まる……筈だ!』

『……ホントかよ?』


 身体の一部が石化した状態で、ガルゴが手早く状況を説明する。話している間に、石眼はガルゴとヤキソバから更に距離を離し、七つの首の半分ずつ、ガルゴとヤキソバを睨み付ける。


『渡辺紺の麒麟か……結局力を取り戻してしまったのだな……ならばお前ら全員を全て封じねばならないか……』

『やってみろ!』


 石眼の言葉を売り言葉と判断して、ヤキソバが再び気功突進で飛ぶ。ある程度力を溜めた後、再び弾丸のように、石眼に高速接近した。狙いは細くて弱そうな、石眼の首の一本だ。


 だがその攻撃は当たらなかった。ヤキソバの溜の間に、石眼は回避の姿勢を整え、ヤキソバの突進が直撃する直前に、細長い首を軽やかに動かす。

 ヤキソバの突進が、石眼の首と首との間を通り抜ける。ヤキソバの気功突進の溜の時間が、敵に回避の余裕を与えてしまう。

 だがらと行って、即撃ちできる小技で攻撃しても、あれだけの体格差のある敵に、十分なダメージを与えられるか不安である。実際に先程のガルゴは、ヤキソバの必殺の突進を、結界なしで受けても、倒れるには至らず充分動く余裕を持っていた。


(だったら当てやすい箇所を……)


 ヤキソバは敵の狙う部位を変更する。細い分動きやすい首ではなく、七つに分かれる太い胴体の付け根部分を狙う。

 あそこまで肉厚な部分に、どれほどの痛手を与えられるか不明だが、当たらないよりはマシだ。


 気功の弾丸が、石眼の胴体に向かって飛ぶ。石眼をその攻撃を、避けようという素振りは見せなかった。避けられる余裕はないのかと思ったら、そうでもなかった。ヤキソバの突進が始まると同時に、石眼の全身が、一瞬黄緑色に発光した。

 何かのライトアップを受けたかのような身体の光は、一瞬で収まる。その直後に、ヤキソバがその太い胴体に直撃した。


(かたっ!?)


 ダメージを受けたのは、ヤキソバの方であった。人間で例えるなら、石の壁に体当たりしたかのような痛みが、その身に走る。

 そして鉄塊に着弾した弾のように、ヤキソバの身体が跳弾して、突進とは逆方向に飛び跳ねる。この結果に、近くで見ていたガルゴも驚いている。


(ぐぅうううっ!?)


 撥ね飛ばされ、痛みに苦しみながらも、ヤキソバは何とか空中で体勢を整えようとする。だが間に合わずに、大地にその小さな身体が叩きつけられ、数回バウンドして、更に遠くで飛ばされる。

 勿論それで完全に倒れたりせず、すぐに起き上がって、石眼に向き直る。


(あれは……さっきのタンタンメンと同じ技か?)


 ガルゴは石眼が何をしたのか、大体察知した。石眼は自身の防御力を上げる、特殊な結界を、全身に塗り覆ったのだ。さっきまでタンタンメンが使っていた、自身の動きを鈍らせる代わりに、防御力を上げる技だ。

 先程のタンタンメンは、防御しながらも、ヤキソバの攻撃に確かなダメージを蓄積し続けていた。実際石眼の方も、ノーダメージではなく、その身体が僅かに揺らめいている。

 だがその効果は、タンタンメンの時よりも薄いし、ヤキソバ自身も痛手を受けてしまっている。この結果は、ヤキソバが急所を狙わなかったことと、石眼自身の防御力の他に、もう一つ原因があった。


(やばいな……俺の力も、そろそろ限界だ……)


 さっき覚醒したばかりのヤキソバの力は、度重なる必殺技の連発と、地中の無茶な移動で、消耗しきって力が弱まっていた。

 全身に炎を纏うような熱さの火照りを感じ、ヤキソバに焦りの感情が生まれ始める。そうこうしているうちに今まで人形のように身を固めていた石眼が、突然動き出した。

 あの防護結界を解いたのだとしたら、今がチャンスであるが、攻撃の隙は見つけられない。長い胴体をくねらせて、一気にヤキソバ目掛けて突進し、七つの首の牙が、一斉にヤキソバに向けられる。

 ヤキソバの視点からすれば、山のように見上げるほどの高さから、自分など一飲みに出来るほどの口が、一斉に自分に振り下ろされる恐ろしい光景である。


『グウッ!』


 やむを得ずヤキソバは、石眼に背を向けて逃走を開始した。体躯の差から、敏捷性はヤキソバの方が遥かに上だ。

 だが敵の攻撃を避けながら、上手く反撃の手を出すのは、あのタイプの敵には難しい。敵の攻撃の手は、七つもあり、それら全てを躱すは難しい。


 ガリッ!


 ヤキソバが走り去った後の地面の一点が、石眼の口に囓られて、そこに陥没地点を作る。石眼の大きな口によって、ブルドーザーで掘り起こしたような跡が出来ている。

 口に含んだ土と石を吐き出しながら、再びヤキソバを襲う。


『おいおい……』


 逃げるヤキソバを追う石眼。奴の攻撃目標は、今はヤキソバに移ったようで、さっきまで復讐を口にしていたガルゴなど放置である。

 身体の各部の石化が完全に解けず、自由に動けない中、ガルゴは山を駆け上がっていく二体の怪獣を呆れながら見送っていた。


『だがいつまでも、こうしてるわけにはいかねえよな……よし、最後の一踏ん張りだ!』


 ガルゴは全身を力ませ、その山の中腹で気合いを上げて咆哮を上げた。


(山の山頂にはあいつがいる筈……そういやあいつ生きてるかな?)


 岩ヤギなど比較にならないほどの運動能力で、岩石だらけの歩きにくいはずの傾斜を、新幹線のような速さで、ヤキソバは三丁目掛けて駆けていく。

 やがてヤキソバは山頂に辿り着いた。十分ほど前まで、ここで派手にやり合っていた場所である。戦闘の痕跡が多く残り、火山池にはあのタンタンメンが、ぐったりと横たわっている。


『頼むタンタンメン! 助けてくれ!』


 ヤキソバはさっき自分がボコボコにした相手に助けを求める。だがタンタンメンは答えない。目は閉じており、息はしているが、今は山のように動かない。


(やっぱ無理か! まあ、俺がやったんだけど……でも他に戦力になる奴なんて……)


 あの石眼というハイスペックの敵に戦える者は限られている。少し前までは、鶏忍者達と、人妖狩りをしていたが、今のパワーバランスはその領域を越えている。

 悩んでいる内に、あの石眼の地面を這う奇抜な足音が、どんどんこちらに大きく聞こえてくる。


(ちくしょう! 結局俺がやるしかないのかよ! 何で俺がこんな目に!)


 振り返ったヤキソバは、現状の危険と、自分の立ち位置を考え直し、再び感情が高ぶり始めていた。だがそれで失われた体力が戻るわけでもない。

 そうこうしている内に、石眼がこの山頂周辺の大地に姿を現す。そして出てきてそうそう、石眼から再び、あの火球弾が連射される。どうやらもう力の補充が終わったらしい。


『うわぁああああっ!』


 大地に大空襲のように、おおくの爆音が響き、ヤキソバがその爆撃から逃げ回る。その動きはさっきよりも鈍く、余裕があまりない。

 ちなみにそのうち一発が、タンタンメンの身体に直撃している。その衝撃なのか、彼女の身体が一瞬身震いした気がした。


『ちくしょう! 皆逃げちまいやがって、俺に勝手に期待して、役に立たなきゃ捨て駒かよ!? ちくしょうが!』


 そう叫んだ瞬間、火球の嵐が止んだ。もう火力が切れたのかと思って見ると、石眼の巨大な身体の後側に、同じぐらいの大きさの影があった。


『皆してお前に勝手に期待したのは確かだけどよ! 別にお前を切り捨てるなんて言ってねえよ! 不運だからって、被害妄想は止めろ!』


 それはガルゴであった。身体の石化した部分の、変色部分は、すこし毒が解けたのか、さっきより面積が減っている。ただし全快したわけでもないようだ。

 いつの間に登頂したのか、石眼はヤキソバへの攻撃に集中するあまり、うっかり彼の接近する気配を捕らえ損ねたようだ。

 彼は石眼の長い胴体の先端、尻尾の部分を掴み上げて、綱引きのように引っ張り上げている。これに驚いて、石眼の攻撃は止まったようだ。ガルゴの引っ張られて、石眼の胴体がズリズリと少しずつ後退している。


『小癪な! まだ動けていたか!』


 石眼の頭が一斉に後ろを向き、さっきの火球を浴びせようと、赤く輝く大口を開けた。だがその前にガルゴの口から、何かが出るのが早かった。


 ズォオオオォ!


 ガルゴの口から予め力を溜めておいた、青炎熱線が放射される。突然のアクシデント、攻撃を焦った石眼は、その攻撃を避けることも防御することも、間に合わなかった。

 青い光の波を、七つの首の付け根の太い胴体に、水を被るように浴びせられる。何故そこを狙ったのかというと、細い首を狙うと、うっかり外すかもしれないからだ。


「ギシャァァアアアッ!」


 身体に走る凄まじい熱に、石眼の白い鱗に覆われた皮膚は、黒く焼け焦げ、石眼が苦悶の鳴き声を上げる。

 やがてガルゴの青い炎の放出が終わる。元々体力が限界に近かったガルゴは、その熱線一つで、ほとんどの力を使い果たした。尻尾を握る力も、大分弱まっている。


 だが石眼の方は違った。胴体の付け根が焼けて、かなり重い火傷を負っているが、それで戦闘不能に陥るほどではない。

 普通の動物ならば、命の危険があるほどの火傷である。だが石眼のような魔物の生命力は高く、この程度の傷ならば、時間だけで治癒できる。

 本格的に殺すには、一気に確実に息の根を止めるのが、魔物退治の一般常識だ。だがガルゴは今、それが出来なかった。


(くそっ! 結界も張ってないのに、素でも頑丈な奴だ!)


 前は同種の敵を、熱線一発でも殺せた。だが今回の結果に、強い悔しみを覚える。再び開かれた、七首達の赤く光る口を前に、彼は逃げることも出来ずに、敵の尻尾を弱々しく握りながら立ち尽くした。

 すぐに来るであろう、熱と衝撃の痛みに覚悟した。だがそれは意外なことに来なかった。


『ぐぁあああっ! 今度は何だ!?』


 出てきたのは、熱線とは別の、締め付けられるような痛みでの石眼の苦悶と疑問の声だった。見ると石眼の七つの首が、何かで無理矢理締め上げられている。

 見るとどこからともなく、赤白い光の紐のようなもの出現している。それらが石眼の七つの首を、藁のようにまとめ上げて、強く締め上げているようだ。


『何だ!? ヤキソバか!?』

『違う違う! 俺じゃない!』


 ガルゴの言葉に、即座にヤキソバが否定する。ヤキソバが振り返ると、そこには溶岩池に浸かったまま倒れていたタンタンメンが、今起き上がっていた。

 彼女の鹿のような角が、今石眼を拘束している紐と同じ色で、赤く発光している。どうやらあの拘束具のエネルギーは、あそこから送られているようだ。


『何なのよあれ……? 今日は散々だわ……』


 タンタンメンは石眼のことをよく知らないらしい。今日一日で、ヤキソバに散々殴られて、今は見たこともない怪物の相手をさせられているのだ。ただ眠ってただけなのに、今日は確かに彼女の厄日だろう。

 ヤキソバに殴られ続けた身体の傷は、まだ残っている。あれだけの殴打され続けて、もう動けるようになったというだから、霊獣だけあってその生命力・再生力は凄まじい。だが当然全快したわけでもない。

 さっきガルゴとの戦闘で見せた、圧倒的な力と比べると、その力は大分弱っているように思える。


 ガルゴは尻尾を引くのをやめて、石眼の胴体に馬乗りに乗り上げる。そしてさっき自分が焼いた、石眼の胴体部位に、その巨大拳で殴りつけた。


 ドン! ドン! ドン!


 怪獣のメガトンパンチの衝撃音が鳴り響く。石眼は七首を拘束されて、されるがままに殴られているのだが、どうも効果が薄いように見える。恐らくガルゴの体力とダメージが、完全に治っていないからだろう。そうこうしている内に、石眼の拘束結界も、徐々に力が弱まってきている。


『後どんぐらい縛れる?』

『あと一分も持たないわ……誰かさんのせいでね……』


 ヤキソバの問いに、タンタンメンが皮肉を込めて答える。次の一手はないかと考えたら、また新たな助太刀の声が上がってきた。


『鷹丸ごめん! ちょっとそこどいて!』


 声が届いたのは彼らの真上、空の方角。そこを見上げる、大分曇ってきた空の上を、元の世界に逃げたはずの翔子が、巨大鳶に乗って、皆を見下ろしていた。


(あいつ、逃げたんじゃ?)


 ヤキソバは自身の暴走時の記憶はうろ覚えだが、アデルがあの広範囲の白煙をばらまいたところは覚えている。

 それ以降彼らの姿も気配も見当たらないので、もう逃げたのものと思っていた。


(あいつ、いつのまに戻ってきたんだ!?)


 ガルゴの方は、彼女に自分に問題を丸投げして、向こうの世界に逃げたのを、はっきりと覚えている。いつの間にか、ここに戻ってきていたようだ。


 この状況で何をするつもりなのかと思ったら、何と翔子は、上空から大鳶から飛び降りた。彼女の小学生サイズの小さな身体が、高速で地面目掛けて落下する。

 その速度は、明らかに通常落下の速度よりも速い。恐らくは何らかの術を使っているのだろう。


 川へ飛び込むカワセミのように、勢いよく突っ込むその先には、現在タンタンメンに拘束されている、あの石眼がいた。


(おいおい……あの程度の体当たりじゃ……)


 勢いよいと言っても、ヤキソバの気功突撃よりも遥かに劣る威力。あれでは石眼に大した痛手は与えられないことは確かである。

 だがすぐにそれが間違いだと判る。彼女の身体が、石眼に接触する瞬間(恐らくこれも魔法の力だろう)に、彼女の落下速度が急激に落ち始めた。

 目に見えないパラシュートを開いたかのように、翔子がゆったりとした速度で、石眼の背中に近づき、そこに見事着地した。


 タンタンメンに捕まっているとは言え、そこは敵の身体の上である。しかも結界による拘束も、あと少しでなくなりそうである。つまりそこは、今この場で、最凶の危険地帯であるはずだ。


(何なんだ?)


 彼女の意図が判らず、ヤキソバが首を傾げる。翔子が片足をついて前屈みになり、右掌を地面=石眼の背中の鱗に触れる。

 背中の刀は抜いていない。素手で敵の身体に触れているのだ。


「はぁああああああああああっ!」

「グギッ? グゲェ!?」


 突然翔子が、気合いを込めて叫び始める。只の咆哮かと思ったら、その直後に石眼も、苦しげな声で小さく唸る。


(これは……成る程ね)


 怪訝に感じたヤキソバも、この瞬間に全てを理解した。目には見えないが、翔子の石眼の背に触れる右掌から、特殊な魔力が急激に、石眼の身体へと流れているのを感じる。

 ヤキソバは以前にも、これと同じ光景を見たことがあった。ただしあの時とは、注入する魔力が桁外れだ。大分距離が離れたヤキソバの位置からでも、魔力の脈動がはっきりと判るほどだ。


 あの時は、患者の容態を気にかけて、注入する魔力量をかなり気にかけていた。だが今回は、相手の健康など全く気にせず、手加減無しで思いっきりやっている。


 やがて石眼の身体に異変が起こり始める。湯気のような薄い煙のような、ユラユラと薄い白い何かが湧き出てきたのだ。

 最初は翔子が触れていた部分の背中から。やがてそれはどんどん拡大し、石眼の胴体の半分から、湧き出ている。山火事でも起きたかのように、大量の白煙が吹き出し、翔子の姿すら見えなくなる。

 やがてそれは空高く舞い上がり、徐々に薄れて消えていく。


『亡霊を祓ったのか? 何とも豪勢な……』


 この状況の答えを、ガルゴが率直に口にする。翔子がやったのは、亡霊の除霊である。以前亡霊に取り憑かれ、無心病にかかったレグン達にやったのと、同じ術である。


 あの石眼は、無心病にこそなっていなかったが、同じように亡霊達を体内に取り入れて、自身の力の強化に努めていた。恐らくさくら山を襲った亡霊達も、全てあの中に入っていたはずだ。

 あの異形の亡霊達は、かつて人妖に滅ぼされた世界の、犠牲者達の成れの果てだ。人妖によって命と故国を失い、更には人妖のストラテジストによって操られて、憎い敵の手駒にされていいた者達が、今ここで纏めて救われたのである。

 そしてそれは、現在世界の最後の人妖となった、この石眼の弱体化も意味していた。


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