第十三話 特撮怪獣、現る
弘後市は、十数万人が暮らす市街地を中心に、田園などの広大な農地が周囲を取り囲んでいる。
その弘後市の市街地の端っこ。多くの建物と田園の土地の境目に、とても広くて見晴らしの良い公共施設がある。四角形の広い土地に、陸上競技場・庭球場・野球場・球技場などがある。近くには四角錐の屋根をした、城のような形の武道館もある。
かつてこの世界に人間がいた頃は、市内での多くの大会や試合が行われた、弘後市屈指のスポーツのメッカであった。
だがここも全人類石化の余波を受けていた。運動場や広場などの芝生は、誰も手入れをしていないので、高い草の生えた草原地帯となっている。
その草地を、どこからやってきたのか、数頭のヤギが草を頬張っている。赤い首輪をつけていることから、かつては人に飼われているのだろう。
運動場内の建物やベンチも、すっかりほこり臭くなっており、風で中に運ばれたらしい、大量の枯れ葉が、建物内の床に敷き詰められている。
そんなすっかり寂しくなった運動場の中に、数年ぶりの客が訪れる。それは試合をしに来た選手でも観客でもない。そしてさび付いた状態で開きっぱなしになった、入り口の門を通ってきたわけでもない。
それは運動場内の、上空数十メートルの空中から現れていた。
空中に突然、まるで波紋が発生して広がるように、フラフープのような細い光輪が現れた。それが空中で、輪の側面が上下に浮かんでおり、まるでUFOが飛んでいるようだ。
それは直径二メートルぐらいにまで広がる。その輪の中は、上と下で繋がっておらず、淀んだ赤い壁になっていた。
その赤い壁から、下の方へと、水の中から何かが這い出すように、何かが現れた。
それは最初は足だった。小さな草鞋を履いた足が四本、つまり二人分の足が、その赤い壁から出てきたのである。
そしてそれが一気に下に降り、足から上の全身の姿が現れる。
「うぉおおおおっ!」
「うわぁあああっ!」
今までの説明を要約すれば、空中に現れた謎の穴から、空間を飛び越えて誰かがこの空間に姿を現したのだ。
ここは上空数十メートル。そこから人が出れば、当然下に真っ逆さまに落ちる。空間の穴から落ちてきた二人の人間。普通ならば絶体絶命の状況だが、今の場合は特に問題にはならなかった。
何故ならその二人は、地面に落下する直前に、猫のように上手く体勢を整えて、見事地面に着地して見せたからだ。
この高さなら、着地の衝撃は相当な物だが、二人は別段堪えている様子はなく、平然と立っている。ただ足下の地面が、着地の勢いで少し陥没していた。
「お~~~しっ、出たぞ!」
「本当だ。……帰って来れたんだ」
木々の壁に囲まれて、小さな小山がある、今は草が大量に生えた、公園の自由広場に現れた謎の二人。彼らは小学校高学年ぐらいの、少年少女であった。
だがその装いは、どうにもこの世界の人間とは異なる様子だった。二人とも日本人と同じ、黒目黒髪黄色肌だが、身なりと身体的特徴の一部が異なる。
少年の方は、少し乱れた髪質のショートヘアだ、目はやや横に垂れており、何となく情けない印象を受ける。
服装は黒と橙色が合わさった、侍風の和服である。何となく時代劇の浪人が着てそうな装いだ。
背中には大きなリュックを背負っている。かなり大きく、少年の体積より大きいのではと思うほどだ。
少女の方は、顔は少しふっくらとした丸顔で、髪の毛は両側に癖毛のように尖って伸びている。唐草模様の和服を着ている。少年と同様の、時代劇風の装いだ。
背中には、豪華な装いの柄と鞘の日本刀を背負っていた。全長は刀としては標準的な長さだったが、この少女があまりに小さいので、腰ではなく背中に差しているのだろう。
少年の方は、装い以外では、一般的な日本人と変わらない容貌である。だが少女の方は、少し違っていた。
少女の後頭部の両側から、鹿のような角が生えているのだ。そして彼女の袴の尻の辺りから、尻尾が生えている。蜥蜴や蛇などの、爬虫類の尻尾の先に、馬の尻尾のような毛が生えている奇妙なものであった。
この容貌は、まるで人間の身体に、東洋の竜の特徴を、部分的に付け足したようである。最もレグン族という異種族が入り込んでいる今のこの世界では、さして驚くことではないのかも知れないが。
バサバサッ!
上空から落ちてきたのは、この二人の子供だけではなかった。羽音が聞こえた空を、二人が見上げる。
あの空間の穴は、まだ存在している。そしてそこから出てきたであろう、三番目の存在が、少年少女の元へと舞い降りた。
それはとてつもなく大きな鳥だった。見た目は鷹・鷲などの猛禽類を、そのまま大きくしたような存在。そのサイズは、明らかに常識を越えている。少なくともダチョウよりは大きい。牛の二倍ぐらいはありそうな巨体鳥である。
ここまでいけば、充分モンスターと言える。その巨大鳥は、少し変わった装飾をつけていた。巨大鳥の頭に、すっぽりと武将のような兜が被さってあるのだ。
金色の三日月の飾りがついている。ただデザインは独特な点があり、形状が日本の城のようになっている。まるで小さな城を帽子にして被っているようだ。
この謎のモンスターの出現に、二人はさして驚かない。巨大鳥が彼らのすぐそばに着陸すると、一声小さく鳴いて、彼らの元に擦り寄る。どうやらこいつは、この二人に馴れているようだ。
「ここって私達の世界だよね? 実はよく似た別世界でした。何てオチじゃないよね?」
「確かめるのは簡単だろ? あの蛇野郎の言うとおりなら、俺たちの世界の人間は、全部石になってるはずだし」
二人は感慨深く、周りの様子を見入っている。この自由広場は、運動公園の中央部分にあり、周りには他の運動場や、陸上競技場の高い壁が見える。それを見て少女の方は、何かを思い出したようだ。
「思い出した! ここ運動公園だよ! 鷹丸も知ってるでしょ!?」
「そうか? よく覚えてないけど……」
「ここで皆と遠足したじゃん!」
どうも二人は、この街と縁がある人物のようだ。二人が何か言い合っていると、不意に少年=鷹丸が、険しい顔で、ある一方に顔を向けた。少女の方も、すぐ同じ顔で、その方向を見やる。
「転移の門のエネルギーを嗅ぎつけられたか? やばそうなのがこっちに来るぞ!」
「うん、気づいた! これって人じゃないよね!?」
少女が背中の刀を引き抜いた。銀色に輝く、業物の刃が、日光に反射して輝く。鷹丸の方は元から丸腰だが、両拳を握りしめて、その一方に警戒する。
それから二分ほどして。カサカサと奇妙な足音を立てながら、公園内の道を進み、何かが二人のいる自由広場に飛び込んできた。
「ビシャァアアアッ!」
そこに現れたのは、毎度お馴染みの蜘蛛怪人だった。八本の足を小刻みに動かし、手に持ったサーベルをブンブン振り回しながら、明確な敵意を向けて、二人のいる自由広場に姿を現す。
その数は四匹だ。今まで鶏忍者が戦った蜘蛛怪人は、上半身に武器を持っていなかったが、こちらは甲殻と同じ色の柄をしたサーベルを握っている。
「あれは魔物か? 知らないうちに、こっちの世界も物騒になったな」
「魔物って言うことは、敵だよね! よおし!」
先に仕掛けたのは少女の方だった。蜘蛛怪人達に突撃する彼女の刀は、赤く輝いている。その輝きは、レグン族が扱っている刀の青い光に酷似している。
ただこちらは、強い熱気を放っており、刀の周囲の空気が、熱で揺らいでいる。一人の少女と四匹の蜘蛛怪人が、この自由広場に激突した。
「ありゃ俺が出る必要もないな……」
蜘蛛怪人の前足の槍が、少女に向けて突きつけられた。少女はその小柄な身体でジャンプして、その振り下ろされる槍を回避した。
ただ避けただけではなく、前向きの飛び込んで、背の高い蜘蛛怪人の懐に飛び込む。蜘蛛怪人は手に持ったサーベルで斬撃を少女に向けた。
ガキン!
だがその斬撃は、あっさりと弾かれる。少女の炎の刀が、蜘蛛怪人のサーベルを、力で叩き飛ばしたのだ。
刃こぼれしたサーベルが、強い衝撃に耐えきれず手元から離れて、空中で舞い上がる。そして得物を無くして丸腰になった蜘蛛怪人に、今度は少女が斬撃を放つ。
気色悪い蜘蛛の顔の頭が、蜘蛛怪人の巨体から切り離される。少女の斬撃で、首を撥ねられたのだ。サーベルとは別方向に飛んでいく蜘蛛怪人の首と、頭を失った首の断面は、真っ黒に焼け焦げていた。
その後も残された蜘蛛怪人が、次々と少女に斬りかかるが、少女は機敏な動きで彼らの攻撃を難なくかわし、蜘蛛怪人達を次々と斬首していった。
「よおし、勝った! ははっ、あの大蛇と比べりゃ、なんて大したことないじゃん!」
「まだだ! やばそうなのが、こっちに近づいている!」
気持ちよくガッツポーズをあげる少女に、鷹丸は眉間を寄せながらそう叫んだ。
「この気配は……」
「翔子! こっちは俺がやる! こいつらは比べものにならないぐらいやばそうだ!」
鷹丸はそう叫び、自由広場から飛び出した。少女=翔子は、それを追うことなく、黙って彼の後ろ姿を見送っていた。
運動公園のすぐ隣には、とても広い農園が広がっている。民家がまばらに建てられており、農園の真ん中を切り裂くように、高速道路が延びている。
だがその場所は、今はとても静かだ。車は一台も走っておらず、農園には全く手入れがされていない。作物ではなく、雑草が伸び伸びと生えており、それを野生のカモシカが頬張っている。
農園は見る影もない、ただの草原と化していた。
その農園を、もの凄い速さで謎の集団が突っ切っていた。それは人妖の群れだった。
先程翔子が倒したのと同型の蜘蛛怪人を始め、牛や虫などの動物と人間を掛け合わせたような怪物達が、数十匹ほどの徒党を組んで、運動公園のある方向へと走り出している。
「結構な数だな。本当に色々とおかしくなってるぜ、この世界は……」
群れの向かう先の途中にある、道路の真ん中に、鷹丸が現れていた。彼と群れとの距離は、双眼鏡でも使わないと気づかないほどの距離だが、彼は視力が超人的なのか、彼らの姿をはっきりと視認している。
人の命を狙う怪物がこちらに向かっている。しかも標的は間違いなく自分だというのに、鷹丸は別段焦っている様子はなく、まるでこれから虫退治にいくような、余裕の表情だ。
(戦場が畑で助かったな……町の中で戦ったら、建物をいっぱい壊しちまうし)
突然、鷹丸から半径数メートルの圏内に、謎の白い霧が発生した。その霧は見る見る濃くなっていき、鷹丸の姿はそれにすっぽりと隠れて、外からは全く見えなくなる。
そしてその白い霧の塊は、風船が膨らむように、どんどん大きくなっていった。それはただ大きくなるだけでなく、巨大化と同じく形が変わっていく。粘土細工のように見る見る変形していく。
それは、二足歩行で立つ生き物のような形をとる。ただしその形は、人型とも異なっていた。そしてその靄に、色がつき始めた。
いや、ただ着色しただけではなく、それは気体のような状態から、確かな形をした物質へと変質していく。瞬く間に霧の塊は、一体の巨大な生物に変身してしまったのだ。
召喚とは異なる、奇怪な現象でその場で姿を現した謎の生物。それは大昔の恐竜図鑑に載っていたような、直立姿勢で立つ肉食恐竜のような姿であった。
全身が濃い灰色の鱗で覆われている。頭はティラノサウルスに似通った、体格からして頭でっかちである。ただしティラノサウルスと比べて、目が少し大きく、口先が細く尖った感じだ。
後頭部の両側に、ヤギのような角が二本生えている。野生のヤギほどのサイズでない、小さめの角だ。ファンタジーに出てくる悪魔を連想させるような角である。
そしてその角の下には、鹿のような耳が生えていた。外見は完全に爬虫類なのに、ここだけ哺乳類的なデザインである。
両手両足のサイズは、恐竜とは少し異なっている。腕がかなり大きく、指の先の黒い爪が、備中鍬のように大きく鋭い。
足もそれなりに大きいが、ティラノサウルスと比べると、やや短めである。尻からは長い尾が生えている。体型が直立姿勢であるため、尾はかなり地面に近い位置にある。ただし蛇や蜥蜴のように、地面を這っているのではない。尾を常に持ち上げている状態で、地面すれすれで、大地から浮いているのだ。
そして何より特徴的なのは、この異形の生物の大きさである。身長は五十メートルはある、大巨漢なのだ。
隣に立っている民家が、彼の存在のせいで、ジオラマの模型のように小さく見える。その外見と大きさから、彼は完全に特撮などに出てくる、大怪獣そのままの姿であるのだ。
少年の姿が消えて、代わりに謎の怪獣が出現しても、人妖達の突撃は全く止まることはない。それどころか果敢に挑むかのように、人妖達は怪獣目掛けて、勢いよく接近していく。
『久々の戦闘だな。まあ気合い入れて戦う必要もなさそうだが』
怪獣の方から謎の声が聞こえてきた。周りには誰もいないから、この怪獣が喋ったのだろうか?
言葉が発せられたとき、怪獣の口は喋るような動作はしていない。そして声の音質は、電話越しに話しかけるような機械的な感じである。
ただそれは、先程姿を消した鷹丸という少年の声によく似ているようである。
やがて人妖の群れは怪獣の目の前にまで接近してきた。
「ギシャァアアアッ!」
人妖の一匹、蜥蜴のような姿をした蜥蜴怪人が、口から火球を吐き出した。サイズは小さいが、こちらも特撮怪獣のような技だ。
赤い真っ赤なエネルギーの塊が、高温を撒き散らしながら、怪獣の腹部の方向へ、斜め上へと飛んでいく。
ボムッ!
攻撃は見事に命中した。的があれだけ大きければ、当てるのは容易いだろう。一方の怪獣も、避けられなかったのか、もしくはあえて攻撃を受けたのかは不明だが、それを回避又は防御行動は一切しなかった。
ミサイルで撃たれたかのように、怪獣の腹部に当たった火球が、轟音を上げて爆発した。赤い輝きが一瞬放たれ、それからすぐに灰色の曇りがモクモクと上がる。
その攻撃に対して怪獣はどうしたのかというと、全くどうもしていない。痛みを感じている様子もなく、平然として立っている。
怪獣の側も動き出した。一般に大型の生物は、動きがスローになりがちだが、こちらは人間に走るような、軽快な速さで動き出す。
ズン! ズン! ズン!
数千トンはあるだろう体重で走るため、彼が足を地面につける度に、大地に僅かに揺れていく。そして人妖の群れに向かって走り出し、その巨大な足を持ち上げて、目の前の人妖達に、ハンマーのように足の裏を振り下ろした。
ズンッ!
力強く踏みつけたせいか、とりわけ強い轟音が、地震かと思い違えるほど鳴り響く。その踏みつけによって、数匹の人妖達が、虫のように踏みつぶされた。
更に怪獣は地団駄をするかのように、人妖の群れがいるその農園の範囲を、何度何度も踏みつけていく。上手く回避する者もいたが、避けきれなかった者達が、次々とその巨大な足の裏の餌食になっていく。
彼が踏みつけた後には、クレーターのような巨大な足跡が出来上がっている。その足跡の中には、身体が潰れ、地面にめり込み、血みどろになって倒れている人妖の姿があった。
即死して動かない者もいれば、まだ息があり瀕死で痙攣している者もいる。少なくとも言えるのは、この踏みつけの一撃で、砲弾も効かない強靱な肉体を持つ人妖が、あっさりと戦闘不能になったということだ。
勿論人妖もただやられているだけではない。踏みつけ攻撃を避けきった何匹かが、怪獣の身体に飛び乗った。
怪獣の巨大な足首に、虫のようにしがみつく、そしてその足の皮膚に、各々の攻撃方法で傷をつけようし始めた。
牛怪人が片手で持ち上げた鉞で、足を叩きつけた。蜘蛛怪人が後ろの六本の足でしがみつき、前の二本の足で、あの刺突攻撃をする。犬怪人が、抱きつくようにしがみつきながら、怪獣の足に噛みついている。
『痛えな、おい』
だがそれらの攻撃は、怪獣にはさほど届いていないようだ。あまり堪えていないような口調で、怪獣がそう喋る。
そしてあの巨大な腕を振り上げて、人妖にしがみつかれた、自分の足を殴り始めた。
ゴン! グシャ! ゴン! グシャ!
人間が身体についたゴミをはたくような動作で、人妖達がそのパンチで次々と叩きつぶされていった。
ただ一匹蜘蛛怪人だけが、その攻撃をよけて、シャカシャカと虫が壁を走るように、ガルゴの身体を駆け上がっていく。
目指すは怪獣の頭部のようだが、残念ながらそこまで到達できずに、三発目のパンチで、蜘蛛怪人は叩きつぶされた。
突如現れた怪獣の、あまりに圧倒的な強さ。脅威である筈の人妖の群れが、あまりに簡単に、この怪獣によって全滅させられてしまった。
敵を全て倒し尽くした怪獣。すると怪獣の姿に変化が生じた。怪獣の身体が透け始めたのだ。
まるで幽霊のように透明度が増していく怪獣の身体。その巨体からは、向こう側の風景が見える。やがて怪獣の姿は完全に消え失せた。
最後に爆発するかのように、白い霧が僅かに拡散し、怪獣は完全に消失したのだ。
だがそれと同時に姿を現した者もいる。怪獣出現と同時に姿を消した、あの鷹丸という少年である。
ガルゴの右足の足下が存在していた地面に、彼は何事もなく平然と立っている。彼の周りには、幾つもの巨大な足跡とで、モザイクをかけたいぐらい、グロテスクに潰れた人妖達の死骸が大量に転がっている。
鷹丸はそれらを一瞥すると、何事もなかったかのように、怪獣が走ったのとは逆方向、あの運動公園の方角へと走っていった。
「うん?」
ふと鷹丸は、何かに気づいて、右手側の空を見上げた。
その空には何かが飛んでいた。空にいる者となれば、普通なら鳥と考えるだろうが、どうもこれは様子が違っていた。
それは空中を飛び回っているのではなく、空中のある一点で静止しているのだ。鳥がホバリングのではない。そもそもその外観は、鳥とは似ても似つかないものである。
それは小さなUFOのような、平べったい黒い円形の物体だった。餅のように厚みがあり、下面には机のような白い足がついている。そして上面には、望遠鏡のような筒状のものが取り付けられており、それが鷹丸のいる方向を向いている。
別に攻撃を加えようという様子はない。それは鷹丸が自分に目を向けたことに気づくと、逃げるようにどこかへと飛び去っていった。
その飛ぶ姿は、まさにフィクションのUFOのような動きである。
「……今はいいか」
鷹丸はそれを追うつもりはないようで、その謎の物体が空の向こう側へと消えていくと、彼も再び運動公園の方へと走り出していった。




