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ラストミッション

刑事、足利助九の最後の仕事ととして、ラストミッションが命じられた。自分の刑事ポリシーを守り、いつもどの事件も、最後の仕事のつもりで行ってきた助九が、裏切りの犯人を追い詰める。超能力者のサイキックレイキの助けもあって、事件を解決できるのか? これで最後の事件になってしまうのか? 市民の安全をかけた、刑事たちの覚悟が試されている。

第5章~ラストミッション~



ニュース「え~、午前のニュースです。近年、懸念されている地球温暖化の影響でしょうか? 世界的な異常気象により、世界中の国々で、記録的な干ばつや、大雨による洪水が記録されています。雨が降らない地域は、より干ばつ化が進み、雨が降る地域では、より雨が続くという、二極化が現れています。最近の異常気象も、地球規模で発生していますが、この先どうなるのでしょうかね? え~、続いてのニュースです。え~、いよいよ迫ってきました、人類初の宇宙旅行の第1陣が出発いたします。本隊は間近で月を鑑賞したあと、地球に戻ってくるコースを進むようです。人類も、もうそんな時代に突入しているのですね。え~、それでは日本のニュースです。今年も福男の季節です。雲龍神社の境内を走るコースで行われている、江戸時代から続く新春恒例の福男レースですが、今年一番にゴールした福男は、竜京都の赤栄に住む、足利助九あしかが・たすくさんに決定です。足利さんは警察に勤務している刑事さんだそうですが、日頃犯人を追っているために、足腰を鍛えていた甲斐があったと、おっしゃっていました。え~、続いてのニュースです。え~、先ほどのニュースとつながっていますが、竜京都の赤栄で、服を着たままの死体が発見されました。被害者の身元はまだわかっていませんが、40代くらいの女性が、アート美術館の噴水で溺れているのが見つかって、至急病院に運ばれましたが、死亡が確認されました。え~、先ほどの刑事さんですが、管轄内であったら、走って、この事件担当するのでしょうか? 以上、午前のニュースをお伝えしました。」


 サイレンを鳴らすパトカーが、ひっきりなしに集まっている。

 奇抜なデザインの建物の、アート美術館前には、真剣な顔をしたお巡りさんたちが、死体が発見された噴水近辺を捜査している。

 噴水では、遺体があったことが分かるように、線で囲まれている。


 段差がある噴水は、10メートルの広さで、水深は20センチメートルだった。

 事件現場の噴水は、無情にも、水を湧き出している状態だ。


 死体はすでに、死体安置所に運ばれている。


 キープアウトのテープが貼られ、アート美術館は、立ち入り禁止になった。


 そこに、足利刑事の相方の、黒木有希くろき・ゆうきが駆けつけた。


黒木「なによぉ、新年早々朝っぱらだというのに、こんな殺人の可能性がある事件に駆り出されなきゃいけないのよ! レディーは朝も、やることがあって大変なのよ。あ~、早く相方の助九ちゃんが、福男レースから戻ってこないかな? こんなか弱い女性が、ひとりで殺人事件なんて捜査できないよぉ。」


 そこに、初動捜査をした同僚の警官が、事件現場を記録した写真を見せながら、黒木に話しかける。


警官「あっ、黒木さん。この事件、やっぱり殺人の線が強いですかね?」


 黒木は、躊躇することなく、事件現場の写真を目視しながら、確認する。


黒木「そうねぇ、こんな浅い噴水の水量で、溺れるなんてありえないでしょ。誰かに無理やり頭を押し付けられたんじゃないの? ねぇ、この噴水、止められないの?」


警官「あっ、それと、被害者は所持品を持ってなかったそうですよ。しかし……。」


黒木「なに、しかしって?」


警官「USBメモリーだけ、持っていたんです。」


黒木「USBメモリー? なんでそんなもん持ってんの?」


警官「それはまだ、わからないです。でも歯医者で治療した箇所があるから、歯型から身元が判明しそうですよね?」






 ここは、今回起こった事件の管轄内の、赤栄警察署内。

 今日は新春なのに、事件があったせいか、職員の表情は重々しい。

 中にいる警官は、自分が担当する事件を抱えて忙しそう。


 そこに今回の事件を担当する、赤栄警察署の、足利と、黒木の上司である、舘右近たち・うこんが、うろちょろして現れながら、陣頭指揮を執る。


舘右近「被害者の身元が判明した。

 名前は、豊嶋いのは(とよしま・いのは)。

 年齢は、41歳。

 竜ヶ島の、緑町に住む女性です。


 家族構成は、旦那さんと、一人の女の子がいます。

 その三人暮らしだそうです。


 死因は溺死。

 しかし噴水の水位は低かった。ですので犯人が溺れさせた可能性が高い。


 いいか、君たちはこの事件を担当する、貴重な人材だ。

 この事件は、警察組織への挑戦だ!

 だから心して、この犯人を捕らえるんだ。

 以上。」


 舘右近の指示が終わった直後に、黒木が喰い気味で指摘する。


黒木「上司! 被害者の所持品に、USBメモリーがあったと思うのですが!?」


 黒木の指摘に、舘右近は肝心なことを発表する。


舘右近「あっ、大事なことを忘れていた。被害者の内ポケットに、ビニールに入れられて、メモリーが入っていた。そのメモリーにも、ビニールにも、被害者にも、全く指紋が付いていなかった。そしてこれが、メモリーに残されていた、挑戦状の内容だ。タイプライターで打ち込んでおいた。君たち、しっかりと覚えとけ!」


 黒木は、その挑戦状に目を通す。


『DEAR 警察諸君 私が犯人だ この完全犯罪を 一週間以内に 解いてみたまえ これだけじゃ 警察諸君には 難しいだろうから ヒントをやる 霊界通信女 by怪盗12面相』







 1日目の夜。




 黒木は、この挑戦状をにらみ潰して読んでいる。

黒木「この犯人、絶対にとっつめちゃる!」


 ちょうどそこに、神社帰りの、福男の足利が、赤栄警察署に戻ってきた。


助九「いや~、勝っちゃいましたよ。まさか先頭集団がみんなコケるとは……。」


 黒木は、相方の登場に、目を潤ませながら、恋人と出会ったように活き活きとする。


黒木「助九ちゃ~ん! やっと帰ってきた。今それどころじゃないんだって! 挑戦ですよ。警察への挑戦ですよ。」


助九「何やら署内の、雰囲気が違いますな? なにか重大な事件でも?」


黒木「そうなんですよ。この挑戦状を見てください。殺害された遺体の中にあった、USBメモリーに残されていたんですよ!」



 足利は、プリントアウトされた挑戦状を見る。


助九「怪盗? なにか盗んだのかな?」

 2日目の朝。





 豊嶋家に向かう車内。

 足利が運転する車の芳香剤の香りが強い。

 右座席で運転する足利と、左座席で挑戦状を睨んでいる、相方の黒木。

 走らせる車から見える風景は、初めて通った道かのように新鮮だ。


 赤信号で車を停車する足利。


助九「あー、これこれ、これが黒木君へのおみやげだ。」


 そう言って足利は、神社のお守りを渡す。


助九「黒木君には、恋愛成就のお守りだ。この雲龍神社のお守りは、当たることで有名だからな。昔、雨が降らなかった地域の神社で、祭っている龍にお願いしたところ、その地域には豊富な雨が降ったそうな。そして私のお守りは、家内安全。最近妻との仲が悪くてな。」


 再び、車を運転する足利。


黒木「あー、ありがと助九ちゃん。ところでこの挑戦状の暗号がわかった?」


助九「暗号? そんなもん、忍ばせているかな?」


黒木「ってことは、助九ちゃんは、この挑戦状は、犯人を示すヒントは隠されていないって、考えているの?」


助九「う~ん、それもまだわからんな?」


黒木「何か、助九ちゃんって、変わったよね?」


助九「あぁ、そうかい? あっ、ここか、ついたぞ。豊嶋邸だ。」






 豊嶋邸は、豪邸だった。

 高い丘の上に立つ豊嶋邸は、誰からでも羨ましがれるような、立派な建て構えです。


黒木「なるほどね、助九ちゃんが言っていた通り、犯人は、このお金持ちから、何かを盗んだのね?」


助九「ああ、別に怪人でも良かったわけだ。なのに、怪盗と書かれていた。その謎が、この家にあるはずだ。」


 二人は緊張しながら、豊嶋邸の玄関に立ち、呼び出しベルを鳴らす。


ベル『ピーン ポーン!』


 しばらくすると、家の主が出てきた。

 それは男だった。


豊嶋実「はい、どちらさんでしょうか?」


 足利は、警察手帳を取り出して、豊嶋実とよしま・みのるに見せる。


助九「私共は、警察関係ですが、ちょっと豊嶋いのはさんについて、お話を伺いにきました。お亡くりになった直後で失礼ですが、豊嶋いのはさんのご自宅を、確認させてもらえないでしょうか?」


豊嶋実「あ、そ、そういう件ですか? それならどうぞ、お入りください……。」


 刑事二人は、すんなりと、豊嶋邸に侵入した。


 広い部屋と、豪華な装飾品の数々。

 これが豊嶋いのはの、実績だった。


 広いリビングで、待機している刑事二人。

 何が盗まれたかを確認するために、きらびやかな装飾品を睨み潰す。

 そんな二人に、豊嶋実は高級な紅茶を出してくれた。


 黒木は、その紅茶の香りにそそられる。


黒木「高そー。いただきます。」


助九「んんっ、ところで実さん、いのはさんについてお聞きします。彼女がいなくなったのは、いつごろですか?」


豊嶋実「う~ん、一週間前くらいですね。彼女は仕事に没頭するタイプで、仕事場に行った時は、数日間、家に帰らないこともざらでしたから、たしか一週間前だと思います。」


助九「なるほど。ではいのはさんのご職業をお聞きします。主にどのようなお仕事をしていたのでしょうか?」


豊嶋実「今は弁当屋で、アルバイトをしていました。」


助九「弁当屋? 仕事が立て込んでいたら、弁当屋から帰らない?」


豊嶋実「いや、その、前の仕事の、投資会社の時の話です。」


助九「なるほど、そうでしたか。失礼ですが、実さんのご職業は?」


豊嶋実「私は、製薬関係の会社を経営しております。」


助九「どうりで。それでは、いのはさんはアルバイトをする必要はなかったのでは? 亡くなったいのはさんは、誰かに恨みを買うようなことはなかったですか?」


豊嶋実「やはり、そのことできたのですね。」


助九「そのこと? そのことと申しますと?」


豊嶋実「刑事さんは、あの事件について聞きにきたのでしょ? 彼女が、詐欺で訴えられて、社会的に問題になったことで……?」


助九「ちょっと待ってください!? そんな事件があったのですか? 詳しく伺わせてください?」


豊嶋実「は、はい、彼女は働くことが好きでした。『夫の私に何かあっても良いように、娘のためにも、自分も収入源を作るの。』と、言っていました。そんな彼女が以前、投資信託を経営していたですが、投資家からの資金の運用に失敗して、多額の損益を出してしまったのです。それも多数の人たちに……。その結果、経営する会社は潰れてしまい、元本も返すことができませんでした。恨みを買ったとすると、その投資家たちなら、覚えがあります。」


助九「いのはさんに、脅しの脅迫文とかが、届きませんでしたか?」


豊嶋実「はい、今持ってきましょうか?」


助九「よろしくお願いします。」


 豊嶋実は、いのは宛に送られた、脅迫文を持ってきた。


『DEAR 豊嶋いのは殿 あなたの言葉に 惑わされ 私は損をした その責任を 果たしてもらいますよ 金を返せ! 返さないのなら こちらから没収しに行きます by正義の回収人』


 この脅迫文を見た刑事二人は、ピーンときます。


黒木「挑戦状の文章に似てる!?」


助九「この脅迫文、いつごろ届いたものですか?」


豊嶋実「は、はい……たしか、半年くらい前ですね。」


黒木「実さん、見た感じお金を持ってそうなお宅ですが、この中で、最近なにか盗まれませんでしたか?」


豊嶋実「うちのものをですか? いや、多分、盗まれたものはないと思います。いのはの所持品だって確認しましたが、なくなっているものはないと思いますが。」



 そこへ、豊嶋実と、いのはの、10歳の一人娘が、泣きながらリビングにやってきました。


豊嶋明歩「お母さんは、殺されるような悪いことはしていない! お仕事をしてまで、私をここまで、大事に育ててくれたんだから、ほかの人にも、そんなひどいことをするはずがない! お母さんは誰かに殺されたんだわ! だって私わかるもん。お母さんは自分から死ぬような人じゃない……、だから犯人を見つけてください刑事さん…うっ、うわ~ん、うっ、」


豊嶋実「あ、明歩、部屋に戻っときなさい。あっ、刑事さんすいませんね。うちの子は泣き虫なのですよ、へへっ」





 気丈に振舞う豊嶋実ですが、大事な人が死んだ直後に、これ以上の精神的な負担をかけられないということで、足利と、黒木は、豊嶋邸を出た。



 豊嶋邸で話を聞いたあと、足利と、黒木は、疲れを隠せなかった。


助九「ふー、どんな事件にも、被害者と、加害者がいるもんだ。私はどの事件も、最後の仕事のつもりで戦っている。しかし何か、この事件は、私の最後の仕事のような気がする。」














 豊嶋邸から、赤栄警察署に戻った足利と、黒木。

 時刻はもう、夕方に差し掛かっていた。

 働きに出た人間たちも、自分の住処に帰ってくる頃です。



 そこに、上司の舘右近がやってきて、二人に伝えました。


舘右近「被害者の、豊嶋いのはの検死報告書が上がってきた。死因は溺死だが、薬物反応が出た。被害者は、筋弛緩剤を投入されたことで、死んだ可能性が高い。」


黒木「筋弛緩剤? あの脳からの信号を筋肉に伝えなくする薬ですか?」


舘右近「そうだ、呼吸不全に陥った可能性が高い。筋肉を動かすことができなくて、冬場の噴水に落とされてから、自分の力で起き上がることができずに、大量に水を飲んだことで、溺死したという結果だ。」



 検死報告書の中身を、吟味する足利。


 そして黒木が、豊嶋家でもらった脅迫文を、送られてきた封筒ごと、上司に手渡す。


黒木「被害者のいのはさんに届いていた脅迫文です。この脅迫文は、USBメモリーの残されていた挑戦状と似てるんです。上の方で調べてもらってください。」


 舘は、脅迫文を確認する。

舘右近「うむ、確かに文面が似てるな、よし、調べておこう!」









 時刻はもう、夜です。

 足利と、黒木は、今回の事件について調べものをしながら、警察署内で休憩中です。


黒木「私、この事件の犯人は、ぜったいに許さないのだから! ところで助九ちゃん、何か犯人につながる紐みたいなもの、見つけた?」


助九「全然わからん。ただ、怪人ではなく、怪盗と書かれていた箇所が気になるんだよ。犯人は、何を盗んだのか? それさえわかれば、苦労はしないのだが。」


黒木「私もう一度、挑戦状の方を調べます。今日は徹夜です。しっかし犯人の野郎、レディーにお肌の調子を乱すまで、徹夜させたんだから、とっ捕まえたら、ただじゃおかないわよ!」


助九「まぁ、仕事だからって、ほどほどですよ。」


黒木「ほんっと、助九ちゃんって、変わったよね?」

 3日目の朝。



 外の寒さに負けず、朝から冬の鳥が一生懸命さえずっていた。

 足利が赤栄警察署に、出勤してきた。

 他の警官たちも、自分の事件を抱えながら、更衣室で制服に着替えて、紀律を高める。


 そこに、目を真っ赤にした黒木が駆け寄ってきた。


黒木「助九ちゃん、助九ちゃん、ヒットした。挑戦状に書かれてあったヒントの、霊界通信女というキーワードを、検索サイトで入力したら、123ページ目だけど、確かにそれらしき人物に突き当たった!」


助九「何!? 早速そのサイトを見せてくれ!」




 足利と、黒木は、検索サイトでヒットした、霊界通信女が載ってあるサイトを確認する。

 それは、2年前に、地元の札幌国際テレビが特集した時の記事が、サイトに載せられていた。


 その霊界通信女と呼ばれているのが、兵藤麗純ひょうどう・れすみという12歳の女の子だった。


 その子は、特殊能力を持っているらしく、12の顔を持っているらしい。

 その12の顔の表情で、占いをする少女。

 しかもその占いが当たるということで、評判になった時の記事だった。




黒木「霊界通信女と、12面相が、つながったのよ。」


助九「この人物を特集した、札幌国際テレビに連絡をとろう。そして彼女から、事情聴取するんだ。」

 足利は、札幌国際テレビに捜査協力を申し出て、記事にした記者と会う約束をした。


 そのため足利と、黒木は、竜ヶ島の南西の黄町にあるエンジェル空港から、空路で200km離れた、札幌に飛んだ。







 足利たちが札幌に到着したのは、もう夕方だった。

 しかし記事にした記者に会うために、休んでいられなかった。


 そして都会の、札幌市内の喫茶店で、記者に会うことができた。

 その喫茶店は、夕方なのにもかかわらず、都会ということで賑わっていた。

 利用者は、待ち合わせの人と、ざっくばらんに話し込んでいる。


記者「あっ、どうも、電話で話されていた刑事さんですか? 私は札幌国際テレビの、近藤です。」


助九「あっ、こちらこそ、こんな遅くに申し訳ありません。早速ですが、霊界通信女と呼ばれる、兵藤麗純ちゃんについて、お伺いしたいのですが、よろしいですか?」


記者「はい、構いませんよ。あの子と会ったのは、ちょうど2年前です。地元で当たると評判の、小学生占い師を訪ねたんです。それが、兵藤麗純ちゃんでした。私も占ってもらったんですが、それがズバリとまではいかないが、あながち間違えではなかったんです。はじめは、占いってこんなもんか? という印象を持ちましたが、あとから考えてみると、誰でも起こり得るような占いだったという感想を持っています。彼女が行っているのは、12面相占いというやつです。名前と、生年月日と、干支と、自分が寝ている時間の方角で、診断するのです。そして彼女に会って、一番印象的なのは、やたら放送することに対して意欲的だったことです。綺麗に撮ってよ、とか、誇張してでも大々的に書いてよ、とか、うるさく言ってきた印象が残っています。」


助九「兵藤麗純ちゃんの住所と、電話番号はわかりますか?」


記者「電話番号まではちょっと……、でも、取材した住所はわかります。それは教えられます。」



 足利たちはもう時間が遅いので、先方にも迷惑がかかるので、札幌のホテルに泊まり、明日の朝に、教えられた住所に行くことにしました。

 4日目の朝。



ドア『トントントン!』


 足利と、黒木は、兵藤麗純がいるであろう、マンションの一室の、玄関のドアをノックします。

 そのマンションは、高級そうな感じがしない、古びた中型のマンションの一室です。


 チャイムを鳴らしても応答がないので、足利たちがノックしていると、部屋の中から、一人の女性が出てきました。


純子「はい、どちらさんでしょう?」


 足利は、出てきた女性に警察手帳を見せて、名乗りました。


助九「我々は、竜ヶ島からきた、赤栄警察署の者です。こちらに兵藤麗純さんはいらっしゃいますか?」


純子「け、刑事さん!? 麗純は私の子ですが、今は中学校に行っていて、帰るのは夕方くらいですが……?」


助九「そうですか、それでは麗純さんに用事があったので、我々は帰ってくるまで、この近所で待たせてもらいます。それでは。」


純子「……。」







 足利と、黒木は、近所の公園で昼食を摂ります。

 公園には、幼い子供を連れた母親たちが、子供と一緒に遊んでいる。


黒木「やっぱり、麗純ちゃんが、犯人ですかね?」


助九「まだ、それはわからんな。」


黒木「記者の人が言っていたのが本当だとすると、麗純ちゃんは、相当な自己顕示欲がありそうですね。これは間違いなさそうです。有名になりたいがために、殺人を犯して、警察に挑戦してきた。これが私の推理です。」


助九「彼女が、自己顕示欲が強ければの話だがな……。」








 時刻は夕方になり、足利と、黒木は、再び兵藤家が住んでいるマンションを訪ねた。

 簡素な作りの建物に、人々が生活している。

 兵藤家の住人も、自分の住処に帰っていた。


 足利たちが訪問すると、チャイムを鳴らすまもなく、帰宅したばかりの麗純を、母親の純子が叱っていた。


純子「あんた! 警察の人が訪ねてきてたよ。あんた、また、警察に厄介になるようなことを、したんじゃないの!?」



 そんな純子を、急いで駆けつけた足利がなだめる。


助九「まぁまぁ、お母さん、今日はただ、お話を伺いにきただけですので。それでは、麗純ちゃん、よろしいですか?」


麗純「は、い、話だけなら。」



 刑事二人は、麗純の部屋に入って、話を聞くことにした。

 麗純の部屋は、ピンク調でまとまっており、勉強机や、世界地図など、学生色が強い。


 麗純は、顔が丸顔で、クリッとした目をしていて、髪はストレートの長めで、身長は140cmの、可愛らしい子供です。

 しかしこの年にして、肝が座ったような、学校では、男子相手にも臆さないような態度が見られます。


 その麗純に、黒木が口火を切った。


黒木「麗純ちゃんは、占いが得意なのよね? 私を占ってもらえないかしら? お姉さん、占いは信じるほうだから?」


麗純「あなたは、占っても変わんないと思うよ。でも占って欲しいのなら、承知いたしました。まずは、名前と、誕生日と、星座と、干支をお知らせ下さい。」


黒木「名前は、黒木有希。誕生日は、10月12日。星座は、天秤座で、干支は丑年で~す。」


麗純「あなたは、普段、何時に寝ていますか?」


黒木「多分、12時ごろだと思うけど?」


麗純「承知いたしました。占います。カーっ見えた! 12時の方角の神様のお言葉だと、あなたは非常におとなしく、日本の奥ゆかしき、古風の女性と見えます。何にでも遠慮しがちの性格なので、普段からあまり目立つことはしません。なので好きになった異性がいても、自分から告白することができずに、恋愛のチャンスを逃しているでしょう。食が細いが、料理は得意で、好きなスポーツは、フィギアスケートです。氷のように耐え忍ぶ恋は、もうすぐ成就して、その愛で凍った心も溶かしてくれる相手が見つかるでしょう。以上占いました。」


黒木「やったぁ!」


助九「(全然当たっとらんな! まず性転換と、改名した時点で間違っとる。)んんっ、ところで麗純ちゃん、君は今年で14歳になるが、将来の夢は何かな?」


麗純「この12面相占いを、世界に広めることです。おじさんの刑事さんも、占いましょうか?」


助九「うんん、じゃ、じゃあ一つ、占ってもらいましょうか……。」


麗純「じゃ、名前と、誕生日と、星座と、干支を教えてください。最後に、何時に寝ているかをお知らせください?」


助九「え~、名前は、足利助九。誕生日は、1月18日。星座は、山羊座。干支が、へびです。いつも寝ている時間は、ニュースが終わったあとだから、11時です。」


麗純「承知いたしました。占います。カーっ見えたー! 11時の方角の神様のお言葉だと、あなたは、頭脳はさほどではないが、勘が非常に鋭くて、今の仕事に合っています。非常に執念深い性格で、曲がったことが嫌いです。あなたが真面目に仕事に精を出している一方、奥さんとの仲は冷え込む一方です。それも子供が生まれなかったからです。奥さんは、一人は子供が欲しかったそうです。仕事は順調。しかしもうすぐ、迷宮入りさせてしまうような、壁にぶち当たるそうです。今騒がれている、豊嶋いのはさんの事件も、挑戦状から、犯人にたどり着くことは難しいでしょう。以上、占いました。」


助九「、……!?」


黒木「的中!?」


麗純「どうでしたか? 私の占い。私は12の顔を持っている。つまり女の気持ち、男の気持ち、子供の気持ち、大人の気持ち、母親の気持ち、オカマの気持ちなど、その人に合わせて、最善の言葉を、霊界の、神様が住んでいる方角からいただくことができるのです。また占って欲しかったら、いつでもごらんなさい。神は生まれ変わろうとする者を拒みません。以上!」





 足利と、黒木は、うなだれて兵藤一家が住むマンションから出ようとする。


 そこに麗純の父親の、兵藤零士ひょうどう・れいじが、マンションの部屋に帰ってきた。


純子「あなた、また麗純が警察にご厄介したのよ。」


零士「まだ占いやってんのか? 止めさせろ! 麗純は優しい普通の子なんだよ。また商売を始めて、占い通りにいかなかったことで、トラブルなんて起こったら大変だ! まだ中学生なんだぞ。」


 もめている夫婦のそばを、刑事二人が横切って、兵藤一家のマンションから出る。






 街はすっかり、すっぽりと闇に覆われている。

 強い風が、冬の寒さに増して、凍えるようだ。


 確信めいた表情で、夜道をとぼとぼと歩いている刑事二人。



黒木「あの子の占い、的中してましたね、助九ちゃん?」


助九「いや、おかしい。君の占いはともかく、当たりすぎだろ。」


黒木「占いが当たるって、おかしくないんじゃないの?」


助九「いや、おかしいんだよ。我々警察は、豊嶋いのはさんの事件に、警察への挑戦状があったなんて、公表してないんだよ!」


黒木「そ、そうだ!」


助九「そしてなぜ我々が、豊嶋いのはさんの事件を担当していることが分かった? 私のことがニュースで流れていたからって、知りすぎだろ!?」


黒木「た、確かに!」


助九「彼女は何かを知っている。やはり挑戦状のヒントの、霊界通信女は、彼女のことだったんだ!」


黒木「これからどうします?」


助九「君はここで、麗純ちゃんをマークしといてくれ。私はある人物のもとへ、確かめに行ってくる。」


黒木「また単独行動ですかぁ? 一匹狼は、刑事として禁止されているのですよ?」


助九「いや、彼のところだよ。冴木礼紀さいき・れいき。霊と会話することができる男だよ。私は彼を連れてくる。その人物に、麗純ちゃんの能力を確かめてもらう。」


黒木「また彼に、捜査協力として頼るんですか? 早くしてくださいよ。私、ただでさえ方向音痴なんだから、挑戦状に書いてあった、一週間という期限も、もうすぐなんですからね。お日様が昇ったら、5日目ですよ!」


助久「わかった、わかった。早くするよ。だから私は竜ヶ島に戻って、礼紀君に会いにいく。だから君は、麗純ちゃんに、怪しい行動がないか見張っといてくれ。」


黒木「わかりました。しっかり見張っときます。」

 5日目の朝。




 足利は空路で竜ヶ島に戻っていた。

 空港を利用する人はすべて、せわしなく移動している。


助九「冴木会館……ここだな。」


 足利は、サイキック・レイキがいる、冴木会館の自宅を訪れた。


 その様子を、礼紀の母親の、冴木雪さいき・ゆきが見つける。


冴木雪「あら、噂の刑事さん? 今日も礼紀にご用ですか?」


助九「あ、はい、そうなんです。難事件が発生しまして……。」


冴木雪「あら、大変ね。ところでその難事件って、アート美術館で起こった事件のこと?」


助九「あっ、はい、そうですが……?」


冴木雪「いや実は私もね、礼紀ほどではないが、霊能力を持っているんです。実は昔は『透視のお雪』と呼ばれて、ちやほやされてたっけ。私もあと20歳若ければ、凶悪事件に立ち向かったんですけどね。」


助九「あ、は、はい、ところで礼紀君は、ご在宅でしょうか?」


冴木雪「いやいやでも、今回の事件は、どのくらい進んでいるの? 犯人に目星はついたの?」


 ここで足利が閃いた。


助九「礼紀君のお母さん、透視のお雪として、この写真を見て、なにかピーンと、見えてこないですか?」


 足利は、兵藤麗純の顔写真を見せて、捜査協力を申し出る。


 が、しかし、

冴木雪「いや、特に何も?」


助九「あ、そうですか、礼紀君は今どこに?」


冴木雪「でも、その子、どっかで見たことあるのよねぇ?」


助九「えっ、それはどこで?」


冴木雪「いえね、遠い昔に会ったことがあるような……、で、この子、なんていう名前なの?」


助九「兵藤麗純です。」


冴木雪「兵藤…、麗純!? 麗純ちゃんかいな、ずいぶん大きくなって。」


 冴木雪は、顔写真を見ながら、ほのぼのとしています。


助九「礼紀君のお母さん、彼女に会ったことがあるのですか?」


冴木雪「兵藤零士は、私の前の夫です! つまり零士は、礼紀の父親。麗純ちゃんは、私のあとの、奥さんとの子供です。だから、礼紀と、麗純ちゃんは、異母兄弟になります!」


助九「っ、そ、れは、礼紀君はご存知で?」


冴木雪「礼紀には、話してません。でも、もう話さなくてはいけない年頃ですので、これが良い機会だと思います。」


 すると雪は、家の2階から、礼紀を呼びました。


冴木雪「礼紀! 礼紀! ちょっと降りてきなさい!」


 しばらくすると、素直に礼紀が1階に降りてきました。


礼紀「あっ、足利の刑事さん? 今日は何の用で?」


冴木雪「刑事さんは、またあんたに事件を解決してほしくて、やってきたの。いいかい礼紀。冴木家は、ロシアに、北方領土の色丹島を占領されるまで、色丹島でイタコをやっていた家系なの。だから私にも、その霊能力を持っている。あなたが霊感が強いのも、そのためなの。でも霊感が強いからって、その能力を正しい方向にしか使ってはいけないの。みんなが礼紀の力を必要としてくれている。それならその期待に応えなさい。お金が一銭も入ってこなくても、世の中の役に立つことだったら、進んで働きなさい。お母さんはね、礼紀を、人を騙すような人間に育ててはいません。人を騙すくらいなら、騙される側に立ちなさい。そしたらきっとご先祖様も、ちゃんと見ていてくれて、きっと将来、礼紀の事を守ってくれるでしょう。さぁ、この刑事さんと一緒に行きなさい! 学校は、お母さんが巧く言ってサボらせるわ。結果的に社会に必要とされる人間になれば、それで良いと母さんは思うわ。」


礼紀「行くって、どこによ?」


助九「札幌だ。ついて来てくれるかい?」


礼紀「う、うぅん。なんだかわかんないけど、母さんが言うなら仕方ないや。」



 足利と、礼紀は、急いで飛行機で、札幌に飛んだ。













 足利と、礼紀が、札幌に着いた頃には、すっかり太陽が傾き、夕暮れを感じていました。 

 花や木々たちも、もうすぐ夜を迎える準備をしています。


 足利たちは、公園に待機している、相方の黒木と合流する。


助九「黒木君、麗純ちゃんに、何か変わったことはなかったかい?」


黒木「特に何も。」


礼紀「刑事さん、その麗純って子の、苗字は何というのですか?」


助九「んんっ、君の旧姓の、兵藤だ。」


礼紀「兵藤麗純……、何か夢で見た感じだ。」


助九「さぁ、早速会いに行くぞ!」


 刑事二人と、礼紀は、再び兵藤一家が住むマンションを訪ねた。

 その集合住宅には、夜の合図と同時に、住民たちが住処に帰ってきている。

 全てのものの、影が写らなくなった。


 兵藤家の部屋のドアをノックする。


『トントントンッ!』


 すると中から、大人の女性の声がした。


純子「はい、何でしょう?」


 純子が玄関のドアを半分開けると、また刑事の顔が現れて、動揺する。


助九「また失礼します。昨日の刑事です。また麗純さんに、お話を伺いたく参りました。麗純さんがいらっしゃるのなら、部屋におじゃましてもよろしいですか?」


純子「は、はい、またですか?」




 刑事と、礼紀が部屋に通してもらうと、待ち構えていたかのように、麗純が薄暗い部屋で、神妙な面持ちで待機していました。

 相変わらず、部屋はピンク調でまとまっている。


麗純「また占って欲しくていらっしゃったんですか? 今度はそちらの新人さんでも、占ってあげましょうか?」


 この時、礼紀の霊感が大きく働いて、特殊な感覚を感じました。



助九「君は、警察しか知りえない情報を知っていた。挑戦状というフレーズだよ。豊嶋いのはさんの事件について、我々は、警察に対しての挑戦状を突きつけられたとは、公表していないんだよ。君が知っている挑戦状の件を、詳しく聞かせてもらいましょうか?」


麗純「あら、そうでしたの? 私はただ、占った結果、知ってしまっただけなのですわ。」


礼紀「・・・・no・・・・。」


助九「しかしそれが本当だったら、君の占いはすごいね。久々に言われたよ。頭脳はさほどでもないが、勘だけは鋭いってね、それも占った結果、わかったことなのかい?」


麗純「そうですわ。霊界に住む神様に、教えてもらったの。」


礼紀「・・・・no・・・・。」


助九「じゃぁ君は、挑戦状の中身も知らなくて、豊嶋いのはさんの事件についても、占いの結果以外は、知らないというのかい?」


麗純「そうですわ。」


礼紀「・・・・yes・・・・。」


黒木「ちょっと礼紀君! さっきからあなたそばから、何をノーとかイエスとか言ってるの?」


礼紀「覚醒したんです。僕の新しい能力です。んんっ、ちょっと良いですか? 今度は僕のことを占ってもらえませんか? 僕はあなたから、特別な能力を持っているとは、感じないんですよね。」


麗純「そうですの? わかりました。占います。まずはお名前と、誕生日と、星座と、干支をお知らせ下さい。最後に、普段何時に寝ているかを、教えてください?」


礼紀「はい。冴木礼紀です。誕生日は、3月2日。星座は、ふたご座です。干支は、丑です。いつも寝ている時間は、学生だから夜の10時です。」


麗純「承知いたしました。占います! カーっ見えたー。10時の方角の神様のお言葉だと、あなたはとても霊感が強い方です。その特殊能力ゆえに、身を滅ぼす可能性があります。精神にも、肉体にもです。あなたは非常におとなしい性格で、好きな女の子にも、告白することができずにいます。しかし正義感が強く、そのためにこうやって、警察に捜査協力している。自分が必要とされていることに対して、満足感を覚えます。それは幼い頃に両親が離婚したことで、父親がいなかったから、仕事をすることで、自分の存在価値を見出している。あなたの父親は、・・・えっ、兵藤、零士・・・。今でも会いたいと願っている人物・・・、それって私の父さんじゃ!? って、ことは、あなたと私は、異母兄弟……。」


礼紀「……、わかりました! 彼女のトリックが。見えました。通信機器で、誰かから情報を得ている。黒い長い髪で隠された耳に、補聴器みたいなものが見えました。誰かからの音声を聞いている!」



 その時、礼紀の種明かしを聞いたあと、麗純の耳につけていた通信機器が破裂しました。


『パンッ!!』


麗純「きゃっ!?」


 それを見た黒木は、麗純に駆け寄る。

黒木「はっ、麗純ちゃん、大丈夫!?」


助九「真犯人がいたのか! 情報隠滅を図ったか!?」



 カラクリがバレたことで、証拠の通信機器が爆発しました。

 麗純の左耳には、怪我はありませんでした。

 しかし黒木は、万が一のため、病院に運ぶことにしました。

 うなだれた麗純を、黒木が抱えながら連れて行く。


 その途中、兵藤零士が家に帰ってくる。


零士「大丈夫か、麗純!?」


麗純「心配ないわ、これくらい平気よ。」


零士「だから言ってたじゃないか! 麗純は普通の子なんだよ。麗純は特別な能力なんて、持っていないんだよ。」


 零士の姿を確認する、礼紀。


礼紀「父さん……。」


零士「んっ、君は、……まさか、礼紀か!? 随分、大きくなったなぁ。父さんだよ。君を産んだ父親だよ。」


礼紀「僕のことがわかるのですか?」


零士「当たり前じゃないか! 私の子供だからだ……。母さんに、よろしく伝えてくれ。母親一人で、ここまで立派に育ててくれたことを。」


礼紀「うん。それじゃ、僕たち行かなくちゃ。行くね。」


零士「あぁ、また遊びにおいで。」


 こうやって、久しぶりに親子が揃った。

 その団らんを噛み締める時間もなく、礼紀は再び、犯人を追い詰める捜査に戻った。






 麗純たちを車で病院に運んだ足利は、麗純の看病として、黒木に付き添わせることにした。




 これで、5日目の夜が終わった。

 6日目の朝。




 足利と、礼紀は、麗純が緊急入院している病院に直行する。

 病院には、早朝ということで、患者が訪れていない。

 それでも緊急患者がくることも備えて、医師や、看護婦たちが、せっせと自分の仕事をこなしている。


 その病院の部屋の前に、黒木が立っていた。


助九「黒木君、麗純ちゃんに問題はなかったか?」


黒木「大丈夫。それでね、彼女はすべてを話したわ。名前は明らかにしなかったらしいんだけれど、20代から~30代若い男性から、依頼を受けたらしいの。バレても、14歳は刑事罰に問われないからといって、有名になれるからといって、男に通信器をつけられて、警察が来たら指示とおりに受け答えろと、言われていたらしいの。でも今まで占った件は、すべて自分の力だと弁明していたわ。」


助九「男の人相は?」


黒木「メガネをかけた、長い髪の天然パーマで、ひょろっとした感じの、オタクっぽい男性と言っていました。」


助九「それだけじゃ、わからんな……。名前は聞いてないのか?」


黒木「それも聞いてないらしいの。でも、少しのお金はもらっていたようだわ。」


助九「麗純ちゃんは、豊嶋いのはさんの事件には関与していないのか?」


黒木「それは関与していないと言ってるわ。これは本当らしい。」


助九「捜査は再び、振り出しに戻ったな。」


黒木「最後に麗純ちゃんは、礼紀君にも、伝えたいことがあったわ。『お兄ちゃんができて、嬉しかったよ』と言っていたわ。」


 礼紀は少し、恥ずかしくて改まった表情をする。

 そして決意に満ちた眼に変わって、表明する。


礼紀「足利さん! 僕の、前世ルートを使ってください。僕は犯人を許せない!」


助九「そうか、その手があったか!? 私も早くそれに気づいておれば。」



 早速、刑事二人と、礼紀は、豊嶋いのはさんの遺体を安置している、赤栄警察署の

遺体安置所に向かいました。




 赤栄警察施設の遺体安置所。

 厳重なセキュリティーで密閉された施設が、不気味さを醸し出している。


 専用の倉庫に、数体の遺体が横たわっている。

 安置所内は、腐敗が進まないように、気温が下げられている。

 この光景や、腐敗臭が、周りの空気を、なお下げている。



 刑事二人と、礼紀が、安置所にたどり着いた。

 足利は、自分のハンカチで鼻と口を覆っている。

 黒木は、そのままいつもの表情。


 早速、礼紀は、豊嶋いのはの遺体に語りかける。


 すると、むく~と、遺体から、白い魂が出てきた。


 その霊は、とっても悲しそう。


礼紀「豊嶋さん、感じ取ってくれ!」


 礼紀にだけ見えているその霊は、無念さを訴えるように現れた。


(いのは)「・・・・(私は殺された~。殺された~。盗まれた~。)・・・・」


 やっと現れてくれた霊に、感謝する礼紀。


 すると礼紀も、霊と会話しやすいように、人格をザイキに代える。


 冴木礼紀の声は細々しくなって、腰がだんだんと曲がってきた。

 姿かたちが、弱々しくなって、その表情はおじいさんのよう。

 だんだんと礼紀から漂ってくる雰囲気も変わった。

 そして礼紀の目が変わったと思ったら、人格もザイキへと変貌した。


ザイキ「・・・・豊嶋さん、豊嶋さん、あなたは誰に殺されたのですか・・・・?」


(いのは)「・・・・(投資してもらった、投資家の一人です。)・・・・」


ザイキ「・・・・その人の、名前はわかりますか・・・・?」


(いのは)「・・・・(はいー、風間達男です。)・・・・」


助九「んっ……。」


ザイキ「・・・・私もついていきますので、その人がいる場所が、わかりますか・・・・?」


(いのは)「・・・・(わかりません。遠すぎて、わかりません。その人はもう、日本にはいません。)・・・・」


 この答えを聞いたあと、冴木礼紀は、主人格のレイキに戻っていた。

 その瞳からは涙が。


礼紀「は、はぁ、ぐすっ、なんで殺害なんか……。刑事さん、犯人がわかりました。風間達男かざま・たつおです。推理マニアの風間です。」


助九「何っ、風間達男!? それは本当なのか?」


礼紀「豊嶋さんの訴えではそうです。風間さん、なんで殺人なんか、したんだよ!?」


助九「黒木君、署に連絡して、風間達男の居場所を押さえてくれ!」


黒木「わかりました!」


礼紀「でも、もう遅いのかもしれません。僕は前世ルートを使うことができません!」


助九「どうしてだ? その能力さえあれば、犯人に辿り着くだろう?」


礼紀「海外に、逃亡したんです……。」


助九「しまった~、そのための一週間だったのか!?」






 この事件の犯人がわかりました。


 そう、推理マニアの、風間達男です。

 予言者男の室重和矢事件では、活躍してくれた風間が、豊嶋いのはさんを、筋弛緩剤で殺害した犯人でした。

 一様に動揺が広がる足利たち。






 6日目の午後には、豊嶋家からの連絡で、いのはさんの所持品から、紛失したものがわかりました。


黒木「助九ちゃん、風間が盗んだものがわかったわ! 宇宙旅行第1陣の、宇宙船入船権利証です!?」


助九「何!? 風間は月にでも逃亡するつもりなのか?」




 そして風間達男の生い立ちが判明した。


黒木「助九ちゃん、風間は、子供の頃から、宇宙飛行士に憧れていたらしいのです。それなりの専門校にも在籍していたらしいのですが、虚弱体質ということもあり、宇宙飛行士の採用試験には合格できなかったそうです。しかし筆記試験はダントツの首席だったそうです。風間のあの知識は、この時に培われたようです。そしてその知識を活かして稼いだ多額のお金を、被害者の豊嶋いのはさんが経営していた投資信託に預けていたようです。しかし後にその会社は、破産宣告をして、倒産してしまった。そこで投資家たちは、裁判を起こした。そして風間も、お金を取り戻すための被害者会に、登録して闘っていたようです。しかし裁判を起こしても、その投資金は返ってこなかったらしいですね。」




 今度は、風間達男の逃亡先が判明した。


黒木「助九ちゃ~ん!? 航空会社に記録が残っていました。風間達男は、6日前に、日本からアメリカに渡ったことがわかりました。つまり、アメリカから宇宙に飛ぶつもりです!」


礼紀「アメリカの警察に、逮捕してもらえないんですか?」


助九「どの国の警察も、他国で犯人を逮捕することはできないのだ。しかしその国の警察に、捜査や、逮捕してもらうことはできる。日本と、アメリカは、犯罪者の身柄引き渡し条約を結んでいるからな。しかし国際指名手配するには、それなりの証拠が必要だ! 死んだ霊が証言しているからって、それは確たる証拠になり得ない。」


礼紀「行きましょうアメリカへ。風間達男を連れ戻しに、海を渡りましょう!」








 その頃、アメリカの風間達男は、宇宙船に搭乗していた。

 管理者に、入船権利証を見せる風間。


管理者「Please Tell Me What Your Name?」


達男「イノハ トヨシマ。」


管理者は、乗員名簿をチェックする。


管理者「OK。Welcome!」 6日目の深夜。



黒木「助九ちゃ~ん! 本当にアメリカに行っちゃうのぉ? 私はついていけないわよ!」


助九「だから君は、署に残っていれば良い。」


黒木「助九ちゃん! 上司のヅラガッパも怒ってたじゃん? 証拠なんて何にもないじゃん! 今度単独行動を起こしたら、クビなのよ!?」


助九「私は常に、どの事件も、最後の仕事のつもりでやっている。この事件が最後になるのなら、私は本望だ! 私は日本の警察が、アメリカで捜査できないというのなら、私は警察を辞めます!」


黒木「助九ちゃん!? もうすぐ昇進して、警視正になるのも確実なのに、何でそんなに意地になってるの? アメリカに行ったって、捜査や、逮捕はできないんだからね!」


 黒木の忠告も虚しいまま、足利助九は赤栄警察署から去っていった。












 竜ヶ島のエンジェル空港で、人を待っている礼紀。

 小高い丘の上に建てられた空港は、新しい施設だけに先進的で、観光客などを乗せた飛行機が、轟音を立てながら、竜ヶ島から出入りする。


 そこに足利がやってきた。


助九「礼紀君、またせたな。さぁ、アメリカに行くぞ!」



 足利と、礼紀は、空路で、札幌空港に飛んで、そこからロサンジェルスに飛んだ。


 その飛行機の中。

礼紀「しかし足利さん、風間さんの居場所の、目星はついているのですか?」


助九「あぁ、ニューメキシコ州だ。そこの宇宙旅行専用港の、スペースポートから、宇宙旅行第1陣が出発する。それはアメリカの警察にも、伝えてある。」


礼紀「でも行ったって、その挑戦状に書いてあった一週間という期限は、もう過ぎちゃうんじゃないですか? これじゃとてもじゃないが、間に合わないと~。」


 しかし足利は、確信めいた表情になって言う。


助九「いや、まだわからんよ。」


 足利と、礼紀は、飛行機の中で、ずっと苦虫を噛み締めた表情。










 結局、足利と、礼紀は、飛行機で、まず札幌に着いて、そこからロサンジェルス。

 ロサンジェルスから、ニューメキシコ州にたどり着いた。

 しかしアメリカの、ニューメキシコ州に着いたのは、7日目の深夜でした。


 ニューメキシコ州の空港に降り立つ足利たち。

 せっかくアメリカにきたのに、天候はひどい雨で、排水口にも雨水がいっぱい溜まっている。

 移動している間、とてもじゃないが外の景色を観光している気にはなれなかった。


礼紀「結局、夜になってしまいましたね。今頃、風間さんは、月を見ながら、豪華な食事でも食べているんでしょうね?」


 ニューメキシコ州の宇宙旅行専用港に、タクシーで移動中、足利刑事は、人が変わったように信念を込めている。









 8日目の朝。


 宇宙旅行専用港。

 周りには山も無く、ただ広大な地平線が広がっている。

 その空間には、ひたすら長い滑走路と、司令塔と、巨大な倉庫が見える。

 出航したからなのか、宇宙船が見当たらず、人の出入りが少ない。専門の制服を着た職員たちが目立つくらいだ。


 二人は、スペースポートにたどり着いた。

 天候は、心の叫びを表したのか? ひどい雨。


礼紀「どうします? 風間さんは、戻ってきたところで連れ戻しますか?」



 しかし周りを見渡すと、一人のきゃしゃな男が、管理者に対して、英語で文句を言っている。

 風間達男だった。


助九「いた! 雨乞いの、雲龍神社のお守りのおかげだ。天候が味方した!」


 二人は、真剣に言い合っている風間達男の下に行く。

 すると敏感になっている風間達男は、それに気づいたのか? 驚き引きつった顔をしている。


 風間を確認した足利は、最後の説得をする。


助九「そこまでだ、風間。私の顔を覚えているよな?」


達男「いやー、足利刑事ですか? いや、驚きですね。あぁ、礼紀君ですか? どうりでこの短期間で、ここまでたどり着けたわけだ。ここで終わりですか? でもね、私にはやるべきことがあるのですよ! 大方、察しはついているのでしょ? そうですよ。宇宙飛行士ですよ! 僕は、宇宙飛行士になるのが夢だったんですよ。私は宇宙開拓に、自分の命を捧げる覚悟だった。しかし弱視と、持病の喘息があって、合格することができなかった。しかしこれは、私の子供の頃からの夢なのですよ。」


 礼紀は一旦、子供のような表情になったと思ったら、持っているオーラが大きくなって、目が変わった。


 礼紀は、幼い声でボソっとこぼす。


礼紀「・・・・yes・・・・。」


助九「残念だったな。地球温暖化による、世界的な異常気象で、ここニューメキシコも、悪天候により、フライトの延期か。」


達男「そうですよ。私は生まれてきてから今日のこの日まで、これを楽しみにしてきた。それが悪天候により、延期が決まった。それに対して私は、管理者に文句を言っていたのです。」


礼紀「・・・・yes・・・・。」


助九「風間、お前は本当に、豊嶋いのはさんを殺めたのか? いのはさんに脅迫状を送ったのも、お前なのか? なぜ彼女を殺害してまで、宇宙に行きたいのか? そんなことは止めて、日本に帰ろう?」


達男「そうです! 豊嶋いのは代表は、私の宇宙旅行費を奪ったのです。宇宙旅行に行くには、2500万円が必要なのです。積極的に勧誘してきたから、私は軍資金を、豊嶋の会社に預けた。しかしどうだ? 元本を保証していたのに、豊嶋は運用に失敗して、会社は倒産。私の軍資金は回収不能になった。ちょうどその頃です。詐欺師の豊嶋は、俺たちの金をだまして獲って、返さずに、自分はバカンスとして、宇宙旅行の権利を獲得したことを知った。こんなことが許されて良いのか! 警察は何をしている? 私はね、その時に殺害計画を思いついたのですよ。」


礼紀「・・・・yes・・・・。」


助九「だからって、人を殺害して良い理由にはならない! お前にだって家族がいるように、いのはさんにだって、家族はいるんだ!」


達男「そっちのほうが理由になってない! 私たちは法的に訴えようとした。しかしどいつもこいつも、倒産するような会社に投資する、自己責任と言い張るのだ! 自己責任というのであれば、我々が汗水たらして稼いだお金を、託したのであれば、返せないちゃんとした理由が必要だ! 彼女は現状を維持できるような、理由がない! 何が自己責任だ、ふざけんな! そしたら投資を受け持つ側も、自己責任があるだろ!?」


礼紀「・・・・yes・・・・。」


助九「だからって、お前は、彼女を殺めて、彼女になりすまして、自分の夢を達成するのか?」


達男「そうです。そのかわりに、彼女は苦痛を感じない死に方を選んであげました。すーとあの世に行ける、筋弛緩剤を使ってね。殺す代わりに、被害者には無痛の死に方を選んであげました。」


礼紀「・・・・yes・・・・。」


助九「なぜ挑戦状を叩きつけた?」


達男「それは単に、時間稼ぎですよ。それに私は、単に事件を推理して追うだけでは、満足することができなかったのです! 本当の殺意とは何か? 人を殺す時の感触は? 殺人犯は、普段どんな心境で時を過ごすのか? これを体験してみたかったのです。小説を読んだだけでは体感できない。私はそれを感じました。とてもスリリングな日々でした。」


礼紀「・・・・yes・・・・。」


助九「なぜ霊界通信女という、兵藤麗純ちゃんを見せしめにして、ヒントなんか出したんだ? お前だったら、一週間なんて余裕だろう? それも時間稼ぎか?」


達男「礼紀君の能力を使えば、僕が犯人だって、すぐにバレるでしょう? だから麗純は、そちらに目が行くように仕向けた、ただの保険ですよ。しかしこのように、礼紀君の力で、計画は破綻しかけてますがね。」


礼紀「・・・・yes・・・・。」


 その時です。

 アメリカの警察が数人体制を導入して、銃を持って風間を取り囲みました。


FBI「STOP! Dont Move!」


 この状況を察した風間は、両手を挙げて堪忍した表情になる。


達男「どうやら私の負けみたいですね。宇宙旅行は諦めましょう。帰ります。私は、あなたに逮捕されたかったのですよ、足利警視正。」


礼紀「・・・・no・・・・。」







 こうやって、風間達男は、アメリカの警察によって逮捕されました。

 偽名を使って、宇宙旅行に参加しようとした罪で捕まった。



 後に風間は、身柄を日本に引き渡される。

 これは日本と、アメリカが、犯罪者の身柄引き渡し条約を結んでいるからだ。


 日本と、身柄引き渡し条約を結んでいる国は、アメリカと、韓国だけだ。

 それは日本では、死刑制度を今でも維持しているからだ。

 そういう国とは、条約を結べないという理由で、結んでいる国は2カ国だけだ。


 風間は、日本に戻されたことで、死刑になる可能性はある。

 しかし初犯だったことと、情状酌量の余地も残されている。


 罪を償って、また更生すればよい。

 そしたらまたお金を稼いで、もう一度、宇宙旅行にチャレンジすれば良い。

 風間達男が、もう一度宇宙を旅するときには、もしかしたらその高額な費用も、下がっているかもしれません。


 こうやって、霊界通信女が絡んだ事件は解決した。

 人々の心に、希望の灯火を灯すように。









 足利の、相方の、黒木有希も、あとからニューメキシコの空港まで、応援にきていた。

 その3人で、仲良く日本に一緒に帰った。

 後で刑事二人には、厳しい処罰が下るだろう。


 礼紀はまた、長い冬休みが終わり、学生生活が始まるのであった。



 その礼紀に、足利が、隣でボソボソと言っていた、イエスと、ノーの意味を聞いた。


 すると、

礼紀「僕に新しい人格が増えて、能力も広がったんですよ。名前は、ロイキです。その能力は、人が話す言霊の、嘘と本当がわかる能力です。本当のことを言っていたら、イエスと出て、嘘を言っていたら、ノーと出る。風間さんは、最後の言霊だけが、嘘だった。」

 と、言っていた。



 それも風間達男の生き方だ。


 最後に礼紀は言っていた。

「新しいロイキもよろしくね。」


 足利刑事の処罰が決まった。


 警部から、警視正への昇格が見送られた。


 しかし犯人を結果的に逮捕したということで、処分はこれだけだった。


 今日も上司のヅラガッパこと、舘右近は、部下に口うるさく吠えている。




 今日も足利と、黒木の、漫才コンビは、竜ヶ島のどこかで、事件を追っているのであった。


                           〈了〉


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