不真面目警察官
この話は、足利助九が、まだ警察に入社した新米の頃に遡る。助九と、不真面目警察官と、真面目警察官の3人は、3バカカラスと呼ばれるくらい、仲が良かった。しかしその仲を切り裂く事件が起こる。その事件を経て、再び3人が揃った時に、解った封印された真実とは。
第4章 不真面目すぎる警察官
刑事の足利助九あしかが・たすくは、赤栄警察署内の自分のデスクで、渋い表情をしながら、カレンダーを確認して、一言つぶやく。
助九「今日か……。」
外は、今にも降りかかりそうな黒い雲が、立ち込めている。
赤栄警察署の刑事課は、竜ヶ島で凶悪事件が少なくて、刑事たちも事務処理をしている。
しかし上司の舘右近たち・うこんだけは、うろちょろしながら部下の監視をしている。
助九の相方で、隣のデスクに座っていた黒木有希くろき・ゆうきは、助九のことが一瞬気になり、尋ねる。
黒木「助九ちゃん、何そんな表情をしてつぶやいてんの?」
助九「いや、今日なんだよ。私の最初の事件から、今日で18年目。」
黒木「へぇ~、助九ちゃん、警察に入ってから、18年間も頑張ったのね。今まで致命的なケガもなく、良かったね。おつかれさん。」
助九「そんなに良いものではないよ。最初の事件はな……。」
黒木「えっ、どんなの、どんなの? 助九ちゃんの最初の事件って? 私、断然、興味出てきた。」
助九「そんな話ができるほど、綺麗な話じゃないさ。」
黒木「なぁ~んだ。私せっかく興味が出てきたのに、もったいぶらずに、教えなさいよ!」
助九「あ、いや、いや、そうか? そこまで言うなら、私が警察官になった、私が26歳の時の、18年前の、最初の事件を話しましょうか。それは私が、警察の役職で言うと、一番下の巡査の時の出来事だった……。」
足利助九は、頭の中から、モヤに掛かりかけた事件を思い出す。
その思い出が、助九自身にも、胸を突き刺すような事件にもかかわらずに。
~18年前。
足利たちは、新米警察官として、任命された赤栄警察署内の、新人たちが勢ぞろいしている広い講堂の中で、警官の誓を立てていた。
その講堂は、物音を立てると、3倍にも響いて返ってくるような、警察署の敷地にある施設です。
そこには、100人あまりの警察官が整列して、静まり返っていて、後輩の新人警察官の誓を見守っている。
助九「はい! 今日から赤栄警察署の刑事課に配属されました、新人の足利助九です! 命ある限り、どんな些細な事件にも、最後の仕事のつもりで闘うことを誓います!」
26歳の助九は、頭はまだハゲていないで、鋭い目が特徴の、警察の制服を着た、信念に満ちた若者です。
その足利が、元気いっぱい自己紹介しました。
直心「はい! 同じく新人の、直心本気男ちょくしん・まじおです! この赤栄警察署の交通課で、善良な市民のために、風紀を正すことを誓います!」
直心本気男は、助九の同期の、真面目な男前の仲間です。
顔もよく、背が高いイケメンだが、少し真面目すぎる性格から、そのせいで女性からは、男らしさが足らないとか、面白みがないなどと言われて、フラれるようなタイプです。
横峯「はい! 同じく新人の、横峯司よこみね・つかさです! 赤栄警察署の、生活安全課で、どんな凶悪事件にも立ち向かい、心情を曲げず、決して何があっても、正義を全うすることを誓います!」
横峯司は、助九のもう一人の同期の、キャリアの仲間です。
ワイルドな顔立ちで、酒と、タバコを愛する、垢抜けた性格です。
男らしいのだが、それが少し素行の悪さにつながっているような、印象を持たれます。
活発なタイプで、勉強もできて、リーダーになれるような素質を持ったエリートです。
足利助九と、直心本気男と、横峯司の三人は、年も同じ26歳で、赤栄警察署に配属された、赤栄の三羽カラスと呼ばれた同期です。
三人は、年も同じということで、すぐに意気投合して、いつもつるんでいる。
横峯「なぁ、助九、本気男、今日は勤めの初日の記念として、三人で飲みに行こうぜ?」
直心「僕は、お酒は飲まない体質なので……。」
助九「まぁ、居酒屋に行くくらいは、良いんじゃないの? 直心くんは、中では、お酒を飲まなくても、ジュースだけでも良いよ。雰囲気だけでも味わいに行けば良いって。もう俺たち大人なんだよ。」
横峯「そうだよ、俺さ、昨日、赤栄の繁華街で、良いお店見つけたんだよ。」
直心「まぁ、そのくらいなら、せっかくの誘いだから……。」
助九「そうだよ、これも人生経験の一つ、一つ。」
横峯「それじゃ、決まりだな。よし、今日の仕事が終わったら、居酒屋に集合だ! あっ、運転は酒を飲まない、直心に頼むよ?」
直心「あ、わかった。」
警察官の、通常業務が終わった。
三人は、仕事終わりに、繁華街の居酒屋に集合する。
三人は、その居酒屋に行く途中に、横断歩道があった。
そこに一人の小学生の男の子が、今は車が通っていないが、信号が赤なのにもかかわらずに、信号無視で勢いよく走って渡るのを目撃した。
それを確認した交通課の直心が、男の子を注意しに行く。
直心「君、車が通っていなくても、横断歩道は青の時しか渡ってはいけないのだぞ。」
男の子「う、うん、わかりました。」
その小学生の男の子は、純粋に注意を聞き入れてくれました。
しかし横峯は、
横峯「相手は子供じゃないか、直心、それくらい見逃してやれよ。」
直心はそれに、真面目に応えます。
直心「ルールは、ルールですから。」
助九「直心くんと、横峯くんは、まるで正反対だな。」
横峯「ハハッ。」
三人が集合した居酒屋は、酒を飲みにきたお客様が、上機嫌で入店して、たむろっている大人の憩いの場だ。
時刻はもう夜の10時だ。
その夜は三人とも、新人警察官として、大いに、自分たちについて、日本について、未来について飲み明かした。
翌日。
勤務している警官たちには、今日も朝の出勤時間の開始が迫っている。
赤栄の中心街にそびえ立つ、市民の安全を守る象徴の赤栄署内に、酔いがさめた三人が一緒に出勤した。
その様子を見て、女子が噂している。
女子「またあの三人が、一緒にいるわよ。まるで三馬鹿カラスね。」
女子「でもあの、直心さんだけは、超カッコ良いよね。私はタイプ。」
女子「ちょっと待ってよ。あの顔をタイプじゃないって、言う人なんかいないわよ。直心さんは、私のものだからね。」
女子「待ってよ、じゃ私たち、ライバルらしいわね。」
その女子の闘いに気づく三人。
横峯「また、俺をめぐって、女子が争っているよ。」
助九「そうかな?」
横峯「なぁ、本気男、あの中じゃ、どっちがタイプだ?」
直心「僕は、女性を顔で比べることは失礼だと思います。」
横峯「お前、ほんと、名前通り、真面目な奴なんだな?」
そんな三人に、刑事課の先輩から、忠告を受ける。
先輩刑事「おい、足利くん。最近、管内で窃盗事件が多発しているんだ。君は新人だが、もう立派な警察官だ! 市民の安心・安全のために、忙しくなるぞ。」
助九「はい! 先輩。」
横峯「しっかし、刑事課は大変だな。俺は学生時代、一生懸命勉強して、キャリアとして警察に入り、生活安全課で良かったよ。」
直心「助九くん、今日は居酒屋どうする?」
助九「仕事が忙しかったら、行けねぇわ。じゃ、頼むな。」
その日の夜。
足利は、ようやく長かった仕事が終わり、疲労困憊しながら家路に着く。
足利の自宅は、家賃4万円の中古アパートの2階だ。
ところどころ外装が剥がれていて、便所付きだが、風呂は別の場所にある、共同の集合住宅だ。
「あー疲れた~。今日はぐっすり布団に入って、明日のためにも、寝よ。」
足利はスーパーで買ってきた食材を、そのまま布団の中で食べて、栄養補給した。
足利は、仕事の疲れから、集中して爆睡した。
翌朝。
目覚まし時計「ビリビリビリビリビリビリビリビリ!!」
足利は、目覚まし時計の爆音で、布団の中から飛び起きる。
助九「う~~ん、もう朝か……、んっ、えっ、もうこんな時間なの!? やっべぇ、遅刻する!」
助九は朝食も摂らず、寝ぼけながら駆け足で警察署に出勤した。
足利は、まだ車を所有していないので、自転車を爆走させて、ギリギリ出勤時間に間に合わせた。
赤栄警察署は、いつも同じ場所で、今日も待ち構えてくれている。
その警察署の威厳がある建物の上で、人間の迷惑にならないように、朝鳥たちが動き出している。
助九「はあぁ、は、セーフ。時間には間に合った!」
足利は激走して、息を切らしながら、刑事課にたどり着いた。
しかし、赤栄警察署内の雰囲気が悪い。
みんな、鬼気迫る表情をして、仕事をしている。
そこに先輩刑事がやってきて、足利を怒鳴るように叱る。
先輩刑事「何やってたんだ! 足利! みんな現場に行ってんだぞ!」
助九「えっ、間に合ったんじゃ? みんなどこに行ったんですか?」
先輩刑事「昨晩な、管内で、ひき逃げ事件があったんだ。その現場にみんな行ってる。」
助九「え、それで署内の空気が違ってたんだ……。」
先輩刑事「ひき逃げは、交通課の仕事だ。しかし今朝、被害者の死亡が確認された。だから、殺人事件に切り替わって、我々刑事課も捜査している。お前も現場に行って、経験しとけ。」
助九「はい!」
足利は、管内のひき逃げ現場に直行した。
事故現場は、人通りが少ない路地裏の道だ。
道路の幅は細く、歩道は短い。歩道の外には、草が所々に生えている。
すでに遺体は、移動されていた。
交通課の警官が、初動捜査して、道路を通行できるように、警官が車を流している。
助九「こんな見渡しが良いところで、死亡事故なんか起こして、昨晩ここで、何があったのか?」
足利は、交通整理をしている、交通課の警官に、事故の詳細を聞いた。
交通課の警官「これはひき逃げというんだ。遺体に、車に衝突されたような箇所が見られた。その衝突の事故の時間から、警察には、事故の届出がきていない。つまり救護義務や、通報義務が果たされていないんだよ。これは完全にひき逃げだね。被害者の名前は、出来守長児できもり・ちょうじ。66歳。身元は近所の老人だ。出来守さんは、定年を迎えて、年金暮らしだった。近所の家で、息子夫婦と一緒に暮らしている。奥さんは15年前に死去した。本人は、誰かとモメるような問題を抱えていることはなく、自殺をするような動機もない。」
助九「犯人の目星はついていますか?」
交通課の警官「そんなもん分かるかい! でも、道路の交通システムのカメラに、目星の車が映っているだろうから、じきに事故車の所有者が分かるわい……。しっかし、新人の直心のやろう、こんな大事な仕事の現場に、サボって出勤してこないんだよ! あいつ一年目から無断欠勤しやがって、帰ったら、みっちりしごいちゃる!」
助九「えっ、直心くん、出勤していないんだ……、風邪でもひいたかな?」
足利は、事故現場から、中心街の赤栄警察署がある活動拠点に帰った。
赤栄署内に帰った足利は、年下でキャリアの上司の、舘右近たち・うこんに、重要なことを知らされる。
舘右近「あぁ、足利さんかい、写っていないんだよ。交通システムの監視カメラに、目星の車が映っていないんだよ!?」
助九「えっ、だって交通課の人が、監視カメラに写っているから、すぐに車は断定できるって?」
舘右近「それがその時間帯、事故現場から、去って行ったであろう車が、上手く監視カメラの位置をすり抜けて、写っていないんだ! これは神業的犯行だよ!?」
助九「犯人は、完全犯罪を狙った、計画的犯行なのか?」
そこに、上層部から連絡が入る。
舘右近「あ、はい、わかりました。ただいま要請がきました。刑事課も含めて、ローラー作戦で、事故車を特定します。刑事の皆さん、街に出て、事故車を特定致しましょう!」
刑事課の足利も、総動員で、街に出た。
街にあるすべての車を、捜査するために外に出た。
その捜査に、足利も駆り出された。
もうすでに、その仕事を全うしている間に、日が暮れて始めている頃で、自分の影が長く投影されている。
足利は真剣に、事故車だけを探している。
新米の足利には、全ての人が容疑者に見えた。
助九「しかし、街にあるすべての車の中から、凹んだ事故車を探せと言われても、いくら時間があっても足らないくらいだ。」
もうすっかり、太陽が落ちている時間です。
足利たちは、事故車を見つけるという仕事を抱えたまま、眠らない赤栄警察署に戻る。
その赤栄警察署内で、先輩刑事は、自動販売機でコーヒー缶を買って、新人の足利に渡す。
先輩刑事「ほい、新人。今日は疲れただろう? ま、コーヒーでも飲めや。」
助九「あ、ありがとうございます。」
先輩刑事「もう夜だから、新米のお前は、家に帰っても良いぞ。おつかれ!」
助九「いや、私も犯人を捜します!」
しかし先輩刑事は諭す。
先輩刑事「その情熱を忘れるな! しかしな、まだ時間はある。その気持ちは、明日まで持っておけ。それじゃ、お疲れさん。」
助九「は、はい、それじゃ……。」
足利は、素直に忠告を聞き、家に帰った。
アパートの、2階にある部屋に、ギシギシときしむ階段を登ってたどり着く。
助九の部屋は、買ってきた食材の包装や、使ったままの日用品で散らかっている。
助九は、最近の若者らしく、散らかったままの空間で過ごし、掃除もしていない。
家に帰った足利は、仕事の疲れから、風呂にも入らず、いつものように布団に入って、買ってきた惣菜を直接食べて、すぐに熟睡した。
翌朝。
目覚まし時計「ビリビリビリビリビリビリビリビリ!!」
足利は、豊かな夢を見ている熟睡状態から、急に現実世界に戻された。
助九「はっ、もうこんな時間か!? 今日は遅刻せずに、出勤するぞ!」
今日は朝食を摂って、自宅を出た。
そして出勤時間よりも早く、赤栄警察署に戻った。
再び朝を迎える警察署。
赤栄警察署は、すべての職員を署内に入れても余裕があるくらい雄大だ。
足利は、気持ちと、容姿を整えて、一から仕事に励んで出社している。
するとそこには、上司の舘右近が待っていた。
舘右近「足利さん、先輩刑事が見つけましたよ。事故車をね。所有者の名前が分かりました。赤栄のマンションに住む、システムエンジニアの、上條辰巳かみじょう・たつみだ。男性。年齢は26歳。」
助九「26歳……、私と同じ年だ。しかし、先があるこれからの年なのに、なぜこんな事件を起こしたのか!?」
舘右近「もうすでに、先輩刑事が、上條辰巳容疑者の自宅に向かっている。任意同行という形で、署に連行されるだろう。」
足利は、ただ正義を信じて、容疑者を待つだけでした。
その日の昼。
取調室。
白いコンクリートで固められた、無機質の空間に、マジックミラーの窓だけが清々しい。
任意同行してもらった容疑者に、先輩刑事が問い詰めている。
先輩刑事「お前が、一昨日の深夜に、自分の車を運転して、赤栄の人通りが少ない裏路地で、出来守長児さんをはねて、そのまま逃亡したんだな?」
上條「だから違いますって!? 私はただ、あの日は車を貸しただけなんですって!」
先輩刑事「お前、嘘をついていないだろうな? 本当に貸したのか?」
上條「本当です、信じてください!」
先輩刑事「じゃ、誰に貸したんだ?」
上條「直心。直心本気男という者です。彼も警察官だから、知っているでしょ?」
助九「っ、直心!? まさかあいつが、そんな……。」
先輩刑事「それは、本当か? じゃ、あの、直心が、ひき逃げを……?」
上條「私はただ、車を貸しただけなのですって!」
取調室は、しばし沈黙する。
しばらくすると、取調室に、うなだれた直心を抱えながら、交通課の警官たちが入ってきました。
交通課の警官「直心がすべて吐きました。こいつが犯人です。あの日起きたことを、すべて話してくれ。」
この登場に、足利は動揺する。
助九「直心くん、嘘だろ? 嘘だと言ってくれ。」
直心「私が、はねました。私が、運転しました……。」
助九「嘘だろ……。」
直心は、うなだれて、ただ認める発言を、一言ぼそっと、発するだけです。
身内の犯行ということもあり、精神的に参っている、直心への尋問は、一旦中止されることになった。
直心の身柄は、赤栄署内の、留置所に送られることになった。
その間、足利は信じられず、浮かない表情。
助九「まさか、直心くんんが、そんなこと、俺は信じられない! 彼がそんなことをするはずがない!? きっと何か、裏があるはずだ。真犯人は別にいる。俺は真犯人を捜す!」
足利は、上司の舘右近に、直心に聴取できるように、直談判した。
助九「上司、私は、直心が、犯行を犯したとは、どうしても思えないのですよ。だから真犯人がいるはずです! だから留置所に行って、事情を聴いてもよろしいですか?」
舘右近「足利さん、そりゃ刑事だから、いつだって面談書を書けば、許可は得られるだろうけど、いるかもわからない、真犯人を探すだけ無駄! 国民の血税の無駄使いと言われる。本人が自供している事件なんだ。そんな事件よりも、管内で起こっている、窃盗犯を探すほうが先なのですよ! 足利さん、頭を使って! 刑事が心情を燃やすのは悪くはないが、正義があっても、証拠がなかったら、予算はつかないのですよ!」
足利は上司に怒られながら、信念だけで、留置所の、直心のところに行った。
署内の留置所には、犯罪を犯した容疑者たちが、牢屋に捕らえられている。
暖房がなく、この特殊な空間が、心までもひんやりさせている。
その中で、すぐに直心の姿を発見することができた。
足利は、牢屋越しに、直心に語りかける。
助九「なぁ、直心くん、何か隠しているだろう? それを私にだけ、教えてくれないか?」
直心「あぁ、助九君か……、何度も言ったはずだ。僕が引いたんだよ。」
助九「じゃ、君は何時、何分、何秒に、事故現場で、出来守長児さんを、引いたんだ?」
直心「それは忘れたよ。悪いが、この事件のことは忘れさせてくれ。」
助九「車の所有者の、上條さんとは、友達なのか?」
直心「あぁ、そうだよ。車を借りた時に、事故を起こした。ただ、それだけだ。」
助九「その車には、ほかに誰か、同乗していたのかい?」
直心「いや、僕だけさ。飲酒していたら、運転なんてできないからね。これくらいで良いか? もう忘れたいんだ。僕はもう寝るよ。」
助九「…っ!」
そのまま直心は、眠り込んだ。
その様子に根負けして、足利は留置所を出た。
その帰り道。
署内で、女子たちが、直心の噂話をしている。
女子「うそでしょ? あの直心さんが? 私、信じられない!」
女子「ひき逃げ死亡事故だったら、軽く10年は刑務所内ね。私の直心さんを、あなたにあげるわよ。」
女子「あの真面目な性格の直心さんが、かわいそう!」
しかし足利は、直心の一言に、ピーンときていました。
助九「…その車には、ほかに誰か、乗っていたのかい? いや、僕だけさ。飲酒していたら、運転なんてできないからね。…。直心は、お酒を飲まない。なのに、一人で運転していたとするならば、そんな言葉を言うかね?」
足利は、しばらく前にうつむきながら、考え込んで歩いている。
そして捜査の基本に戻った。
助九「車の所有者に、話を聴こう!」
足利は、捜査資料を片手に、事故を起こした車を所有している、上條辰巳宅に移動する。
上條が住んでいるマンションは、5階建ての中流マンションで、外装のパネルが目新しい。
人通りが多いところで、マンションの所有者たちの車が、近くの駐車場に停められている。
足利は緊張の面持ちで、上條のマンションのベルを鳴らす。
『ピーンポーン!』
しかし中から、出てくる気配がないので、足利は玄関のドアをノックした。
『トントントン!! 上條さん! 上條さん!』
足利は、上條が住む、マンションのドアをノックしている。
その音に気づき、上條が、さっきまで寝ていたかのように、目をこすりながら、部屋から出てきた。
上條「な、なんですか?」
すると足利は、新しく手に入れた、警察手帳を取り出して、お決まりの文句を言った。
助九「私、こういうものですが!」
上條「刑事さん、また、またですか!?」
上條は、丁重に、足利を部屋に招き入れた。
部屋は綺麗に整頓されており、散らかしや、ホコリは、見当たらない。
趣味の収集品なのか、南国のエキゾチックな民芸品が飾られている。
助九「上條さん、今日お尋ねしたのは、あなたが車を貸した、直心本気男さんについて、お聞きしたいことがありましてやってきました。あなたと、直心さんは、どんなご関係ですか?」
上條「大学の同期です。」
助九「ほうほう、それで、直心の方から、事故の当日に、車を貸してくれと、頼まれたのですね?」
上條「その通りです。」
助九「ほうほう、それで、直心さんは、車を、どんな目的で使うとか、聞いていませんか?」
上條「たしか、店の帰りに使うと、聞いています。」
助九「ほうほう、店? どんなお店でしょうか?」
上條「たしか、友人と飲みに行くとか、言っていました。」
助九「ほ、友人? 飲みに行く? 彼は確か、車は一人で乗ったと、そしてお酒は飲まない体質だと、そうか! 頼まれたんだ! 帰りの運転の代行を、頼まれたんだ! 頼んだ相手はたぶん、横峯司か。上條さん、どのお店に行くとか、聞いていませんか?」
上條「たしか、赤栄の、丸ちゃん酒場って、言っていました。」
助九「分かりました。情報提供、ありがとうございます。今日は我々、警察関係が、失礼なことを言いましたが、許してやってください。それでは、お体に気をつけて、お仕事頑張ってください。」
上條「はぁ、」
足利は、丁寧にお礼を言うと、急いで上條宅から、外に出た。
それはもう、日が暮れた、街の街灯が優しい光を放つ頃でした。
足利は、情報提供があった丸ちゃん酒場に、直行します。
丸ちゃん酒場は、赤栄の繁華街にあって、車が渋滞している人口密度が高い場所にあった。
丸ちゃん酒場は、3階建てのビルの2階にあって、店のライトが夜の街を照らしている。
客が出たり入ったりしているビルで、夜なのに人の移動が激しい。
足利は、勢いよく、2階の店の玄関のドアを開ける。
店員「へい、いらっしゃい!!」
足利は、威勢が良い店員に向かって、警察手帳を見せると、直心本気男の顔写真を見せて、事情を聞いた。
助九「店員さん、お宅のお店に、一昨日、こんな客がきませんでしたか?」
店員「えっ、こんなお客さんですか? あ~確か、きました。はい、覚えています。」
その反応を見ると、足利は、横峯司の顔写真も見せて、聞きました。
助九「こんな顔の人と、一緒にきていませんでしたか?」
店員「あっ、そうそう、この人と一緒に、座っていました。」
助九「分かりました。ありがとうございます。今日はその確認だけできました。それでは、お仕事頑張ってください!」
足利は、勢いよく店から出ようとする。しかし、
店員「あっ、でも、その人だけじゃなかったですよ。もう一人いました。」
助九「えっ、どんな人ですか?」
店員「女性です。その三人で、座っていましたよ。それでは、またのお越しを!」
足利は、思わぬ情報を手に入れて、居酒屋から出た。
助九「あの日は、三人いたんだ! あの日、何かがあったんだ! そのことを、本人に問い詰めちゃる!」
すっかりと暗くなって、生活安全課の横峯は、自宅に帰っているということもあって、足利も自分の我が家に帰った。
取り調べは明日だ。
足利は、その尋問に向けて、生気を貯めている。
いつものように、スーパーで食材を買って、今日は調理して食べた。
そして共同の風呂に入って、明日に向かう前の、身を清めるような、儀式のようでした。
そして転がるように布団に入った。しかしその間も、足利は悔しくて、眠ることができませんでした。
翌朝。
今日は、目覚まし時計が鳴る前に起きた。
目覚まし時計をオフにして、朝食を作り、部屋の片付けをした。
まるで事件を整理するようでした。
赤栄警察署に、定時に鬼の形相で舞い戻る足利。
ガラス張りの警察署も、外の風が強く、軋んでいます。
そのまま、横峯司が勤務する、生活安全課に移動。
生活安全課では、みんな机に座って、事務作業をこなしている。
そこで、デスクに座って、書類をチェックする、横峯司の姿を確認した。
横峯も、足利の姿に気づく。
横峯「おお、助九、どうしたんだ生活安全課にきて? そしてそんな怖い顔をして。」
助九「横峯、話がある。ちょっと良いか?」
横峯「あぁ、なんだ、急に改まって。」
足利と、横峯は、署内の休憩室に立ち寄った。
休憩所は、自販機が置かれていて、ソファーが4つ並べられており、仮眠室も備えられている。
職員が、飲み物を買って休憩するところだが、今は、誰もくつろいでいなかった。
そこで足利は、話を切り出す。
助九「なぁ、横峯。3日前の夜、直心と何があったんだ?」
横峯「んっ、そのことか? 別に何もなかったよ。ただ、事故ったんだ。」
助九「お前、そんなただって!! うむんっ……、なぜ君は、事故ったあとに、救護義務や、通報義務を怠った? お前、警察官だろ!? 市民を犯罪から守るのが、仕事なんだろ? 正義を全うするって、誓ったじゃないかよ。これは犯罪だよ! ひき逃げは、同乗者だって罪に問われる! 人が一人死んでいるんだぞ!?」
横峯「そ、れは、俺もこれから、仕事も頑張らなくてはいけない。まだ俺は、20代の有望な働き手だ。だから…、」
助九「引かれた出来守さんも、有望なんだよ!! 直心も有望なんだよ!! 別にお前だけが、特別じゃないんだよ! 地球は自分を中心にして、回っているんじゃないんだよ!!」
横峯は、分が悪そうに、表情が曇る。
助九「誰が運転して、事故った? 直心か?」
横峯「いや…、俺だ…。」
助九「誰がその場から去ろうと、言い出したんだ?」
横峯「それも俺からだ……、相談して、一緒にそうしてもらった。」
助九「横峯が運転していたんだな。お前は、直心のことを、真面目すぎると言ってたが、お前は本当に、不真面目すぎるよ!」
横峯「何とでも言え。」
助九「俺は、一人の刑事として、お前を逮捕しなくてはいけない。」
すると急に、横峯の顔が弱々しくなり、体をくねらせながら、弁解する。
横峯「なぁ、助九。俺たち同期だろ? なんとか何らないか? 最近、警察の不祥事が続いているだろ? 俺の今回の事件が、世間にバレたら、ますます警察への不信感が高まっちまう。なぁ、わかるだろ助九? 何もなかったことにしてくれと言ってるんじゃない。今回の事件の真相には、追求しないでくれと言っているんだ。助九が言ったとおり、ひき逃げは、同乗していた者にも罪がかかる。しかし罪は直心が被ってくれると言っているんだ。頼む。見逃してくれ?」
助九「隠蔽か? その方が、ますます警察組織を危ぶませる。俺は見逃すわけにはいけねぇ。」
この足利の、固い決心を聞いて、横峯は白状した。
横峯「わかった、こうしよう。俺が引いたんだ。俺が運転していたんだ。俺がやったんだ! そうしよう。」
助九「横峯、洗いざらい、話してもらおうか?」
横峯は、完全に観念した表情になって、すべてを話し出した。
横峯「あの日、俺は酒を飲んでいたんだ。そして居酒屋から自宅に帰る時に、直心が借りた車に乗った。しかし酒を飲んでいない直心が、体調が悪いから、運転できないと言い出したんだ。そこで仕方ないから、酒を飲んでいたが、運転免許を持っている俺が運転することになった。しかし飲酒したままの運転で、事故を起こしてしまった。しかも死亡事故だ。俺たちは混乱した。俺にも未来がある。夢もある。このまま酒気帯び運転で、捕まるわけにはいかなかった。人生の大半を、刑務所で暮らしたくはなかった。そこで俺たちは、相談した。バレなきゃみんな、通常通りの生活に戻ることができる。しかし事故がバレたら、酒を飲んでいない、酒気帯び運転にならない直心が、罪をかぶってくれと、頼んでいたんだ。みんな混乱していたんだ。そして真面目なあいつは、俺の必死な頼みを、受け入れてくれた。そういうわけだ。これが、事件の真相だ。その後、交通課の、交通網を知り尽くしている直心が、交通システム上の、監視カメラが設置されていない道を選んで進んで、そのまま自宅に帰った。ただそれだけだ……。」
助九「わかった。横峯、悪いがお前を、過失運転致死傷罪で逮捕する。すまん!」
妙にこの日は、ジメジメとした風が、肌にまとわりつく日だった。
最後に、横峯は、こうほざいて連行された。
横峯「なぁ、助九。俺ってそんなに、不真面目すぎるかな?」
後日。
足利は、直心を釈放しに、留置所を訪れた。
留置所には、大声を上げる容疑者たちが、恐怖の目をしながら捕らえられている。
捕らえられた者にとっては、居心地が悪い、生活空間だ。
牢屋の中は、食事の時間だったなのか、給食のトレーが残ったままだ。
足利は、一目散に直心の場所に行き、牢屋越しに、直心に語りかけた。
助九「直心くん、あの日のことを、横峯がすべて話してくれたよ。」
直心「なに!? 横峯がすべてを話した? そうか、そうなのか。」
助九「しかしひき逃げは、同乗者にも、5年以下の懲役。または50万円以下の罰金が掛かる。それまで君も、まだここにいなくちゃいけないらしいや。」
直心「そうか、そんな罪で、収まるのか?」
助九「君は、今回の事件で、直接運転はしていない。しかし警察官ということで、罪に問われる。上司のヅラガッパ、いや、舘右近上司に聞いたが、君は、警察官から、懲戒免職されるだろう。それこそ、これからの道は綺麗に運転しろよ。」
直心「彼女はどうなる?」
助九「彼女?」
直心「いや、横峯の婚約者の、本郷操ほんごう・みさおだよ。」
足利は、この時にピーンとくる。
助九「本郷操。そういや、三人目の人物がいたな……、もう一人の女性、彼女も同乗者なのか!?」
直心「なんだ、君はまだ、事件の真相にたどり着いていないのか。」
助九「真相? 直心くん、私は、まだ真相に、たどり着いていないのかい?」
直心「なぜ当初、僕が、罪をかぶったのか? それは、彼女のおなかの中には、もうすでに、子供がいるんだよ。横峯君は、家族のために、全部の罪をかぶったんだよ。」
助九「やっ、三人目の容疑者!?」
ここで過去から、現代に戻る~。
足利は心残りを抱えたまま、不真面目すぎる警察官こと、横峯司の、18年前の事件を振り返った。
助九「まぁ、これが私の、最初の事件だった。」
黒木「なんかその事件って、意味深で、現在進行形な事件よね? ところでその、横峯さんって、その後、どうなったのかしら?」
助九「裁判所で、死亡ひき逃げ事故の、過失運転致死傷罪に問われて、18年の懲役が言い渡された。自動車運転過失致死傷罪と、酒気帯び運転と、交通事故措置義務違反の罪状がついた。さぁ、昔の話はここまでだ。私は確認しておかなきゃいけないことがある。霊と会話できる能力を持った少年との待ち合わせだ。」
黒木「また彼ですか? 今度は何を、確認するの?」
助九「今日は、友人の出所日なんだ。悪いが私は、早退だ。そこで、18年前の謎を明らかにする必要がある。」
黒木「ええっ、18年前の謎? 助九ちゃん、刑事なのに、友人に犯罪者がいるの?」
助九「まぁ、一歩踏み間違えたら、誰だって、それなりの犯罪者だからな。」
こう言い残して、足利は赤栄警察署を去った。
向かった先は、竜ヶ島刑務所だった。
竜ヶ島刑務所。
そこは天気は晴れなのに、逃亡を防ぐ高い壁が、大きな冷たい影を作っている。
竜ヶ島刑務所は、人が滅多に通らない、藍町に建つ巨大な人工の構造物だ。
そこの表門の前には、40代の女性が、息子らしき高校生の子供と一緒に、誰かを待っている。
その近くには、足利の同僚の、イケメンの直心本気男もいた。
足利は、昔の面影から何も変わらない、直心の下に歩み寄った。
その様子に気づいたのか、直心も覚悟を決めて、昔の同僚の足利の言葉を受け入れた。
助九「直心、お久しぶり。覚えているかい? 同僚の、足利助九です。」
直心「あぁ、覚えているよ。忘れられるもんか。忘れていたら、こんな所にくるわけないさ。」
助九「直心、今、職は何をしている?」
直心「うん、タクシーを運転しているよ。君に言われた通りに、今度走る道は、綺麗に運転してね。ところで、となりの少年は、誰かい?」
助九「あぁ、この子かい? 霊と会話できる子だよ。」
直心「ははっ、そんなことができるのかい? 全く笑わせてくれるわい。でも、あそこに立っている子も、君と同じくらいの年だな。彼女はあの後、裁判所に50万円の罰金を払って、無事に男の子を産んだんだ。それが一番、良かった選択だったろうな?」
高校生の冴木礼紀さいき・れいきは、純粋なまるい瞳で、アイサツをする。
礼紀「こんにちわ。」
助九「さぁ、礼紀くん、君の能力を使ってもらおう。出来守長児さんの霊を呼び出して、『前世ルート』を使ってくれ!」
礼紀は準備をする。
冴木礼紀は、18年前に死んだ、出来守長児さんの霊を呼び出した。
礼紀「僕が持っている前世ルートでは、死んだ霊に、誰に殺されたかを聴くことができる。さぁ、出来守さん、あなたを殺した人に、取り憑いてください!」
礼紀だけに見えている、出来守長児さんのむくーとした白い霊は、人の形を取り戻して現れた。
すると出来守さんの霊は、静かに、そしてゆっくりと、歩みだした。
その道は、しっかりと刻まれている。
確実に、そして冷静に、出来守さんの霊は、刑務所で人を待っている女性の背後に憑いた。
出来守「・・・・(わしゃ、この人に殺されたァ~)・・・・」
それをしっかりと確認すると、礼紀は足利に報告した。
礼紀「足利さん、出来守さんの霊が、あそこの女性に取り憑きました。彼女が犯人です!」
足利は、軽くうなづいた。
助九「わかった。なぁ、直心。真相を話してくれるか? あの女性が、本郷操さんなのかい?」
直心「あぁ、そうだ、彼女が本郷操さんだ。そしてとなりの17歳の男の子が、彼女の息子。そして、横峯司の子供。」
助九「あの日、本当に車を運転して、事故したのが、本郷操さんだね?」
直心「あぁ、そうだ。彼女はお酒を飲んでいないといっていたが、軽く飲んでいた。そして免許を取りたてということで、実際に、車を運転したいと、言い出した。私はお酒を飲んでいないと思っていたから、任せてみた。そして事故が起こったというわけだ。」
助九「君は真面目すぎた。来年には家族ができる横峯夫妻を、見捨てるわけにはいかなかった。そこで横峯から相談されて、事故を起こした本郷操の罪を被り、自分が運転していたと、名乗った。そして監視カメラに写らないように車を運転して帰った。」
直心「まぁ、そういうことだ。」
助九「しかし、横峯も、彼女のことを、かばうなんてな。来年には夫婦になり、子供が生まれる。そんな大事な家族を、見捨てるわけにはいかなかったか。」
直心「あ、表門が開いたぞ!」
竜ヶ島刑務所の表の門が、ギギーと開き、そこから44歳になった、横峯司が、刑務官に付き添われながら、お天道様の下に出てきた。
刑務所暮らしで、多少、老けた横峯司は、苦悩を満ちたシワが刻まれていて、頭が少し禿げている。
その横峯のもとに、泣きながら本郷操が、駆け寄っていった。
その感動的な光景に、足利もグッとくる。
直心「横峯と、彼女は、今日、籍を入れるらしいぞ。今日は出所日でもあり、結婚記念日だ。」
助九「幸せになってもらいたいな。」
横峯司と、本郷操は、いつまでも抱きしめ合っていた。
そのそばには、事情を聞いた横峯の息子も、涙を浮かべながら立っている。
助九「直心はどうする? 礼紀くん、我々は行くぞ。家族だけの時間を与えてやろう。」
直心「そうだな、今日は見守りにきたんだ。私も帰るとしましょうか。仕事がまだ残っているんでね。」
こうやって、不真面目すぎる警察官こと、横峯司は、人生において守るべき最愛の人を、見事救って、社会に帰ってきた。
そして今回の事件は、ようやく終わりを告げることになる。
愛する人の罪を被って刑に服した男と、それを待ち続けて、夫の籍を空けていた女のお話。
足利は、今回の事件で、警察は、すべての罪を罰するために存在しているわけではないということ知った。
誰も罪を被らないまま、そのまま本郷操が、刑に服したらどうなっていたのか?
その検証は、人生と同じで、過去を遡らない限り無理だということがわかった。
足利は、今でも警察官を続けている。
罪を犯した者を捕まえる。それは、自分の中の正義を信じるほかになかった。
第5章~ラストミッション~
ニュース「え~、午前のニュースです。近年、懸念されている地球温暖化の影響でしょうか? 世界的な異常気象により、世界中の国々で、記録的な干ばつや、大雨による洪水が記録されています。雨が降らない地域は、より干ばつ化が進み、雨が降る地域では、より雨が続くという、二極化が現れています。最近の異常気象も、地球規模で発生していますが、この先どうなるのでしょうかね? え~、続いてのニュースです。え~、いよいよ迫ってきました、人類初の宇宙旅行の第1陣が出発いたします。本隊は間近で月を鑑賞したあと、地球に戻ってくるコースを進むようです。人類も、もうそんな時代に突入しているのですね。え~、それでは日本のニュースです。今年も福男の季節です。雲龍神社の境内を走るコースで行われている、江戸時代から続く新春恒例の福男レースですが、今年一番にゴールした福男は、竜京都の赤栄に住む、足利助九あしかが・たすくさんに決定です。足利さんは警察に勤務している刑事さんだそうですが、日頃犯人を追っているために、足腰を鍛えていた甲斐があったと、おっしゃっていました。え~、続いてのニュースです。え~、先ほどのニュースとつながっていますが、竜京都の赤栄で、服を着たままの死体が発見されました。被害者の身元はまだわかっていませんが、40代くらいの女性が、アート美術館の噴水で溺れているのが見つかって、至急病院に運ばれましたが、死亡が確認されました。え~、先ほどの刑事さんですが、管轄内であったら、走って、この事件担当するのでしょうか? 以上、午前のニュースをお伝えしました。」
サイレンを鳴らすパトカーが、ひっきりなしに集まっている。
奇抜なデザインの建物の、アート美術館前には、真剣な顔をしたお巡りさんたちが、死体が発見された噴水近辺を捜査している。
噴水では、遺体があったことが分かるように、線で囲まれている。
段差がある噴水は、10メートルの広さで、水深は20センチメートルだった。
事件現場の噴水は、無情にも、水を湧き出している状態だ。
死体はすでに、死体安置所に運ばれている。
キープアウトのテープが貼られ、アート美術館は、立ち入り禁止になった。