大殺人クイズ
主人公の、兵藤礼紀は、葬儀屋の息子だった。その家庭環境で育った彼には、霊の声を聞ける能力を持っていた。その葬儀場に、一人の刑事が訪ねてくる。その刑事は、礼紀の能力を、目の当たりにする。そこで刑事は、礼紀に捜査協力を頼み、難事件に挑むのであった。
第2章~大殺人クイズ~
竜ヶ島の、赤栄の中心街から外れた郊外の、島の西側の、悪魔の森と、白浜で有名な橙町に、ぽつんとたたずむ、平たく長い巨大な冴木会館。
その1階建ての、そびえ立つ風貌は、不気味さを物語っている。
ここが礼紀の、実家である。
冴木会館は、お葬式を行う斎場である。
幾人もの人たちの、涙をこぼさせた空間。
冴木礼紀は、ここの冴木屋という葬儀屋の一人息子だ。
礼紀には、冴木雪さいき・ゆきという母親がいる。
しかし父親は、礼紀が幼い頃に離婚していない。
冴木は、母親の雪の家系だ。
だから冴木会館の経営者は、冴木雪だ。。
そこへ礼紀は、戻ってきた。
礼紀にとっては、失意の帰宅。
あのまま、りのんにとっての迷惑な存在になることは、苦痛でしかなかった。
そこへ、一人の女性がやってきた。
それは礼紀の母親だった。
冴木雪「あら、礼紀、あんた病院に入院中じゃなかったの?」
礼紀の母親は、髪はパーマをかけていて、小太りな、42歳の、やさしい感じがするお母さんです。
やさしくて、肝っ玉母ちゃんといった印象を与える母親です。
礼紀「う、うん、帰ってきた。」
冴木雪「あら、そう……、だから言ったじゃない。あんたが霊感が強いからって、精神科医に診てもらったって、何の意味もないのよ。」
礼紀「う、うん…。ところで母さんは、何をしていたの?」
冴木雪「あ、そうそう、今度ね、うちで新しく働いてもらうアルバイトの娘さんのために、研修をしていたの。ほらほら、その娘さんがこちらの、木下この葉ちゃん。美人でしょ。礼紀、よろしくね。」
礼紀「!?」
この葉「あぇ!? 礼ちゃん? えっ、冴木屋って、礼ちゃんの実家だったの?」
礼紀の実家である葬儀屋の冴木屋で、偶然に運命のめぐり合わせで、再び出会う男と女。
これは、礼紀に恋心を寄せる、木下この葉にとってはラッキーでした。
街の郊外にひっそりとたたずむ冴木会館の周りには、まだ自然が残されています。
そこには久々の再開を祝うような、春の虫たちの鳴き声が聞こえている。
その冴木会館に、今日もまた遺体が運ばれてきた。
それを礼紀の母が、運ばれてきた遺体をみて説明します。
冴木雪「こちらが、自殺で亡くなった片野坂進かたのさか・すすむさん。」
薄暗い遺体安置所に運ばれた遺体によって、そこの室温も数度下げられているようでした。
真っ白な姿になった片野坂さんは、なんだかとっても悲しそう。
片野坂進「・・・・(殺された)・・・・。」
確かにそう聴こえました。
ものを語れなくなったはずの片野坂さんから、確かにそう聴こえました。
片野坂進「・・・・(わしゃ、殺された)・・・・。」
その悲痛な叫びに、礼紀が反応しました。
礼紀「ん!? 確かに聴こえるっ…。」
死者の悲痛な声が、確かに礼紀には届きました。
礼紀「これは事件性がある。この片野坂進さんは、決して死にたくはなかった。本人がそう云っている。これは、自殺じゃない、殺されたんだ!!」
これが葬儀屋の息子として生まれた礼紀が持っている、霊と会話することができる能力。
礼紀だけが持っている、『人の霊が見えたり、聴こえたりする』という能力は、葬儀屋に生まれたからこそ特別に身に付いた能力だ。
礼紀「これは火葬をする前に、警察に人に知らせておく必要がある。」
ちょうどそこへ、一人の男がやってきた。
男「冴木会館……、ここか。」
その男は、冴木屋の敷地に踏み込みました。
その男は冴木会館に入ってきて、薄暗い遺体安置室にいる、葬儀屋の礼紀の前まで歩み寄って言いました。
助九「私、こういうものですが……。」
その男は、胸元から警察手帳を取り出して、礼紀に対してみせました。
足利助九あしかが・たすく。
年齢は、44歳。
もう髪は薄くて、鋭い眼をした一八五センチメートルの大男。
服装は、ハゲ頭を隠すように、ハンチングの帽子をかぶっている。
スーツにコートを着た、敏腕刑事を思わせるような格好です。
すこし焦っているようにも、感じられました。
助九「突然に申し訳ありませんが、本日ここの葬儀斎場で、葬式を行うために運ばれた片野坂進さんの遺体を捜しているのですが、刑事として疑問に残る点を確認するためにやってきました。」
助九「念のために、本日の火葬は取りやめにしてもらいます。気になる点を確認した後に、片野坂進さんのご遺体は警察の機関に搬送する手続きになると思いますので、捜査協力をお願いいたします。」
礼紀は、足利刑事の警察手帳を見て、その刑事さんの話を聞いて、安心したようすになって、片野坂進さんが死亡した事件について伝えます。
礼紀「刑事さん、これは他殺です。本人がそう云っています。これは自殺ではなくて、他殺です!!」
その礼紀の意思を聞いた足利刑事は、すこし驚いています。
助九「なぜ君に、そんなことが……。」
そして足利刑事は、戸惑いながら冴木会館に来た理由を話します。
助九「私もこの片野坂進氏の件には、ちょっと疑問があって、火葬をする前に、二、三調べようと思ってここまでやってきたわけだ。」
それを告げると足利刑事は、礼紀の能力について聞きます。
助九「君は、礼紀君といっていたね。しかしなぜ君は、この片野坂氏の件に事件性があると解ったんだい?」
礼紀は、その足利刑事の疑問に答えました。
礼紀「ずっと隠して生きてきたけれど……、ぼくは、霊の存在を感じることができるんです。片野坂さんの霊が訴えてきたんです。それをぼくが、言葉にして変換することができるのです。」
それを聞いた足利刑事は、率直に驚いています。
助九「そ、そんなことが出来るのか……? 海外の警察では、超能力者を使って捜査をしているということは聞いたことがあるが、もしそれが真実とするならば、礼紀君、君はすごいね。」
足利刑事はそれを一瞬、信じたかのような表情をして、すこし間があいてから半信半疑に礼紀に対して聞きました。
助九「じゃ、礼紀君。片野坂さんを殺した犯人が、誰だかわかるか?」
その質問には、礼紀は首を横に振ってから言いました。
礼紀「それは今はわからない。でも片野坂さんは、死にたくなかった。それは確かだ。それなのに犯人によって、自殺に見せかけられるようにして殺された。それはすごく、無念だった。」
この礼紀の言葉を聞いて、足利刑事は礼紀の能力を信じました。
まだ足利が話していない、片野坂進氏の死に方を言い当てたからだ。
すると足利刑事は、すぐさまこの場所から移動する準備を始めました。
助九「礼紀君、君の力が必要だ。捜査に協力してくれないか?」
足利刑事からの要請を受けて、礼紀は承諾したかのように言いました。
礼紀「はい、ついていきます!!」
と、礼紀が決意したところに、今までの話を聞いていた一人の女性が急に現れました。
それは、木下この葉だった。
この葉「礼ちゃん、今の話本当なの?」
この葉は、心配した真剣な目をしています。
この張り詰めた重い空気の中で、礼紀が口を開きます。
礼紀「そうだよ、本当だよ。」
それを聞いて木の葉は、目を大きく開いて驚きます。
しかしこの葉は次の瞬間、驚くようなことを言いました。
この葉「私も行く。」
これには、足利も、礼紀も、驚きました。
この葉「だって礼ちゃんは、未成年だもの。心配だし。私は風邪気味だけどついていく!」
足利は最初は反対しました。しかしこの葉の意志は固くて、無理やり礼紀たちについていくことになります。
礼紀「この葉ちゃんは、バイトの仕事を抜け出して大丈夫なの?」
この葉「秘密、秘密。私は影が薄いし、今日はそんなに仕事がないから。」
こうして、足利刑事と、礼紀と、この葉の三人で、この事件を捜査することになった。
3人が冴木会館を出発する際に、礼紀の母親が、礼紀に対して伝言します。
冴木雪「次の仕事が入っているからねー。新井出幸子あらいで・さちこさんだからね~!」
大地の息吹が感じられるころ。花の笑顔も満面の笑みを咲かせていました。
巨大な斎場を後にする3人。
時はすでに、お昼の正午を回ったころです。
ここは、足利刑事の車の中である。
車の中に設置されてある、芳香剤の香りがしている。
助九「私は、一刑事として今回の事件の犯人を捜している。君たちにはまだ言っていないが、今、日本では、巨大な連続保険金偽装自殺殺人事件が起こっている。」
助九「私は、その事件を担当していた。しかしその事件と、今回の片野坂進氏の自殺死とは、関連性がないとしている。警察は無関係だとしている。」
助九「しかし私は、まだ捕まっていない連続保険金偽装自殺殺人事件の犯人と、この片野坂進さんを自殺に見せかけて殺した犯人は、同一人物であるとにらんでいる。」
助九「その連続保険金偽装自殺殺人事件と、片野坂進氏の自殺とを、結びつける確たる証拠は、何一つ持っていないがね……。いや、しかしこれは、私の刑事としての勘ですよ。だから私は、警察という組織から離れて、こうやって単独で活動しているというわけだ。」
それらを聞いた礼紀は、何気なく足利刑事に聞いてみた。
礼紀「なぜ足利さんは、その連続保険金殺人と、この片野坂進さんの件が、関連があると思っているのですか?」
その質問を聞いた足利刑事は、即答しました。
助九「大いにあるよ。連続保険金偽装自殺殺人事件の被害者の死に方の多くが、練炭を焚いたことによる、一酸化炭素中毒死なんだよ。それに持っていなかったんだ。おかしいと思わないか? 密閉された車の中に設置されてあった、鉢の中の練炭に、火をつけるマッチや、ライターなどの火を点ける道具を、片野坂さんは、持っていなかったんだ。自殺だったら、オカしくないか? 車の中からは、発見されなかった。」
これが足利刑事の洞察力だった。
しばらくしてから、車が止まりました。
すこし長い間、礼紀たちを乗せた車を、足利刑事が運転していたようです。
助九「ふー。さぁ、着いたぞ。ここが片野坂邸だ。」
3人は、赤栄にある閑静な住宅街に建つ、一軒の家に到着しました。
その家には、葬式を行っていることがすぐに解りました。
葬式を行う家にある看板が立っていました。
見た目はいたって普通の家が、片野坂進さんが住んでいた家でした。
その家の前で、なにやら見慣れない男が、ちょろちょろとカメラを持って嗅ぎ回っています。
それを見た足利刑事は、渋い表情をしています。
助九「黒い喪服を着ていない。マスコミ関係のやつか!? 情報が早いな。」
足利刑事は警察の特権として、その男をつまみ出そうと、近付いて、首根っこを持ち上げました。
しかし、
男「ちょっと、ちょっと!? 一般人ですよ!!」
そんな反応の男に対して、足利刑事は聞きました。
助九「じゃ、職務質問をする。名前は?」
すると男は、自信に満ちた表情になって答えます。
風間達男「風間達男です。推理マニアの風間です。」
風間達男かざま・たつお。26歳。
髪は長く伸ばした天然パーマで、痩せ型の、170センチメートルほどの男です。
メガネをかけて、カメラを持って、リュックを背負った姿をしています。
情報オタクで、推理マニア。
しかしこの男は、ネットの世界では英雄である。
助九「(風間達男・・・、なにやらどこかで、聞いたことがある気がする。)んんっ、さぁ、ここは、一般人の関係がない君は、場所をわきまえて去りたまえ。」
しかしこの風間達男は、足利に言います。
達男「乱暴しないでくださいよ。わたしもあなたのように、この事件を追っているのですよ、足利警部補。」
この風間の発言に、足利は驚きを隠せません。
助九「な、なぜ、私の名を……。」
達男「知っていますよ、敏腕刑事の足利さん。我々の世界では、有名ですからね。頭脳はさほどではないが、勘は鋭くて、数々の難事件を解決した赤栄警察のエースですからね。」
すかさず風間は続けます。
達男「私の推理が正しければ、亡くなった片野坂進氏は、偽装自殺殺人の犯人によって殺害された。これは他殺です。」
この風間は、警察でしか知りえない、連続する偽装自殺の事件を知っていました。
達男「私は、自分の力で、この事件の犯人を突き止めます。また私の推理が聞きたかったら、呼んでください。きっとあなたたちの力になることでしょう。」
警察では自殺として取り扱われた片野坂進さんの事件を、事件オタクの風間達男も、事件性があって、事件の犯人がいるということを調べていました。
そのまま風間達男は、スタスタと住宅街から去っていきました。
この住宅街は、不気味に静まり返っていました。
礼紀たちは、気を取り直して片野坂邸の玄関の前まで行きました。
玄関には、葬式を行っているときに貼る忌中紙が貼られています。
『ピーンポーン。』
刑事の足利が、片野坂邸のチャイムを鳴らしました。
女「はーい。」
と、いう女性の声が聞こえました。
すると玄関のドアが、『ガチャ』と、開きました。
家の中から出てきた女性は、お客の足利たちの顔を確認して聞きました。
女「どちら様でしょう?」
足利刑事は、家から出てきた年増の女性に向かって、警察手帳を見せました。
助九「私、こういうものですが…。」
それを見た奥さんは、たじろぎながらこぼします。
片野坂ひとみ「け、刑事さん……。」
片野坂ひとみ(かたのさか・ひとみ)。56歳。
片野坂進の奥さんで、亡くなった進と同じ56歳。
髪を後ろで結んで、すこしシワが目立つ古風な女性。
小柄な体格で、喪服を着ている。
最近、パートナーをなくしたせいか、すこしやつれている。
その奥さんに向かって、足利刑事が真実を聞き出そうとします。
助九「奥さん、警察に何かを隠していますよね?」
片野坂ひとみは、足利刑事の目を見ることなく言います。
片野坂ひとみ「いえ、全部警察の人に、何度も言った通りです。夫は、自分で死の道を選んだのです。」
と、突っぱねる。
しかし足利刑事は、粘ります。
助九「奥さん、進さんには、多額ならぬとも、保険金の死亡保険がかけられていましたよね?」
それに対して、ひとみさんは、すこし震えながら答えます。
片野坂ひとみ「そ、そうですね…。」
と、あいまいな返事をします。
そして足利刑事、確認の質問をしました。
助九「進さんは、タバコを吸う人だったのですか?」
片野坂ひとみ「い、いえ、吸わないですが……。」
足利刑事はひとみさんに質問をすることを止めて、いったん外に出ることにしました。
助九「礼紀君、片野坂の工場に行こう。」
突然に足利刑事は車に乗って、礼紀たちを連れて、片野坂さんが経営をしていた工場がある場所へと移動します。
その工場に何が待っているのか?
礼紀と、この葉には、まだわからなかった。
その車の中で、足利刑事はつぶやきます。
「何かを隠しているのは間違いない。しかし俺たちには、証拠がない。片野坂進さんが死亡したときにいた場所の工場に行けば、何か見つかるだろう……。」
礼紀たちは、再び乗った車の中で、強い芳香剤の香りを楽しむ余裕はなかった。
そうしてる間に、礼紀たちを乗せた車が、片野坂さんが経営をしていた、工場にやってきました。
赤栄の郊外に建っている工場は、片野坂邸から、車で10分ほどの場所にあります。
広い敷地に、3階建ての工場があります。
今は運転をしていない、ひっそりとした場所です。
礼紀たちは工場の敷地に入って、すぐに片野坂進さんが死亡した場所がわかった。
たくさんのお花が、献花してあったからだ。
そこは、工場の敷地内にある駐車場だ。
足利刑事は、駐車場に入る入り口にかかったチェーンをはずして、遺体が見つかった車へと進んでいった。
その車は、いまでも当時のままに駐車してある。
足利と、礼紀と、この葉は、手を合わせて冥福を祈った。
その駐車場には、三階建ての工場の影から、太陽の木漏れ日が差し込んでいた。
助九「片野坂進さんは、この車の中で練炭を焚いて、一酸化炭素中毒で亡くなった…。礼紀君、君の力で何か解るか?」
礼紀は静かに目を閉じると、何かを感じ取ろうとしています。
ついにレイキは、霊と交信しやすいザイキへと、人格を変えようとします。
兵藤礼紀の、目が変わった。
そして礼紀の肉体を、ザイキが支配したとき、弱弱しく問いかけるようにして語りだしました。
ザイキ「・・・・片野坂進さんは、ここで一人で携帯電話で話していた・・・・。」
ザイキ「・・・・進さんは、何かに悩んでいた・・・・。」
ザイキ「・・・・そして安心したかのように眠った。そして、気が付けば死んでいた・・・・。」
すこし間が空いて、徐々に兵藤礼紀の肉体が、主人格のレイキに戻っていきます。
礼紀は、涙目になっている。
レイキは、ザイキのときの記憶も持っているので、最後に礼紀が付け加えました。
礼紀「はぁ、は、今は、これしかわからない。」
しかし、それを間近で聞いたこの葉がもらします。
この葉「それじゃ、他殺じゃないじゃん。」
その場には、暗い沈黙が続きます。
誰もが事態は暗礁に乗り上げたと思いかけたとき、足利刑事が思い出すようにして言いました。
助九「そういえば、片野坂進さんの携帯電話は、遺留品として家族の元に戻っていたな。それを調べてみよう。」
足利たちは急いで、車で再び片野坂邸へと戻りました。
時刻はもう、おやつを食べている時間です。
帰りの足利刑事の車の中です。
礼紀『片野坂進さんは、絶対に死にたくはなかった!』
礼紀たちは、さっきまで通ってきた車外の風景を、逆に見ながら、土地勘を確認している。
礼紀たちは、またこの閑静な住宅街に戻ってきました。
車で10分のところです。
『ピーンポーン』
足利刑事が葬式中の片野坂邸のチャイムを鳴らすと、奥から一人の女性が出てきました。
片野坂ひとみ「はーい、どなたでしょう?」
片野坂ひとみである。
すると足利がひとみさんの目をにらみながら、口を開きました。
助九「先ほどの、刑事ですが……。」
片野坂ひとみ「ま、また刑事さんですか!?」
助九「奥さん、進さんが遺した携帯電話を、提出してもらえますか?」
片野坂ひとみ「は、はい。解りました。」
足利刑事は、進さんの携帯電話を受け取って、他の進さんの遺留品の提出を求めます。
助九「この靴、奥さんのものではないですよね?」
片野坂ひとみ「は、はい、主人のものです。」
それを見た足利刑事は、ピーンときました。
助九「奥さん、この新品の靴、いつ買ったのですか?」
片野坂ひとみ「それは、主人が死ぬ前に買ったものです。」
それを聞いた足利刑事は、眉間のシワが険しくなりました。
助九「ちょっと待ってくださいよ奥さん、これから自殺するって人が、新品の靴なんて買いますかね?」
片野坂ひとみの顔が凍った。
するとひとみさんの目からは、大粒の涙がこぼれだしたのです。
それは、葬式で集まった、片野坂家の親戚たちの目の前でです。
片野坂ひとみさんは、泣き崩れるようにして白状しました。
片野坂ひとみ「確かに主人は、自殺をするような人ではありませんでした……。」
助九「わけを聞かせてもらえますか?」
片野坂ひとみさんは、親族の前で泣きながらすべてを語ります。
片野坂ひとみ「こんな不景気の世の中で、工場の経営は厳しかったのです。多額の借金を背負っていました。それに私たちだけでも苦しいのに、私たちには子供が3人もいるのです。子供たちの将来も考えると、私、不安で、不安で……。」
片野坂ひとみ「私は何度も自殺を考えました。そして何気なく、インターネットの自殺サイトにアクセスしてしまったのです。そこには保険金詐欺をして、保険金を手に入れる方法を教えるという、書き込みがあったのです。」
片野坂ひとみ「私は今の現実から逃れたいという一心で、ついそこの書き込みをクリックしてしまったのです。そこには、成功したらその保険金の中から報酬をくれれば良い、と書いてありました。」
片野坂ひとみ「私はこの苦しみから簡単に逃れられると思い、冗談のつもりで保険金殺人の手続きをしたのです。依頼をしてしまったのです。本当に冗談のつもりだったのです…うっ。」
片野坂ひとみ「そしたら現実に起こってしまって、夫は本当に死んでしまって……うっ。結局、保険金は、私が夫の車の中にライターを入れ忘れたのに、警察に自殺と判定されて…だから下りないということで……うっ。」
ひとみさんの口からは、もうこれ以上言葉が出なかった。
片野坂さんの親戚中が、騒然としている。
足利刑事は、提出された進さんの古いタイプの携帯電話を、警察署に送って調べてもらっています。
片野坂進さんが、死ぬ前に最後に電話をした相手がわかれば、この事件の犯人に近付く。
間違いなく片野坂進さんの死に、関係している。
助九「片野坂進氏の自殺死に関連する、直前に電話をした相手、それさえわかれば……。」
時刻はもうすでに、日が暮れかかっているころでした。
夕空に飛ぶカラスの鳴き声が、切なかった。
報告を受けた足利刑事が、急いで礼紀たちの下に駆け寄ってくる。
助九「礼紀君、解ったぞ!」
足利刑事は息を切らしながら、残念そうに伝えました。
助九「最後の電話の相手が、電話をかけた場所、それは赤栄の、本町通りの公衆電話だ……。これで捜査は難航する。」
人通りが激しい誰もが使える公衆電話だと、犯人を特定するのは困難である。
犯人が履いている靴を特定する、靴の指紋の靴跡痕もたくさん残っていて特定するのは難しい。
この状況に、足利刑事は渋い表情。
しかし礼紀は、まだ自信満々の表情をしています。
礼紀「まだ、わからないですよ。」
そして礼紀は言います。
礼紀「ぼくをその場所に連れて行ってください。その場所さえわかれば十分です。」
その公衆電話の場所は、車で移動することが出来る範囲にありました。
足利の車で移動中に、礼紀はみんなに、ザイキが持っている能力の一つを説明しました。
”前世ルート“
礼紀「ぼくは霊を見ることができる。そしてザイキは、霊と交信することができる。死んだ霊は、ぼくに語りかけてくれる。殺された霊は、殺した人間を知っている。」
礼紀「その霊は、殺した人間の下へと、追いかけさまよい歩く。殺された人間は、殺した人間を憎み、その人間に悪霊として取り憑く。だからその霊のあとを追っていけば、おのずと犯人にたどり着くことができる。それがぼくが持っている“前世ルート”という能力だ!」
そう説明した後、礼紀は黙り込みました。
ただ犯人に対しての怒りが、こみ上げてくるだけでした。
足利刑事が運転する車は、確実に目的地に向かっています。
車の窓から見える光景が止まったと思ったら、目的地の赤栄の本町通りに到着していました。
大きな道路に、車がひっきりなしに通っている。
太陽は沈んでいて、周りはもう薄暗い。車のライトだけが妙に明るかった。
そして犯人であろう人が、片野坂さんに電話をかけた公衆電話を見つけた。
「ここだな。」
助九「しかし礼紀君、さっき車の中で説明した“前世ルート”といったって、この場所から犯人との距離が遠すぎたらどうなるんだ?」
礼紀「それは今はわからない。でもやってみるさ!!」
礼紀は電話ボックスの側で、片野坂進さんの霊を呼び出しました。
片野坂進さんの霊は、ここから最後に電話をかけた、おそらく犯人であろう人物の下へとたどり着きます。
だんだんと礼紀の声が弱弱しくなって、礼紀の肉体を別の誰かが支配しようとしています。
急に呼吸が荒くなり、身体が一回り小さくなったような立ち姿になりました。
礼紀の目が変わりました。
ザイキのときに使える“前世ルート”が始まります。
ザイキ「・・・・片野坂さん、たのむよ・・・・。」
礼紀がそういうと、礼紀の目の前には、うっすらと白い老人の人間の姿が現れて見えます。
その片野坂進さんの霊は、ゆっくりと歩き出しました。
着実に一歩、一歩。歩いていきます。
それを礼紀たちが付いて行きます。
片野坂進さんの霊は、右へ左へ、前に後ろに、行ったり来たり、止まって回って。
ただ礼紀たちは、その霊のあとを付いて行くだけでした。
それに不安を感じた足利刑事は、礼紀に聞きます。
助九「本当にこれで大丈夫か!? 礼紀君……。」
足利刑事と、この葉は、ただ礼紀のあとを付いて行くだけです。
時刻はもう夜になっています。
そんなこともお構いなしに、片野坂進さんの霊はさまよい歩きます。
歓楽街の夜のネオンが、月の光並に輝いていた。
すると片野坂進さんの霊を追っていた礼紀が、ピタリと足を止めました。
助九「どうした!? 礼紀君。」
すると礼紀の口が開きます。
礼紀「ここだ。片野坂さんの霊が止まったのです。ここに犯人がいる!!」
この葉「意外と、近かったね。」
足利刑事は、霊が止まった場所に建つビルを見上げます。
助九「何? 最高福会!?」
礼紀たちが辿り着いたのは、今、世間を騒がしている『最高福会』という、宗教団体が入居している建物でした。
すると片野坂さんの霊は、夜のネオンが輝く歓楽街の一角にあるビルの中に、入っていきます。
片野坂進さんの霊は、犯人を捜すようにして追っています。
礼紀たちは、その霊の後を追って『最高福会』が入居しているビルの1階に入っていきました。
そのビルの1階も最高福会が入居しているフロアで、意外ときれいに掃除がされている空間でした。
入り口に入った礼紀たち。
するとそれを見た一人の男が駆け寄ってきて、礼紀たちに軽く声をかけてきました。
男「入会希望の方ですか? あっ、紹介が遅れました。私、最高福会の副代表をやらしてもらっている、花岡と申します。」
花岡純二はなおか・じゅんじ。32歳。
スーツにネクタイ姿で、髪型は七三わけで、人がよさそうな感じがする、175センチメートルくらいの男性です。
まさしく律儀な営業マンといった印象を与えるように、ハキハキとした口調で、丁寧に説明をしてくれています。
そして、犯人を見つけにきた真剣な表情をしている礼紀たちに向かって、花岡は語ります。
花岡純二「我々は、人間が憧れている幸福を提供している団体です。人は何のために争うのか? 地球に生まれた人間の使命とは? 本当の幸せとは何か? その答えをともに探すお手伝いをさせてもらっている団体です。」
その説明が終わると、足利刑事は礼紀に尋ねます。
助九「コイツが犯人か?」
しかし礼紀は言います。
礼紀「いや、違う。この人ではないみたい……。片野坂さんの霊が取り憑かない。」
片野坂さんの霊は、まだ犯人に辿り着いていないようです。
しかしそんな中でも、花岡は礼紀たちに、最高福会を宣伝します。
花岡純二「我々の最終目標は、不老不死なのですよ。我々の教えを信じてさえすれば、ガンなんか予防できる。みんな幸せになれるのです。」
その教えを言い終えると、花岡は礼紀たちに説きます。
花岡純二「本日は特別に、キャンペーン中なので、入会金は無料になっております。この機会にぜひ、チャンスを生かしてあなたも最高福会に入会してみてはいかがでしょうか?」
それに対して足利刑事は、怖い顔をしてきっぱりと言います。
助九「私たちは別の用事でここまできたのだ。とりあえず責任者を呼んでもらおう。」
それを聞いた花岡は、若干怯みながら言います。
花岡純二「わ、私では、不十分でしょうか……?」
そんなやり取りをしている中に、一人の男が奥のスペースから現れました。
男「私は、代表代行の室重です。何か用事があるのなら、私が対応いたします。それよりその隣にいる方は、かなりの美人さんではありませんか。」
室重和矢むろしげ・かずや。27歳。
髪型はロン毛のセンターわけで、顔は面長で耳にピアスをしている。
オシャレな格好をした、一七八センチメートルの男です。
独特のオーラを発するような、印象を受ける。
そして礼紀は、室重和矢を見たとたんに、目が止まりました。
それは室重の独特なオーラに怯んだのではなくて、片野坂さんの霊が、スーっと和矢氏の背後に憑いたからです。
礼紀「やっと見つけたぞ!! ついに辿り着いた。」
礼紀は前世ルートで、犯人を特定しました。
室重和矢。
彼が今回の事件の犯人です。
足利刑事は、礼紀の真剣な眼差しを見て、確認のために聞きました。
助九「彼が犯人なのか?」
その質問に、礼紀は確信を持って答えます。
礼紀「うん。間違いない。ウヨウヨしている。彼に殺された霊が、ウヨウヨしている。」
この室重和矢氏が殺した人間は、片野坂進さんだけではなかったようです。
前世ルートでやってきた霊が、それを物語っています。
室重和矢氏の背後には、おぞましい数の霊がいました。
礼紀は確信した表情で、足利刑事に任せます。
足利刑事は決意の表情で、警察手帳を取り出しました。
助九「私、こういうものですが……。」
漆黒の闇に明るく照らしたネオン街。その一角で、正義の鼓動が響きます。
花岡は、足利刑事が取り出した警察手帳を見て驚きました。
花岡純二「け、け、刑事さん……!?」
もう花岡は、おびえたようすをしています。
しかし室重和矢は、微動だにしません。
そして和矢氏は、言い放ちます。
室重和矢「刑事さんが、何のご用ですか?」
そのすこしも動揺していない和矢氏を見て、足利が丁寧に説明します。
助九「私はある事件を捜査していて、君に疑いがかかった。君に心当たりがないのなら、素直に調査協力してもらおう。」
足利刑事は冷静に、和矢氏に対して質問をし始めます。
助九「ここの最高福会の代表は、どこにいらっしゃるのですか?」
室重和矢「代表の父は病気がちで、とこどき息子の私が、代表の仕事をしています。」
助九「君の職業は?」
室重和矢「携帯電話の販売会社に、勤務しております。」
助九「君は、片野坂進という人を知っていますね?」
室重和矢「いいえ。」
足利刑事は、続けて室重和矢氏に質問をします。
助九「じゃ、片野坂進という人の携帯電話に、電話をしましたね?」
室重和矢「だから、私はその人を知りません。」
と、和矢氏は突っぱねます。
その和矢氏の態度に対して、足利刑事は感情的になって、怒鳴り声を上げて叫びます。
助九「君はわざわざ中央区の本町通りの公衆電話から、片野坂進さんの携帯電話に電話をかけただろう!!」
この足利の気迫に、室重は一瞬怯んだようすになりました。
しかし室重和矢の舌は、相変わらずに発します。
室重和矢「し、知らん。」
このやり取りを見ていた礼紀は、我慢できずに吠えました。
礼紀「あなたがやったのでしょ! それは分かっている。」
しかし和矢氏は、元の表情に戻って白を切りました。
室重和矢「じゃ、証拠があるのですか?」
それには確かに、礼紀も現実に戻りました。
礼紀「そ、それは……。」
と、おとなしくなりました。
霊がそう云っているからと、いっても、証言にはなりません。
その状況を見て、室重和矢は胸元からお気に入りのピースのタバコを一本取り出して、ライターで火をつけて一服してから、馬鹿にしたようにして口を走らせます。
室重和矢「さて、誰が犯人でしょう?」
これはクイズです。
殺人クイズ。
礼紀たちは最高福会が入居しているビルの前の、星が輝く空の下に集まっていました。
礼紀たちは犯人に辿り着いて、特定はしたものの、彼が犯人であるという決定的な証拠は、見つけられていなかった。
礼紀「間違いなく、彼が犯人だ!!」
礼紀たちはみんな、憤りを感じていました。
この葉「でもあの人、私どっかで見たことがある気がするのだけどな……?」
思惑が交差する都会の夜。
それぞれの陰謀が渦巻いた街は、まだ眠りに着こうとはしてはいなかった。
しかし足利刑事は、最後に言いました。
助九「礼紀君、この葉ちゃん。今日はもう遅いから、君たちは帰りなさい。室重和矢に関しては、俺がこの後に尾行する。後は我々、警察に任せなさい。」
そういって、礼紀たちと、足利は別れた。
このとき礼紀は、ちょっといやな予感がしたのだ。
それが勘違いであることを祈りながら、礼紀は自宅の冴木会館で眠りについた。
この葉も、自宅に戻った。
そしてこの日は、礼紀たちの捜査は終了したのでした。
翌朝。
緑に巣を作った小鳥たちが、驚愕の幕開けを告げていた。
礼紀の部屋で、一本の電子音が鳴り響く。
『プルルルルルルルル・・・プルルルルルルルル・・・。』
礼紀は、自分の携帯電話に電話がかかったときの音で目覚めました。
礼紀「はい、もしもし……。」
すると携帯電話の先からは、足利刑事の声が聞こえてきました。
助九「あぁ、礼紀君か? 私だ、足利だ。ちょっとこれから会えないか? そうか、うむ、待っている。」
なぜか足利刑事の声は、すこし怯えているようにも感じました。
礼紀は、足利刑事と中央区の赤栄警察署の前で、会う約束をした。
車が休むことなく、スピードを出して、この大通りを、順序よく通い合っている。
街の中心地に、赤栄警察署は建っています。
この重々しい建物が、市民の安心を守る象徴だ。
礼紀は、その警察署の前に到着している。
そして約束の時刻です。
礼紀は赤栄警察署の前の大通りで、百メートル先に足利刑事らしき人を見つけました。
するとその先の足利らしき人物が、遠くから声をかけます。
助九「おーい、俺だ。足利だ~。礼紀君、見えるかー?」
やはりその人物は、足利刑事でした。
すると足利は忠告します。
助九「礼紀君、そこから先に進むな! 近付いたら、呪いがうつっちまう。」
と、遠くから小さく声が聞こえます。
そこで礼紀は、聞き返します。
礼紀「呪いって、何ですか?」
と、近づきながら聞こうとします。
助九「礼紀君、私に死相が見えるか?」
足利刑事は、自分が死ぬ前の顔をしているかどうかを、礼紀に尋ねているのですが、場所が遠すぎて分かりません。
そこで礼紀は、歩み寄ろうとします。
しかし足利刑事は、あわてて口を発します。
助九「礼紀君、ストップだ!」
足利刑事は、真剣なようすで困っています。
そこで礼紀は、意を決してなだめるように言いました。
礼紀「足利さん!! ぼくを信じてください。」
礼紀は足利刑事の所に駆け寄って、足利の表情を確認しました。
礼紀「大丈夫です。死相は見えません。それより刑事さん、何があったのですか?」
足利刑事は重い沈黙の後に、昨日の夜に起きた出来事を、恐れながら語りだしました。
助九「私は礼紀君たちと別れた後に、最高福会から出た和矢容疑者を尾行して、身辺調査した。そして和矢容疑者が住んでいるマンションをつき止めた。しかしちょうどそのころに、最高福会で花岡は死んだ。花岡は呪われてしんだのだ。」
礼紀「えっ!?」
礼紀は、足利に、疑問点を聞いた。
礼紀「呪いって、何ですか?」
そのことに対しては、足利刑事は怖がった表情になって言います。
助九「和矢は、人を呪い殺すことができる。あいつは礼紀君みたいに、特別な能力を持っているのだ。」
助九「和矢は花岡を、呪い殺した。そして和矢の呪いは、周りの人にも伝染すると云った。だから私にも、その呪いが伝染したかもしれない。」
助九「仲間の刑事たちも、最高福会で呪いにかけられた。もしかしたら仲間も、花岡のように呪い殺されているのかもしれないのだ。」
礼紀は、もうすこし説明を聞きます。
助九「礼紀たちと別れたその後、仲間の刑事と一緒に最高福会を捜索したのだ。その最中に、和矢は人の死を予言する能力を見せた。そこで和矢は、花岡の死を予言したのだ。」
助九「その予言どおりに、一時間後、花岡は呪われるようにして死んだと、仲間の刑事が言っていた。確かに和矢は、人の死を予言する能力を持っているのだ。最後に和矢は俺たちにも云った、『あなた方にも寿命が見えますよ』と……。」
助九「和矢はそう言い放ってから、最高福会から自宅のマンションに帰った。その後に最高福会で、花岡が呪われるようにして死んだのだ。その時刻に、間違いなく和矢は自宅のマンションにいた。私がアリバイだ!!」
そんな戦意喪失の足利に対して、礼紀は言いました。
礼紀「本当に室重和矢が人を呪い殺したというのなら、ぼくが確認する!」
礼紀は急に立ち上がって、今にも室重容疑者がいるところに行こうとする勢いです。
礼紀は強気の表情をして、乗り気ではない足利刑事を無理やり車の中に押し込んで、最高福会が入居しているビルにまで運転させました。
足利刑事の車の中では、あの芳香剤の香りがします。
しかし事件のことに集中しすぎて、今の礼紀には、嗅覚を研ぎ澄ませる余裕がありませんでした。
礼紀は、今までにないくらい真剣な表情をしています。
車の窓の外には、街の風景が流れている。
この葉は、おいていきました。
礼紀「危ないからな……。」
車で移動中。
足利刑事は、礼紀に隠していたことを告白しました。
助九「礼紀君、君には言っていないことがある。それは、連続保険金偽装自殺殺人事件の被害者たちも、呪われて死んだのだ。」
それを聞いた礼紀は、すこし懐疑的に思っています。
しかし足利は続けました。
助九「礼紀君に、初めからその呪いのことを告げると、協力してもらえないのではないかと思って、言わなかったが、被害者の全員に不幸のメールが届けられていたのだ。」
助九「だからその呪いのメールが届いたものは、百パーセント死ぬことになる。それを我々は、死の予言メールと呼んでいる。」
助九「連続保険金偽装自殺殺人事件で、練炭による一酸化炭素中毒で亡くなった人は、すべて呪われて死んだ。予言的中率百パーセント。」
助九「しかしそのことはマスコミには流れていない。世間にこのことが流れてしまうと、模倣犯が出るので、流していない。警察の秘密情報だ。」
助九「警察は片野坂進さんに呪いのメールが届いていなかったことで、連続保険金偽装自殺殺人事件の、練炭による一酸化中毒死の被害者とは見ていなかった。ライターや、マッチなどが無かったのにも拘らず、ただの自殺と判断した。」
助九「しかし奥さんの片野坂ひとみさんが、自殺サイトに書いてあった、密閉された車の中に火が出るものを入れておく、ということをしなかったところに、目をつけた私が気づいて、片野坂進さんの事件も、連続する偽装自殺練炭殺人事件であると解かったのだ。」
助九「片野坂進さんの密閉されていた車の中に、入れたあった練炭が入っていた鉢は、依頼を受けた犯人が用意したらしい。」
助九「そしてその事件の犯人が、室重和矢だということがわかった。まぁこれは、礼紀君の能力があったからこそ、犯人を特定するところまできたのだがな。」
足利刑事がこれまでの流れを整理すると、ある箇所を付け加えた。
助九「あと、テレビのドラマなどで、自殺した人には保険金が下りないといっているからなのか、常識のように勘違いをしている人も多いのだが、自殺でも一定期間に保険料を支払えば、死亡保険は下りるのだ。だから今回の片野坂さんの件でも、保険金は下りる。それを室重は悪用して、自殺に見せかけて保険金詐取をしている。」
ちょうどその説明が終わるころに、足利の車が最高福会が入居しているビルの通りに到着した。
太陽の日差しがまぶしくなる時刻に、再び戦場に舞い戻った礼紀たち。
するとそこには、マスコミのクルーが数十人体制で陣取っていて、報道合戦を繰り広げていた。
礼紀「人一人が死んだわけだけど、何で急に、こんなに集まって、大騒ぎになっているのだ?」
すると車の運転を終えた足利が、自慢そうに口を開きます。
助九「俺が刑事としての職権を利用して、マスコミにリーク(秘密情報を漏らすこと)したんだ。これで和矢も逃げ切れないだろ。」
礼紀「さぁ、行きましょう。」
助九「おぉ!!」
現在マスコミは、足利刑事から発信された花岡純二氏の怪死の情報を情報源として、最高福会のビルの前で報道合戦をを繰り広げています。
マスコミ「我々は現在、室重康夫氏が代表を務めている、宗教団体の最高福会の総本部が入居しているビルの現場から、生中継でお送りしております。最高福会という宗教団体は、会員のなぞの死や、強引な勧誘や、過激な教えで、社会的に問題になっている団体です。その最高福会の、副代表である花岡純二氏が怪死したという情報を手にして、取材をしております。」
そのマスコミのクルーの中を、足利刑事と、礼紀が入っていこうとしています。
しかしそのときに、ある人物を見つけたのです。
礼紀「この葉ちゃん!?」
野次馬の中に、木下この葉がいたのです。
この葉は、野次馬の中にまぎれていました。
この葉「あっ!? 礼ちゃん。私、テレビでこの事件を知って、心配になってここまできちゃったの。」
しょうがないから足利は、この葉も連れてビルの中に入っていきました。
その現場に集まった人間たちが、ざわつき始めていました。
ビルの中の最高福会の、花岡純二氏が怪死した現場は3階であった。ちなみに1階と、2階は信者たちの修行フロアで、4階が室重の代表室である。
礼紀たちは早速、その3階の最高福会の実務室で、死んだ花岡純二氏の冥福を祈った。
そして礼紀は、花岡氏の霊の存在を確認した。
その霊は、とっても哀しい表情しています。
その哀しい表情を確認した礼紀は、花岡純二の遺された想いを代弁するべく、霊と交信することができる、ザイキに人格を変えようとしていました。
礼紀の目が光ったと思ったら、変わった。
礼紀は、弱弱しく、そして恨めしそうにザイキへと変貌しました。
腰は丸くなって、神経質そうに、兵藤礼紀の肉体を、まるで昨日死んだ花岡純二さんが乗り移ったかのように語りだしてくれました。
(花岡純二)「・・・・刑事さんがやってきたときは、もう見つかってしまったと思い、覚悟をした。そしてもう嘘はつけないと決意した・・・・。」
(花岡純二)「・・・・わたしは自首をしようとした。しかし和矢はまったく罪の意識がなくて、逃げ切ろうと考えている。もうアイツにはついていけない・・・・。」
(花岡純二)「・・・・そんなわたしに和矢は、『落ち着くように』と、声をかけてくれて、コーヒーを差し出した。その後に和矢は、わたしに呪いの予言を告げた・・・・。」
(花岡純二)「・・・・死の宣告を受けたのだ。しかしそれは和矢の手口だ。そしたらその予言の通りに、わたしは苦しくなって、のたうち回って、気づいたら死んでいたというわけだ・・・・。」
足利刑事も説明します。
助九「花岡は和矢から、呪いの予言を告げられたのだ。初めは花岡もその予言を信じずに、安心しきっていた。しかしその後に、和矢がこのビルから自宅のマンションに帰ろうとしたので、私がその後を追って尾行した。その間だ。花岡の体調が急に崩れ始めて、苦しみだしたのは。まるで呪われるようにと、仲間の刑事が言っていた。そのまま、帰らぬ人となった。」
助九「和矢は、『百メートル以内の人間に、一〇秒未満で呪うことができる』と言っていた。そして『その呪いは、周りの人にもうつる』と言った。確かに事実、和矢の言うとおりに花岡は死んだ。花岡が苦しみ始めて死ぬ間に、現に和矢はその場にはいなかった。」
それを聞いた木の葉は言います。
この葉「百メートル以内で、10秒未満!? それじゃ世界のトップランナーしか逃れることができないじゃん。」
ここにいるみんなは、重い表情。
足利にいたっても、こう漏らします。
助九「私も、もうすでに、呪われているのかもしれない……ゴホッ。」
この葉「足利さん、風邪ですか? 私、風邪薬を持っていますよ。」
助九「いや、いい。」
この葉「でも、何で和矢さんは、花岡さんを殺す理由があったのかしら?」
それにはザイキが、花岡純二氏の遺言を代弁して伝えます。
(花岡純二)「・・・・そ、それは、口封じ。裏切り者として、殺された・・・・。」
ちょうどそこへ、あの男がやってきたのです。
男「おやおや、心外ですね。」
そう最高福会の代表代行である、室重和矢です。
室重和矢「私にはアリバイがあるのですよ。花岡副代表が死んだときに、私は自宅にいた。それはそこの刑事さんが、確認していることですよね。」
そういいながら和矢は、外のようすを見ながら窓辺に歩いて、報道陣を眺めながらつぶやきます。
室重和矢「騒がしいですね。」
この状況にも、和矢は冷静な表情。
しかし礼紀には、彼が犯人であることは解っていました。
なぜなら死んだ花岡さんの霊が、前世ルートで、和矢の背後にスーっと取り憑いたからです。
“前世ルート”
花岡さんの霊が、恨めしそうに怨霊として和矢の背後に憑いたということは、花岡さんを殺した犯人は、間違いなく室重和矢ということです。
礼紀の顔が、いっそう険しくなりました。
弱弱しいザイキから、主人格のレイキに戻った兵藤礼紀は、また和矢氏に対して吠えます。
礼紀「はぁ、は、今回の花岡さんの事件の犯人もあなただ。それは殺された霊がぼくに云っている!」
それを聞いた和矢は、感心した表情になって言います。
室重和矢「ほー。君は特別な能力を持っているらしいですね。しかし偶然というべきか、私も特別な能力を持っているのですよ。」
和矢は豪語します。
室重和矢「私は百メートル以内の人間を、10秒未満で不幸にすることができる。」
そういうと和矢は、窓の外にいる報道陣に向かって、指をさしてこう言いました。
室重和矢「あのうるさい連中に、車が突っ込みます・・・・。これは予言です。」
すると和矢の、カウントダウンが始まりました。
じっくりと、そして確実に時間が進みます。
10・・・9・・・8・・・7・・・6・・・5・・・4・・・3・・・2・・・1・・・0・・・。
『ドーッシャーン!!』
これは現実です。
和矢の予言通りに、現実に1台の車がマスコミ関係者でごった返している報道陣に向かって突っ込んだのです。
和矢の予言が、的中した瞬間でした。
マスコミ「大変な事態が起こりました!! 我々報道陣が陣取って取材している場所に、車が突っ込んできました。多数のけが人が発生したもようです! 至急、救急車を呼んでおります……。」
この事件では、死亡者は出ませんでした。
しかし数人が軽い骨折を負ったもようです。
他にも車に当てられた数人が、大事をとって病院に運ばれました。
幸いにも突っ込んだ車が低速で、死亡・重傷者が出ずに良かったです。
しかし和矢の予言は事実、当たりました。
室重和矢「あははははは、どうですか? 私のこの能力。私は報道陣たちに不幸が起こると感じたのですよ。だから教えてあげただけなのです。」
室重和矢「花岡さんにも同様に、寿命が見えただけなのです。だから残された命を全うさせてあげるために、予言をしてあげたのです。『命を大事にしろ』と、教えてあげただけなのです。」
そして最後に、和矢は自分に対して吠え出した、気に食わない礼紀に対して呪いの予言を告げます。
室重和矢「礼紀君とやら、あなたにも寿命が見えました。必ず不幸なことが起こるでしょう……。だから気を付けてくださいね。」
とうとう礼紀にも、呪いがかけられてしまいました。
時刻は、完全にお昼を回っていました。
真上から太陽が、ジンジンと肌に照りつけています。
みんなうなだれて、最高福会が入居しているビルから出ました。
助九「アイツの能力は本物だ。人を不幸にする呪いをかける能力を持っている。アフリカあたりには呪いを禁止している法律はあるが、今の日本には、呪いをかけることを裁く法律はない……。」
しかし呪いをかけられた礼紀だけは、和矢の能力を信じておらずに、能力の裏を探そうと躍起になっています。
礼紀「ぼくは、和矢にそんな能力を持っているなんて感じなかった。きっと何か仕掛けがあるはずだ!」
霊と交信することができる男、対、人を呪って不幸にすることができる男の、超能力者同士の対決。
兵藤礼紀は最高福会が入居しているビルの周りを、這うようにして調べようとしています。
助九「礼紀君! 一人で行動すると危ないぞ!」
この葉「礼ちゃん!」
しかしそんな忠告も、礼紀の耳には入らなかった。
礼紀「ぼくは、和矢にそんな能力はないことは解っているのだ。犯人は分かっている。その証拠さえみつかれば……。」
礼紀が足利たちと離れて、単独行動をしてしばらく経ったころでした。
『ドンっ』
礼紀が見ている世界が、反転しました。
身体の力が抜けて、口はおぼろ。
礼紀「・・うっ、・・・何だお前ら・・・。」
礼紀は、誰かに襲われたのだ。
礼紀の後頭部に、強い襲撃が加えられた。
しだいに意識が遠のく・・・。
後頭部を殴った犯人の顔も、思い出せない・・・。
礼紀は誰かに襲われた。しかしそんな意識も、完全に停止した。
昼間の太陽が、異様にまぶしかった。
これが、呪いだったのか?
礼紀が目を覚ますと、そこは病院だった。
新品の薬や、救護道具や、医療機器が、きちんと小綺麗な棚に整頓されている。
礼紀のかかりつけの、長岡心療医院だ。
礼紀が意識を失っている間に、時刻は日が沈む夕方にまで進んでいた。
すると礼紀の意識が回復したことを確認した女性が、礼紀に声をかけてきた。
角島「あ、意識が回復しましたね。冴木さん、大丈夫ですか?」
礼紀は、ゆっくりと角島サヤカの目を見ました。
そこには、見覚えがある顔がありました。
角島「冴木さん、覚えていますか? 角島です。実習生のときにお世話になった、角島サヤカです。今月から新人看護婦として、精神科ではないけれども長岡心療医院で、働かせてもらっているのですよ。」
礼紀は、角島サヤカの顔をよく見ます。
しかしなかなか、はっきりと思い出せません。
そこにもう一人の女性がやってきて、礼紀に声をかけます。
この葉「礼ちゃん、大丈夫?」
こちらの女性も、見覚えがあります。
しかしこちらも、あまりはっきりとは思い出せません。
礼紀は、ポカーンとしています。
そのようすを確認した主治医の丸山学が現れて、説明をします。
丸山学「君は最高福会で倒れているところを発見されて、この病院に担ぎ込まれたのだよ。後頭部に少量の出血の痕がみられました。後頭部に、強いショックを与えられた可能性が高いです。」
礼紀は丸山の診断を聞いても、まだ現実感が沸きません。
主治医の顔も、まるで覚えていません。
丸山学「冴木さん、私のことがわかりますか……?」
しかし礼紀は、この状況をまだ理解することができていません。
そのようすを確認した丸山学は、診断しました。
丸山学「これは、脳に衝撃が加わって、軽い記憶障害を起しています。俗に言う記憶喪失に近いのかもしれませんね。とりあえず今日は、病院に泊まりなさい。」
礼紀は、この葉から、5時間あまり意識不明の状態だったことを告げられました。
しかし礼紀は、記憶障害に陥る前のことは、断片断片しか覚えていません。
この葉は、今、足利刑事さんと一緒に、事件の犯人である室重和矢を追っていることを教えられました。
しかし礼紀は、事件に関しては実感がありません。
そのようすを感じたこの葉は、礼紀に聞きます。
この葉「礼ちゃん、記憶をなくすくらいなら、もう捜査をやめたほうが良いよ。そのことを足利さんに言っとくね。」
しかし礼紀は気丈に振舞って言います。
礼紀「ぼくもライキのときは、記憶を失って覚えていないから、慣れっこだよ。」
家の外は、まだ肌寒い季節の夜です。
この日は礼紀は長岡心療医院の、任意で外に出られる病室で、一晩経過することになりました。
この葉は、自宅に戻って、翌朝に足利刑事のところに合流します。
礼紀は入院している部屋で、自分の携帯電話で最高福会の事件を調べようとしています。
礼紀「すこしでも、記憶が戻れば……。」
礼紀「んっ!? インターネットのサイトを観るには、自分のパスワードが必要なのか……し、しまった……、記憶障害のせいで、自分が入力したパスワードが思い出せない……、でも、パスワードを忘れた人のために設置されてある箇所をクリックすると、パスワードを変えることによって、インターネットのサイトを観ることができるのか。」
礼紀は、『パスワードを忘れた人』のために設置されている箇所を、クリックしました。
するとそこには、自分で選んだ質問に対して、自分で入力した答えが合うと、パスワードを変えられる仕組みになっていました。
礼紀が事前に選んだ質問は、『好きなひとの名前は~』を選んでいました。
礼紀は、事前に自分で選んで入力した答えの記憶は、鮮明に覚えていました。
礼紀「『好きなひとの名前は~』か、ぼくが好きな女性ひとの名前は・・三笠・・・、三笠りのん!!」
ヴィィィーーーン
この瞬間に、礼紀は完全に記憶が蘇りました。
冴木礼紀の復活です。
礼紀「ぼくの名前は、冴木礼紀。好きな女性は、りのん。行かなくちゃ、犯人を捕まえに行かなくちゃ。」
ちょうどそのときです。
『ギ、ギーー。』
礼紀が入院している部屋のドアが、開く音がしました。
そして一人の女性が、礼紀がいる病室に入ってきました。
りのん「礼紀くん、おかえり。わたし、りのん、三笠りのん。礼紀くん、覚えている?」
礼紀「あぁ、もちもんさ。ぼくが初めて愛した女性ひとだから。」
りのん「みんなが、礼紀くんが戻ってきたと、言っているのを聞いて、急いでここまできちゃった……。」
礼紀「それよりごめんね。前に夜に眠れないって、言っていたことを知っていて、昼間にケーキをあげにいって起してごめんね。」
りのん「あっ、それ、わたしの勘違いだったの。だからまた、わたしと付き合っ……。」
礼紀「うん。でも今のぼくには、やらなくちゃいけないことがあるから、それを解決してから、また逢いにくるよ。」
りのん「あっ、それと、誕生日おめでとう。」
礼紀「うん。ぼくの3月2日の誕生日を覚えてくれていたんだ……ありがと。」
そのお礼をした後に、礼紀は自分の病室から出ました。
そして礼紀は、長岡心療医院の玄関から出ようとしていました。
しかしそれを発見した看護婦さんの松下みどりさんが、注意をしにやってきました。
そこで礼紀は長岡心療医院から出ることを、看護婦さんの松下みどりさんに伝えます。
松下みどり「何言ってるの! あなた今何時だと思っているの。未成年だし、安静にしておかなくちゃダメじゃない。」
しかし礼紀の意志は、固かった。
礼紀「愛した人が、殺されるのです。何の罪もない人が、殺されているのです。ぼくにも守るひとができたのです。守らなくてはいけない人が、いるのです。そんな人がいなくなっちゃうのです。お願いします、通させてください!!」
礼紀は真剣に、行かなければいけないことを説明しました。
この剣幕に看護婦さんの松下みどりさんは、根負けしました。
松下みどり「そこまでいうのなら行ってらっしゃい。一人の男として、その意志をみせてらっしゃい。わたしは黙って、見ていないことにするから。絶対に自分から出て行ったことにするのよ。もう子供じゃないんだから、自分で責任を負うのよ。そして、自分の意志を曲げたらだめよ。そして、また体調が悪くなったら、戻ってらっしゃい。」
礼紀は真夜中の病院から飛び出して、再び犯人の下にと走って駆け出すのでした。
それはもう礼紀の誕生日を迎えた、17歳の甘酸っぱい夜の出来事でした。
この日は朝からしぐれ雨が降り出した、気分屋の空模様。
礼紀が何者かに襲われて、意識不明だった状態のころに、足利刑事は最高福会に関する情報を収集していました。
『最高福会を創立したのは、室重康夫。』
『室重康夫は61歳で、現在病気療養中。室重和矢の父親。』
『室重和矢は、一人息子。お金持ちの家庭に生まれて、ボンボンの子として育てられる。』
『室重和矢は学生時代に、目立った問題は起さなかった。』
『室重和矢は大学時代に、心理学を専攻していた。』
『室重和矢は大学を卒業した後に、携帯販売会社に就職。』
『その大学生時代に知り合ったのが、6歳年上の花岡純二。』
『花岡純二は和矢の紹介で、最高福会の副代表を任せられる。』
『花岡純二は学生時代に、生物学を専攻していた。現在でも大学院に在学中だった。大学院では細菌学を学んでいた。』
『最高福会には、会員からの苦情が多く寄せられていた。』
『最高福会は会員が脱会しようとしたら、高額の契約破棄違約金を要求していた。』
『最高福会は会員の信者に不安をあおって、運が悪くなるなどと言って、高額なお布施を要求するなどの、霊感商法を行っていた。』
足利刑事が手に入れた情報です。
足利刑事はすこしでも多くの情報を手に入れたいと思いました。
そこに足利刑事の頭の中に、一人の人物の存在が浮かびました。
助九「アイツなら何か知っているかも……。役に立つかもしれない、使ってみよう。」
そして警察が最高福会の事務所を捜索していたときに、新しい展開が始まっていました。
夜を徹した調査で、繁華街の最高福会が入居しているビルだけが騒がしく、不夜城のように眠ることがなかった。
それは仲間の刑事からでした。
仲間の刑事が発見して、急いで足利刑事の携帯電話に一本の電話をかけた。
『ピピピピピ、ピピピピピ・・・。』
助九「……もしもし、足利だが…何!? 死んだ花岡の遺書が見つかった!! うむ、今行く。」
足利刑事と、冴木屋のアルバイトをサボって、朝に合流したこの葉が、急いで最高福会が入居しているビルに入っていきます。
仲間の刑事「足利さん、これが花岡の遺書です。花岡の机の中から発見されました。」
その遺書は、ワープロで書かれてありました。
足利刑事は、恐る恐る遺書を広げて読み始めます。
“告白します。全部、わたしがやりました。もう逃げられないと思い自殺します。わたしが、あの殺人鬼を作り出しました。それで最高福会の会員の信者である、新井出幸子さんを殺してしまいました。この告白で、楽になりました。今までわたしを育ててくれて、ありがとう。花岡純二”
この遺書を見て、木の葉は思い出します。
この葉「えっ、ちょっと待って、新井出幸子って、新井出さんって、確か今日、うちの冴木屋の会館で、葬式をあげるのじゃない?」
それを聞いた足利刑事は、赤栄警察署に連絡して、花岡純二さんの遺体と、新井出幸子さんの遺体を確保して、死因を解明する司法解剖をする手配をしました。
助九「調べたら何か出るかもしれない……、新井出さんの遺体は間に合うかどうか分からないが、二人の遺体を司法解剖して、検死するために、裁判所から鑑定処分許可状をもらって、鑑識に回しとけ!!」
仲間の刑事「しかしこの遺書は、本当に花岡が書いたものですかね?」
ここでこの葉が、みんなが疑問に思ったことを口に出します。
この葉「あの殺人鬼って、何だろう?」
それはまだ、誰にも分かりません。
ちょうどそこに、あの男が辿り着きました。
そう冴木礼紀です。
助九「礼紀君、傷は大丈夫なのか?」
この葉「礼ちゃんが、戻ってきたー。」
とりあえず足利刑事は、花岡氏の遺書が見つかったことを、礼紀に伝えます。
すると礼紀は、眉間にシワが寄りました。
礼紀「そんなはずがない! 花岡さんの霊は殺されたことを訴えていた。花岡さんは死にたくはなかった。確かに花岡さんは、和矢に殺されている。他殺だ。そしてこの遺書を作ったのは、和矢だ!」
花岡の遺書が見つかって、数時間が経ちました。
世間ではいつもの日常が始まっています。
礼紀は怒りを我慢することができずに、いきり立って吠えました。
礼紀「俺が直接、犯人に聞いてやるよ!」
もうすでに、礼紀は攻撃的なライキにと、変貌しようとしています。
そのようすを見た足利刑事は、冷静になだめました。
助九「礼紀君! 男だからって、殴って済む話ではないのだ。」
そんな戦々恐々な雰囲気が流れている空気の中に、一人の女性が深刻な表情をして駆け寄ってきました。
宮園絹子「あの、刑事さん! 私、カラクリを知っているのです!」
その女性は、自己紹介をします。
宮園絹子「私、宮園といいます……。」
宮園絹子みやぞの・きぬこ。29歳。
清楚なたたずまいがする美人の女性は、色白で、髪は長めで、白いワンピースを着ている。
さっきまで泣いていたかのように、目が充血していてやつれ気味です。
その女性が、告白をします。
宮園絹子「私は最高福会の関係者です。だから私、知っているのです。マスコミの報道陣に向かって、車で突っ込んだ犯人。それは和矢さんが作った“不幸のシナリオ”を、最高福会のスタッフが実行しただけなのです。」
宮園絹子「犯人は、最高福会の人間です。和矢さんが作った“不幸のシナリオ”を、人為的に起して演じているのです。最高福会の人間が、和矢さんには特別な能力があると、思わせるために演じるための、ただの“さくら”なのです。」
宮園絹子「まず和矢さんは、霊感商法をつかって、最高福会の会員に不安をあおるために、不幸になる予言をするのです。それが“不幸のシナリオ”といいます。そして最高福会のスタッフが、そのシナリオ通りに実際に、人為的に予言された不幸を起すのです。」
宮園絹子「そうすることによって、和矢さんを、特別な能力を持っている本物だと思わせる。それに不幸にされた会員の信者に対しては、信仰が足らなかったからもっと信仰しようと、思わせる魂胆です。そうやって信じ込ませて、説いて、会員を増やして、高いお布施を払わせるといった手口なのです。」
宮園絹子「それに会員が脱会しようとしたら、高額な契約違約金を請求するのです。当然、会員さんは、それを払うことを渋ります。そうやって延々と会費を払わせて稼ぐというやり方なのです。」
宮園絹子「そして最近、花岡純二さんはとても悩んでいました。和矢さんが、脱会を希望していた会員の新井出さんとかいう人に対して、純二さんが大学院で育てているウイルスを使ってしまった、とか言っていました。純二さんは最近は、そのことにも悩んでいたのです。でも、あのひとは、自殺なんてするひとではない!」
最高福会の実情が、だんだんと解ってきました。
宮園絹子は暴露します。
宮園絹子「私、実は、花岡純二さんと付き合っていたのです。結婚の約束もしていたのです。それなのにこんなことになってしまって。だから今でも、死んだことが信じられなくて……。刑事さんたちが、純二さんの遺書が見つかったと話していましたが、あのひとは自殺なんてしません! 絶対に誰かに殺されたのです。」
この内部事情を知った礼紀は、確信を持った顔をして、ライキになることを我慢することができずに、再び和矢の下にと叫びながら走っていきました。
礼紀「犯人に確かめてやる!」
助九「礼紀君! また単独行動は危険だぞ!」
ビルの4階。
最高福会の代表室。
この部屋は、表の部分が全面ガラス張りで、赤いジュウタンがひかれている。
中央にある豪華な机と、その椅子に室重和矢が外を向いて座っていた。
『ドンドンドンドン・・・ガチャ!!』
礼紀「入るよ!!」
礼紀はちゅうちょすることなく、和矢氏がいる最高福会の代表室に入りました。
室重和矢「おやおや、またあなたですか? もう怪我は大丈夫なようですね。そんなことより、挨拶くらいしたらどうですか?」
礼紀は、そんな態度の和矢の背後に、新たな被害者である、新井出幸子さんの霊が取り憑いていることを確認すると、また険しい表情になって、和矢に詰め寄りました。
礼紀「あなたが犯人だということは分かっている! 花岡さんを殺したのも、新井出さんの件も、あなたが犯人だ!!」
しかしこの礼紀の剣幕に対して、和矢は冷静を装って反論します。
室重和矢「いえいえ、花岡さんは自殺したのですよ。新井出さんを殺してしまった良心の呵責に耐えかねてね。」
そこに、その言葉を待っていたかのように、足利刑事が代表室に入ってきました。
助九「ボロが出たな、室重和矢容疑者。我々は誰も、新井出さんを殺したとは言っていない。それなのに、なぜお前は、新井出さんが殺されたことを知っているのだ? 新井出さんが殺された話、詳しく聴かせてもらおうか?」
このやり取りに対しては、和矢もさすがに困った表情になって口走りました。
室重和矢「そ、それは、花岡さんが云っていたのですよ。花岡さんが殺してしまったと、何度も相談されていたから、知っているのですよ。それで、とても悩んでいましたからね。それが原因で、遺書を作って自殺したのですよ。」
足利刑事は、この和矢の答えを聴いてピーンときました。
助九「ちょっと待てよ、我々は誰も遺書を見たとは言っていない。ニュースにも流れていない情報だ。それなのにお前は、なぜ花岡氏が遺書を作ったことを知っているのだ?」
それに関して、和矢はあわてて答えます。
室重和矢「そ、それは、そこの礼紀君が、新井出さんを殺したのもあなたが犯人だって、言っていたから、花岡さんが遺した遺書が存在すると考えたほうが、妥当だと思ったからですよ……。」
しかし足利刑事は、さらに突っ込みます。
助九「おかしいな…、我々は誰も新井出さんが殺された、とは言っていない。それなのにお前は、新井出さんが花岡さんに殺されたと言った。それが原因で、花岡さんは自殺した、と言った。それは、遺書に書いてあった通りなのだよ。ピッタリなんだよ。」
それを聞いた和矢は、一瞬いつもの表情に戻っていました。
室重和矢「そ、そうでしょう…だから花岡さんは自殺なのですよ。私には花岡さんの、もう長くはない寿命が見えたのですよ。」
しかし足利刑事には、続きがありました。
助九「でもおかしいな……、なぜ花岡さんの遺書を見ていないはずのお前が、遺書の中身を詳しく知っているのだ? 遺書の中身を知っている件を、詳しく聴かせてもらおうか。」
これにはさすがの和矢も、難しい表情。
室重和矢「うぬぬ…。」
足利刑事の推理は、さらに冴えます。
助九「なぜお前が、新井出さんが他殺されたことを、遺書が作られていたことを、遺書の中身を知っているということを、なぜ知っているのだ? 知っていることはおかしい。オカシいんだよ。」
助九「それは犯人しか知りえない情報だ。それを知っている人が、犯人と考えることが妥当だ。それを室重和矢、お前は知っていた。それが、お前が犯人だという証拠だ!!」
その推理を聞かされて和矢は、何も言葉が出ずに意気消沈しています。
しかしそんな和矢に向かって、足利刑事は畳み込みます。
助九「お前は以前、犯人は誰でしょう? といったクイズを出したな。そのクイズに回答してやるよ。今回の事件の犯人、それは、室重和矢、お前だ!!」
これでようやく、室重和矢のほころびを掴んで、化けの皮をはいだ瞬間でした。
和矢は一人うなだれながら、一言ボソッとつぶやきました。
室重和矢「わ、私には、用事がある……、自宅に戻ります。」
その顔からは、和矢のあの自信に満ちた表情を感じ取ることはできませんでした。
帰り支度をする室重和矢。
しかしそんなようすの和矢に対して、礼紀が挑発します
礼紀「ちょっと待てよ。あんた、人を呪い殺せるとか、寿命が見えるとか、死の予言ができるとか、全部ウソなんだろ?」
その言葉に、和矢が反応します。
礼紀の怒りの挑発。
礼紀「ぼくら、教えてもらったのですよ。知っているのですよ。あの報道陣に、車で突っ込んで行った犯人。あれ“さくら”なのだろ? 最高福会がグルになって、仕組んだシナリオなのだろ? あんたには、そんな能力は持っていない。そうなんだろ?」
その言葉に、和矢は鋭く反応します。
室重和矢「私は、特別な能力を持っている! それをもう一度、あなたに見せてあげましょう。」
和矢は、さっきまでの表情とは打って変わりました。
室重和矢「私は、人を呪い殺すことができる。その予言が、あなたに災いを起すでしょう。」
和矢がそう告げると、その殺伐としたフロアの中に、一つの電子音が響きました。
『ピロピロピロピロリン・・・ピロピロピロピロリン・・・。』
この葉「やだ!? えっ、こんなときに、私の携帯電話が鳴っている……、私のスマートフォンにメールが届いた音だわ。」
どうやらこの葉の携帯電話に、メールが届いたようです。
この葉はスマートフォンを取り出して、メールを開きました。
そのメールを見た木の葉は、驚きました。
この葉「え!? 何これ、不幸のメール……!?」
そのメールには、こう書かれていました。
『あなたは今、呪われました。あなたは不幸のうちに死ぬでしょう。このメールが届いた人間は、悪魔に選ばれたのです。悪魔に選ばれたのには、理由があります。近いうちにあなたに、刑が執行されます。これはあなたの運命です。』
『あなたは、サイトの会員になりました。すでに契約済みです。会費のお支払いは、銀行振り込みでお願いします。このメールに心当たりがない方も、当サイトを契約なさった会員様の脱会方法や、会費のご入金の仕方や、安楽死のやり方などは、当サイトまでお越しくださいませ。当サイトをご利用ありがとうございました。』
このメールの内容を確認した足利刑事は、驚きながら言いました。
助九「ん、これは呪いのメール!? 予言率百パーセントの確率で的中する、死のメールか!?」
それを聞いた木の葉は、急に崩れ落ちて嘆きます。
この葉「よ、予言率百パーセント!? 私、死んじゃうー!!」
この葉は腰が崩れて、悲しい表情で床に座り込みました。
この葉「どーしよ、どーしよ。私、まだやり残したことが、いっぱいあるのにー、死んじゃう~。」
そのようすを見た和矢は、この葉に対して宣告します。
室重和矢「あなたは今、呪われました。」
すると和矢は、ニヤリと笑みを浮かべて得意な表情に戻りました。
室重和矢「あははははは、これが私のかくされた能力。見ましたか? これが私の力です。」
そういって和矢は、礼紀たちの下から去っていきました。
終末の予感がする日没。
空も悲しそうに、朝から降った雨が大地をを濡らしていた。
和矢が去った後。
助九「なぜ和矢は、この葉ちゃんのメールアドレスを知っているんだ? あっ、まぁそんなことより、心配することないよ。これはただのハッタリさ。」
足利刑事がこの葉を慰めるが、この葉はまだ動揺しています。
この葉「どーしよ、私、どーしよ。礼ちゃん、超能力で、助けて…。」
この葉は、パニック状態に陥っています。
礼紀は考えます。
礼紀「しかしどうやって、この葉ちゃんのメールアドレスを知ったのかは分からないが、この葉ちゃんの携帯電話に不幸のメールを送ったのは、和矢だ。仕組みは知らないが、最近のスマートフォンには、近くの人にメールを送る機能があるのだろう。しかし足利さん、和矢の後を追いましょう!」
助九「あぁ、そうだな! 室重和矢容疑者が新たな犯行を犯す前に、止めなければいけない。もうこれは和矢のマンションに行くしかない。裁判所に家宅捜索の令状を申請している。それが届き次第に、和矢容疑者を逮捕する!」
礼紀たちは、決心しました。
みんなが勇気を振り絞って、立ち上がります。
和矢を逮捕するために、礼紀たちは足利の車に乗り込みました。
車の中の芳香剤のにおいが懐かしい。
和矢容疑者が住んでいるマンションは、すぐ近くです。
その間に、礼紀は感じ取ります。
礼紀「片野坂さんも、花岡さんも、新井出さんも、死にたくはなかった。和矢に何らかの手口で、殺されたのだ……。」
そうしているうちに、足利の車は人通りが少ない住宅街で止まりました。
周りはすっかり暗くなっていて、街灯がうっすらと輝く、この時期にしては珍しく肌寒い夜の日でした。
住宅街にそびえ立つ和矢が住んでいるマンションは、気品が感じられる高級マンションだった。
その高級住宅街で、一人見覚えがある人物が嗅ぎ回っていました。
それを礼紀は見つけました。
礼紀「あ!? またあの人だ。」
その人物も、礼紀たちの姿に気づきました。
そう、風間達男です。
達男「あれ!? 礼紀君、偶然ですね。やっとここまで、辿り着きましたか……、あれ、あっ、足利刑事も一緒なのですね。どうやらこれは、必然だったみたいですね。」
そういうと風間達男は、礼紀たちに向かって言い放ちます。
達男「皆さんがここまで辿り着くのは、意外とぼくの計算より早かったほうですよ。」
そして風間が、ここに辿り着いた推理を説明します。
達男「今、日本の裏で行われている、連続保険金偽装自殺殺人事件。その犯人が、どうやら室重和矢という人物のようです。その和矢容疑者が住んでいるところが、この高級マンションなのです。」
達男「どうして私が和矢容疑者が犯人だと読んだのか? それは、亡くなった被害者や、その関係者がアクセスしていた自殺・殺人サイトの管理人が、そう室重和矢容疑者なのです。」
達男「今回、被害者になった人の多くは、聞いてみたら重い悩みを抱えていた人たちばかりだった。つまり自殺・殺人サイトにアクセスした人の多くは、自殺志願者や、殺人依頼者だったのです。」
達男「その人たちに向けて、和矢容疑者は代理で、殺害依頼を受けていたようです。そのほかに、楽に自殺することが出来る方法や、あるいは死亡保険が下りるように見せかけた、偽装自殺殺人をする方法を教えていたようです。」
達男「和矢容疑者は、何らかの手口で、自殺や、偽装自殺殺人を援助して、報酬として保険金の一部や、財産を受け取っていたようです。それを最近は商売にしてやっていたみたいですね。」
達男「まぁ、私の推理はこんなところです。私は片野坂ひとみさんがアクセスした、インターネットのサイトから調べていくうちに、自殺・殺人サイト経由から必然的に、和矢容疑者が住んでいるこの高級住宅街の自宅マンションに辿り着いたというわけです。」
風間達男の推理が冴え渡ります。
この事実に、足利刑事も憤ります。
助九「自殺を手助けすることだって、立派な犯罪だ! 自殺ほう助罪は大きな罪になる。」
そして風間の情報が、核心を突きます。
達男「室重和矢容疑者は自殺・殺人サイトの管理人のほかに、最高福会の代表の代行を務めていたようです。その最高福会は、トラブルを抱えていたようですね。高額なお布施を要求して、脱会したいという人には、多額の退会費を請求したようです。その退会費を払うことをちゅうちょさせて、延々に会費を徴収するというやり方です。」
達男「そこで事件が起こりました。脱会を強く求めた新井出幸子さんという人が、会員の信者たちがいる目の前で、不幸にさらされてたのです。脱会したいという人には不幸の災いが起こると、見せしめのために殺された。新井出さんは、見せしめのために死んだのです。」
達男「この新井出幸子さんの死に方は、怪死とされた。この事件の死に方は、練炭による一酸化炭素中毒死ではなかった。そして今、テレビのニュースで流れている、花岡純二さんの事件の死に方も、練炭による一酸化炭素中毒死ではない、怪死だ。こちらの死因は、まだ私にも分かりません。」
この推理マニアで情報通の風間の調べを聞いた足利は、満面の笑みを浮かべました。
助九「さすが、私が調査協力を要請しただけのことはある。すばらしいよ、推理マニアの風間達男君!!」
達男「えへへへへ。」
足利刑事は、風間達男に捜査の協力を要請していたようです。
そして風間が、足利刑事にある書類を手渡しします。
達男「はい、これが頼まれた、今回の大きな事件のデータです。」
足利は、風間から受け取った、連続保険金偽装自殺殺人事件に関連する、データを確認しました。
そして足利刑事は、今回の事件の共通点を見出したのです。
助九「花岡氏と、新井出氏を除く、今、日本で起こっている連続保険金偽装自殺殺人事件の、被害者のデータを見比べると、ある共通点が浮かび上がってくる。」
「それは四つ。まず一つ目は、自殺志願者や、関係者の殺害依頼によって死を執行されること。」
「二つ目は、不幸の予言メールが届くこと。」
「三つ目は、一酸化炭素中毒死をすること。」
「四つ目は、金品や、財産がなくなること。」
助九「この四つの共通点のうちで、花岡氏と、新井出氏を除く、すべての被害者に起きた現象は、二つある。それは、一酸化炭素中毒死をするか、財産がなくなるだ。」
助九「つまり一酸化炭素中毒死したっていう人のすべてに、不幸のメールが届いていないということだ。だから不幸のメールが届いたからって、一酸化炭素中毒死をするとは直接関係するわけではない。だから不幸のメールが届いた人が、百パーセント死ぬということに繋がらないのだ。だからこの葉ちゃん、安心して。」
それを聞いて木の葉は、すこし安心しました。
そして足利の表情は、信念に満ちていた。
それは、ここにいるみんなも同じ想いです。
「さぁ、行こう!! 和矢容疑者の部屋へ。」
春風が肌に生暖かい異様な夜だった。
室重和矢の部屋は、高級マンションの9階にある。
礼紀たちは、1階のエレベーターに乗り込んだ。
みんなは、エレベーターの中で9階に着くのを待っています。
その中では、誰もが真剣な表情をしています。
『チンッ!』
エレベーターが、和矢容疑者が住んでいる部屋がある9階に到着しました。
礼紀たちはようやく、ここまで辿り着きました。
朝方は降っていた雨はやんで、今宵は空に満月が輝いています。
礼紀たちは9階の踊り場で、段取りを決めていました。
ここは年長者で刑事の足利が、陣頭指揮を執ります。
助九「もうすでにこのマンションの管理人から、和矢容疑者の部屋の鍵は借りてある。私と、礼紀君の二人で、和矢の部屋に乗り込む。この葉ちゃんは女の子なので、ここで待機しておいてくれ。風間君は部屋の前で、和矢が逃げ出さないように見張っていてくれ。さぁ、礼紀君、和矢を逮捕しに行こう!」
ちょうどそんなときに、足利刑事の携帯電話が鳴りました。
『ピピピピピッ・・・ピピピピピッ・・。』
助九「何だこんな大事なときに……、『ピッ』。あー、もしもし足利だが……、何、鑑識から? うむ、そうか、司法解剖して死因が分かっただと! ふむ、新井出さんの遺体から、ウイルスが発見された。そして花岡さんの遺体から、多量のニコチンが発見された!? うむ、分かった。引き続き頼む。」
足利刑事は電話を切ると、礼紀たちに伝えます。
助九「新井出さんを殺した凶器が解った。殺人鬼・ウイルスだ! そのウイルスを造ったのは、多分、花岡だ。その花岡氏の死因は、ニコチンを摂りすぎたことによるニコチン中毒死だ!」
足利刑事はそう礼紀たちに伝えると、部下の刑事に電話で指示して確認を取らせました。
助九「いいか、花岡純二氏の婚約者の、宮園絹子さんという人に連絡を取って、純二氏がタバコを吸う人かどうかを、確認しておいてくれ。うむ、引き続き頼む。」
事件の真相が、明らかになってきます。
みんなは、被害者たちに冥福を祈りました。
9階の踊り場から見る街の風景は、明るく懐かしかった。
そこに足利刑事の相方の刑事の、黒木有希くろき・ゆうきと、部下の女刑事がやってきて、和矢容疑者の逮捕状を持ってきました。
黒木は身長が160センチメートルで、美形の、デキる女のキャリアでした。
黒木「助九ちゃ~ん! また単独行動して、私、寂しかったんだからね? ほら、これ、逮捕状持ってきたわよ!」
達男「誰ですかこの女性? めっちゃタイプ。足利刑事、紹介してくださいよ?」
助九「こう見えても、彼女は元男だぞ。」
一同「えっ…!?」
黒木女刑事は、女性のようにはしゃぎながら、相方の足利刑事を叱ります。
黒木「もう助九ちゃん、バラさなきゃ、ニューハーフなんて、見ただけじゃ誰にもわかんないんだから!」
助九「さぁここに、裁判所から、令状として逮捕状は取ってある。和矢を逮捕しよう!」
ちょうどそのときです。
『ピルルルルル・・・ピルルルルル・・・。』
この葉「あっ、やだ…、こんなときに、私の携帯電話が鳴ってる……。」
鳴っていたのは、この葉の携帯電話に通話が入ったときの電子音でした。
この葉はバッグから携帯電話を取り出して、電話に出ました。
この葉「……、もしもし木下ですが…。」
この葉の電話の先からは、聞き覚えがある野太い男の声が受話器から漏れてきました。
男「今あなたは、悩み事を抱えていますね。私があなたを救ってあげましょう。あなたは残念ながら、不幸のメールが届いて困っています。安心してください。私が解決いたします。」
男「まず、大きく深呼吸をしてください。そしてどんどんリラックスしていきます。どんどんあなたの身体は、楽になってきます。あなたの身体は楽になって、どんどんどんどん軽くなっていきます。すると心が安心して、だんだんだんだんお腹が空いてきます。身体が楽になって、心が安心して、お腹が空いてきます。」
男「あなたはお腹がペコペコになって、何でも食べたくなります。お腹が空いて、何かを食べないとしょうがなくなります。そこであなたは安心して、身体が楽になって、バッグの中に入っている、風邪薬と、睡眠薬を食べて安心したくなります。その薬を食べないと、落ち着かなくなります。あなたは薬を食べたら、心のそこから気持ち良くなります。」
男「あなたは安心して、身体が楽になって、お腹が空いて、何でも食べたくなって、二つの薬を食べないとしょうがなくなります。そうしないと心が落ち着かなくなります。だからあなたは薬を食べます。すると心のそこから気持ちよくなって、呪いから解放されて、今の困難から逃れられます。」
男「さぁ、最後にお腹いっぱい、気持ちよく食べましょう!!」
するとこの葉は、電話の相手から言われたとおりに、バッグの中に入れてある風邪薬と、睡眠薬を取り出して、一気に食べようとしました。
「危ない!!」
間一髪、風間達男がこの葉の身体をしっかりと掴んで、止めさせました。
礼紀は、この葉の無事を確認すると、足利刑事に確かめました。
礼紀「足利さん! 事前に仕掛けていた、この葉ちゃんの携帯電話の録音機能が作動しましたね。この電話の主は、多分、和矢です。これが和矢の手口です。催眠術を使って誘導するのです。さぁ、和矢を捕まえましょう!」
礼紀と足利は、室重和矢の部屋のドアを開けて乗り込みました。
和矢の部屋の鍵は、高級マンションの管理人から提供していただいたのですが、ドアの鍵は開いていました。
ライトが点いていない暗闇の中で、和矢はパソコンのモニターだけが光る空間にいました。
助九「室重和矢、殺人罪で逮捕する!!」
急に空模様が悪くなりました。
天候も、事の次第を察したかのように、冷たい雨が降りしきります。
ついに室重和矢が捕まりました。
最後に和矢はつぶやきます。
室重和矢「人は死んだ後、どこに逝くのでしょうか……?」
こうやって、予言者男こと、室重和矢は捕まりました。
和矢は昔、自殺する寸前の人に、『必要がないから』と云われ、持ち金をもらったことがきっかけで、自殺援助を始めた。
そのうちに、自殺・殺人サイトを作って、そこから楽に自殺することができる方法や、保険金が下りる殺害の仕方などを教えていた。
そしてそこで商売として、自殺や、殺人の代行を募って行い始めた。
そして自分が開設した自殺・殺人サイトのアクセスしてきた人に対して、無造作に不幸のメールを送っていた。
無造作に送られた不幸のメールが届いた人の中にも、死んでいない人がいる。それはただ気味悪がってメールを削除しただけだった。
だから死んでいない人間にも不幸のメールが届いたが、その人たちは携帯電話や、パソコンに跡が残っていない。
自殺志願者や、偽装自殺殺人事件の被害者に、不幸のメールが遺されていた確率が高かっただけで、死んだ人間がそのメールが持っていたから、警察が調べていくうちに勝手に、『不幸メールが届くと、百パーセント死ぬ。』という風に思い込んでいるだけだった。不幸のメールを持っていた確率が高かっただけで、百パーセントではない。
和矢の手口は、携帯電話や、パソコンに、不幸のメールなどを送りつけて、呪いをかけて不安がらせてから、それをネタにして、催眠術でその人間をコントロールするやり方だ。
それはこの葉に対して行ったやり方だ。
その催眠術は、大学生時代に専攻していた心理学で習っていた。
片野坂進さんの場合は、奥さんのひとみさんから依頼されたが、進さんの携帯電話は古いタイプの携帯電話で、メール機能がなかった。だから不幸のメールが進さんの携帯電話に届いていない。
だから当初警察は、片野坂進さんの練炭による一酸化炭素中毒死と、連続保険金偽装自殺殺人事件とは別の事件だと考えていた。
和矢は、密閉されていた車の中にいる片野坂進さんに、電話で催眠術をかけた。言葉巧みに、進さんを眠らせることに成功した。
そして練炭を焚く鉢は、和矢が用意した。
練炭を焚く火は、時間差で自然発火するフラッシュ・コットンを使った。手品のマジックでよく使われる、自然発火する物質だ。
そのコットンに、薬品をつけると良く燃える。
和矢は催眠術で、ちょうどフラッシュコットンが燃え上がる頃を見計らって、片野坂進さんを眠らせた。
事件で使われた鉢の中に、微量の薬物が検出された。
そうやって和矢は、遠隔殺人を行った。
片野坂進さんの奥さんは、夫の進さんを車に誘導する役と、車のドアを完全に密閉することを協力したが、密閉された車内にライターを入れることを忘れていた。
進さんの死亡保険は、保険料を一定期間払っていたので、自殺でも保険金は下りる状態だった。
だから和矢は、密封されている車内に火が出るものを置いておいても問題ないと考えて、指示していた。自殺と判断されても、保険金が下りるので問題はない。
それなのに警察は、鉢に火を焚いてから、密閉された車内に持ち込んだと判断した。偽装自殺殺人事件を見抜けなかった。
今思えば、片野坂ひとみさんがライターを入れていれば、足利刑事に気づかれずにこんなにはやく逮捕されることはなかったのかもしれない。
この事件が発覚後、片野坂ひとみは、殺人の共謀罪で逮捕された。
そして下りるはずの保険金は、保険会社が支払いをストップして、結局、誰の手にも渡らなかった。
礼紀は代表室で、和矢を挑発した。そのときに兵藤礼紀の肉体を司っていたのは、主人格のレイキではなく、攻撃的なライキだと思われた。しかし冴木礼紀は、主人格のレイキのままだったのだ。
あえて意図的に挑発して、和矢の尻尾を出させる知的な作戦だった。その挑発に、和矢は乗せられて、和矢はこの葉に不幸のメールを出したのだ。
そして、そのメールでこの葉に不安感を与えて、この葉の携帯電話に催眠術の電話をかけた。この不安感を利用することが和矢の手口だ。
しかしこの葉の電話にかけた通話を、録音されて、音声として証拠になった。
礼紀の挑発によって、和矢はありもしない能力を披露して証拠を出してしまったのだ。
この葉の携帯電話の番号や、メールアドレスを、和矢が知っていたのは、木の葉がスマートフォンを買った携帯電話の販売会社に、和矢が勤務していたからだ。
和矢は、好みの女性の新品の携帯電話に、事前にコンピューターウイルスを仕組んでいたのだ。そうやって最近の携帯電話で盗聴や、盗撮を繰り返していた。
自宅のパソコンから、スマートフォンの位置追跡アプリを悪用して、場所を確認して、本体のカメラからの映像で、持ち物を確認した。
和矢はパソコンオタクでもあった。
そうやって木の葉の位置を確認した和矢は、携帯電話に電話をかけて、バッグの中の風邪薬と睡眠薬に目をつけて、催眠術で大量に服薬させようとした。
この葉が睡眠薬を持っていたのは、精神障害者だったからだ。ほとんどの精神障害者は、睡眠薬を服薬している。
和矢の偽装自殺殺人の手口は、練炭による一酸化炭素中毒死だけではなくて、風邪薬と睡眠薬の、同時服薬による昏睡死も行っていた。
新井出幸子さんを死に至らしめたのは、花岡純二さんが育てていたウイルスだ。人の目には見えない生物。細胞に寄生して、増殖を繰り返す。
そのウイルスは、中心から百メートル以内に、10秒未満で感染する性質を持っていた。和矢はそのウイルスを使って、会員の目の前で新井出幸子さんに感染させた。
つまり不幸にさせられたのだ。
その後、身体が弱い老体の新井出さんは死亡した。
結果的に和矢は、新井出さんを遠隔殺人した。
新井出さんの事件は、和矢が自分に特別な能力があると会員に信じ込ませて、『最高福会から脱会するとこうなるのだ』と、思わせるために、見せしめとして殺された。
脱会を食い止めるための魂胆だったと、後に和矢は自供した。
こうやって、バイオハザード(生物災害)が起こった。
しかしその生物兵器のウイルスは、不幸中の幸いで弱性のウイルスだったことで、被害はあまり広がらなかった。
新井出幸子さんが死にまで至ったのは、身体が弱い高齢者だったからだ。
悲運なことに、花岡が育てたウイルスを、新井出さんの殺害に使われた。
そのウイルスを育てていた花岡は、そのウイルスのワクチンを作っていた。
それを婚約者の宮園絹子さんが探し出した。
そのワクチンの名前は決まっていたらしい。その名はH・Kはなおか・きぬこワクチンだった。
そのワクチンは、体調が悪くなった足利の仲間の刑事たちにも打たれ、今ではみんな、元気に次の事件を追って走っている。
最高福会の副代表の花岡純二さんの裏の顔は、細菌学者だった。
彼は、有名な大学で細菌学を学んでいて、大学院まで進んだ。
その当時の教授と一緒に、研究していた分野で博士号を取ったらしい。
最近は自主研究で、新しい種類の菌を探していたようです。
それを研究所から、世界に持ち出してしまった。
それに目をつけた和矢が、自分の地位を守るために利用した。
最高福会に足利刑事が捜査しにやってきたときに、自首をする寸前だった花岡に対して、和矢は優しい言葉をかけて、コーヒーを差し出した。
その後に和矢は、花岡に対して死の予言を告げた。
しかし花岡は、和矢の“不幸のシナリオ”のカラクリを知っていたので、死の予言を告げられても、安心しきって、高を括っていた。
和矢の手口を知っていたからだ。
和矢が、花岡純二さんを殺害したトリックは、お気に入りの銘柄のタバコのピースに含まれるニコチン成分を、コーヒーの中に溶かして、そのコーヒーを花岡さんに飲ませる手口だった。
そのコーヒーを飲ませて、死の予言を告げて、和矢が自宅に帰ったころには、花岡は苦しんで、ニコチン中毒で死んだというわけだ。
花岡純二は、タバコは吸わない人だった。
和矢は、優しい言葉で催眠術をかけて、リラックスさせて、ニコチン入りのコーヒーを勧めたと、自供していた。
そして最高福会のビルの周辺で、礼紀を襲ったのは最高福会のスタッフだったと判明した。
その礼紀を襲った犯人は、事実上“不幸のシナリオ”として、和矢の指示があったから実行したと自供した。
車で報道陣の中に突っ込んだ最高福会のスタッフも、和矢の指示があったと認めた。
和矢は単なる金儲けのために、今回の連続偽装自殺殺人事件を起したと自供していた。
自殺に見せかけたのは、単に自分に捜査が及ばないように、自分の保護のために、事件性がないものと、思わせるためだったと話した。
しかし本当に、それだけだったのだろうか?
最高福会を創設した和矢の父である康夫は、病気を患っている。
しかしこの父親の病気は、和矢の仕業ではないと、自供している。単純に病気だったらしい。
その父親は、和矢が逮捕された一ヵ月後に、他界した。
今ではもう、その葬儀は親族間だけで密かに終わっている。
だから今ではもう、それを確かめることはできない。
今回の事件の犯人は、実の父親を殺すほどの異常殺人者というサイコキラーだったのか?
愉快犯だったのか?
今ではその犯人は、黙秘をして、硬く口を閉ざしている。
だからもはや、その真相を確かめる術はない。
この事件が発覚後。
一部の熱狂的な和矢信者が生まれたものの、宗教団体の最高福会は、マスコミの厳しいバッシングを浴びせられた。
これらの事実が明らかになり、一般市民の抗議運動が始まった。
そして創始者の室重康夫の死とともに、最高福会は解体された。
マスコミが世論を動かして、民意としてメディアの力で最高福会は消滅したわけだ。
今回の事件の犯人は、ただ周りを不幸にしていただけだ。
人間は、誰かを犠牲にしないと生きていけない生物だ。
それが礼紀には、身にしみた出来事だった。
翌朝。
昨日の天気予報では、今日も雨の予報だったのに、ご機嫌な太陽がにっこりと顔出して、草花に微笑みかけている。
和矢の逮捕後。
そこはすっかりと何もなかったかのように、平穏な日常を取り戻している。
事件後、この葉は語ります。
この葉「礼ちゃん、すっごくかっこ良かったのだから。礼ちゃんがライキになって和矢さんと対峙したとき、男らしくて、私、惚れ直したのだから。」
礼紀「あ、そう?」
この葉「でもライキの人格のときだったから、主人格のレイちゃんは覚えてないのだろうけど。」
礼紀は和矢の本性を暴くために、この葉を囮に使ったことは黙っておきましょう。
しかし礼紀は、気になっていたことをこの葉に確かめました。
礼紀「でもなぜ最初に、仕事までサボって、この葉ちゃんはぼくらに付いてきたの?」
この葉「そ、それは・・・。礼ちゃんのことが、♡♥♥きだから。」
兵藤雪「こらー、木下さん! またお仕事をサボっている!!」
この葉「あっ、ごめんなさ~い。」
このこの葉の気持ちに、礼紀は今は応えることができなかった。
礼紀には、他に守らなければいけない女性がいるからだ。
こうやってこの葉は、また普通の葬儀屋に戻るのでした。
木漏れ日が差す陽気な季節。
空には太陽の光を反射して、大きな虹が光り輝いていました。
礼紀はその足で、長岡心療医院に向かった。
待ち合わせ場所の長岡診療医院は、どんな日でも、その巨体感から、いつも通りの威圧感を放っている。
もう最高福会のスタッフに殴られた傷は痛くない。
そして大事な、三笠りのんとの再会。
礼紀の胸は、ドキドキしていました。
礼紀は面談表に名前を書いて、三笠りのんが目の前に現れました。
その三笠りのんの格好を見た礼紀は、思わず声が出ました。
礼紀「あっ、そのスカート、もしかしてぼくがプレゼントしたスカートなの……?」
りのん「うん、そうだよ。礼紀くんからもらった水玉のスカート。えへ、似合っている?」
礼紀「う、うん。すごく似合っているよ。」
三笠りのんは、礼紀から手紙で捨ててくださいといわれたスカートを着て、その姿で待っていました。
礼紀「こっちはね、ある事件を抱えていたの。でも俺の能力で、解決解決。俺、将来は警察官になろうかな?」
りのん「私、礼紀くんが急にここから出て行ってから、いつも礼紀くんのことを考えていたの。だからまた、私とお付き合いをしてもらえない?」
礼紀「これ、あげる。」
礼紀が取り出したのは、指輪でした。
その指輪をりのんの左手の薬指にはめて、こうプロポーズをしました。
礼紀「これ実は、街に行ったときに買っていたのだ。受け取ってもらえる?」
りのん「うん。もちろん♥」
礼紀「どうかわたくしめと、結婚してはもらえませんか?」
りのん「あんた、まだ17歳だから、結婚することができないジャン!!」