漆
配給を受け取り、逃げるようにリリーは、席に着いた。ちょっと古びた食堂、と言うのが、ここには似合うだろう。
食べ方に豪快さはなく、今日は誰も呼ばなかった。一人で、ちょっと思いふけってみたかった。
リリーには両親はいないも同然だった。だからラジの気持ちはあまり分からない。けど、何だかラジは、あの頃のリリーの顔とそっくりだった。もう自分の帰るところはな
い、そんな顔――
「よぉリリー!!なーにしょんぼり食ってんだよ!!」
なれなれしくリリーの肩を抱いて、席に座ったこの少年は、ヒツキと言う。どこか抜けていて、それでいてバカ。リリーとは、ビマーを介してだけの仲で、深くはない。
「寄るな。バカが移る」
まるで気にしないようにパクパクと食べる。いつもなら、ガバァッと言う擬音が出そうなほどの食べっぷりなのだが。
「暗いなー。お前さ、元気だけがとりえだと思ってたぜ」
「うるさい。黙れ。お前とは違う」
ヒツキもゆっくりながら、スプーンを動かす。
「そんなに暗くなることなんてー、世にはねぇだろーが」
「人が死んでもそう思うか」
ヒツキは一瞬だけ固まったが、すぐにいつもの調子に戻る。
「ああー。思うね。死んだやつぁ還ってこないんだ。絶対に」
「それが?」
「死んだやつのためにも、笑顔でいんのがいんじゃねーの?」
「・・・・・・」
リリーは無言のままパクパクと食べている。まるで聞かないようにしてる様だ。
「辛いのはわかっけど、それを周りに撒き散らすのは、どうかなぁ」
「・・・・・・」
「おっと。わーりぃ。まだ間もないんだっけ?はは。じゃあなー」
食器を持って、ヒツキはビマーに走っていった。おやっさーん、と言いながら。それを、ビマーはボカリと倒し、ヒツキがイテェイテェと 食器を器用に守って唸っている
。
「バカヤローが」
笑いもせずに言ったが、どこか憎みきれない変な感覚を、リリーは感じていた。
「にしてもー」
頭にたんこぶを作ったままでおやっさん――ビマーに話しかける。
「何だ?」
「あいつさー」
と言ってスプーンで指した席は空席だった。
「その誰だかわかんねー両親を殺されて、何で怒る必要があんのさ?」
ビマーは普通に食べながら、
「・・・・・・聞くのは野暮だろう」
と生真面目に答えた。
「ヤボねぇ・・・」
「私の知ったことではない。きっとリリーも気付いてはいないだろう」
「本人が気付いてないって?」
「病気だ」
「びょ・・・!!」
カランとスプーンを落とすヒツキ。
「いや、病気っておやっさん!!そりゃーその、マジか!!」
ビマーは変わりなく言う。
「まじだ」
「え、えぇぇ・・・なんでぇ・・・」
実はリリーに話しかける前から、誰かの両親が殺され、彼女が怒っているとは知っていた。しかし病気とは聞いていない。
「早く医者にみせねーとダメじゃん!!」
ダッと机に腕を突っ立てたヒツキだが、ビマーに強制的に座らせられる。
「ヒツキよ。病気とは言うが、医者に見せても直らんことは分かってるだろう?」
え、えぇぇぇ・・・!!じゃあ俺のしたことってめっちゃ無意味ーっ!!ってか症状を悪くさせた!?
「そんなに重症!?」
何だか目をひんむいて血走らせて聞いてくるヒツキが、何故戦慄めいてるのか、ビマーはよく分からなかった。
「む・・・恐らくな」
「なんてこったぁー!!」
ヒツキは急に走り出し、配給所を出て行ってしまった。ビマーは残った食事を見て、
「む。食料を無駄にしてはいかんと言うに」
食器の上のものを入れ物に写しかえていた。