表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/7

 漆

 配給を受け取り、逃げるようにリリーは、席に着いた。ちょっと古びた食堂、と言うのが、ここには似合うだろう。

 食べ方に豪快さはなく、今日は誰も呼ばなかった。一人で、ちょっと思いふけってみたかった。

 リリーには両親はいないも同然だった。だからラジの気持ちはあまり分からない。けど、何だかラジは、あの頃のリリーの顔とそっくりだった。もう自分の帰るところはな


い、そんな顔――

「よぉリリー!!なーにしょんぼり食ってんだよ!!」

 なれなれしくリリーの肩を抱いて、席に座ったこの少年は、ヒツキと言う。どこか抜けていて、それでいてバカ。リリーとは、ビマーを介してだけの仲で、深くはない。

「寄るな。バカが移る」

 まるで気にしないようにパクパクと食べる。いつもなら、ガバァッと言う擬音が出そうなほどの食べっぷりなのだが。

「暗いなー。お前さ、元気だけがとりえだと思ってたぜ」

「うるさい。黙れ。お前とは違う」

 ヒツキもゆっくりながら、スプーンを動かす。

「そんなに暗くなることなんてー、世にはねぇだろーが」

「人が死んでもそう思うか」

 ヒツキは一瞬だけ固まったが、すぐにいつもの調子に戻る。

「ああー。思うね。死んだやつぁ還ってこないんだ。絶対に」

「それが?」

「死んだやつのためにも、笑顔でいんのがいんじゃねーの?」

「・・・・・・」

 リリーは無言のままパクパクと食べている。まるで聞かないようにしてる様だ。

「辛いのはわかっけど、それを周りに撒き散らすのは、どうかなぁ」

「・・・・・・」

「おっと。わーりぃ。まだ間もないんだっけ?はは。じゃあなー」

 食器を持って、ヒツキはビマーに走っていった。おやっさーん、と言いながら。それを、ビマーはボカリと倒し、ヒツキがイテェイテェと 食器を器用に守って唸っている


「バカヤローが」

 笑いもせずに言ったが、どこか憎みきれない変な感覚を、リリーは感じていた。


「にしてもー」

 頭にたんこぶを作ったままでおやっさん――ビマーに話しかける。

「何だ?」

「あいつさー」

 と言ってスプーンで指した席は空席だった。

「その誰だかわかんねー両親を殺されて、何で怒る必要があんのさ?」

 ビマーは普通に食べながら、

「・・・・・・聞くのは野暮だろう」

 と生真面目に答えた。

「ヤボねぇ・・・」

「私の知ったことではない。きっとリリーも気付いてはいないだろう」

「本人が気付いてないって?」

「病気だ」

「びょ・・・!!」

 カランとスプーンを落とすヒツキ。

「いや、病気っておやっさん!!そりゃーその、マジか!!」

 ビマーは変わりなく言う。

「まじだ」

「え、えぇぇ・・・なんでぇ・・・」

 実はリリーに話しかける前から、誰かの両親が殺され、彼女が怒っているとは知っていた。しかし病気とは聞いていない。

「早く医者にみせねーとダメじゃん!!」

 ダッと机に腕を突っ立てたヒツキだが、ビマーに強制的に座らせられる。

「ヒツキよ。病気とは言うが、医者に見せても直らんことは分かってるだろう?」

 え、えぇぇぇ・・・!!じゃあ俺のしたことってめっちゃ無意味ーっ!!ってか症状を悪くさせた!?

「そんなに重症!?」

 何だか目をひんむいて血走らせて聞いてくるヒツキが、何故戦慄めいてるのか、ビマーはよく分からなかった。

「む・・・恐らくな」

「なんてこったぁー!!」

 ヒツキは急に走り出し、配給所を出て行ってしまった。ビマーは残った食事を見て、

「む。食料を無駄にしてはいかんと言うに」

 食器の上のものを入れ物に写しかえていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ