参
ここでスイダズの提案を受け入れれば、この国は滅びる!!!それでもいいッスかッ!?ビマー!!
睨んでくる目を無視・・・したかった。でも出来なかった。
信じろ!!
ビマーの目はその一点張りだった。
この国が滅びたら、あんた国はなくなるんスよっ!?王サマは死んじまうんスよ!?
王様を信じろ!
あんたの気持はよぉく分かるッス!けど、王を守らないで、そんなくだらねぇセリフ吐くなぁッ!!
信じるのだ!リリー!!
馬鹿の一つ覚えがッ・・・!!!
もう、どうでもいい。王を守れないで死ぬなんてごめんだ。そんなの、信用とは違う、信頼とは違う。
タッと足を踏み込んだ。スイダズの心臓へ切っ先を向けた槍は、ものすごい勢いでまっすぐ進んでいく。
「・・・うん。いいことだ。ただ、それだけだ。俺は、そんなものいらないよ」
え・・・・・・ッ!!?
王の言葉を聞いたリリーは、急停止しようとした。しかし走りこんだ足はそう止められない。無理を承知で、リリーはズザァッと、足を滑らせ――その勢いでこけた。
何とか止められたぁ・・・。
そう思っていたのもつかの間、スイダズは、眉一つ動かさず、特に何も言わず、リリーを冷たい目で見た。明らかに疑いの眼だ。
「うぁあっ!?こ、こりゃあ、あ、あ、あれッスよ!!食料供給を他ンヤツより早くとるためのー・・・」
食糧供給とは、朝、昼、晩と、供給される食事のことで、つまりそう、食事。油断して並び遅れると、最後尾につくハメになり、冷たいメシしか食えなくなるので――
無視して、スイダズは王に向き直った。
「こんなに良い待遇を拒否すると?」
「拒否じゃない。いらないって言ってるんだ。俺は」
スイダズは舌を打った。一瞬で頭に血が上ったようだ。王はそれに気付く様子すらない、たるんだ顔をしている。
「いいでしょう・・・全く、マキル王の言うとおりだ」
スイダズは、服の中に収めてあった短剣を取り出し、鞘を投げ捨てる。ギラリと光る間もなく、短剣を腹辺りにためて、王に襲い掛かっていった。
急な出来事に、兵士も、ビマーも、反応出来なかった。
王も全然気付かない。
「お前の命運もここまでだーーーっ!!あの世で悔やむがいいわっ!!!」
いかん!!王が・・・!!
ビマーもそこに急ぐが、到底間に合いそうもない。
ブシィッと、何かが刺さる音と、血が噴出す音がした。
「ジジィ・・・きなくせーんだよ・・・!!」
刺されたのは、王ではなく、スイダズだった。近くに倒れていたリリーが、槍で心臓を一突きにしたのだ。
王は返り血をわずかに浴びながらも、鼻をほじっている。ビマーは呆れでもない、安堵の吐息をもらした。
槍を引き抜くと、スイダズは糸の切れた人形のように崩れ落ち、動かなかった。間違いなく即死。
周りの兵士たちは目の前で何が起こっているか、今ひとつ理解出来ない顔をしていた。外交官を殺してしまったことに、だ。
辺りは一瞬沈黙した。虚しい静けさ。何が起きようとも知れないこの冷たい、永遠の一瞬。破ったのは、鼻をほじりながら、たるんだままの顔をした王だった。
「戦争、しよっか」
それは冷たい雨の日だった。とても冷たい、雨の日のことだった