天界へようこそ
「あれ~?案内図ではこの辺なのにな・・・。道を間違えたのかな・・・。」
周りを見回しても、木があるばかりで建物らしきものはまったく見当たらない。
迷子になっている男は20代後半、背は小柄で体型は普通、童顔であり、髪を散髪したばかりのため学生服を着ると高校1年生で十分通じるだろう。名前は剛龍瑠奈(ごうりゅうるな)厳つい苗字と女の子と間違われる下の名前のアンバラス感、また、見た目と頼りない感満載の雰囲気で世間の世知辛さをかみ締めて、何度も枕を涙で濡らしてきている・・・。
「ん~、さすがにようやく決まった就職先にいきなり遅刻はまずいよな・・・」とため息をつきながらも再度、案内図、いや、パンフレットを確認する。
私立平魔保育館(しりつへいまほいくかん)と大きな文字で書かれている。
パンフレットの中身は写真などは一切なく、味気ない文字だけで園の簡単な要項と理念と案内図だけ書かれているというシンプルさ。
ちなみに要項の内容は
・縦割り保育を中心に、子供達がお互いに種族意識をぶつけないで仲良く過ごす環境を目指しています♪
理念は
・清く、正しく、美しく♪
・濁って、あいまいで、醜くく♪
となっている。
正直、この理念は矛盾していない?おかしくない?と思わないでもないが、三十路に到達する前にもう無理かと諦めていた保育士という職種に正規雇用、福利厚生、ボーナスあり、職員寮完備という素敵過ぎる条件にまっすぐに飛びついてしまった。
そんなわけで、今ここで迷子になってしまっているわけなのだが・・・。
「あ~、わかんない!とりあえず落ち着いて地図を見直すか・・・」
と身近にあった岩に座り地図をみようとすると「お兄さん、お兄さん・・・」と呼ぶ声が聞こえてきた。
驚いて、顔を上げるとそこには元気があふれてますというオーラがみえるような可愛らしい少女が笑っていた。見た目は10歳といったところだろうか、ただ純粋に可愛いらしい。そんな少女だった。
「もしかして、お兄さんは平魔保育館に御用ですか?」
僕は慌てて「うん!そうなんだけど迷子になっちゃってさ・・・。君は場所を知っているのかな?知っているのなら案内してくれたら嬉しいのだけど」
少女は笑って「やっぱり。人間じゃ~ううん。あ~、んと分かりにくいしね」
そして、こっちこっちと手招きをしながら木々の中を進んでいこうとするので、慌てて立ち上がり追いかけた。
しばらく進むと白く濃い霧が出てきて、少女の後姿を見失わないように必死に追いかける。
そして、霧から抜けると信じられない景色が現れた。
まず一番目につくのが、石や木々などを使い中世ヨーロッパに建設されたような壮大なお城である。だがただ、お城があるのではなく雲の上に浮いているのである。また、それらのほかにもいくつもの建設物が同じくたくさんの雲の上に乗り浮いている。まるで、ここが空の上にあるかのように・・・。
少女は僕の驚いている顔を見て、「ようこそ!天界へ♪」と魅力的な笑顔を浮かべてくるのであった。