不安定な蜃気楼
2007 8 13
「コーヒーできましたよ」
僕は扉の奥へ声をかけた。
しばらくして、声が返ってきた。扉を開けるとのそのそとでてきて、机に座った。
「―――――――――――んん、すまんね」
と言うと、コーヒーを一口飲んだ。
けど、少し熱かったらしく、顔をしかめた。
この人は僕の事務所の社長だ。
名前は道草 源さん。性別は女性。年齢は不明。職業は探偵。
僕にわかるのはこれくらいだ。あと、出身は京都だとか。
僕はこの人を知らない。なんせ、僕がこの事務所に入ったのは今年の五月だった。
いろいろあって、ここに入ることになった。
道草探偵事務所。それがここの名前だ。ここには、僕を含めて、社員は四人しかいない。
そんな事務所での、僕の仕事は、主に雑用だ。お茶くみ、掃除、その他もろもろの仕事。
特に、困った点はない。
「ご馳走様、美味しかったよ」
「そうですか、よかったです」
今日のコーヒーは成功のようだ。
そう言うと、道草さんはタバコを一本吸い始めた。部屋の中にタバコの匂いが広がる。
僕はその匂いに思わず、咽てしまった。
どうも、タバコの匂いは好きになれない。どうしても、今のように咽てしまうからだ。
少し、時間の経つと、道草さんが口を開いた、
「君に聞きたいんだが、今日は、何日だ?」
「えーと、たぶん、今日は、八月十三日だったような」
「そうか、ありがとう」
そう言うと、道草さんは口を閉じた。
ふと、外を見た。
外は太陽の光で眩しかった。たぶん、この分だと蜃気楼も出ているだろう。
そんなことを考えていると、あの日を思い出す。
あの日と同じような空、いつかの過去は蘇り、再現される。
約束は、今――――――――――――――――――。