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第二幕 事の起こり

 しがない庶民である私の伯父がミスランディアの大富豪と関わりを持つことになった経緯を思い出す。


 私の伯父は知りたがりだ。

 ある日、彼は何を思ったのか、東北に行くと言い出した。蝉が鳴く、蒸し暑い日だった。

 奴らの巣窟はアメリカ大陸だ。そして極寒期の訪れにより、アメリカ大陸はユーラシア大陸と繋がった。奴らはユーラシア大陸に進出してきた。

 此れだけなら、絶海の孤島である日本には関係ない話のようだが、何を思ったのか極東ロシアは日本の領土である北海道に逃げてきたのである。

 無論、船でだ。運が悪いことに船内に奴らが同乗していたらしく、北海道はあっという間に滅んだ。

 北海道の軍隊は善処したらしい。多分、嘘だ。奴らは不死身に限りなく近いのだ。最近発見された駆逐手段は灰に帰すまで高圧電流や火炎放射機で焼く方法だが、当時は知られていなかったのだから、対処できるわけがない。


 政府は北海道の滅びを受けて、高圧電流線を列島を横切るように設置した――福島と茨城、群馬、栃木の県境にである。テレビやラジオ、インターネットとやらに連絡手段を頼っていた時代だ。それらが使えなくなった以上、避難勧告は難しく、また北海道の滅びから時間が経ちすぎることを考慮に入れて、政府は東北を切り捨てたのだ。


 悪夢は終わらない。

 奴らはロシアからモンゴル、果ては中国へ瞬く間に進出した。日本の中国地方で北海道の再来が始まった。

 首都圏は滅んだ。九州や四国は本州と繋がる橋を落として難を逃れた。

 歴史の先生は殺到する本州の人々を見捨てる非人道的行為だったが、最善の決断だったという。もし彼らを受け入れていれば、食糧問題が更に悪化していただろうとも。

 日本は食糧の輸入をミスランディアに頼りきっている。ミスランディアは日本で製品を加工し本国に持ち帰る。我が倭民族は手先が器用なのだ。さて、話を伯父のことに戻そう。伯父は幼い私に言った。


――東北に生き残った人々がいるかもしれない。


 根拠としては、政府が設置した高圧電流線が南からの奴らの進出を防ぐこと。北海道と東北は陸繋がりではないので、海底トンネルさえ賢い指導者が落としていれば北からも奴らが進出できないことを挙げた。

 今思えば、絵空事だ。

 それでも伯父は東北に旅立った。見送りは私だけだった。伯父はあまりの馬鹿な振る舞いに親類と縁を切られたのだ。

 私は伯父が好きだ。色々なことを教えてくれる。

 伯父は五年もの間、帰ってこなかった。周りの死んだんだろうという声さえなりを潜めた頃、伯父はミスランディアの船に乗って堂々と帰ってきた。

 太平洋の沖合いを漂白していたところを助けてもらったらしい。そのままミスランディアに渡り、今なお交流を温めている現地人の友人さえ作ってきた。

 そのうちの一人がルル。本名、ルイス。

 海中ケーブルを引くという一大プロジェクトを企画した大富豪なわけだ。


「伯父さんが帰ってきたのは嬉しかったけど、あのときは流石に驚いたわ」


 伯父は声をあげて笑った。


「いやねえ。俺もびっくり! まさか東北より先にミスランディアに渡っちゃうなんて。人生何が起こるか、その時にならんと分からんもんだ」


 船笛が轟く。

 私たちは慌てて階段をかけ降りる。

 船に乗る直前、私は伯父を振り返った。


「いってきます」

「うん。いってらっしゃい。楽しんでおいで」


 伯父がしまりのない笑顔で見送る。私は船に乗り込み、日本を後にした。


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