表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/10

9話

「…ルーン?」

ふと、ルクレティアはつぶやいた。無意識の行動だったが、彼はここにいない。

当たり前だ。彼は地方視察に行っているのだから。

分かっているのに、何故か不安になる。

もう一ヶ月も会っていないから?

それとも、あの早急すぎた面会に、未練があるのだろうか。

ルクレティアは立ち上がった。部屋を出ようと振り返って、そこに人が立っているとはじめて気付いた。

「殿下?」

「セイデン公…」

彼がいることに、今まで気付かなかった。セイデン公爵シャーロックは、いつもと変わらぬ美しい蒼の瞳でルクレティアを見た。

だが、その表情はわずかに暗い。

何かあったの、とルクレティアが訊く前に、彼は言った。

「殿下。申し訳ございませんが、お話が」

「――――――セイデン」

シャーロックの声は、さえぎられる。

はっとルクレティアは表情を固くした。扉から現れたのはティエアル公デュクス。

怖い、と思った。その端正な横顔に、感情の欠片も浮かんでいない。

「ティエアル公、殿下の前です」

シャーロックの言葉をデュクスは無視し、ルクレティアの前に出た。

「ティエアル、公?」

ルクレティアの問いに。

「リュデュキオは死んだ」

彼は、そう、言った。

「…………え」

「リュデュキオ公爵ルーナルティア=ディオクレス=レアンディは死んだ」

彼は告げた。とりたてて、なんの感傷も抱いていないようだった。

だから。嘘だと思った、冗談だと思った。

ルーンが。ルクレティアの愛する人が、そんな。

「残念ながら本当です、殿下」

セイデン公が言う。そらおそろしく、むなしい言葉。

「う…そ。うそに決まっているわ」

誰か、と言いかけて、ルクレティアは気付く。

「そ……うよ。クレオンは? リュクレクス公爵は?」

瞬間、厄介な、とでも言いたそうな顔にデュクスはなる。

「彼を呼んで。彼に訊くわ」

「リュクレクス公は、今はお会いできません」

どうして、とセイデン公を見る。

「治療中です。腹部の出血が激しくて、生命の危険も」

「な」

「リュデュキオに直接手をくだしたのは、リュクレクスだからだよ。名誉ある死でもリュデュキオを殺せなかった」

「――――――」

それでもなお、王女ルクレティアは声を荒げることをしなかった。セイデン公が内心感心していたことを、知るよしもないが。

「――――――誰がそんなことを言ったの。わたしが、お兄さまが、ルーンを処刑してほしいと言ったの?」

「いいえ、殿下」

皮肉げにティエアル公は言った。

「だがお忘れなく。リュデュキオの処刑を立案実行したのは俺とリュクレクスだ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ