6話
「たいしたものだな」
そのつぶやきが聞こえていたのか、デュクスはディオクレスに、にらみ付けられた。生来の美貌に加え、拷問によるやつれがいっそう凄味を増している。
荒々しくディオクレスは上着を脱いだ。シャツに血がにじんでいる。とくに何も考えずにデュクスは手を伸ばしたが、ディオクレスはそれを払いのけた。
「触るな」
ふん、とデュクスは鼻をならす。弱みを見せたがらないディオクレス、彼は自分の立場が分かっているのか?
「シャーロック。診てやれ」
ディオクレスは表情をゆがめる。
「必要ない」
「ディオクレス、足の一本二本折ってやろうか?」
地べたにはいつくばるくらいなら死を選ぶだろう彼に、デュクスは楽しんで言う。
「このままここで犬死にしたいなら、別だがな」
「……」
デュクスを射殺すように鋭い視線。その苛烈さが、彼を最も美しく見せる。
「ルーナルティア[至高の輝き]」
それは、今となっては王女ルクレティアだけが口にする名である。誰もが彼をその名で呼ぶことをためらった。デュクスも、昔は彼をその名を呼んでいたのだ。だが、いつしかそれは禁忌となった。玉座を暗示するようなその名は、彼の父親である先代リュデュキオ公爵が謀反の罪で処刑されたその時から、忌避されるべきものになっていた。
「お前は死にたいか?」
「別に」
ディオクレスは死を恐れない。
「そうか」
デュクスはちらとシャーロックを見た。紫の双眸は笑みの形にゆがめられている。
「分かった」
彼は言った。
「お前には、名誉ある死をくれてやろう」