最終話
ゆっくりと目を開ける。薄暗い部屋にひとり、クレオンはいた。
見知らぬ天井。ここは、どこだ? 体を起こそうとして腹と腕に力を入れる。
だが、起き上がれなかった。自分の体重を支えきれない。
「な、ん……」
とりあえず、寝台に横になっていることは、わかる。
それが王宮のどこかの、少なくとも自分の知らない部屋であることも。
クレオンは頭だけ動かして、扉を探した。
途端。乱暴な勢いで、ノックもなしに扉が開かれる。
爆発するような光が、入り込む。クレオンは目を閉じた。白ばかりが視界に焼きつき、それが、記憶を刺激する……。
「なんだ、起きたのか」
声。それは、クレオンの予想したものではなかった。
「このまま死ぬかと思っていたのにな。半月も寝ていたぞ、お前」
ティエアル公デュクスはそう言って、腕に抱えていた大きな花瓶をテーブルに置いた。それから寝台に歩み寄り、なんとか起き上がろうとしているクレオンの顔を、覗き込む。
「セイデンを呼んでくる」
彼は告げた。そして、部屋を出ようとする。
「デュクス、」
その背中へ、クレオンは声をかけた。
「―――安心しろ」
ティエアル公は振り返る。だがその表情は、見えない。
「リュデュキオは死んだ」
死んだ―――――何とむなしい響きだろう。自分が、とどめを刺したのだ。
この手。今はまともに力も入らない、この腕で。
「………」
泣いてみようか、とクレオンは思った。けれど、どう頑張っても、涙は出ない。
クレオンはかなり苦労しながら片腕を持ち上げ、眼の上にのせた。
その重み、眼にかかる圧力が心地いい。
「ルーナルティア=ディオクレス―――――ルーン」
声は、虚空に吸い込まれる。
「お前はそれでよかったのか」