小さな国
むかし、星の王子様を読んだことがあります。王子さまは小さな惑星に住んでいましたね。私はあのお話が好きなんですよ、小さくても自分の国がある、あこがれたなあ。
まもなく戦争が終わるころでした、星野二等兵は空爆の後何日も何日も意識を失っていました。
「ここはどこだ、そうか爆風で僕は倒れたのだな。」
まだ十八歳という若さで徴兵され、山で訓練している時に爆撃されたのです。
「ここは確か山間の道だったはずだが。」
星野二等兵はあたりを見渡しました。近くで一頭の軍馬が草を食べていました。
「そうだ、僕はあの軍馬の背中に落ちたんだ。」
星野二等兵は爆風で飛ばされた後、軍馬の鞍に落ちたのです、軍馬はそのまま本能で安全と思われる山の中に入りこんだのです。
農家育ちの星野二等兵は、軍馬の世話係でした。自分の家にも農耕馬もいたのですが、徴用されてしまったのです。
「ちゃ五郎!お前が助けてくれたんだね。」
星野二等兵は軍馬が茶色だったのでこっそりこう呼んでいました。
「あの山は確か青竜山、そして今は昼の何時ごろかな?たぶん三時頃だ、あの日の傾きで分かる。そうすると今いるのは玄武山と白虎山の間だ。帰らずの森だ!」
帰らずの森は、一度入ると抜け出せないといわれている森です。たぶん方向感覚を狂わせる磁場があるのでしょう。ですから、誰も帰ってこないと言われているのです。
「森にこんな場所があったのか。」
その場所は平たい野原でした・四方を高い木々に囲まれ周囲からは見えません。火山岩多いことで磁石が効かない。霧が発生すると山も見えない。四方が見渡せるのはごくまれなのです。
その森のほぼ中央の空き地、そこにちゃ五郎は星野二等兵を連れてきたのです。
「ここから出ないと、だけど途中で道を間違えたら死んでしまう。あの爆撃でみんな亡くなってしまったのだろうな。僕が帰らなかったら脱走兵にされてしまうのだろうか。」
幸いここに は食べられる木の実が沢山あります、火山でできた洞窟には湧き水もあります、飢え死にすることはなさそうです。
「日本はどうなるんだろう、あんなでかい爆撃機見たことが無い。故郷の村にも爆弾が落されたらどうなるんだろう。ここだったら敵にも見つからないだろうなあ。そうだ!こうすればいい!」
それから星野二等兵は毎日少しずつ穴を掘り、畑を作り石を運び、木を伐り小屋を建てました。
「じっちゃんから聞いたことがある。悪い代官様にひどい目にあった村人が、森深く入って隠れ里を作ったことがあるって。僕は、爆撃で逃げてきた人たちが困らないように、食べ物や住む場所を作っておこう。」
それから何十年たったことでしょう、星野二等兵は八十八歳になっていました。小さな野原の片隅にちゃ五郎のお墓があります。唯一の仲間のお墓です。
星野二等兵は、墓のそばに腰を掛け野原を眺めていました。
「これでいい、これでみんながいつ来ても平和に暮らせるぞ。お腹いっぱい食べられる食べ物もあるよ。」
野原には沢山の実をつけた木が植えられ、畑にはおいしそうな野菜がなっていました。そして、周囲には小さな家が沢山建っていました。
天守閣のような小屋、西洋のお城のような小屋、学校のような小屋、病院のような小屋など、色々な建物を小さくしたような小屋がずらりと立っていました。そして地下倉庫には沢山の食べ物が貯蔵されていました。
そうです、ここは星野二等兵が作った小さな国です。戦いもありません、意地悪する人もいません。
星野二等兵は静かに目を閉じました。




