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眉目清秀な劇団座長は、宿屋の平凡娘になぜか弱い。  作者: ゆずまめ鯉


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番外編 二.央央、勝手についていく

 馬車に揺られること五日。央央と晋高は霜北府に到着していた。出発当日の朝、馬車にこっそり乗り込もうとしたところ、「連れて行けない」とはっきり断られてしまった。だから、自分で手配した馬車で勝手に行くから気にしないでと言い放った。

 それぞれ別の馬車で出発し、先頭を晋高、その後ろを央央が走っていた。馬は長時間走れないため、時折休憩を挟みながら北部を目指していたところ、央央の乗る馬車だけが匪賊に狙われてしまった。取り囲まれてしまった。晋高の乗った馬車は、足止めを食らった央央に気づくことはなく、どんどん離れていく。


(……自分でなんとかしなきゃ)


 休憩している最中に、面紗をつけた女と、馬車の運転手しかいないことを知られてしまったのだろう。屈強な男と馬車の運転手、若い女と馬車の運転手ならば、成功率の高い後者を狙うのは当然だ。

 急な旅立ちだったので、央央は保鏢を雇っていなかった。絶体絶命の危機だ。どう切り抜けるべきか考え、ここはやはり得意の易者で切り抜けるべきだと頷く。

 二、三十代の比較的、年齢層の若い男たちに囲まれているので、臆することなく央央は馬車の外に降り立つ。そして「すぐに立ち去らないと、これから痛い目に遭うわよ!」と算盤を弾きながら脅す。ところが、男たちはけらけらと笑うだけで怖がるそぶりは見せなかった。

 占いに興味がありそうな若者とはいえ、相手は匪賊だ。釣られることはなかった。馬車の運転手は真っ先に逃げているし、他の手を使うしかない。

 その時。央央の面紗がひらりと風に舞い、一瞬だけだが素顔を見られてしまった。すると、目の色を変えた男に「俺の女になれ」と口説かれてしまった。まただ。腕を掴まれる前に、央央は走って逃げた。

 幸いにも、男はすぐには追って来なかった。女だからそこまで遠くに逃げられないだろうと、高を括っているのかもしれない。


(……仕方ない。本当は使いたくなかったけど、あれを使うしかないようね)


 服の袖にしまっていた香袋から、油紙の包みを一つ取り出す。厳重に包まれている中身は痺れ薬だ。福来が配合した粉末で、これを相手に振りかけると、一定時間動けなくなるという。熊などの大型な害獣にも効果があると豪語していた。

 この粉末があったので、保鏢を雇わなくても不安は生じなかったのだ。福来に渡されたものは他にもあり、睡眠薬や、毒薬、仮死状態にするものまである。

 風の向きによっては自分に振りかかってしまうため、央央は走りながらどの方向に風が吹いているのか探ることにした。


「──央央。無事か?」


 そんな央央の元へ、立ち去ったと思われた晋高が駆け寄った。周囲を見ても、晋高が乗っていた馬車は見当たらない。置き去りにされたわけではなかったようだ。


「琳哥哥? 先に行ったんじゃなかったの?」

「馬車だけだ。後をつけられていたことには気づいている。あと、それを使うのは感心しない」


 そう言いながら、晋高に手首を掴まれた。まさか、止められるとは思ってもみなかったので、央央は動揺した。


「え、わかるの?」

「痺れや眠りの効果がある粉末だろう?」

「うん。だから、琳哥哥がいなくても、私一人で対処できたのに」


 心配して戻ってきてくれて嬉しかったのに、央央は素直に伝えられなかった。また可愛くない態度を取ってしまった。


「相手は手練れだ」

「でも、私には粉薬があるのよ?」

「耐性があればどれも効かない。俺もそうだ」


 痺れ薬や眠り薬が効かぬよう、予め体を慣らしている人間がいるとは想像していなかった。福来が調合した粉があれば、匪賊が相手だろうがなんだろうが、屈しないと過信していた。


「致死量の毒や、遅延性の毒も効かないの?」

「量にもよるが、その包み程度じゃ、精々、一炷香といったところだろう」


 不慣れな山道で三十分、匪賊から逃げるとなると、土地勘のない央央にとっては分が悪い。


「……逃げるには十分だけど、それだと追いつかれるか」

「そうだ」


 掴まれた腕を振り解くことなく会話していると、先ほどの男どもが走ってくる姿が視界に入った。央央に向かって「俺の女になれ」と言い放った男も、こちらに気がつく。晋高と央央を目にした途端、仲睦まじく見えたのか、怒りを露わにして刀を振り上げ襲いかかってきた。


「お取込み中、悪いが、その女は俺が先に目をつけたんだよッ!」


 晋高は、央央の手を引いて背中に隠すと、素早く剣を引き抜き、ブンと音を立てて向かってくる刀をしっかり受け止めた。残りの四人も一斉に飛び出し、晋高はいとも簡単に返り討ちにした。気絶した男たちを、その辺にある大木に縛りつけ、回収した武器は地面に埋める。これでしばらくは追って来られないだろう。


「さすが琳哥哥ね♡」

「……行くぞ」

「一緒に行ってくれるの?」


 てっきりまた別行動かと思いきや、央央が乗っていた馬車を発見するなり、乗るように促した。どうやら、一緒に行った方が楽だと判断したようだ。

 馬車に乗り込もうとすると、置いて逃げた運転手の男と目が合い、気まずそうに逸らされた。かまわずに乗り込んだ。晋高は央央の正面に腰かけた。


「琳哥哥。さっきは助けてくれて、ありがとう」

「……成り行きだ」


 お礼を告げると素っ気なく答えられたが、それでもよかった。その後は匪賊に狙われることもなく、無事に霜北府へ到着した。町の中心部で降ろしてもらった。

 今晩泊まる宿屋を先に確保したいところだが、すぐにでも実家に向かうという晋高について行く。幼馴染みや許嫁の有無を確認するためだ。

 大きな門扉を潜ると、増築に増築を重ねた立派な家屋と、広々とした庭園に央央は目を奪われた。庭先の至るところに、真っ赤な椿が咲きほこっているのだ。楓流軒の庭にも椿はあるが、一面を埋め尽くすほどではない。思わず見とれていると、晋高に置いて行かれそうだったので慌てて後を追った。

 琳家の母屋に足を踏み入れた央央は、目から下を覆っていた面紗を外して懐に納めた。晋高の家族に会うのだから、外さないと失礼だろう。部屋の中央にて卓を取り囲み、寛いでいた白髪交じりの男たちに向かって拱手する。胸元の前で、自分の片手をもう片方の手で包む挨拶だ。


「お邪魔します」


 央央が笑みを浮かべた途端、茶を啜っていた初老を過ぎた男たちは、目を見開き驚愕したような表情を見せる。二度見どころか三度見している。よっぽど珍しかったようだ。


「あの阿高も、ついに嫁を連れて来たんか!?」

「こりゃまたべっぴんさんじゃないか!」

「一大事じゃねえか!」


 三人とも口々に驚いている。


「どれ、もっと顔をよく見せておくれ!」

「俺も俺も!」


 その場に立ち上がると、さすが晋高の一族だからか、それなりに大きいので圧倒された。そのまま一斉に詰め寄られそうになったところ、晋高が一歩前に出て背後に隠してくれた。


「距離が近い」


 また守ってくれた。この四年余り。こうした、さり気ない行動で好感度が積もりに積もり、ついには溢れてしまっているというのに、当の本人は気づいていない。


「阿高。ちょっと観察しようとしただけなのに、心が狭すぎないか?」

「そうだそうだ!」


 三人から口々に責められても、晋高は真顔のままだ。そんな場の雰囲気を改善させたい央央は、笑顔を浮かべておどけることにした。


「こんにちは。晋高さんのお嫁さんになる予定の李央央です♡」


 そう冗談で自己紹介すると、わっと湧いた男たちは、勢いよく晋高を取り囲み、大いに盛り上がった。家僕を呼び、無礼講だといいながら真昼間から酒盛りしようとする。


「伯父さん。揶揄するなら今度にしてくれ」

 どうやら白髪交じりの男たちは、晋高の伯父にあたる人物だったらしい。保鏢をしている一族なので、依頼が入るまでは待機しているのだろう。


「それより祖父は?」

「父上は離れにおる」

「わかった」


 晋高は母屋を出ようとしたため、央央はお辞儀をしてから後を追った。

 母屋を出てから左手に向かって少し歩くと、そこには立派な平屋があった。戸を二、三回叩き、中から声が返ってくるのを待ってから、晋高は足を踏み入れる。

 縁側に向かって設置された椅子に、白髪の男が腰かけていた。


「爺様」

「うむ」


 体調を崩したと一報が入り、帝都から会いに来たのだが、祖父の顔色は悪くなかった。


「勝手に文を出しおって、大袈裟なんじゃ」


 容態を心配した晋高の弟妹が、帝都にいる兄に手紙を出したことは把握しているのだろう。ここ四年は一度も帰省していなかったので、そんな兄を気遣ったのかもしれない。


「そちらのお嬢さんは?」

「初めまして。晋高さんにお世話になっている、李央央と申します」


 自己紹介しながら、央央は本日二度目の拱手をした。晋高が長年仕える、謝楚月と結婚したのは姉で、自分はその妹だと簡潔に説明した。どうして、央央が晋高に付き添い帰省したのか、伝えるべきか迷っていたところ、晋高の祖父はぽつりとつぶやいた。


「いい娘さんに好かれたのう」


 帰省することを聞きつけ、勝手についてきただけなのだが、祖父はなにかを察したようだ。


「……私が一方的に好きで、晋高さんにつきまとっているだけなんです」


 あくまで好いているのは自分だけだと正直に打ち明けた。四年余り生活を共にしても、保鏢と依頼人の身内という、近いようで遠い関係から脱することは叶わなかった。先ほどの伯父たちには誤解されても支障は来さないが、せめて彼の祖父には正確に伝えようと訂正した。


「果たして、本当に一方的かな?」


 ところが祖父は、そう一言漏らして、晋高に視線を向けた。聞いていたのかいないのか、晋高は視線を逸らしたままなにも言わなかった。


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