表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
眉目清秀な劇団座長は、宿屋の平凡娘になぜか弱い。  作者: ゆずまめ鯉


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/26

十二.続逃亡

 楚月が逃亡してから、十八日目の正午過ぎ。春鶯の元に、二組の象牙の箸が届いた。文には「象牙の箸で春鶯の手料理が食べたい」と記されており、作って欲しい献立も載っていた。象牙の箸ときたらお返しは玉杯しかない。皮紙に、料理を作って待っていることを書いて、露天商で偶然入手した二つの小さな玉杯を包んで晋高に託した。


「姐姐。ここ最近はまったく書いてないよね?」

「うん。落ち着かなくて」

「それならさ、その落ち着かない気持ちをぶつけてみたら? 書いたらすっきりするかもしれないよ?」


 妹の央央に背中を押され、会いたくても会えない、連絡を取りたくても自由に取れない不安を、一つの物語にすることにした。

 久しぶりに柜台の手前に着席して筆と竹紙を用意する。楚月が逃亡することになったり、ぐっすり眠れなくなったり、引っ越すことになったり、新たに雇った従業員に仕事を教えたりと色々あった。ゆっくり創作するのは三週間ぶりだ。


(……どんな話にしようかな)


 ふと思いついたのは、周囲を不幸にすると忌み嫌われている八歳の少年の話だ。

 ある日、その少年が取っ組み合いの喧嘩をすると、少年は無傷なのに対し、喧嘩相手は擦り傷が大量にできてしまった。そのことに対して気味悪がられてしまい、少年が泣いていると、同じ年頃の女の子がほかほかで温かい包子を差し出してくれた。その包子はそんなに美味しくなかった。

 しかし、その女の子は宿屋の娘で、母親を亡くしたばかりだという。弟に食べさせるために作った包子だったのだが、泣いている少年を見てしまい、無視できずに差し出したのだ。

 見ず知らずだというのに温かい食べ物を分けてもらい、少年は人の優しさを思い出す。その少年は、本当は周囲に不幸を振りまくのではなく、生まれながらに運のある幸運な体質なだけだったのだが、勘違いされて国から追われてしまう。

 少年の特異体質に気づいた師匠は、その少年に武術を教え、保鏢になるよう指導した。保鏢になって対象人物を守れば、少年の持つ、運の強さの恩恵を受けて、双方ともに無傷になるのでは、と考えたからだ。師匠の狙いは正しく、めきめきと力をつけた。

 そして少年は青年になり、自分の顔は黒い仮面で隠した。顔を隠すことで、自分の体質も和らぐ気がしたからだ。本人は幸運なので保鏢として働くには最適だった。自分が傍にいれば無傷で守れたからだ。

 ただ、一箇所に長居をしてしまうと幸運体質がばれ、依頼主はその分、不運になると勘違いされるため、同じ場所に留まることはなかった。

 数年後、匪賊に襲われている女を助けて、宿屋の娘と再会する。最初は、成長した青年の運気がよすぎるため、女は自分の不運に落ち込むが、青年は、自分と一緒にいると彼女にも幸運を分けてあげられるということに気がつく。

 子どもの頃の話を彼女に打ち明けた。自分は無傷で相手は傷だらけだったが、その先には崖がなかったかと指摘される。確かに自分がいた先には崖があったが、草が生い茂っていて気づかなかった。

 今までのこともすべて、青年がいたことによって、みな大怪我をしないで済んでいたのではないかと彼女に指摘され、救われた気持ちになった。彼女と結婚して幸せになった。

 春鶯は久しぶりに小説を書き上げた。楚月に読ませたら、きっと「また保鏢?」と拗ねられる気がしたので、主人公に仮面をつけさせた。


「ねえ、これも謝公子に送ったらどう? 演じている姿、見てみたいし」

「ふふ、そうね」

「ただ、青年を保鏢にしちゃったから、琳哥哥を参考にしないで、男前の座長にしてほしいって言い出す気がするけどね?」


 妹も、姉とまったく同じことを考えていたことが発覚し、春鶯は思わず噴き出した。

 座長にしなかったのは、そのまま過ぎるからだ。自分と楚月を元にしていると知られるのが恥ずかしかったので、そこは変えさせてもらった。保鏢だとしても、誰を想って書いているのかは本人にきちんと伝わるはずだ。

 晋高にもう一通送ってもらうように頼むと、楚月からの返事が待ち遠しかった。元気な姿が早く見たかった。



 その日の夕方。楓流軒の石畳を箒で掃いていると、鼻歌交じりで央央が帰宅した。観劇でも楽しんだのかと問いかけると、どうやら易者をしていた際に、また金払いのいい客に当たったという。


「今日、覆面をしていたけど、気品があって、とても綺麗な人を占ったの。同じ年くらいの男前と一緒にいたわ。背後には変装をした侍衛のような人もいたから、もしかしたら後宮から抜け出してきたのかも」

「宮廷にも専属の易者がいるのよね?」

「うん。でも、時々、変装してくる人はいるよ。金払いがいいの。銀一両もくれたわ! それでね、二人の相性は抜群だったよ。だから、結婚するように背中を押しといたよ♪」


 宮廷専属だと耳障りのよいことしか言われないため、身分を隠して庶民に紛れ、占ってもらいに来る人物も中にはいるという。妃賓など、翡翠城からは自由に外出させてもらえないはずだが、金を積んで抜け出しているのかもしれない。

 相性抜群の二人と耳にして、どこにいるのかわからない楚月のことが脳裏を過った。会いたくて会いたくてたまらなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ