お化け話し―③お化け提灯
昔見たゲゲゲの鬼太郎アニメのOPのお化け提灯でも頭に思い浮かんだようです。
人情噺よりです。
お化け話し―③お化け提灯
「へい、いらっしゃい」
「おやじさんまだ注文大丈夫?」
中央の調理場で出迎えてくれたおやじさんは会社員風の二人の客に答えた。
「へい。そうですね今ならまだ大丈夫ですよ」
ちらりと見た視線の先には時計が飾ってあった。
「じゃ、二人でお願いします」
「はいよ。ケイちゃん案内宜しく」
「はいよー」
配膳を終えたケイちゃんこと鈴森ケイが奥から出迎えた。
「あぁ。この前も来てくださったお兄さん」
「あぁ。今日同僚を連れてこようと思ったんだけど、用があるって帰っていったから、部下連れて着ちゃった」
「大歓迎ですよ!」
ケイちゃんは連れてこられた部下の女性へ挨拶をした。
「自分は鈴森ケイって言います。ケイちゃんで通ってます。よかったらそう呼んでください。宜しくお願いします」
紹介を受けた女性は上司である男よりは若そうに見える。一つ結びの眼鏡を掛けた彼女の眼差しは、残業に疲れた様子で、小さな声で「宜しくお願いします」と答えていた。
小さく会釈する感じが普段の小さめの行動する様子が思い浮かぶようだった。
「さぁさぁ。こちらへどうぞ」
ボックス席へご案内する。
ケイちゃんと上司に案内され席を勧められる彼女の姿は近くで飲んでいた客に大丈夫かあれはと思われていた。
「お酒やめときます?」
「いや、本人は飲みたいって。割ったの貰おうね」
頷く部下の女性。
メニューを開くと女性は透明なお酒を選んでお湯割りを注文した。
「じゃ、俺もそれひとつ。それからお腹に優しいのにしよう」
「ご飯ものが良いです」
「そうだね」
メニューを開いていく。
ご飯ものだ。
「じゃ、このおかゆさん大きいから二人でいただこうか?」
「はい」
「おかずはどおする?」
「じゃ、この野菜炒めと唐揚げなんかどうですか?」
「いいね。じゃとりあえずまずはそれで」
「はい。ありがとうございます」
ケイちゃんの去り際、上司はケイちゃんに手を添えて小さい声で言った。
「弱めで」
「あいよー!」
ケイちゃんは明るく声を出す。
この時間は深夜前終電前にやってくる客たちで一杯になっている。
暗くならないように努めてケイちゃんは明るく振舞う。店長の子供がその姿を見てかっこいいと称していた、それがケイちゃんの誇りだ。
元気に注文を厨房へ伝える。
お酒を用意するケイちゃんに、「昨日はありがとうね」とひとりの男性客が近づいて言った。
「いえ。レシピ役に立って何よりです」
「あぁ、カミさんが寝込むなんて稀でさぁ。御粥以外の手作り料理リクエストされた時は焦ったよ」
その二人のやりとりを聞いていた客が声を掛ける。
「何だい、大丈夫だったのかい」
「あぁ、そうなんです。彼女に頼んで御粥食べるの飽きた病人に何食べさしたらいいか、普段そんなに料理しない俺にもできるレシピ教えてもらって」
「そうだったんですか。あぁ。御粥以外ねぇ。確かに食べずらくなっている時の簡単な料理って知っているようであまりレパートリー無いかもしれない」
そう言ってひとり大きく納得しているそのお客は「こうしちゃいられない。ありがとうね。」と言って、席を立ってお会計を済ませ始めた。会計は別のバイトの人がこなしている。
「彼何?」
どうしたのだろうと心配になった客に。
「何でしょうね。何かいいことでも思いついたのかも」
「あはは。何だい。嬉しいね。いつの間にか俺そこに参加していた感じか?」
そう言って「あははははは」と笑って自分の席へ帰って「じゃ、またね」と言って彼も会計を済ませて帰っていった。
気持ちを切り替えるように、手元の用意しているお酒を確認し、お酒のお客に出す漬物の小鉢も用意して配膳に向かう。
「お待たせしました」
先ほどのテーブルに到着すると、待ってましたと明るい笑顔の上司は救われたと思っているのがケイちゃんには見てとれた。
「あぁ、ありがとう」
「ありがとうございます」
注文している時よりも声が出てきた女性に内心ホッとしながらも、ケイちゃんも笑顔でお酒を出す。
「どうぞ。この漬物はお酒を注文されたお客様に出しているもので、店長が仕込んで提供させていただいている物になります」
「あ」
女性客の顔がほころんだ。
上司も気づいて注視していると、
「久しぶりです。浅漬け」
「うんうん。よかったね~」
「はい」
「これ使って」
「ありがとうございます」
上司から受け取ったテーブルに置いてある割りばしを受け取った彼女は、勧められるままに漬物を食べた。
「どう?」
「美味しいです」
「よかった~」
「ありがとうございます」と笑顔でお礼を言うケイちゃんは「すぐにご注文の品お持ちしますね」と言って下がると、「美味しいいただきました!」と大きな声で店長や他の客へ伝える。
「ありがとうございます!」と店長が言うと、お客たちのなかでも常連のお客がお酒や飲み物のグラスを持って掲げて「いえーい!」と聞こえるか聞こえないかの歯切れで答えた。
目の前のその出来事に目を丸くしている女性客の顔は笑顔に溢れて笑った。
掲げたグラスを飲む客は「いやーいいっすねぇ」という。「やっと仕事が終えられる」「やったー」とさまざま聞こえた。
部下の女性は目の前の上司に背筋を伸ばして頭を下げてからお礼を言った。
「誘ってくださりありがとうございます」
うんうん大きく何度か頷いた上司は、
「いいんだよ。ここのところ忙しくて頑張ってもらっていたからね。今日はそのお疲れさまでしたの会だから」
上司の男性も彼女のホッとした元気さを取り戻し始めたことにホッとしたら涙がこぼれそうになっていた。疲れた顔を見せ始めた部下を注意しホローしてきてた自分もどうも肩ひじ張って緊張していたようだ。そのことに一瞬ほほ笑んでみせた。
すると隣の席の男性客と目が合った。
彼は言った。
「お疲れ」
口を結び一瞬間を開けて、から頷いてその男性客と目を合わせながら、グラスを持って掲げた。
「乾杯」
ぐびぐび飲む二人に。
「私も」
というと、部下の女性も飲んだ。
飲み干した三人は、声を揃えていった。
「おかわり」
「あいよー!」
隣の男性は大きな吐息をつき。
上司は目元をすーっと拭った。
女性は頬を濡らしながら笑って、「飲み干してしまいましたね」と自発的に声をかけた。
「あは!」
嬉しい感情が一瞬出てきたその姿に、部下は元気な声で笑い。上司はとうとう天井を向いて涙をこらえた。
ケイちゃんが訊ねる。
「三人とも同じのでいいですか?」
「いえ、違うの!」
元気に注文し始めた部下にもう涙をこらえることができなかった上司は部下に見られてももういいかと涙を部下の前で流すことを気にすることなく「ははは」と言ってお手拭きで涙を拭った。
できれば観ないでねと思いながら。
「俺も違うのを注文しようかな」
「どれにします」
徐々に元気な声になっていくことに嬉しくなるその気持ちの勢いのままに、「じゃ、俺はこれにしようかな」と口調が柔らかくなった。
「おれはビールでいいよ」
と隣の客は言った。
「奢らせてください」
上司は言ったが彼は「俺が奢らせてください」と返した。
ビックリする二人に、彼は「なんだかなんだかわかんないけれどそうしたいんです。どうかお願いします」
「そ、そんな。頭を下げるだなんて」
席を立とうとした上司に戸惑いつつ上司に従う部下の姿。
彼の中で何かを思い出したのだろう。
「あ」と言って、両手で顔を覆った。
そのまま時が止まったように静かになった気がした上司に彼の同僚が席を立ち、上司に頭を下げて、同僚が彼の肩を慰めるように手を置いた。
頷く男性。
同僚が彼に何か伝えている。
頷く男性の肩が震える。
なにか説得しているようだ。
納得したのだろうか。静かに座った。
同僚はその姿を確認すると、くるりと隣の上司らへ頭を下げて、「ありがとうございました」とお礼を述べた。
席を立つ二人。
「いえ、いえ、そんな」
「そうです。頭を上げてください」
頭を上げると、また一度頭を下げた。
そうして二人の男性は席について座った。
ホッとした二人の上司と部下はお互い顔を見合わせて、大丈夫になったんだとゆっくり席に座った。
同時に頷く二人は、「今日は呑み過ぎないようにして」「明日の休日にしっかり休めれるようにしよう」と告げあうと頷いた。
苦笑をするケイちゃんは、「とりあえず今注文していただいたものはお運びしてもよろしいですか?」
すっかり涙が止まった上司は涙で顔が痒くなってきたとお手拭きで拭いて、「よろしく」と頼んだ。
「そうですね」と部下も笑って拭く。
「化粧落ちちゃって」
「ははははは」と言いながら、鞄から鏡を出して酷くなっていないか確認する。本人的には大丈夫だったようで、鏡を仕舞った。
運ばれてきた料理を前に彼らの間にも隣の席の男性たちの間にも和やかさと明るさが戻ってきた。
「いただきます」
「いただきます」
食べ始めた二人は、美味しさをかみしめるようにゆっくり味わった。
「うまい!」
「うまいなぁ」
「ありがとうございます!」
頷く店長とお客たち。
誰かが言った。
「だからやめられないんだ」
「いいから、食え」
「あぁ、俺も食う」
「ははははははは」
店内がまた一段と盛り上がった。
「たまんねーな」
「また来よーや」
「あぁ」
「ごちそうさま」
「ありがとうございます!」
「お会計宜しく」
「はーい!」
弾む声がさらに全体的に反響しているようで、乾杯しているテーブル席の人たち。カウンター席では隣の客人同士が乾杯していた。
上司と部下もお腹を満たすと会計を済ませ帰っていった。
「ありがとうございましたー!」
二人の姿が外へと消えると、ケイちゃんは「よかったぁ」と思わず声に出して言っていた。
「やったね」
もう一人のバイトが声を掛けてくれる。
「うん」
「ケイちゃんも頑張りすぎないでね」
少し大人しめの彼女が珍しくそんなことを言うものだから彼女はビックリした。
そして嬉しそうに笑った。
「ありがとう。そうだったね。今日も最後まで頑張ろうね」
「だからほどほどにね」
「はははは。はーい!」
二人のやりとりが聞こえていたのか、近くに居たお客が笑った。
「俺も今日は早めに帰ろう」
ぽつりとそういうとカウンターの男性客もお会計を済ませて帰った。
「俺たちはもうちょっと飲んで帰るぞ」
「おー!」
まだまだ盛り上がっているお客たちに笑顔を向ける店長。
気合を入れなおしたようだ。
「ケイちゃん!」
注文を頼むお客が呼ぶ。
「はいよー!」
と答える明るい声。
外は雪がパラつき始めた。
外に出た客は「寒いね」と言いながら連れに声を掛ける。
「この提灯こんなにデカかったっけ?」
と毎日何組かのお客がおしゃべりしていく。
その様子は店の中から店の出入り口の扉のガラスの部分から良くわかるようで、店長は満足げに頷いていた。
店長は思い出す。
店の提灯を業者へ発注した時のことを。
「何度か作りなおしたりこれからして欲しいんですけど、その際に職人さんの感覚で構わないので、これくらいのイメージ感が出る感覚の範囲内でお願いしたいんですけど」
「いいんですか?」
びっくりしている職人さんへ、内心緊張しながら注文していた時を思い出す。
「あー緊張したなぁ」
「えっ?」
「いや、俺はこの先も無理なく、続けるからこのお店」
「はい!」
「はい」
「二人も是非ここでの時間自分なりで楽しんで」
「はい!」
「はい!」
「お疲れさまでした」
「お疲れさまでした」
提灯の前でアルバイトの二人を見送った店長は、店の後片付けをするために店に足を踏み入れた。その時ふと違和感を覚えた。
「んー。気のせいか」
何かを確認することもなく店に入って行くおやじ。
「ありがとう」
「いいよ。たまにわね」と奥さんが笑った。
夫婦水入らずで一日の店じまいをする。
「今日は溜まんなかった時があってさ。この店、やって良かったって思ったよ」
「ふふふふふふ。ならよかった」
「なんだよ?」
「あはは。安心って話し」
「なんだぁ」
「ははははははは」
表の提灯の灯りが点滅してから消えた。
火が消えていることとガスの元栓を閉めていることなどを点検して振り向くと、窓や換気扇、電気の消し忘れをチェックして消した奥さんがやってくる。
「さぁ、俺たちも帰ろう」
「あなたはご飯食べてお風呂入って寝なきゃね」
「あぁ」
「ご飯は用意してあるから」
「お! 嬉しいね」
去って行く二人の姿を見守るような後姿。
提灯を見て、ほほ笑んだ。
「今日は良いことあったみたいだね。ははは」
鳥が飛んでいく音がしていく間にその人影は居なくなっていた。
店の中に飾ってある写真立て。店長と奥さんそしてもうひとり社会人か大学生の男性の姿が映っていた。
お化けどこだよと思った読者様ごめんなさい。
ここに違いないと思った方。おそらくそれです。
人情ものよりですので、ホラー感はなかったのかあったのか。
どきどきしたあなたはゆっくり休みましょう。深呼吸して身体の力を抜いて。立つ力はしっかりと。座れるならば椅子に座って。一度ダラーっとした後に、背筋を伸ばしましょう。
お疲れさまでした。




