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お化け屋敷

幼いながらにテレビで視聴したお化け屋敷の怖い話のオマージュになります。

少しのどきどき何が出るかという緊張感を感じていただければ幸いです。


おばけのお話し―その②お化け屋敷


「もう日も暮れてきたね」

先月新人同士ということで友となった三多気さんと機能約束をしたのだ。遊園地へ行こうと。二人とも勤務地が地元から離れて、新しい土地に引っ越して来た者同士。

「そうだね」

明るく元気な三多気さんは正直可愛いと思う時があったので、いっしょにこうして休日に出かけるのは嬉しい。

少し前を歩く彼女の後姿。

右を向いた彼女の目が輝いた。

「あれ!」

何かと思ってそちらを向くとお化け屋敷があった。

その中に吸い込まれていくんじゃないかと思うスムーズさで、彼女は俺の同意を得てお化け屋敷に入ろうとする。

「遊園地と言えばお化け屋敷でしょう」

「だ、誰もそんなことは提唱していないと思うよ」

「えー、行こうよ! さあ!」

「あ、あぁ」

及び腰になっている俺にはある事情があった。

後ろを振り返る。

無表情の彼女の顔が浮かんで消えた。

「怒ってはいないようだ」

思わず呟く。

もうすでにお化け屋敷に入ろうとする三多気さんを追いかける。

「待って。俺も入る」

「あはは。遅いよ」

お化け屋敷のスタッフさんに笑顔で案内されるまま暗い室内に入って行く。

三多気さんのところへ走って行って離れたはずだけれど、あの彼女は傍にいる気がする。

この彼女が居るお陰でもしかしたら本物のお化けが万が一居たとしても大丈夫かもしれない。

どこかでため息の音が聞こえた気がした。

「案外怖くないかも」

三多気さんは入室して廊下を歩く中、中に入った感覚からそう述べたようだった。その声いろは明るく、楽しんでいると分かるほどだった。

「突然のきゃーはやめてくださいね」

「いや、それはさすがに無理でしょう」

気持ちは分からないでもないけどさ。と答えてくれながら先へどんどん進んでいく。

楽しいけれど内心怖くて緊張しているのかもしれない。

そう考えた矢先だった。

右肩に痛みと共に違和感を感じた。

視界もぶれる。

暗がりで見えにくいのにとムカつく自分がいて維持でも前に進もうとする動きを、とっさに取った。

「だめ」

どこかで聞いたことがある声が確かに耳に届いたと思ったら、小外かりにでもかかったかのように身体が倒れて、仰向けにころがった。

衝撃で力を入れた瞬間、目を強く瞑って力を入れていた。

徐々に力を抜くとつむっている視界が白くなって、俺の意識はなくなった。

しばらくして、俺の名前を呼ぶ声がする。

「大丈夫ですか?」

三多気さんと入り口で案内してくれたスタッフの人が俺を覗き込んでいた。

「あー、よかった」

携帯電話でスタッフの方が連絡している。

「目が覚めました」と。

三多気さんに問われる。

「怪我はない?」

「と、特に今体に感じる痛みはないかな」

「よかった」

安堵したスタッフの声が大きく響いた。

「ゆっくり起き上がってください」

スタッフの方に言われた通りに動こうとすると三多気さんが手を借してくれた。

「ありがとう」

「どういたしまして」

立ち上がり服を払って、ホッとする俺の音に交じって、ため息が聞こえた気がした。

周囲を見ても誰も見えない。

三多気さんが声を掛ける。

「大丈夫?」

「あ、うん」

あぁ、もしかしたら本当に彼女に助けられたのかもしれない。

「ありがとう」

「ん?」

再度問いかける三多気さんに「何でもない」と返し、スタッフの方を見る。

スタッフの方は責任者の方へと連絡をとり終わったようで、出口まで案内してくれた。

「今更なんだけど。こうして明るい状態のお化け屋敷を歩くの初めてだ」

「ふふふ。そうですよね」

スタッフの方も苦笑している。

「私も初めて」

「そうですよね。うちでは何かあった時の安全面を考慮して照明を点けて安全な場所までご案内しているんですよ。すみません。あまり周りを見ないで歩いていただけますか?」

「あ、あぁ」

「そうですよね」

三多気さんが同意する。

「これ見て覚えちゃったら次来た時つまらなくなっちゃいますもんね」

「それもそうなんですが、やっぱりこういったことは闇で見えにくいから怖さの面白みが増してくると思うんですよ。まぁ、あくまでね、本物のお化けさんを雇って居てもらう訳にはいきませんから」

「あぁぁ、確かに」

「そうです。怖さを体験して盛り上がっていただきたいという我々のもてなしの一貫でありますのでね」

そうこうしている内に外へと出てこれた。すっかり日も暮れていた。

遠くからスーツにハッピ着たスタッフらしい方が走ってこられた。

「どうも私こちらでマネージャーをさせていただいております。織辺と申します。下は正勝と言います」

そう言いながら、息を整えて、名刺を渡してくれた。

「ありがとうございます」

名刺を受け取る練習をしたのは何か月前のことだったか。

合ってるかこれで。

「すみません。今プライベートで名刺を持ち合わせていないもので」

「いえいえいえ。いいんですよ」

眼鏡を上げる織辺さんは、「ところでお怪我の件ですが痛みを感じるような感覚はないとのことですが」

というともう一枚の名刺を取り出し裏返すとボールペンを取り出してこちらへ渡してきた。

「この後何かあったらいけません。お名前とご連絡先をお教え願えませんでしょうか?」

「え、大丈夫だと」

「ですが、暗がりの中仰向けに倒れてらしたとか。いえね。万が一万が一にですよ」

「あぁ、もし何かあったらこちらの名刺へ連絡したらいいですか?」

「あぁ、なるほど、それで構いませんが、万が一何かあった場合にお身内の方が名前で問い合わせいただいても何て言いますか、その照会する者があった方が我々としましても業務を進めやすくご協力を頂けると助かります」

「おぉ、確かに」

万が一俺に何かあって家族がここを訪ねたところで本当にその当人の家族なのか分かりずらい。自分たちからの確認のために連絡先を入手しておきたいのか。

「分かりました。貸してください」

「ありがとうございます。こちらどうぞ」

もう一枚の名刺の裏に名前と電話番号を書く。

このやり取りを隣で聞いていた三多気さんが言った。

「私たち会社の同僚なので、私の方からも万が一なことがあった場合は彼のご家族に説明しますので」

そういうと、三多気さんは俺の手から名刺とペンを受け取って、書き始めた。

「はい、どうぞ」

「あ、ありがとうございます」

ありがたい。

そのひと言が身体全体から表現されているマネージャーさんの苦労を見ているのだな、今。いや、これも彼のマネージャーとして仕事の一つなのだろう。

「駆け付けてくださってありがとうございます」

「いえいえ、いいんですよ。こちらこそ、ご対応に答えてくださり誠に心より感謝いたします。ありがとうございます」

さらに胸ポケットから束になったチケットが渡された。

「こちらこの遊園地のアトラクション用のチケットとなります。よろしかったらどうぞ」

「あぁ! ありがとうございます」

「ははは、これはまた来なきゃですね」

「そうだね。やったね」

あぁ、喜んでいただいて何より。

小さく呟くように声が聞こえた。

目が合うと笑ってくれる。

ひとつ大きく深呼吸してから、三多気さんに提案する。

「お見上げ買いに行って帰りましょうか?」

「そうだね。そうしよう」

「それでは俺たち行きますね。ありがとうございました」

「こちらこそありがとうございました。どうぞ最後までお楽しみください」

丁寧なお辞儀をする織辺さんは長く頭を下げてくれていた。こちらを気遣ってジェスチャーで移動を促してくれる。

内心焦っている俺には有難かった。

「馬鹿め」

「行こう!」

行こうの言葉にかき消された馬鹿めは俺の耳にだけ届いたのかそのことについて誰も言及しなかった。

移動する俺たちの背中を身ながらスタッフに織辺さんは訪ねた。

「場所とどういう風な状態で発見したのか説明してもらっていい?」

「おけーです。こちらです」

移動を始めるスタッフとマネージャーは夜になった風が服をばさばさと揺らして音を出させた。

「ここです」

「ここ?」

眉間にしわが寄る織辺。

「はい」

「どんな感じだったか実際に寝そべってくれる?」

「え。まぁ、いいですけど」

しぶしぶ寝そべるスタッフは仰向けになる。

「うーん。な、なるほど。気は進まないけれどその状態を写真に撮らせて。業務上必要になるか漏れないから」

「えぇ」

「万が一万が一、ね」

「分かりましたよ」

ポーズをとるスタッフを自分の携帯電話のカメラ機能で撮影するマネージャー。

「ありがとう」

「は、はい」

立ち上がったスタッフの彼が服装を整えているうちに、携帯電話を仕舞うと次にこう尋ねた。

「時間的に入ってすぐだった?」

「はい、もちろんですよ」

「ならよかった」

「一応お塩出しておいて」

「分かりました」

マネージャーはもう一度携帯電話を出して誰かに電話をかけている。

「今度予定組んでここの掃除とお祓いしておこう。上と掛け合ってみる」

「分かりました」

お化け屋敷を出て事務所の方へと戻っていくマネージャーの後姿。

「あれが働く男の姿か」

アルバイトのスタッフである彼は感心しながら、大きく頷くと「さてさて、お清めのお塩を出して」そう言って、受付の中にお清めの塩を置いて、頭を下げた後に「宜しくお願いします」とひと言ぽつりと呟いた。

その後すぐに通りかかった遊園地の客へ声をかけた。

「いかがですか?」

「いえ、怖いのでいいです」

女性二人の組と三人の組には断られたが、次の客は入って行った。

事務所でマネージャーが言う。

「ではその通りに」

そして携帯電話の通話を終えた。

「どうでしたか?」

その彼にたずねる女性。事務を務めているようだ。

「あぁ、再来月までにあのお化け屋敷を作り上げてくれた方と日程調整をして掃除といつものところにお清めをしていただくことになった」

「お清めもですか?」

「あぁ、実はまた出たんだよ」

「え、じゃ」

「そう。これ」

マネージャーは携帯電話で撮影した写真を見せた。

そこにはスタッフの仰向けになった姿が映っていた。

「前もこんな仰向けになった話しでしたっけ?」

「ああ、俺の記憶ではあのお化け屋敷を運営して三回目になるね」

そういうと「あ、でも今回は前の二回よりも手前の場所だったんだよね」

「はぁ。そうなんですか」

「そう。何か意味があるのかどうか分からないけれど」

「そのお化け屋敷っていつからでしたっけ?」

「そうね。もうかれこれ十年になるかな」

「それ、統計的に見て偶然では?」

「ふ。偶然はない必然であるってね。まぁ、中の飾りとか細かいところの埃けっこう溜まっていたから。それかもしれないね。原因」

「あぁ。なるほどね。確かに」

タイピングを再開する事務の女性は、帰る時、「あれでも何でだ?」

と呟いて動きを止めた。

すると携帯電話が鳴った。

「はいはい」

言いながら出ると、画面の表示には家族からのメッセージが届いていた。

「ケチャップって。なんで一個買うの忘れてくるかな。家の人は」

上着を羽織って、鞄を持ち鍵を手に持つ。

「オムライスでケチャップ忘れるって」

暖房機はマネージャーが夜遅くまで残るとしてもいつもこの事務室に居るわけではないので、休憩時間以外ほとんど事務所に居る事務の人が帰る時に消される。安全のためだ。

そのため、今年の冬にマネージャーと同じくらい長く勤めているこの事務の女性は家族と一緒に選んだ使い捨てカイロと充電式カイロをプレゼントに渡した。

「毎年これに救われる」

そうマネージャーが言っていたと家族に告げると、家族が喜んでいたことを思い出してほっこり笑顔になる。

「さあさ、ケチャップ買って帰らなきゃ」

笑顔で声を弾ませて女性は事務所を後にした。彼女のデスクの上には翌営業日にすることリストを書いたメモが貼ってあった。












少し意識してリラックスいたしましょう。

うーんと伸びをして、深呼吸。

お疲れさまでした。

ご一読いただきありがとうございました。


またのご利用お待ちしております。

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