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第21話「迫り来る総力戦」

 辺境に旗が立てられてから、数日。

 空は澄み渡り、畑の麦は豊かに実りを迎えていた。

 だがその穏やかな光景の裏で、人々の胸に広がるのは、王都が次に何を仕掛けてくるのかという不安だった。


 リディアは広場に人々を集め、声を張り上げた。


「王都は必ず総力を挙げて攻めてくるでしょう。千の兵で足りなかったなら、万の兵を動かすはず。ですが、私たちも手をこまねいてはいられません」


 アレンが一歩前に出て頷いた。

「防衛だけでは限界がある。戦える兵を訓練し、柵を城壁に近い形に作り替えるべきだ」


「わしら農夫も槌を持とう! 畑を守るためなら命を惜しまん!」

 オルグの言葉に、農夫たちが声を合わせる。


 カイルが槍を掲げ、少年らしい高い声で叫んだ。

「僕も! 剣でも槍でも練習します!」


 リディアは胸の奥に熱を覚えた。

 もはや彼らは“寄せ集め”ではない。確かに「国の兵」となりつつあった。


 夜。

 リディアはアレンと共に地図を広げていた。

 古い羊皮紙に描かれた街道と森の道。その上に小石を置きながら、敵の進軍路を想定する。


「街道から大軍が押し寄せれば、真正面では受け止めきれぬ」

 アレンの声は低く険しい。

「だが、森の獣道や峡谷を利用すれば、数を削げる」


 リディアは頷き、コンパスを地図の上に置いた。針は北を示し、微かに光る。

「祖母の教えがあります。地脈と風の流れを読めば、軍勢を翻弄できる。ここを……“要塞”に変えましょう」


 一方、王都。

 宮殿の広間には重臣たちが集められ、ざわめきが渦巻いていた。


「辺境が旗を掲げたなど、前代未聞!」

「すでに商人や兵士の間では“女王リディア”と呼ばれております」


 王は玉座に沈黙し、ただアルベルトを見つめた。

 王太子は冷たい笑みを浮かべ、剣を掲げた。


「父上。ここで決断を。万の軍を動かし、辺境を地図から消すのです」


 重臣の一人が躊躇いがちに口を挟んだ。

「ですが殿下……辺境を攻めれば、民の反感を買いましょう。既に“リディアの方が民を守っている”との声が……」


「黙れ!」

 アルベルトの怒声が広間を震わせた。

「民が何を囁こうと関係ない。王家に逆らう者はすべて反逆者だ!」


 その叫びを聞きながら、セリーヌは唇を噛んだ。

(姉さま……あなたはもう、殿下の恐怖そのものになっているのね)


 辺境の夜。

 リディアは焚き火の前で人々に語った。


「王都は大軍を動かすでしょう。ですが、私たちは国として立ち向かいます。畑を守り、家を守り、互いを守る。――そのために、役割を決めましょう」


 農夫は兵と食料を、女たちは薬草と布を、子どもたちは見張りを。

 皆が役割を口にするたびに、炎が揺れ、士気は高まっていった。


 アレンが剣を掲げ、言葉を添える。

「これは防衛ではない。俺たちがこの地を治める初めての戦だ。――国の戦だ」


 その言葉に歓声が沸き上がった。


 リディアは焚き火を見つめながら、心に誓った。


「王都よ、来るなら来なさい。私たちはもう追放者ではない。この国の名のもとに、必ず迎え撃つ」


 胸元のコンパスが強く輝き、星空の下で辺境の旗が大きくはためいた。

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