第二十七話 突っ走り系俺様攻略対象っていつも一番最後なんだよね
深紅、そして紅蓮、それほどまでに赤い髪。モノクルをかけている反対の目は、その赤い髪の前髪を長くしたもので隠している。瞳の色は金色。
顔立ちはもちろん美しく整い、勝気で自信満々の笑顔が常に浮かんでいた。笑みの種類こそ違えど、スヴァルト王とどこか似た顔立ち。
魔導「王」と名乗っているが、ニザヴェリルの立場は本来王子。
ヘリオス国継承権は現在、三位。
彼は、スヴァルトの二人いた兄のうち、王太子ではなかった二番目の兄の忘れ形見だ。
本来なら王になってもおかしくない立場であるが、前ヘリオス王が崩御したとき、ニザヴェリルは五歳。
瘴気の活性化で混乱の深かった国を年端もいかない幼子の王の肩に乗せ、摂政に操らせるなどあり得なかった。
そして、スヴァルトが王になり、子供ももうけ、ニザヴェリルが思春期にさしかかる頃になったときには、聡明な彼は自らが国を、王の立場を揺るがす存在だと理解していた。
「今後、王家の血が完全に危うくなった場合のみ、王座に就こう。余は王族である責務から逃げはしないが、叔父王の御世を揺るがす者は、余が直接、容赦はしない」
そう宣言して、王位継承権の下位に回った。
現在の居住は、瘴気が活性化する前に使われていた古都、その旧王城。王都から早馬で約二日から三日の距離にある。通常、馬車で移動すれば一週間だ。
その場所は、かつての最前線、最終防衛ライン。
一度は捨てた王都。
そこにまた人が住めるようになったと証明をするために、ニザヴェリルは自らそこに住み始めた。
趣味がいきすぎた魔導具作りは、国民の生活を潤す手助けになり、戦争でも大いに活躍した。ただし、彼の信念で大量殺戮兵器は作らない。人の心を感じられない非道な道具は作らない。
戦争が終わった今、魔物と戦う術のために魔導具を用いることは一切止め、救国の稀人が残した知恵と同じく魔導具作りを愛する者たちで魔導具の発展と向上を日々目指している。
古都はいつしか技術者たちの街になり、そこに住む、本来なら王になっていたかもしれないけれどそれを放棄したと皆が分かっているからこそ、親愛を込めて「魔導王」と呼ばれ、そして彼もそれを甘んじて受け、名乗っている。
王家の血なのに赤い髪なのは、スヴァルトと同じく能力に左右されたがゆえだ。
スヴァルトは魔力が多すぎるから茶色に黒の髪色。
ニザヴェリルは気の力が多すぎるから茶色が明るくなりすぎ、なおかつ母方の色味を継いで赤色になったのだった。
「やぁ、ニザ。思ってたより速かったねぇ。明日の朝に到着かと思っていたよぉ」
「フロー婆様、お変わりなく。プッチが言っていた稀人の訪れ、と聞いて急ぎ参った次第です。試作の『デンドウキツキジドウニリンかっこ動力は魔力』を自ら走らせて来たのですが、到着するなり壊れてしまった。改良がまだまだ必要だ」
電動機付き自動二輪?!
「それって電気バイク!!」
いや、かっこ動力は魔力、って言ってるけどさ?!
それを提案したのは間違いなくプッチだろうと予想できた。
ニザヴェリルの表情、ニヤリと勝気な笑みが輝きを増す。
カツカツと靴を鳴らしてニザヴェリルがこちらに歩み寄ってきたから、慌てて頭を下げる。
彼も王族だ。敬意を払わなければ。
名乗りは、求められてからが基本。
頭を下げた姿勢のまま、ニザヴェリルが何かを言ってくるのを待とうとしたんだが。
がっと手を掴まれた。
そして、同じくがっと顎を持たれて引き上げられる。
「っ?!」
「稀人よ、名は?」
「……四方、しぐれと申します」
「ふむ、稀人しぐれ、では行こうか」
一度解放されたかと思ったら、次に掴まれたのは腰だ。
ぶわっと足が浮く。
「ぎゃーっ?!」
ニザヴェリルは魔導具を用いて戦闘をするキャラクターなので、基本の筋力などは騎士団長たちと比べるとかなり劣る。
なのにそれを感じさせないほど軽々と片手で私を抱き、無遠慮に身体を寄せて、運んでいく。
「いやーっ!! どこへ行こうというのですか!!」
「古都に決まっておろう? 余の城で、魔導具開発をして末永く睦まじく暮らそう。なに、不便などさせん。供に付けたい者がこの数日でこの王城で出来たのなら叔父上に余から頼んでやろう。何人でも連れてくるといい」
「いかないぃっ!! 離してっ!!」
「うん? 王城での暮らしが気に入っておるのか? 心配するな、古都も負けてはおらんよ」
「違うっ、ちゃんと話を聞いて…っ!!」
「時間は惜しむものだ、稀人しぐれ。なんなら移動しながら、そなたの意見を聞かせてくれ。『デンドウキツキジドウニリンかっこ動力は魔力』の改良案も聞きたいし、その他の魔導具の意見も聞かせてほしい。全く新しい案でもよいぞ?」
「だからあっ!!」
ニザヴェリルは、作中でも一番苦手かもしれない。
キャラクターとして、その知性もまっすぐな探究心も信念や優しさなんかも好きなんだけど、基本の性格が、猪突猛進、人の話を聞かない俺様なのだ。
それを上手く手のひらで転がして、上手く導いていくのが攻略の歩みなのだが、コントローラーを握り、画面を見ながら、いつも。
「ニザヴェリル、話聞いてくれないの辛いわー。先だってグイグイ引っ張ってくれる俺様リーダーなんだろうけど、私、ゆっくり意見聞いてくれる人がいいわー。自分ひとりで何もかも決めて、行くぜ!! ってやられるの、辛ぁ…」
と、性懲りもなく毎回呟くほどだった。
そして、現に今も。
「余が速く到着し過ぎはしたが、もう数時間もすれば後続の者も到着する。稀人しぐれの移動にはもちろん馬車を手配しよう。持っていくものを忘れずにな? プッチと同じ世界から来たのだろう? あちらのものは何を持ってこられたのだ?」
ウキウキと私を抱いたまま足早に部屋を出ようとする。
「いやーっ!! 助けてっ、テラアストライガ様ぁっ!!」
叫ぶしかできない。
「テラアストライガ? テラにぃになぜ助けを求める?」
……テラにぃ?!
なにその可愛らしい親しげな呼び方?!
見上げたニザヴェリルは疑問の深い表情で私を見下ろす。
廊下へ続くドアが誰もいないのに、バタン!!!! と音を立てて閉まった。
「こぉら、ニザ、ちょっと落ち着きなさいな。じゃないと鬼と化したテラ少年にボコられちゃうよぉ?」
どうやらフローレライがドアを閉めてくれたようだ。ドア自体がうっすら光っているので、魔力がこもっているのだろう。簡単に開いたりしませんように。
「なんだ? 稀人しぐれがテラにぃとなにかあるとでもいうのか? あの堅物のテラにぃが? まさか」
はっ、と短く笑うニザヴェリルの、馬鹿にしたような、信じられないといわんばかりの声。
「数多の美女が愛を囁こうと変化のないテラにぃが? 疑いたくなるのはマリンと立っている噂くらいだろう? まあ、それも信憑性どうこうというものでもないがな」
……え?
頭をなにかで殴られたような衝撃があった。
そういえば、さっきフローレライも教えてくれようとしていた噂の話。
もしかして、これのこと?
テラアストライガ様と、マリン様が噂に立てられるような間柄?
そういえば、最初にテラアストライガがいる修練場に来たとき、二人が話している姿を見た。
テラの様子は背中側からだったから見えなかったけれど、マリン様のあの、仲の良い人にしか見せないだろうという弾けんばかりの笑顔。
拳で胸を叩くような馴れ馴れしさ。
それをあえて受ける許容。
ゾワッと、恐怖が全身に走った。
いや、駄目だ、今考えることじゃない。
気になるなら、直接どういうことなのかとテラに聞くべきだ。
こういうことは一人で憶測と想像で考えてはいけない。
負の感情、負の思考のドツボにハマる、ってやつだ。
「おろして!! 離して!! 今すぐ解放して!!」
「うん? 仕方のないやつだ」
ニザヴェリルがようやく話を聞いてくれた。
ドアが開かないから仕方なく、という感じだったのは見え見えだけど、とりあえず床に足がついてほっとした。
だが、手は離してくれなかった。
うわぁん……、離してって言ったやん……。
「そのまさかだよぉ? 稀人しぐれは召喚時にもう熱烈にテラ少年に愛を告げてねぇ。ニザにもそのお話耳に届いてないのぉ?」
「詳しいことを聞く前にこちらへ来る支度などにかかったからな。新たな稀人がやってきたということしか知らなんだ」
「そうかい。でも、なぜ稀人しぐれを古都に連れて行くだとか、まるでニザと結婚を決めているような口ぶりになるのさぁ?」
「プッチが言っておったろう? 魔導の発展のためにこの国に骨を埋めてもいいと思ってくれる愛のある者が来ると。ならばこちらも愛を返さねば失礼だろう? 生涯大事にするぞ? そのために特に結婚もせずに稀人の訪れを待っておったのだ」
離される気配の無いままの手に、指先に、ニザヴェリルの唇が触れた。
モノクルの奥の金色の瞳が、優しく、そして勝ち気に輝く。
「いーやーっ!!」
「なぜだ!!」
全力否定に、ニザヴェリルの口から疑問の声が飛んだ。
「私はそのうち市井に下ります!! 王侯貴族の暮らしはしません!! 陛下にも両殿下にもお伝え済みです!! ニザヴェリル殿下が愛しておられるのは私ではなく魔導具です!! 何時何時でもお話には付き合いますが、あなたと一緒には行きません!!」
きっぱりと言い切ると、ニザヴェリルもフローレライも完全停止した。
しばらく待って、身を傾がせ、「なんと…」と呟きながらニザヴェリルは私の手を離して一歩下がる。
ようやく本当にほっとして、数歩分距離を取った。
「稀人しぐれ、市井に下りたいのかい?」
フローレライも動き出して、なんだか困惑気味の表情で尋ねてきた。
「そのつもりです」
答えると、さらに困惑が増したようだった。
「テラ少年のことはどうするつもりなんだい?」
「……はい?」
「テラ少年は、今はスヴァの、王の願いで王城に詰めているけれど、あの子もちゃんと爵位も領地も持ってる貴族様だよぉ?」
「……、……え?!」
「気づいてなかったのかい? 今は領地は弟夫婦に任せっきりだって言ってるけど。あの子は貴族っぽくないから勘違いしたのかい? 十代前半から当時王子であったスヴァルトと共に最前線で肩を並べて戦って、生き抜いて、功績上げまくって、王の信頼も厚く、国の要の第三兵団長。なんの爵位も持ってないなんておかしいでしょお?」
ん?! 今、テラに弟いるって言った?!
重大情報ゲットしたけど?!
いや待て、落ち着け。
深呼吸を繰り返して、繰り返して、考える。
……たし、かに。
フローレライの言葉に、納得以外ない。
国の要の第三兵団長。
もしも最初は平民だったとしても、そこまでの立場に登っていれば、叙爵なんて思いのままだ。
王と食事を共にして、プライベートな時間を過ごすことまで望まれる仲。そしてそれをしても周りからも何の文句も出てこない者が、平民なんてわけはない。
あれー?
じゃあ、私、どうなるの?
そういえば、平民らしく街で暮らすと言ったとき、アール殿下にテラアストライガと結婚するんじゃないのかって驚かれたことはそのせい?
陛下にも市井に下りたいと伝えたとき、驚かれていたのはそのせい?
……テラはなにも言ってなかった、驚いてはいたけれど。
あ、これ、話し合わなきゃいけないことだ。
テラがもし、この先もちゃんと私といることを望んでくれるなら、平民として市井に、なんて言ってられない。
貴族の夫人としての勉強、はっじまっるぞっ☆ なーんて気楽に言えるものじゃないけど、やるしかないでしょ、コンチクショー!!
でも、私が市井に下りたいって言ったのを分かっていてなにも言ってこないのなら?
特に深い意味もなく、ただ、私がテラアストライガを好きで好きで仕方ないから、応えてくれているだけだとしたら?
ハッとなる。
うおおっ、後ろ向き思考だめえぇっ!!
年齢的に後ろ向き思考始めちゃうと、鬱まっしぐらなんだよ!! 怖い怖い!!
これも話し合わなきゃいけないこと。
マリン様との噂があるなら、それをどう思っているのかも聞かなきゃ。
あ、マリン様が私にしていた態度。
どう見ても好意を抱いてはくれない、頑なな一線を引いた態度。
あれがもし、テラを取られたという思いからきているものなら。
なんだか、納得がいったような?
でもそれは真実じゃない。私のただの想像だ。
このままじゃ駄目だ。
ちゃんと話し合う必要がある。
「余が愛しているのは魔導具……、か。そのとおりだ。稀人しぐれはすごいな。この短時間で余の本質を見抜くとは。……市井に下ろすにはもったいない。貴族の責任や体面、作法や礼儀もいらぬ。城で好きなことをやっておればいいから、やはり余のもとへ来い」
すぐに距離を詰められ、ぐいと腕を引かれて、足が浮きかかるまで腰を抱かれた。
まるでダンスを踊る前のホールドのよう。
ただし、私からのホールド仕返しはありませんけど。
「いやです!!」
渾身の力で、ニザヴェリルを突き飛ばした。
今回は珍しく力で敵った。
よろっと身を離したニザヴェリルの隙を突いて、ドアへと走る。
フローレライがくるりと指先を回して、ドアを閉めていた魔力を解いてくれた。
同時に、ふわっと温かな光が私を包んだ。
「稀人しぐれの今日が幸せでありますように」
フローレライの優しいお祈りが嬉しかった。
なんだか身体が軽くなった気もする。
「待て、稀人しぐれ!!」
でもすぐニザヴェリルが追ってこようとした声を聞いて、フローレライの研究室を飛び出していた。
第二魔法師団の建物はゲーム内にも登場しない。今日初めて来た場所だ。
右も左も分からない。
ドレスを少し持ち上げながら、それでも必死に走った。
登場キャラクターの名前
四方しぐれ
ニザヴェリル・シル・ヘリオス
フローレライ・レイン・ハルジオン




