第一節 開かれた心
初めまして
三月 ゆあです。
マイペースに更新していきますのでよろしくお願いします。
「パパ、どこか行くの?」
これは僕がまだ小さかった頃の話。
その日はとても穏やかな日だった。
突然、家のチャイムが鳴り響き父が対応するために玄関へと向かって行った。
「クソッ! なんだお前ら!」
玄関から聞こえた父の声に驚き、僕は玄関へ向かった。
そこでは、父と軍服を身にまとった男が2人。
「パパ、どこか行くの?」
僕がそう訪ねると父は静かに微笑み、
「あぁ…パパは少しこの人たちと話をしてくるよ」
そう言って家を出ていった。
それが父を見た最後の日、そして僕が生まれた家を離れた日。
2116年5月9日 セクターγ 別称”セクター鹿児島”
あの日から13年。
僕は今、セクターγという日本帝国南端にある地の更に南、海沿いの「エクスクルーシブタウン」という場所に住んでいる。
露店が立ち並び、キラキラしたネオンが光り輝くビル群、人々の活気のある雰囲気、そんな一見綺麗な街。
しかしその実、裏路地に入れば薬や人間、銃器の露店、ネオンが輝く廃ビル、街中でキマッてる人や銃を手に持ち徘徊する兵士に民間人。
エクスクルーシブ、排他的と呼ばれるに相応しい隔離された異端者の街だ。
日本帝国の政府が内閣から軍に変わった2101年。
第二次冷戦により世界各国のテロリストや反社会勢力が蔓延り土台の腐敗を見た軍政府は、国中に軍隊を配備し警察組織に成り代わり街中にて恐怖支配を開始した。
国に反した者は当然、その血縁者や近親者全てもの人間が逮捕され、その様子はまるで19世紀の魔女裁判を彷彿とさせるような状態。
当然、その支配へ反発するために行動を起こした人たちもいたが、彼らも反社会組織として認定され、同じ様な判決が下された。
そんな彼らの判決こそがそう、エクスクルーシブタウンへの移住。
僕がここにいるという事は、父も政府への反乱を企てた人物の一人なのだろう。
それも、おそらく父は主要人物であった様だ。
僕が軍に捕まりこの街へ輸送される際、軍人にこう言われた。
「君のお父さんは処刑されたよ」
と。
それから街に入れられた僕は、とある老夫婦の施設に拾われた。
街に放たれる際、その人が持つのは拘束された日の衣類のみ。
軍に容赦という言葉は全くない。
当時5歳であった僕もおなじ。
少なくない人間が金も行く宛てもなくその辺で野垂れ死ぬ。
そんな街で僕を拾った老夫婦は、1人で放たれた子供を保護して孤児院のようなものを運営していたのだ。
正直、財源とかは知らない。
衣食住が揃っているだけでも非常にありがたいのに、老夫婦は勉強まで教えてくれた。
さらに何人かの青年が孤児院にやってきて、僕に格闘技や銃の扱い方等この街で生きていくためのノウハウを押してえくれ、なんだかんだ充実した生活を送っていた。
「レン!起きてるかー?」
ドアの向こうから僕を呼ぶ声が聞こえる。
「どうしたハヤト」
「ソラがすげぇもん見つけたってよ!行こうぜ!」
「あぁ」
ドアを開けると、そこに居たのは金髪で日焼けした少年。
彼はハヤト。
孤児院の中では1番やんちゃで猪突猛進なヤツだ。
「で、行くってどこに」
「海だ!」
確かにこの孤児院は海から約100m程の距離に建っている。
しかし、孤児院の周りにはコンクリートの壁が建てられており、門は老夫婦が鍵を開けないと出ることは出来ない。
実際、僕は13年間外へ出ていない。
話を聞く限り、子供が外に出たら直ぐに死ぬのは目に見えているし、この院に入る時壁にはいくつもの血痕と弾痕が残っていた。
食料や水、おもちゃなどは格闘技などを教えてくれる青年たちがバンに乗せて持ってきてくれる。
ある意味ユートピアの様な場所だ。
「海って…どうやって外に行ったんだ…?」
僕が不思議そうに尋ねると、ハヤトはニッと笑うと下を指さした。
「地面?穴でも掘ったのか?」
「まさか。まぁ来いよ!」
「お、おい!」
彼は僕の手を引き部屋から連れ出した。
しばらく歩き、彼に連れられやってきたのは古びた倉庫。
今にも崩れそうな木製で、周りには立ち入り禁止の札が立ててある。
「素早くな」
僕らはそそくさと倉庫に入り、埃まみれの棚を退かした。
ハヤトはそこに膝をつき地面を数回ノックする。
「遅いよ!」
突然ゆかが開き、少女が顔を出した。
彼女はソラ。
青い髪の彼女はハヤトと並んだ元気な少女だ。
僕たちは手早く床下へと潜り込む。
「これは…」
所々に置かれたサイリウムだけの、明かりだがそこには確かにトンネルが存在していた。
「な?多分だが下水道の工事跡だ。どうせこの街が発足する前に着工されてたが廃県ってやつが行われて統治者が変わった影響で中止になったんだろうな」
3人であるきながらトンネルを進んでいくと、突如眩い光が目をおおった。
「うっ…」
手で影を作りながらトンネルを抜けると、目の前には広い海に砂浜。
決して綺麗とは言えないが、13年ぶりに見る壁の外はとても広く感じた。
「でー、コレ見てよ!」
リンが持ってきたのは『FRONTIER』と書かれたボタンの付いたキノコのかさの様な物体。
「…ただの漂流物じゃねぇか」
「甘いなレン」
そう言うとハヤトはリンからデバイスを受け取り、ボタンを押した。
すると、傘の頭頂部からホログラムの男性が出現した。
『我々はFRONTIER――。首相――に次ぐ。ここに、我らFRONTIER――は――――する。――の――を――ない。――――に――――の権限を持って――として―様を、―様達を処刑する』
所々途絶えてはいたが、何となく内容は分かる。
2100年に起きた日本内戦の時のデータだろう。
テロリストと内閣政府軍が衝突し対消滅し、軍政府へと変わった事件だ。
しかし、その詳しい内容は秘匿、抹消されており、ほとんどの人間がその詳細について知っていることは無い。
「な?ふろんてぃあうんちゃらが何だか知らねぇけど、やべぇ発見だろ!?」
「確かに凄いけど…。これをどうすんだ?」
「決まってるだろ!軍に渡すのさ!そうすりゃ日本内戦の希少情報の提出で金が貰える!お前ももう18だろ?いつまでも院長院長達の世話になる訳にも行かねぇ。あの人達だってもう70過ぎ、武術の先生達もいつまで配給をくれるか分からねぇ。俺達が金を稼がねぇと行けねぇだろ」
「ハヤトの言ってることも分かるが…。けど、どうやって軍に接触すんだ?」
するとハヤトは浜の奥を指さす。
その先にはまるで廃材で作られたようなボロボロのバイクが浜に打ち捨てられていた。
「お前は引きこもりだったから知らねぇだろうけど、このバイクは俺とリンが半年かけて浜に捨てられたバイクを漂流物で直したもんだ。20キロ北に走れば軍が建てた街の壁がある。そこの検問所にいるヤツに渡せば何とかなるだろ!」
何とかなる…ね。
そう思った僕だが、ハヤトの言ってた通りこのまま引きこもって配給を受け取るだけの生活にもそろそろ飽きてきた。
「なぁ、頼むぜレン。お前が軍を嫌ってることは知ってる。だが、院長達に俺達が外でもやっていけるって」
「ごほん!」
僕達の会話を遮るようにリンが咳払いをした。
「ちょっと?これの第一発見者は私なんですけど?」
「おっとっと、すまねぇ。けどリンも軍にこれを引き渡すのには賛成だろ?」
「ま、そうね。ハヤトには言ってなかったけど、私達はお金を貯めてこの街で傭兵するつもりなのよ」
傭兵…。
この隔離された街では独自の治安維持組織が軍の統治以外に存在する。
それが『傭兵』と『フィクサー』。
軍の出動は街中で起こる国家重大危機以外には全く対応する気がないらしい。
そこで警察の代わりにフィクサーと呼ばれる人員に依頼と金を出し、フィクサーは仲介料をもらって報酬を傭兵に用意する。
一見有料の警察だが、傭兵の業務には反社会組織同士の破壊工作などの危険な任務も存在する、まさに命懸けの仕事である。
と言っても、そもそもこの街を出歩くこと自体が命懸けのようなものだが。
だから危ないとかそういう話は関係ない。
ただ…。
「どのフィクサーが俺たちみたいな新参者に依頼を出すんだ?」
そう、傭兵はある種の広告業。
当然実力のある傭兵には様々な依頼が舞い込んでくるだろうが、逆に弱ければ一瞬で淘汰されるし、仕事も振られない。
「それは金を使うのさ」
ハヤトはホログラムデバイスを指差しニッと笑い、リンを見た。
「そう、フィクサーに依頼を出すのよ。”私達に仕事を回して”っていうね」
「そういうことか…。で、もし傭兵として成り上がれたとしてお前らは何を目指してるんだ?」
「え?何を言ってるの?」
リンとハヤトはレンに不思議そうな目を向けた。
「だってよ、この街で傭兵になったからと言って偉くなれるわけじゃないだろ?」
「愚問だな、レン。答えは簡単さ」
ハヤトの目は非常に冷静だった。
「軍をぶっ潰す」
「えぇ、それ以外ないでしょう?」
あぁ、そうだった…。
こいつらは確かに俺と同い年の未成年。
だが、この街にいるということは親か血縁が軍に処刑された”政敵狩り”の被害者であり、その狩られた人間の血を引く奴らだ。
……そしてそれは俺も変わらない。
その瞬間、僕の中で何かが弾ける音がした。
軍に親を処刑され、自分は無法地帯に無一文で放り出された。
僕は怒りよりも心を閉ざすことを選んできた。
けどもうそれもやめだ。
僕にはこいつらがいる。
大丈夫、僕らなら…!
「はっ!で、いつ行くんだ?」
僕が懐からハンドガンを取り出す姿を見て二人も元気に銃を取り出した。
「善は急げってやつだ。俺とレンがバイクで壁に向かう。リンは院長先生たちにバレないようにしといてくれ」
「わかったわ。でもリミットは一時間よ」
「ぶっ飛ばしゃそれくらい余裕だ」
僕はハヤトの乗り込んだバイクの後ろに乗り込み、勢いよく浜を飛び出した。
それから数十分。
とんでもない速度で過ぎていく街並みを眺めながら、ただ無言でバイクに跨りたどり着いたのは端の見えない灰色の壁と有刺鉄線。
「着いたな」
「止まれ!」
突如数人の兵士がライフルを構えながら近づいてきた。
「おうおう、落ち着けよ」
僕とハヤトはバイクのエンジンを切り、両手をあげながらバイクから降りる。
「貴様ら!何をしにきた!」
「別に街を出ようってわけじゃない、お前さんたちが欲しそうなものを持ってきただけだ」
そう言いながらハヤトが懐に手を伸ばした瞬間兵士たちが銃を構え直した。
「おいおいだから落ち着けって!」
ハヤトは再び両手を上げ直し、服の襟を持って服の内側に入っていたデバイスを兵士たちに見せる。
「我々が取る」
兵士の一人がホログラムデバイスを手に取りホログラムを再生した。
「これは…!おい!」
数人の兵士たちがデバイスを持ってそそくさと壁の駐屯地の方へと消えていく。
「おい、それを見つけたのは俺たちだからな!報酬金は忘れんなよ!」
しかし、その言葉に誰も返事をすることもなく、数分の時がたった。
「お前たちか、このデバイスを見つけたのは」
駐屯地から現れたのは髭の生えた小太りの偉そうな男。
「あぁ。そうだぜ」
「ふむ…で、お前たちの望みは?」
「はっ、愚問だな。こんな善良な市民には表彰と金を進呈するべきじゃないか?」
ハヤトは軽く笑って現れた男に手を差し出した。
「…金、か。面白い冗談だ。お前らは国家反逆を企てた張本人として自主しにきたのだろう?」
「は…? 何言ってーー」
「構えろ」
男の言葉に兵士は一斉に銃を構える。
「おいハヤト! ヤベェぞ!」
僕は急いで彼の手を取り、バイクに飛び乗った。
「お、おい」
ハヤトの困惑も束の間。
僕が急発進すると同時に兵士たちは一斉に発砲を始めた。
「ちくしょう!なんで俺らが国家反逆罪に!」
「今はそれどころじゃないだろ!」
僕は体を倒して近くの角を曲がり兵士たちの弾幕を避ける。
しかし。
「おいレン!後ろから車で追ってきてやがる!」
「チッ、やるしかねぇよハヤト!」
「あぁ、わかってる!」
彼は懐のハンドガンを取り出し、後ろを振り向いて射撃を開始した。
「おいレン!まっすぐ走れ!」
「無理だ!路地の汚さはハヤトも知ってるだろうが!あとこのバイク曲がりにくすぎるだろ!」
「はっ、こいつはゴミから作られてるから仕方ねぇさ!」
「で、この後どうすんだ!」
「とにかくこいつらをぶっ壊す!」
それから僕たちはしばらくの間街を駆け巡った。
ハヤトの銃撃はなかなかなもので、的確に追手のタイヤを打ち抜きパンクさせ、廃車を作り上げている。
「よし!これで最後の一台!」
残り一台となっていた追手の車もハヤトの弾丸によってパンクし、建物の壁へと突っ込み大爆発を起こした。
「っしゃあ!」
「よし…これでーー」
その瞬間。
突如横から建物の壁を破壊して戦車が姿を現した。
「マジかよ…」
「やべぇな…レン、どうするよ…」
「どうするもこうするも…逃げるしかねぇだろ!」
僕はさらにバイクを加速させ、戦車を振り切ろうとする。
しかし突然、鼻に何か焦げ臭い匂いが絡みついてくる。
「なんだ…?バイクの速度がこれ以上あがらない…!」
「まずいぞレン、マフラーが火ぃ吹いてやがる!」
「故障かよ!」
「こうなったら…!」
僕は前輪を上げ、近くの斜めになっている壁を目指した。
「おいおい!」
「ハヤト!バイクは諦めろ!壁でバイクが飛んだら後ろに跳ぶぞ!」
「ハッチから攻めてやろうってことだな!」
「あぁ!」
そして僕達は最大限バイクを加速した状態で壁に突撃し、想像通り見事直角に飛び上がった。
「せーの!」
宙でバイクを蹴り飛ばし、二人で戦車の上部に飛び乗る。
それと同時に、バイクは地面に叩きつけられ大爆発を引き起こした。
「あーあ、俺のバイク…」
「今はそれどころじゃないだろ」
「はいはい」
二人は砲塔上部のハッチを勢いよく開き、同時にハンドガンを数発打ち込む。
「ぐわっ!」
短い悲鳴が聞こえたのち、戦車は減速し無事に止まった。
「…なんかあっけないな」
「まぁ、こんな異端者の街に配備される兵器なんてこの程度ってことさ。ギャングの持ってる武器や兵器の方が圧倒的だろうな。それでレンどうすーーー」
二人が少し落ち着いた瞬間だった。
「死ねぇ!」
戦車のハッチから顔を出してきたのはあの偉そうな小太りの男。
「まずっ……!」
その瞬間、一発の銃声が鳴り響いた。
視界が一瞬にして真っ赤に染まる。
死んだ…?
「ちょっと!なにボケっとしてんの!」
その声に目を開けると、脳天を撃ち抜かれて倒れている小太りの男。
そして巨大なスナイパーライフルを抱えたリンの姿。
「だークソッ、おいリン!ハンドガンでいいだろうが!」
そう怒るハヤトは顔中に着いた血糊を拭き取りながら立ちあがろうとしていた。
なるほど、これはこいつの血か…。
「しょうがないじゃない!アンタたち今町中に中継されてるのよ!?全く、派手にやったわね!」
「はぁ?こいつらが突然殺しにかかってきたんだ仕方ねぇだろ!」
言い争うハヤトとリンを宥めつつ、僕も顔を拭う。
「喧嘩してる場合じゃないだろ。今のうちに脱出するぞ」
そう言うと、リンは横を指差した。
「とりあえずそこの下水道からこの地区を抜けるわよ」
「あぁ、わかった」
三人はマンホールに向かい、ハヤトと僕の二人で蓋をこじ開け中へと入り地区を脱出する。
「なぁ、これどこに向かってるんだ?」
ハヤトの質問にリンは首を傾げた。
「さぁ?とにかくあの場を離れてしばらく身を隠すのよ」
「なら孤児院に戻ったほうがいいんじゃねぇか?」
ハヤトがそう言った瞬間、リンは彼にハンドガンの銃口を向ける。
「お、おいおい…。どうした?」
「殺されたわよ!」
「…は?」
「あの後すぐ、軍隊が孤児院に来て銃の乱射を始めたの!たまたま武術の先生たちがいたからある程度応戦したけど、それも持って数分だった!私は先生と院長たちに地下道から脱出させられたけど、もう…!みんなは!みんなは…!」
「嘘だろ…」
ハヤトはその場で膝から崩れ落ちた。
「俺のせいだ…」
その様子に僕は心の底から怒りが湧いてくるのを感じる。
僕らの軽率な行動が命の恩人に仇を返してしまったというその事実に。
けどいずれ金を稼ぐにはこうするしか…。
何をどうしてれば…!
いくつもの考えが頭の中をぐるぐると駆け巡り、まるで視界が歪んで見えるようだった。
「ちくしょう!」
下水道の壁を殴った僕の手からは血が滴り落ちた。
しかし、そんなものの痛みなど全く感じない。
「……ハヤトのせいだけじゃないわ。あのデータは私が見つけたものだもの」
リンは膝をつくハヤトをビンタした。
「しっかりして!私たちの目的は変わらない!院長や先生の分までやるの!わかった!?分かったなら私の頬をビンタしなさい!」
「あぁ…。あぁ!分かった、分かってるよ!」
ぱしん、という乾いた音が下水道に響く。
「…そうだな…。僕たちは元々異端者…。そうなったらやることは一つだな…!」
僕の質問に二人は顔を見合わせて頷いた。
「なってやろうぜ、最強の傭兵によ」
「えぇ、私たち三人で」
お読みいただきありがとうございました。
初めての投稿ということもありまして、誤字脱字などがあったら申し訳ないです。




