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第8話「守りたかったもの、語られた真実」



「姉ちゃん……本当に、ありがとう」


夕暮れ前、大学の中庭。

瑞希と並んでベンチに座った悠真が、ぽつりと呟くように言った。


「俺、どうしたらいいか分からなかった。バレるのが怖くて、でも隠してるのも苦しくて……」


「……ま、あんたらしいけどね」


瑞希は笑いながらも、弟の頭をぽんぽんと軽く叩いた。


「別に私がやったことなんて、ちょっと背中押しただけ。だけど――」


瑞希は少しだけ視線を遠くにやりながら言った。


「美紅はさ、モデルとしてすごく努力してるの、私知ってるから。あの子が人前で笑うためにどれだけ我慢してるか、裏でどれだけ泣いたか……。だからね、守ってくれてありがとう。弟としても、男としても、ちょっと見直したよ」


「……姉ちゃん」


「で、そんなあんたにひとつ。今日の夜、実家行くから。親から連絡来てる。ちゃんと、話すんだよ?」


「うっ……」


「覚悟決めろ。長男だろ?」



夜――


実家のダイニングに並んだのは、両親と瑞希、そして悠真。


鍋を囲む食卓。だがその空気はどこか張り詰めていた。


「……お前が、結婚を?」


父・誠一が、ゆっくりと箸を置いて言った。


「はい。篠原美紅さんと、正式に婚姻届を出しました。……でも、まだ未熟な僕には、隠しておくことが必要だと判断しました」


母・静香も驚いた顔をしていたが、やがて柔らかく微笑んだ。


「……まさかあの“美紅ちゃん”だったなんて。テレビで見て、素敵な子だと思ってたわ。まさか息子の奥さんになるなんてね」


「次はちゃんと連れてきなさい」


「……はい」


「それと、瑞希」


「なに?」


「お前も今回はよくやったな。お前が弟を支えたことが、あの子を守ったことにもなる。ありがとう」


「……ふっ、ま、当然でしょ。あたし、姉だし」


両親の声には驚きよりも、温かさがにじんでいた。


その帰り道。悠真の胸には、少しずつだが確かな“覚悟”が芽生えていた。



翌日、大学では――


「悠真ー! 例のニュース見たぞ! すげーな、お前!」


「本当に結婚してたなんて、黙ってるとかマジかよ!」


「おめでとう、マジで。美紅さんとお幸せに!」


講義のあと、教室から廊下、キャンパスのベンチに至るまで、知り合いからの祝福の言葉が次々に届く。


その一方で――


「……なんであんな地味なやつが美紅さんと?」


「納得いかねぇ……」


という声も、確かにあった。


だがそのとき、隣で声をかけてきた女子学生がいた。


ショートカットの可愛らしい女性で、同じ学部の後輩らしい。


「悠真先輩。……私、最初は信じられなかったけど、でも、ニュースで見て思いました」


「……なにを?」


「美紅さんが笑ってて、悠真先輩の隣にいて、すごく自然で。あ、ふたりは本当に一緒にいるべき人なんだなって。だから――」


彼女は、やわらかく笑って言った。


「絶対、幸せになってくださいね」


その言葉は、何より胸に響いた。



その頃、モデル事務所では。


美紅のスマホには、マネージャーからの連絡が次々と届いていた。


「事務所のスタッフみんな、応援してるからな」

「結婚おめでとう! 次の撮影もよろしく!」

「奥さんになったからって、撮影は容赦しないよー!」

「でも、いい旦那見つけたな。ちゃんと幸せになるんだぞ」


――美紅はスマホを胸に抱き、そっと微笑んだ。


(……守られてたのは、私のほうかも)


その夜、家でふたりきりになったとき、悠真は美紅に改めて言った。


「俺、美紅の隣に立てるように、もっと努力する。夫として、守れるように」


「……ううん、もう守ってもらってるよ」


「……でも、もっともっと、守りたいから」


ふたりは、言葉よりも深く、お互いの手を握った。


静かな夜、心が重なった。

隠す必要のない未来へと、ふたりは確かに歩き始めていた。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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