第7話「噂とスキャンダル、モデルとの結婚バレ」
その日は、突然やってきた。
「悠真、これ見て！」
大学の昼休み。友人の航がスマホの画面を差し出してきた。
そこには、大手ネットニュースのトップページが表示されていた。
《人気モデル・篠原美紅 交際発覚!? 》
――目撃されたのは、同じ大学に通う一般男性との“密接距離”ショット。
掲載されていたのは、大学の構内での何気ない一瞬――
先日、美紅が悠真と話している姿を、遠くから望遠で撮られた写真だった。
はっきり顔が映っているわけではないが、服装や髪型、立ち位置から“ほぼ確定”とされ、SNSでは瞬く間に拡散されていた。
「やば……これ、悠真……お前じゃね？」
「……わからない」
冷や汗が背中を伝う。
極秘で過ごしてきたこの数ヶ月。
ついに、その“境界線”が破られようとしていた。
その夜。
自宅リビングでは、美紅がソファに座り、スマホを見つめていた。
顔色はどこか沈み、何も言わない。
「……ごめん。俺のせいで」
「違うよ。悪いのは撮った側。私たちは、何も悪いことしてないんだよ」
そう言う彼女の目は揺れていた。
事務所にも連絡が入った。今後の対応次第では、活動制限や謝罪も視野に入るかもしれない。
美紅の立場、仕事、そして悠真自身の学生生活――
すべてが変わる可能性があった。
しかし、その翌朝。
事態は、予想外の方向へと転がっていった。
SNSに突然アップされたのは――
瑞希の公式アカウントによる投稿だった。
【お知らせ】
弟が篠原美紅ちゃんと“交際0日婚”をしました。
姉として最初は驚きましたが、ふたりが本気で向き合ってる姿を見て、今は全力で応援しています。
彼は学生で、彼女はモデル。ふたりとも、まだまだ未熟だけど、誰よりも真剣です。
あたたかく見守ってくださると嬉しいです。
一斉にコメント欄がざわめいた。
「え、結婚!?」
「交際0日婚ってマジで!?」
「瑞希さんの弟!?」「どういう関係!?」「逆に応援したくなった」
――“スキャンダル”は、スイートニュースへと変わった。
ネットは炎上ではなく、“美男美女の秘密結婚”として祝福ムードに一転。
なによりも、姉であり現役モデルである瑞希の言葉が、重く響いたのだ。
夕方。事務所も正式に声明を発表。
「本人の意志を尊重しつつ、今後もモデル活動は継続します」
それを読み終えた美紅は、涙を浮かべながら言った。
「……私、守られてるんだね。本当に、家族になれたんだ」
悠真は、美紅の手をぎゅっと握りしめた。
「俺も、何があっても離れない。誓うよ、あのときのキスより、ずっと強く」
こうして、バレてしまった“極秘婚”は、
炎上ではなく――
あたたかい祝福という、予想外の展開で迎えられた。
それでも、ふたりは変わらない。
家ではお風呂の順番をじゃんけんし、
食後は瑞希にからかわれながら、照れ笑いを浮かべる日常。
ただひとつだけ、変わったのは――
「……なあ、美紅」
「ん？」
「もう、“秘密”じゃないんだよな。だったらさ、これからは――」
「――“本当の夫婦”として、手をつないで歩こう？」
「うん」
ふたりは、いつもの道を、少しだけ堂々と並んで歩き始めた。
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