第9話「新しい命の誕生と、内定の知らせ」
六月の中旬――
雨上がりの病院の廊下。
除湿機の静かな音が響く中、ひとり椅子に座っていた悠真の膝の上には、握りしめたスマートフォン。
“いよいよ、今日なんだ”
朝から落ち着かない時間が流れていた。
予定日より少し早く破水した美紅は、そのまま病院へ。
悠真は講義を欠席し、瑞稀とともに病院に駆けつけた。
分娩室の扉の向こう。
助産師の声、医師の指示、そして微かに聞こえる――妻の声。
心配と期待。
喜びと不安。
すべてが胸の中で交錯する中、悠真は両手を組んで、ただ祈るしかできなかった。
「頑張れ、美紅さん……」
そして――
「おめでとうございます! まずは男の子です!」
看護師の声が廊下に響いた。
それから、もうひとつの産声。
「続いて、女の子も無事に産まれましたよ!」
「……っ!」
言葉にならない感情が、悠真の胸に溢れた。
目元を押さえ、深く深く息を吐いた。
◇
ガラス越しに見える、ふたりの小さな命。
ひとりは男の子。もうひとりは女の子。
ふたりとも、しっかりと手を動かしながら、静かに眠っていた。
瑞稀がそっと隣に立つ。
「名前、決めてたんだっけ?」
「うん……男の子は、大翔。女の子は、遥香」
「……いい名前。まっすぐ育ちそうだよね、どっちも」
ふたりの子どもを、ふたりきりで見つめていた悠真。
その手の中のスマホが、静かに震えた。
――件名:「内定のお知らせ」
「……え?」
開いた瞬間、全身が震えた。
『神谷悠真様
弊社の最終選考を通過され、採用内定が決定いたしました。
入社日は〇月〇日となります。詳細は追ってご連絡いたします。』
画面を何度も見返して、悠真はゆっくりと息を吸った。
「……やっと、“父親”になれる気がする」
「もうなってるよ」
瑞稀の言葉に、悠真はゆっくりと頷いた。
◇
病室のベッド。
点滴を付けたまま眠っていた美紅が、うっすらと目を開けた。
「……悠真くん?」
「美紅さん。無事に……ふたりとも、元気に産まれたよ」
「……よかった。ほんと、よかった……」
「そして、俺――内定ももらえた」
その瞬間、美紅の瞳から涙がひと粒、零れた。
「……おめでとう。あなた、本当に……すごいよ」
「ありがとう。
でも、すごいのは……命を産んでくれた、あなたの方だよ」
ふたりの手が、そっと重なり合う。
小さな命がこの世界に生まれ、
ひとりの若者が、“夫”として、“父親”として――
確かな一歩を踏み出した瞬間だった。
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