第4話「嫉妬のはじまり、近づく男たち」
春の昼下がり。大学のキャンパスには、新年度の空気が漂い、講義の合間に学生たちが芝生に集まっていた。
「にしてもさ、お前の姉ちゃんと一緒にいるあの子……本物だったな」
そう言って缶コーヒーを開けたのは、悠真の親友・航。陽気で軽口を叩くタイプだが、勘も鋭い。
「誰が見ても可愛いし、オーラ違ったもんなー。テレビで見るまんまだわ」
「ってかさ、美紅さんって、うちの大学来てたっけ?」
隣でスマホをいじっていたのは圭吾。情報通で、芸能人やモデルのゴシップにも詳しい。
「最近、編入って形で来てるっぽい。スケジュール的に都内の大学のほうが動きやすいんだってよ」
「えー! じゃあこの大学内で会えるかもってこと?」
3人目の**憲剛**が目を輝かせながら、あたりをきょろきょろ見渡した。
悠真は黙って、缶のプルタブを指先でいじっていた。
(……いや、毎日家にいますけど。ていうか、朝も一緒に出てきましたけど)
心の中で呟くが、もちろん言えるはずもない。
そのとき――
「……うわ、見ろよ」
航が視線を向けた先に、人だかりができていた。
「本当にいた……!」「握手してもらっていいですか!?」「写真いいですか、美紅さん!」
そこには、大学の敷地内でスプリングコートを羽織り、髪を揺らしながら微笑む篠原美紅の姿があった。
彼女はすでに学生の間でも有名人。ファンの男子学生が半円を描くように取り囲み、それぞれスマホを構えたり、サイン帳を差し出したりしていた。
「やば、あの距離で美紅さんと話してる……」
「てか、俺ツーショット撮れるかも!」
「この後、飲みとか誘ってみる……?」
まるで“アイドルイベント”のような状況に、悠真は唇を噛んだ。
そのときだった。
「――ストップ。」
場の空気が一瞬で変わった。
美紅の隣に、スッと割り込むように立ったのは瑞希だった。
モデル仲間として、姉として、そして――弟の妻として。
瑞希は冷たい視線で男子学生たちを見渡した。
「この場で撮った写真、全部今、削除してもらえる? ご本人の許可取ってないでしょ?」
「えっ、いや、その……!」
「何枚撮ったのか知らないけど、全部見せて。削除確認するから。握手も今すぐ手、離して」
「す、すみませんっ……!」
その場でスマホを取り出し、写真を削除する男子学生。慌てて両手を合わせて「ごめんなさい」と頭を下げる子。
ツーショットを狙っていた男子は、何も言えずにその場を離れ、握手をしていた学生も手を引っ込めて逃げるように去っていった。
美紅は、苦笑いを浮かべていた。
「……ありがと、瑞希」
「何やってんの、あんた。目立ちすぎ。大学は仕事場じゃないんだから、もう少し慎重にしてよ」
「……うん、ごめん」
そのやり取りを、遠くから見ていた悠真は――心の奥で、安堵の息を吐いた。
それと同時に、スマホに通知が届く。
LINE:瑞希
《あんたも後で家来な。大事な話あるから。……怒ってるからね、こっちは。》
(うわ、バレた……)
悠真は、携帯の画面を伏せたまま、無言でため息をついた。
そして、胸の奥が少しだけ、温かくなるのを感じていた。
彼女は、誰よりも目立ってしまう。
そして、自分はまだ“旦那”であることを誰にも言えない。
けれど――
彼女を守るために、今の自分にできることは、黙ってそばにいることだった。
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