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第8話「面接の日々、そして“お父さん”への第一歩」



春。

桜の花が咲き誇る季節。

大学では卒業式の余韻が残りながらも、4年生たちはそれぞれの“次”に向かって動き出していた。


悠真もそのひとりだった。


朝、キャンパスの一角。

リクルートスーツを着た悠真が、構内のベンチでノートパソコンを広げ、企業の面接情報を整理している。


「次の企業、受付時間は10時半。場所は渋谷駅から徒歩5分……」


隣には親友の航がいた。


「悠真、やっぱ大変だよなぁ。しかも奥さん妊娠中なんて……もう完全に“お父さん”だな」


「……うん。でも不思議とプレッシャーとかじゃなくて、“やるしかない”って感じなんだよね。

なんかこう……守りたいものができたっていうか」


航は笑いながら肩を叩いた。


「お前、頼もしくなったな。俺らがふざけてる間に、ずいぶん先を行ってる感じがするよ」


「いや、まだまださ。……まずは、内定を取らないと」



その日、面接があったのは、老舗の飲食チェーンを中心に全国展開している大手企業。


学生の間でも「福利厚生が厚くて、家庭持ちにも優しい会社」として知られていた。


会議室の一角。

面接官が、悠真の履歴書を見ながら問いかける。


「神谷くん。君は現在、ご結婚されているそうですね?」


「はい。現在、妻は妊娠中です」


一瞬の沈黙が走る。


だが悠真は、まっすぐに面接官の目を見て続けた。


「だからこそ、今すぐにでも働きたいと思っています。

守る人ができたから、自分の中の“責任感”が変わったんです。

誰かに言われて動くのではなく、誰かを支えるために自分から動きたい。

そんな風に思えるようになりました」


会議室にいた3人の面接官のうち、年配の1人が微笑んだ。


「……いい顔をしているね。君なら、うちの会社の“現場”で愛されそうだ」


手応えを感じた悠真は、その日の夜、自宅で報告をした。



「手応えは、あったと思う」


「本当? それなら……期待しちゃうね」


ソファに座っていた美紅が微笑みながら、悠真の隣に寄りかかった。


「……ねぇ、悠真くん。

あなたは、どんな“お父さん”になりたい?」


「うーん……そうだな。

たとえばだけど、怒る時はしっかり怒る。でも普段は、全力で味方でいたいかな。

……子どもが何かを頑張ろうとする時、背中を押せる父親に、なりたい」


「……うん。わたしも、そういう“お母さん”になりたい」


2人の間に、ふっとあたたかな空気が流れた。


ソファの横でそのやりとりを聞いていた瑞稀は、台所から顔を出して笑った。


「なんかさ、ほんとに“家族”って感じになったよね。

……もうすぐ、本当に“家族4人”になるんだもんね」


「……うん」


美紅は、そっとお腹を撫でた。


「君たちが生まれてくるこの世界で――

あなたのお父さんとお母さんは、ちゃんと準備してるからね」


その言葉に、悠真はそっと美紅の手を重ねた。


やがて――


夜空には、ふたりの願いを包むように、春の星がきらめいていた。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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