第8話「面接の日々、そして“お父さん”への第一歩」
春。
桜の花が咲き誇る季節。
大学では卒業式の余韻が残りながらも、4年生たちはそれぞれの“次”に向かって動き出していた。
悠真もそのひとりだった。
朝、キャンパスの一角。
リクルートスーツを着た悠真が、構内のベンチでノートパソコンを広げ、企業の面接情報を整理している。
「次の企業、受付時間は10時半。場所は渋谷駅から徒歩5分……」
隣には親友の航がいた。
「悠真、やっぱ大変だよなぁ。しかも奥さん妊娠中なんて……もう完全に“お父さん”だな」
「……うん。でも不思議とプレッシャーとかじゃなくて、“やるしかない”って感じなんだよね。
なんかこう……守りたいものができたっていうか」
航は笑いながら肩を叩いた。
「お前、頼もしくなったな。俺らがふざけてる間に、ずいぶん先を行ってる感じがするよ」
「いや、まだまださ。……まずは、内定を取らないと」
◇
その日、面接があったのは、老舗の飲食チェーンを中心に全国展開している大手企業。
学生の間でも「福利厚生が厚くて、家庭持ちにも優しい会社」として知られていた。
会議室の一角。
面接官が、悠真の履歴書を見ながら問いかける。
「神谷くん。君は現在、ご結婚されているそうですね?」
「はい。現在、妻は妊娠中です」
一瞬の沈黙が走る。
だが悠真は、まっすぐに面接官の目を見て続けた。
「だからこそ、今すぐにでも働きたいと思っています。
守る人ができたから、自分の中の“責任感”が変わったんです。
誰かに言われて動くのではなく、誰かを支えるために自分から動きたい。
そんな風に思えるようになりました」
会議室にいた3人の面接官のうち、年配の1人が微笑んだ。
「……いい顔をしているね。君なら、うちの会社の“現場”で愛されそうだ」
手応えを感じた悠真は、その日の夜、自宅で報告をした。
◇
「手応えは、あったと思う」
「本当? それなら……期待しちゃうね」
ソファに座っていた美紅が微笑みながら、悠真の隣に寄りかかった。
「……ねぇ、悠真くん。
あなたは、どんな“お父さん”になりたい?」
「うーん……そうだな。
たとえばだけど、怒る時はしっかり怒る。でも普段は、全力で味方でいたいかな。
……子どもが何かを頑張ろうとする時、背中を押せる父親に、なりたい」
「……うん。わたしも、そういう“お母さん”になりたい」
2人の間に、ふっとあたたかな空気が流れた。
ソファの横でそのやりとりを聞いていた瑞稀は、台所から顔を出して笑った。
「なんかさ、ほんとに“家族”って感じになったよね。
……もうすぐ、本当に“家族4人”になるんだもんね」
「……うん」
美紅は、そっとお腹を撫でた。
「君たちが生まれてくるこの世界で――
あなたのお父さんとお母さんは、ちゃんと準備してるからね」
その言葉に、悠真はそっと美紅の手を重ねた。
やがて――
夜空には、ふたりの願いを包むように、春の星がきらめいていた。
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