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第5話「卒業式――僕の妻に、ありがとう」



晴れ渡る青空の下。

大学のキャンパスは、晴れ着やスーツ姿の学生たちで賑わっていた。

卒業証書を手に笑顔を浮かべる者。

友人たちと写真を撮り合う者。

そして、未来への不安と希望が入り混じった、春の風。


その中に――篠原美紅の姿があった。


華やかなワンピース姿に、控えめながら洗練されたメイク。

瑞稀と並んで歩く彼女に、周囲の視線が自然と集まる。


「……やっぱり、目立つなぁ」

瑞稀がぽつりと呟いた。

「仕方ないよ。私、元々表に出る仕事だから」


「それにしても、今日だけは弟の“奥さん”モードでいてよ」

「もちろん。悠真くんの大切な卒業式なんだから」



式典の後――


悠真がキャンパスの一角に姿を現すと、同級生や後輩たちから歓声があがった。


「悠真、おめでとーっ!」

「篠原美紅さんってほんとに奥さんだったんだな……!」

「マジか……奇跡すぎるだろ……」


すると、ひとりの女子学生が恐る恐る手を挙げた。


「あの……握手、してもらってもいいですか?」


美紅はやわらかく微笑んだ。


「写真はごめんなさい。でも、握手と……もし持ってる人がいればサインくらいは大丈夫よ」


瞬く間に、数人の学生が手にしていた写真集を差し出した。

「持っててよかった……」と涙ぐむ後輩男子の姿もあった。


サインをしながら、一人ひとりに「ありがとう」と丁寧に声をかける美紅。

悠真はその姿を、少し照れくさそうに眺めていた。


「……やっぱ、すごいな、俺の奥さんって」



ひと段落ついた頃――

美紅はふいに悠真の頬に、そっとキスをした。


それを見ていた学生たちが一斉にざわつく。


「ヒューッ!」

「見せつけやがって〜」

「こっちは彼氏もできてねーっつーの!」

「お似合いだよ、マジで!」


その声に悠真は顔を赤らめ、美紅も恥ずかしそうに微笑んだ。


だが、その後ろで一人立っていた男がいた。

かつて、美紅に密かに思いを寄せていた同級生――一樹。


「……もう、奪えねーわ。完敗だな」


隣にいた千帆と叶恵――一樹の3つ子の妹たちが、そっと微笑んで言った。


「悠真さん、ほんとにお幸せに」

「兄の分まで……美紅さんを、愛してやってください」


すると、美紅が一歩近づいて言った。


「……確か、一樹くんだったよね?

以前、私の握手会に来てくれてたよね。ちゃんと覚えてるわ。

ねぇ、もし悠真くんに何かあったら……助けてくれる?」


「えっ……」

「あと、千帆ちゃんと叶恵ちゃんも。何かあったら、家族みたいに支えてね?」


3人は言葉を失い、ただただ頷いた。



その様子を少し後ろから見ていた瑞稀は――

悠真の肩に肘を乗せ、スマホをいじりながら笑っていた。


「……ほんっと、あんたってモテるよね。あたしの弟じゃなかったら、ちょっと嫉妬してたかも」


悠真はその言葉に、にやっと笑った。


「姉貴が“瑞稀”でよかったよ。

俺、美紅さんと一緒にいられるのは、きっとそのおかげでもあるから」


瑞稀はふっと息を吐いて、小さく笑った。


「ったく……泣かせんなよ、バカ」


そして、ぽんと弟の背中を叩いた。


――こうして、悠真は大学を卒業した。

けれど、それはゴールではなく、新たな一歩の“始まり”だった。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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