第4話「卒業式前夜、語られる本音」
三月の終わり。
明日はいよいよ――大学の卒業式。
春の暖かさが日に日に増し、街の桜の蕾も膨らみ始めていた。
けれど、悠真の胸の内は、どこか静かで、少しだけ張りつめていた。
「もう、終わるんだな……大学生活」
夕暮れのリビングで、湯呑みを手にしてつぶやくと、
美紅がそっと彼の隣に腰を下ろした。
「寂しい?」
「うん……ちょっとだけ。でも、それ以上に――これからのことを考えてる」
「“これから”?」
悠真は、美紅の手を優しく握った。
「就職、ちゃんと決めなきゃなって思ってる。
それに……大学を卒業したら、もう“学生の旦那”じゃなくなる。
社会人として、君の隣に立つ覚悟が、必要だなって」
その言葉に、美紅は静かに目を細めて、頷いた。
「私ね、ずっと思ってたの。
悠真くんが“学生”として生きる4年間に、私が入り込んでいいのかって。
でも……今は違う。“悠真くんの人生”に、一緒にいたいって思ってる。どの肩書きでもなく、ただの“妻”として」
その声は、どこまでも真っ直ぐだった。
◇
夜――
卒業式の前夜だというのに、瑞稀は珍しくリビングに顔を出さず、
自室で何やら資料を広げていた。
美紅が部屋のドアをノックすると、瑞稀はすぐに扉を開けた。
「ねえ、瑞稀お姉さん。少しだけ……時間、ある?」
ふたりは久しぶりに、お茶を挟んでリビングで並んで座った。
「明日、悠真くん、卒業でしょ?」
「うん。なんだか、私まで緊張してる」
「ふふ、それだけ彼が“家族”になったってことじゃない?」
そう言いながら、瑞稀はふと視線を落とした。
「実はね、私……尚吾くんともう一度会ったの」
「えっ?」
「この前、一緒に美術館に行ったでしょ。あの後、“やっぱり家族って、特別なんだな”って思ったの。
私にとっての一番の安心は――この家で、あの子たちと過ごすことなんだよね」
美紅は静かに頷いた。
「私も同じ。だから……これからも、3人で。家族として一緒にいたい」
「……ありがとう、美紅ちゃん。ほんと、あの時、弟の妻が“あなただった”ってことに、何度も感謝してる」
ふたりは顔を見合わせ、笑い合った。
◇
その夜、寝室では――
悠真がベッドに横たわりながら、美紅の髪を指先で遊ばせていた。
「ねぇ、明日……卒業したら、ちゃんと話そうか。
子どものこと。将来のこと。……全部、俺の口から伝える」
「……待ってる」
美紅がその言葉に応えるように、そっと唇を重ねる。
ゆっくりとしたキスの余韻に包まれながら、
ふたりは、明日という新しい一歩を、静かに迎えようとしていた。
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