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第3話「春の終わりと、最後の飲み会」



四月の終わり。

学内の桜もすっかり葉桜となり、季節は緑の香りをまとい始めていた。


大学4年生として迎える最初の飲み会。

それは、長い学生生活の“一区切り”として、代替わりしたサークルの先輩たちとの送別を兼ねた集まりでもあった。


「お前ら〜今日は楽しもうぜぇ〜!」

と音頭を取ったのは、2つ上の先輩、景だった。

同じく司会進行を務める航や圭吾も忙しく立ち回り、参加者は100人を超えていた。


その中心に、悠真の姿もあった。

すでに「美紅さんの旦那」として多くの学生に知られており、声をかけられるたびに軽く会釈をしていた。


「……俺って今、完全に芸能人の“関係者”だよな……」

「まぁな。でも、お前はお前だろ?」と航が笑って肩を叩く。



テーブルには、ビール瓶や日本酒の升が並んでいたが――


「悠真、飲まないのか?祝い酒だぞ〜!」

「……いや、俺はサワー系でいくわ。ビールとか日本酒は苦手で」


「えぇー⁉︎ でも、結婚したんだろ?男はビール一気だろ!」

「結婚してても、飲めないもんは飲めないんだよ」


そんなやりとりに、女子たちがくすくすと笑う。


「さすが美紅さんの旦那さん……大人だわぁ」

「ってか、悠真くんってサワー似合うし」


「でも、ちょっとくらい酔った顔見てみたいけどねー?」

「やめてくれ、それ絶対拡散されるやつだから……」



飲み会も終盤に差しかかるころ――

先輩の勝が立ち上がって、皆に向けて話し出す。


「今日はみんな来てくれてありがとう。4年生は、いよいよ卒業まで1年――。

今の仲間と過ごす最後の春を、悔いのないように楽しんでくれ!」


歓声が上がる中、悠真はふとスマホを取り出して、画面を見た。

「美紅さん(既読)」のトークルームには、たった一言。


「遅くまでお疲れさま。帰ったら、お茶でも淹れるね」


その言葉だけで、酔いも疲れも、不安も全てが溶けていくようだった。



帰り道――

サークルメンバーと別れたあと、悠真は一人で夜の坂道を歩いた。

春の風はもう少しだけ、冬の名残を連れている。


「……“最後の春”か」


そんな言葉が胸に滲む。


家に帰れば、美紅が待っている。

そして、瑞稀姉さんが「飲みすぎてないでしょうね?」と笑いながら出迎えてくれるだろう。


“変わっていくもの”と、“変わらずあるもの”。

その両方を、今はしっかりと感じていた。



玄関を開けると、柔らかな明かりと――

部屋着姿で、湯気の立つお茶を手にした美紅が、ほっと微笑んだ。


「おかえり、悠真くん。……最後の飲み会、お疲れさま」


「……うん、ただいま」


その瞬間、悠真は確かに思った。


――“この日常”を守るために、俺は進む。これからの人生を、きっと”



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