第1話「新学期、そして新たなスタート」
桜が静かに舞う四月。
大学のキャンパスには、真新しいスーツに身を包んだ新入生たちの姿があふれていた。
その中を、4年生となった悠真は一歩ずつ、確かな足取りで歩いていた。
「もう最上級生か……」
自販機でコーヒーを買いながら、ふとつぶやく。
この1年で、彼の生活は大きく変わった。
――あの国民的モデル・篠原美紅と“交際0日婚”をし、世間から注目を浴び、
それでも変わらぬ日常を守りながら、大学生活と家族との暮らしを重ねてきた。
大学では、相変わらず航、圭吾、憲剛ら親友たちと日々を過ごしながらも、
後輩たちや一部の新入生から「CMで見ました!」「結婚おめでとうございます!」と声をかけられることも増えた。
「悠真、お前さ……有名人だな、まじで」
「そうだぞ。神谷悠真のサイン、俺の卒論の表紙に書いてくれ」
「ちょっと、もう! 勉強中でしょ!」
そんな友人たちに囲まれながら、
悠真は少しずつ、卒業後のことも視野に入れ始めていた。
◇
一方、美紅は、今年に入ってからも多忙な日々を送っていた。
モデルとしての仕事に加え、化粧品ブランドや衣料品メーカーのCM出演、
そして雑誌の連載やテレビ出演……。
「美紅さん、次の現場はこちらになります。15分後にリハ入りますね」
「はい。今日のテーマ、春の“等身大ナチュラル”、ですよね?」
プロとしての表情で仕事をこなす美紅だが、
心のどこかでは――「あと1年。悠真くんが卒業したら、次は“家族の準備”を」と決めていた。
◇
その夜。
3人が暮らすリビングでは、久々に全員そろっての夕飯が始まろうとしていた。
瑞稀はカウンターキッチンで唐揚げを盛り付けながら、ぽつりと口を開いた。
「……尚吾くんとのこと、だけどさ。やっぱり、お付き合いはしないことにした」
「えっ……?」
美紅と悠真が顔を上げる。
「この家の暮らしが、私にとって一番落ち着くって、気づいたの。
恋とか、結婚とか……それよりも、弟夫婦と過ごす時間を今は大切にしたい」
「瑞稀姉さん……ありがとう」
美紅も安心したように頷きながら――
「じゃあ、このまま3人で暮らしていこう。
でも、私たち、いつか家族が増えるかもよ?」
「お、意味深な予告だな……?」
と悠真が茶化すと、瑞稀はニヤリと笑った。
「その時は……私は保育係にでもなるよ」
◇
新学期。
4年生という節目の年。
悠真は、大学生活と向き合いながら、
美紅は、芸能活動の中で“母になる覚悟”を胸に育てながら、
瑞稀は、ふたりの未来を支える家族としての日々を選び――
3人の“家族の形”が、また新しい春と共に歩き始めた。
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