第10話「4年生の春、未来への約束と、重なる心」
春の風が、キャンパスにやわらかな新芽の香りを運んでくる。
スマートフォンの画面に、大学からのメールが届いたのは、
昼過ぎの静かな講義室だった。
件名:進級通知
本文の数行には、こう記されていた。
「神谷悠真 様
あなたは、必要な単位を全て取得し、進級の条件を満たしました。
よって、令和〇年度より4年次に進級が認められます。」
悠真は、ホッとしたように、息を吐いた。
思えばこの一年、課題に追われ、時間を惜しんで勉強し、
時には撮影のスケジュールと重なりながらも、なんとか踏みとどまった。
(……よかった。これで、美紅さんとの“約束”も守れる)
◇
その日の夜、悠真は久しぶりの学年合同の歓迎飲み会に出席していた。
新一年生を迎えた初顔合わせの場では、旧友や後輩たちも交じって、賑やかな時間が流れていた。
料理が運ばれ、乾杯の音頭が終わった直後。
会場の隅でざわつきが起こった。
「ねぇ、あの人……もしかして、“CMに出てた人”じゃない?」
「うん、あの人、篠原美紅の旦那さんだって……名前、確か神谷悠真」
1年生の男子学生と女子大生の2人が、そっと悠真の方へ歩み寄ってきた。
「こんにちは……もしかして、CMに出てた神谷さん、ですよね?」
「結婚、おめでとうございます。正直、ちょっとショックだったけど……悔しいけど、幸せになってください」
悠真は一瞬驚いたが、丁寧に頭を下げて言った。
「ありがとうございます。突然でごめんね。
でも……そう言ってもらえると、すごく救われます」
2人は微笑み、静かに自分たちの席へ戻っていった。
その後、航や圭吾、憲剛たちからも「ようやくか!」と肩を叩かれ、
健太や冬夜からは「飲み過ぎんなよ、新生活はこれからだぞ」と軽口を飛ばされた。
悠真は、心の底から笑っていた。
きっと、こんな日が来ることを――ずっと夢見ていたのだ。
◇
帰宅後。
玄関で靴を脱ぎながら、悠真はリビングのソファに座っていた美紅に話しかけた。
「ねえ、美紅さん。俺、無事に4年になれたよ」
「ほんと? おめでとう、悠真くん」
美紅は嬉しそうに駆け寄り、キッチンからグラスを2つ取り出して乾杯した。
「……あと、一つだけ。お願いがあるんだけど」
「ん? なあに?」
「……もう一年だけ。子ども、待ってくれる?」
少しだけ沈黙が流れた後、美紅は優しく微笑んで――
「もちろんよ!」と声を弾ませた。
そして、グラスを置いてそっと悠真の頬に手を添え、
静かに、唇を重ねた。
その夜――
ふたりは風呂場で静かに体を重ね合った。
あたたかな湯気の中、
悠真が下に、美紅が上に覆いかぶさるようにして、
互いのぬくもりを何度も、確かめ合った。
(いま、こうして“家族”でいられることが、何より幸せだ)
そう思いながら、
悠真は美紅の髪に指を通し、深く長いキスを交わした。
◇
同じ頃――
キッチンでは、瑞稀が夕飯の準備をしていた。
「尚吾くん……このまま付き合っていけば、いつかは“結婚”も……」
フライパンに油を引きながら、
自分の未来と、弟たちの未来を思い重ねる。
そして、風呂から上がった悠真と美紅がリビングに戻ると、
そこには瑞稀特製の夕飯が並べられていた。
「……いただきます」
3人で囲む食卓。
テレビから流れるバラエティ番組の笑い声と、
ささやかな笑顔が、春の夜を包んでいた。
◇
そして、数日後――
大学3年生の修了式が行われた。
悠真はクラスメイトたちと肩を並べ、
その節目を、胸に刻むように受け止めた。
(来年の今頃には、俺も社会に出てるのか……)
そして、そばには――
いつも変わらず寄り添ってくれる、美紅の存在がある。
“憧れの人”と結ばれた交際0日婚は、
いま、確かな“家族の物語”へと歩み出していた。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます!
もしこの物語に少しでも「面白い!」と感じていただけたなら——
ブックマーク & 評価★5 をぜひお願いします!
その一つひとつが、次の章を書き進める力になります。
読者の皆さまの応援が、物語の未来を動かします。
「続きが気になる!」と思った方は、ぜひ、見逃さないようブックマークを!
皆さまの応援がある限り、次の物語はまだまだ紡がれていきます。




