第4話「瑞稀と尚吾、ふたりだけの夜景デート」
その日、撮影の終わりに尚吾がぽつりと訊ねた。
「……ちょっと夜、空いてる?」
瑞稀は一瞬だけ驚いた顔をしたが、すぐに口元をゆるめた。
「別に予定はないけど?」
「じゃあ、行きたい場所があるんだ。ついてきてくれる?」
「……まさか、いきなりプロポーズじゃないでしょうね?」
「それはさすがに早すぎるでしょ」
ふたりはそう言って笑いながら、車に乗り込んだ。
◇
尚吾が運転する車で到着したのは、都内から少し離れた高台の展望台だった。
季節は初秋、少し冷たい風が吹く丘の上。眼下には宝石を散りばめたような夜景が広がっていた。
瑞稀はしばらく黙ったまま、その景色を見つめた。
そして、ふと尚吾の横顔に目をやる。
「……ねぇ、どうして私をここに?」
「君に、“余白”を感じてほしくて。
瑞稀さんって、いつも完璧で真っ直ぐで、自分のことを後回しにしてる気がして……。
だから、たまには“何も考えなくていい場所”をプレゼントしたかった」
その言葉に、瑞稀の心がほんの少し、ほどけていくのが分かった。
「……ありがと。そんなふうに言われたの、初めてかも」
「ほんとは、もっと手前で告白しようかと思ってた」
「は?」
尚吾は、少し照れたようにポケットから小さな箱を取り出した。
開けるとそこには、ペアのシルバーリング。
宝石ではなく、きらめきも控えめな、日常に馴染む細身のデザイン。
「これ、まだ“指輪”じゃないよ。ただのアクセサリー。
でも、いつか指輪になるかもしれない――その“途中”の気持ちを、持っていてくれない?」
瑞稀は数秒だけ黙ったあと、笑った。
「交際0日婚は嫌って、ちゃんと言ったわよね?」
「もちろん、覚えてる。だからこれは、“恋の途中”の証」
「……ふふっ。そうね。もらっておくわ」
リングを指に通した瑞稀の横顔は、これまでに見せたことのないような、柔らかい表情だった。
◇
帰りの車内。
ラジオから流れる音楽に耳を傾けながら、尚吾がぽつりとつぶやいた。
「俺さ、最初は君のこと“怖い”と思ってたんだ。
でも今は――一緒にいると、すごく落ち着く」
「ふふ、私も。
こんな夜景を見て、“きれい”って素直に思えるようになったの、たぶん……あなたの隣だからだと思う」
小さな“恋の前提”が、ふたりの間に確かに生まれていた。
◇
その夜、自宅に戻った瑞稀は、悠真と美紅に言った。
「……私ね、今、誰かを“好きになる途中”なんだと思う。
でも、きっとこれ、ちゃんと本物になる気がする」
悠真は微笑み、美紅は優しく頷いた。
「……きっとね、瑞稀さん。今のあなたなら、ちゃんとその恋を育てられるよ」
瑞稀はリングに触れながら、静かに――けれど確かに微笑んだ。
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