第3話「母への挨拶と、ふたりの“約束”」
日曜の昼下がり――
東京都内の閑静な住宅街。その一角にある、落ち着いた平屋の玄関前に立っていたのは、スーツ姿の悠真だった。
横には、やや緊張した様子の美紅。
「……大丈夫かな。うちの母、少し厳しいところあるから」
「大丈夫。俺、ちゃんと覚悟してきたから」
そう言って、悠真はインターホンを押した。
中から出てきたのは、柔らかなグレーのブラウスに身を包んだ、美紅の母・真理恵。上品で少しだけ芯の強そうな女性だった。
「……ようこそ、いらっしゃい。あなたが悠真くんね?」
「はい。神谷悠真と申します。本日はお時間をいただき、ありがとうございます」
深く頭を下げる悠真の姿に、真理恵は少し驚いたような表情を見せ、それでもすぐに笑みを返した。
「そんなにかしこまらなくていいわ。さあ、上がって」
◇
ダイニングで用意された手料理を囲みながらの食事は、始まりこそ少し硬さがあったものの、やがて会話は穏やかに流れていった。
美紅が高校生の頃の話、モデル活動を始めたばかりの頃の苦労――
そして話題は、自然と“ふたりのこれから”へと移っていった。
「……正直に言えば、最初は驚きました」
真理恵は少し目を細めながら、悠真を見た。
「交際0日婚なんて、そんな無茶な話が娘から出るなんて想像もしてなかったから」
「……はい。そのとおりです。
でも、僕は本気で美紅さんを愛しています。
“交際”という形式ではなくても、彼女と生きていきたいと思えた。それがすべてでした」
美紅が少し照れながら、しかししっかりと悠真の手を握る。
「お母さん、私、彼と出会ってから……ちゃんと人を愛するってどういうことか、初めて知ったの。
だから、お願い。この人を、私の家族として認めてほしい」
真理恵はしばらくの間、言葉を発さなかった。
やがて、小さくため息をついた後――
「……ふたりとも、随分と真っ直ぐなのね」
と、肩の力を抜いたように微笑んだ。
「なら、私も腹を括るしかないわね。
……あなたの覚悟、ちゃんと見届けるから」
◇
帰り道。
夜の住宅街をふたりで歩きながら、悠真はほっと息をついた。
「……ほんとに、緊張した」
「ふふ、でもすごかったよ。お母さん、悠真くんのこと“根が真面目すぎるくらいで、逆に安心した”って言ってた」
「……うれしい。けど、真面目すぎってちょっと複雑」
そのとき、美紅が急に立ち止まり、真剣な顔で悠真を見た。
「ねぇ、悠真くん」
「うん?」
「私たち、まだ家族としてはこれからだと思う。でも――
将来、子どもができたとき、きっと“私たちみたいな形もあるんだ”って、胸を張って言えるような夫婦になろうね」
悠真はしっかりと頷いた。
「うん。約束する。
どんな困難があっても、“選んでよかった”って思い続けてもらえるように、頑張るから」
ふたりは、手を重ねたまま――
夕焼けに染まる空の下、そっと唇を重ねた。
それは、“ふたりで歩んでいく”という新たな約束のキスだった。
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