第2話「桐山さんと手をつないだ日」
事務所の撮影が一区切りついた休日の午後。
瑞稀は、約束していたとおり、桐山尚吾と都内の静かなカフェで待ち合わせをしていた。
彼とふたりで会うのは、これで3回目。
けれど、まだ“デート”と呼ぶにはお互い少しだけ気恥ずかしくて、それでもどこか、心地よい緊張感があった。
「今日は……このあとどうする?」
桐山がアイスコーヒーを飲みながら訊ねる。
「そうね……人の少ないところ、歩きたいかな。最近、現場か家の往復ばっかりだったから」
「じゃあ、公園でも行ってみる?」
「うん、いいね」
それだけで、小さな冒険が始まったような気がした。
◇
初秋の木漏れ日が降り注ぐ並木道。
平日の午後だからか、ベンチには老夫婦がぽつりぽつりと座っているだけで、道は静かだった。
瑞稀と尚吾は、何も言わずに歩きながら、ゆっくりと時間を重ねていた。
「……瑞稀さん、最初は正直怖かったよ」
「え? なによ、いきなり」
「いや……君、完璧すぎてさ。現場でも無駄がなくて、誰にでも的確に指示を出してて。
なんていうか……“人の弱さを許さない人”なんじゃないかって、勝手に思ってた」
瑞稀は少し驚いた表情を浮かべ、立ち止まった。
「私……そんなふうに見えてたんだ」
「うん。でも、全然違った。今日みたいに笑う瑞稀さんとか……人の話を真剣に聞いて、うんってうなずく瑞稀さんとか。
見れば見るほど、“すごく普通に、優しい人”なんだって思える」
瑞稀は、口元にそっと手を当てて笑った。
「……あんたって、ほんと不器用よね。
でも、そういうところ……嫌いじゃないわ」
そしてふと、ふたりの手がすれ違った瞬間。
瑞稀が一歩だけ、彼のほうへ近づいた。
桐山も、何かを察したように、静かに手を差し出す。
その手を、瑞稀が握った。
恋人のように、ではなく。
けれど確かに、「今、少しずつ歩いている」という実感と共に。
「こうやって手をつないで歩くの、久しぶりかも」
「……俺も。けっこう緊張してる」
「……私もよ。こう見えて」
ふたりは歩幅を合わせながら、ゆっくりと歩いた。
◇
その夜。
帰宅した瑞稀は、ソファで寛ぐ悠真と美紅に報告した。
「……あんたたちに、ひとつだけ報告。
今日、初めて手、つないだのよ」
「ええっ⁉︎」
「マジで!?」
美紅と悠真が同時に驚くと、瑞稀はちょっとだけ誇らしげに微笑んだ。
「だから言ったでしょ。私は“徐々に”進めたいの。
焦らずに、でも確かに。ひとつずつ積み重ねていく恋を、ちゃんとやってみたいって」
「……すごく、瑞稀さんらしいです」
美紅が優しく言った。
「でも、よかったね。
その手が、“未来につながってる”って信じられるなら、きっとその恋は正解だと思うよ」
瑞稀は頷いた。
そして、心の中でそっとつぶやいた。
――いつか、“あの人と一緒に未来を語れる日”がくるのなら。
私はちゃんと、自分の歩幅でそこへたどり着きたい。
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