第1話「姉の恋、はじまりの会話」
『姉の同期が“推しモデル”でした。――交際0日婚から始まった日々と、続編の姉の恋が動き出した朝』
瑞稀はある夜、久しぶりに化粧ポーチを整えていた。
鏡の前でリップをひと塗りして、ふっと頬を赤らめる。
――そう、彼と出かけるからだった。
「彼」とは、事務所の外部スタッフ・桐山尚吾(31)。
数年前から美紅の現場にも何度か立ち会っていたが、瑞稀との接点はさほど多くなかった。
それでも最近、控室で瑞稀がさりげなく手渡したミネラルウォーターがきっかけで、ふたりの会話が増え始めていた。
初めてふたりきりで出かけた日。
食事の帰り道、尚吾が笑ってこう言った。
「瑞稀さん、意外と人懐っこいですね。最初は近寄りがたい印象だったのに」
「……ふふ、失礼ね。こっちだって最初は“誰このぶっきらぼうな人”って思ってたわ」
そう言いながら瑞稀も自然と笑っていた。
“徐々に進んでいく恋”――瑞稀が望んだのは、まさにそういう距離感だった。
◇
その週末、瑞稀は弟・悠真と義妹・美紅と久々の3人で食卓を囲む。
「ねえ、悠真。美紅さん。…私、好きな人ができたの」
その一言に、悠真は箸を止め、美紅は目を丸くする。
「えっ、瑞稀さんに!? 誰、どんな人?」
「桐山尚吾さんって言って……事務所のスタッフで、31歳。もう何年も前から現場に来てるけど、最近ちょっとずつ話すようになって」
悠真は驚いた顔をしていたが、美紅はすぐに笑顔になる。
「なんか…すごく素敵。瑞稀さんにも、そういう人が現れるって思ってた」
「私、交際0日婚は無理。だから、ちょっとずつ……デートして、少しずつ知っていきたいの。結婚も視野に入れて」
「……うん、姉ちゃんらしいよ。それが一番だと思う」
◇
その夜、美紅がぽつりと口を開いた。
「……ねぇ、瑞稀さん。もし、子どもができたら、名前って決めてる?」
瑞稀が意外そうに顔を向けると、美紅は照れくさそうに言葉を続けた。
「私ね、もう考えてあるの。男の子だったら“大翔”、女の子だったら“遥香”と“彩”」
悠真は目を丸くし、美紅に問いかける。
「えっ、それってもう……」
「うん。いつか、あなたとの子どもが欲しいって思ってる。
でも、大学卒業まではちゃんと待つから。約束するよ」
悠真は優しく、美紅の手を握った。
「ありがとう、美紅。俺も、それまでにもっと大人になれるよう頑張る」
◇
その数日後――
美紅が切り出した。
「ねぇ悠真、今度、私の母親に挨拶に来てほしいの。結婚のことも、ちゃんと」
「もちろん行くよ。…お父さんは?」
その問いに、美紅は少しだけ視線を落とす。
「両親は離婚してるの。父のほうは再婚して、別に妹と弟がいるの。
母には内緒で、私はふたりと時々会ってるの――中学生の妹と、小学生の弟」
悠真は静かに頷いた。
彼女の過去と、家族の形。それも含めて、これからの未来を共に歩んでいくのだと改めて感じていた。
瑞稀の新しい恋、美紅の未来への決意。
“交際0日婚”から始まった物語は、今また、新しい季節へと向かっていた。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます!
もしこの物語に少しでも「面白い!」と感じていただけたなら——
ブックマーク & 評価★5 をぜひお願いします!
その一つひとつが、次の章を書き進める力になります。
読者の皆さまの応援が、物語の未来を動かします。
「続きが気になる!」と思った方は、ぜひ、見逃さないようブックマークを!
皆さまの応援がある限り、次の物語はまだまだ紡がれていきます。




