第10話「君とつくる人生のシナリオ」
冬の訪れが近づいたある夜――。
大学での授業を終えた悠真が家に帰ると、リビングには柔らかな灯りと、静かなクラシックが流れていた。
キッチンにはエプロン姿の美紅。
グラタンの香ばしい匂いが部屋に満ち、いつもの“ふたりの生活”が、温かく広がっていた。
「おかえり、悠真くん。ちょうど焼けたところだよ」
「……ただいま。すっごくいい匂い」
テーブルに並べられた料理を見て、悠真は自然と笑みをこぼした。
そして、ふと目をやると、テーブルの隅に一冊のシナリオ台本が置かれているのに気づいた。
「これ……?」
「うん。次の作品、映画の主演。来週から撮影に入るの」
「そっか……主演か。やっぱりすごいな、美紅は」
「……でも、正直言うとね――今回は、ちょっと不安なの」
悠真は美紅の隣に腰を下ろし、静かに彼女の手を取った。
「どうして?」
「役がね、“妊娠した妻”なの。相手役の俳優さんとのシーンも多くて……もちろん、プロとしてやるけど……やっぱり悠真くん以外の人に“妻としての自分”を見せるの、少しだけ怖い」
それは、女優としてではなく、“妻”としての本音だった。
悠真は一瞬黙ってから、深く頷く。
「……わかるよ。俺だって、同じ立場ならそう思う。でも、だからこそ言いたい。
君がどんな役を演じても、どんなに誰かとキスしても、誰かと寄り添うシーンを撮っても――俺にとって君は、世界にひとりの妻だよ」
美紅の目が潤んだ。
「……ありがとう。そう言ってくれると、ちゃんと頑張れる」
「それに、もしまた一緒に演じられるチャンスがあるなら――どんなシナリオでも、俺は“君専属の相手役”でいたい」
「ふふ、それ、ちょっと照れるね。でも……そのセリフ、覚えておく」
その後の食事は、静かで優しい時間だった。
◇
夜。
ふたりは寝室で隣り合いながら、いつものように手をつないでいた。
「……ねえ、悠真くん。私たち、どこまで行けるかな?」
「どこまでって?」
「この“夫婦共演”っていうスタイル。
CM、ドラマ、映画――いろんなところで一緒にいて、ずっと見つめ合って、愛し合って、それを誰かに届けるってこと……」
悠真は笑いながら答える。
「どこまででも行こうよ。
だって、俺たちは“交際0日婚”から始まって、ここまできたんだよ?
次は、“家族共演”だって、きっとできる」
「……うん。
きっと、どんなシナリオでも――ふたりでなら、現実に変えられるね」
そしてその夜、ふたりは灯りを落とし、
そっと抱き合いながら、未来について語り合った。
「名前、どうする? 子どもが生まれたら」
「まだ早いってば……でも、男の子でも女の子でも、君が呼びやすい名前がいいな」
「ふふ、じゃあ“悠”って字は絶対入れてね」
「はいはい、お任せします、“未来の母”さん」
優しい笑い声が、静かな寝室に響いた。
ふたりの未来は、まだ真っ白なシナリオのように広がっている。
でも、そこにはもう確かな言葉が刻まれ始めていた。
“君と生きるための、物語”
演技ではない。夢でもない。
これは――現実に選び、歩み、抱き合ってきた、ふたりの愛のかたちだった。
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