第6話「映画撮影の夜に、ささやかれた願い」
夏の終わり。
蝉の声が静かになり、夜の風に秋の気配が混じる頃。
悠真と美紅は、映画撮影のため地方ロケへと向かっていた。
今回の作品は、“新婚夫婦の心の揺れと愛の再確認”を描いたラブストーリー。
美紅は主演女優、悠真はその夫役として、今や**“夫婦専門俳優”**としての注目を集めていた。
──
撮影4日目の夜。
山間の静かな旅館に宿泊したふたりは、その日のクライマックスシーンに備えてリハーサルを終えたあと、露天風呂つきの部屋でゆったりとした時間を過ごしていた。
美紅は髪をまとめ、薄手の浴衣に身を包み、縁側で夜風にあたっていた。
「……ねえ、悠真くん」
「うん?」
「私ね、今でも時々思うの。“本当にこれでよかったのかな”って。交際もしないまま結婚して、夫婦になって……」
「……後悔、してる?」
「ううん。全然。でも、“これでいい”って言えるために、ちゃんと未来をつくりたいって思うの。ふたりで」
悠真は少しだけ考えたあと、隣に腰を下ろして、彼女の耳元に口を寄せた。
そして――
「……俺、子どもが欲しい」
美紅の身体がピクリと震えた。
「……え?」
「今日の撮影中ずっと思ってた。君のことを抱きしめて、愛して、毎日一緒にいて……この先、君との間に命を授かれたら、って」
「……でも……私、まだ仕事もあって……」
「分かってる。焦ってるわけじゃない。でも、君との未来に、“家族”という形が欲しいと思った」
その声は、とても静かで、でもどこまでも真剣だった。
美紅はしばらく言葉を失ったあと――
「……私も、欲しいよ。あなたの子ども……って、思ってた」
目尻に涙を浮かべながら、彼女はそう呟いた。
「仕事も大事。でも、それ以上に、私たちが“ふたりだけ”で終わらない未来を……見てみたい」
言葉が終わると同時に、美紅は悠真の胸に飛び込んだ。
そのまま、ふたりは畳に倒れ込むように身体を重ね――
美紅が上に、悠真が下でそっと抱き合った。
浴衣の隙間からあらわになる肌。
愛しさが、ためらいを超え、呼吸を重ねていく。
唇から、首筋へ、そして指先へ――
「……好き、ずっと……あなたと、こうしていたい」
「俺も……美紅……」
その夜、撮影の台本には存在しない、
**“ふたりだけの未来のシーン”**が重ねられた。
それは、演技ではない。
ふたりの人生に刻まれる、本物の想いだった。
そして数時間後。
眠りにつく直前、美紅が小さく囁いた。
「……子どもができたら、最初に伝えるのは……撮影スタッフじゃなくて、あなただからね」
悠真はそっと頷いて、彼女の指を握った。
「ありがとう。……俺の未来は、君とその子のためにあるから」
──
静かな夜の中、ふたりの鼓動がやさしく重なっていた。
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