第5話「“演技”のはずだが、何故か分からないが… 鼓動が止まらないのである」
「……演技、だよな?」
帰宅後の寝室。
照明を落とした部屋の中、ベッドに背中を預けながら、悠真がぽつりと呟いた。
「うん……でも、私は正直、途中から“役”ってこと、忘れてたかも」
美紅が、髪をほどきながら素直に答える。
その声はかすかに震えていた。
ドラマ撮影は折り返しを迎え、ふたりの関係は“恋人”から“婚約者”へと進展。
脚本上でも、キスや抱擁のシーンは徐々に増えていた。
撮影が進むたびに、悠真は気づき始めていた。
自分の胸の鼓動が、撮影中のほうが早くなっていることに。
「これ以上、もっと激しいシーンが来たら、俺……ちゃんと演技で済ませられるかな」
「……いいんじゃない? 済ませなくても」
ベッドの隣、美紅がそっと言葉を落とした。
「スタッフさんたちも、気づいてると思うよ。私たちのキスが、演技じゃないって」
「……やっぱり?」
「うん。でも、誰も止めない。むしろ、求められてる。リアルな“愛”が、画面に映ってるって」
悠真は深く息を吐いた。
「俺、今ならわかる気がする。“演じる恋”と、“本当に愛してる人と交わすキス”は、全然違うんだなって」
「私も……知った。あのキスで、私、ちゃんと女優としてだけじゃなく、ひとりの妻として愛されてるって思えた」
ふたりは言葉を止めて、しばらく静かに見つめ合った。
そこには、何の照れも、演出も、演技もなかった。
ただ、心が重なっていた。
◇
数日後、ドラマの“山場”となる回の撮影が行われた。
婚約直後、恋人たちが将来を語り合いながら、ベッドの上で想いを確かめ合う――そんなシーン。
監督は、特に詳細な指示を出さなかった。
ふたりにすべてを委ねる形で、カメラが回される。
「……ずっと、一緒にいようね」
「……うん、約束する」
そう言って、美紅がそっと頬に触れ、キスをする。
やがて、悠真も彼女の肩を抱き寄せ、静かに背中へ手を回す。
キスは、長く。
深く。
自然と呼吸が重なり合い、肌が触れ合うたびに、ふたりの間から“役”という存在が消えていった。
現場のスタッフたちは息を飲み、誰ひとり言葉を発しなかった。
「……カット、入れられないな……これ、“リアルすぎる”」
カメラの後ろから、誰かがつぶやく。
演技とは思えない。
むしろ“そこにあったのは愛そのもの”だと、誰もが感じていた。
◇
その夜。
帰宅後のバスルームで、メイクを落とした美紅が鏡越しにふと口にした。
「ねえ……私たち、俳優と女優っていうより、“恋を演じる夫婦”じゃなくて、“恋を重ねる夫婦”になってる気がする」
「……いいじゃん、それ。最高の形だと思う」
「演技じゃなくて、愛してるからこそ、伝えられるキスがある。そう思うようになったよ」
「俺も。……君じゃなきゃ、できない」
ふたりはタオルに包まれたまま、リビングのソファで寄り添い、
今日の撮影で交わした“キス”の続きを――演技ではない、本当のキスで確かめ合った。
鼓動は、止まらなかった。
むしろ、恋の始まりのように速く、熱く――
そして、その夜。
ふたりは脚本にないキスを、幾度となく重ね合った。
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