特別編7話(最終話)「“演技”のはずが、鼓動が止まらない」
――数日後。
ドラマはいよいよ物語の山場を迎え、撮影現場の緊張感も日に日に増していた。
この日の撮影は、“恋人としての初夜”。
曖昧な関係がようやく確かになり、心も身体もひとつになる、
作品にとって最も重要なシーンだった。
現場には美紅の事務所の社長や瑞稀の姿もあり、悠真は久々に強いプレッシャーを感じていた。
「……今日は、少し緊張してる?」
撮影直前、衣装のまま隣に並んだ美紅が小声で尋ねてきた。
「……うん。だって、あのキスのあとだし。みんな“本当に付き合ってるんじゃ?”って目で見てくる」
「付き合ってるどころか、結婚してるけどね」
「それがバレないように“演じる”のが、逆に難しいんだよ……」
美紅はくすっと笑って、
「じゃあ、今から“まだ夫婦じゃない”っていう設定で、私のこと、好きになって」と言って、
軽く唇に指を当てた。
◇
セットはベッドルーム。
静かな夜の室内、灯りはぼんやりと柔らかく、ベッド脇に置かれた小さなランプが温もりを与えている。
シーンはこうだ――
ふたりは長い時間を経てようやく想いを伝え合い、
その夜、何も言葉を交わさずに、そっと寄り添い、指を絡め、
――そして、キスを交わす。
台本には「キス」としか書かれていなかった。
演技の中でどれだけ感情をのせるかは、ふたりに託されていた。
「3、2、1――カメラ、スタート」
スタッフの声とともに、悠真はベッドの縁に腰掛けた美紅の隣に静かに座る。
「……今日も、綺麗だね」
「……バカ。演技なんでしょ、それ」
「だったら――“演技”のままでも、君に触れていい?」
美紅の目が揺れた。
それは“演技”なのか、それとも――
彼女の手にそっと触れる。
その指が震えた。
その震えに、悠真の心臓が跳ねた。
――これは演技じゃない。
“夫婦”という関係を知っているはずの自分が、
もう一度“恋”をしている。
ゆっくりと唇が近づく。
目を閉じる瞬間、ふたりの呼吸が重なる。
深く、優しく、
けれど確かに心の奥を揺らすキスだった。
一秒、また一秒――
「……カット」
監督の声が響いても、
ふたりはすぐに動けなかった。
演技のはずだった。
けれど、心臓の音は止まらなかった。
◇
控室に戻ったふたりは、しばらく無言だった。
「……ねぇ、悠真くん」
「うん」
「……今のキス、“お芝居”じゃなかったよね?」
「……うん。あんなにドキドキしたの、初めてだった」
「私、夫婦になった今でも――
君に触れられるだけで、“好き”が更新されていくの」
「俺もだよ。君といるたびに、
“この人と結婚してよかった”って、毎回、毎日、そう思う」
ふたりは言葉もなく、
そっと手を重ね――
もう一度、控室のソファで小さなキスを交わした。
演技じゃなく、本物のキスだった。
◇
その夜。
家に帰ると、瑞稀がテレビでドラマのティザーCMを見ていた。
ふたりのキスシーンが、スローで流れ、SNSでも話題になっていた。
瑞稀はリモコンを置いて、ふたりに呟いた。
「……ねぇ、あんたたち。
正直、あのキス、本気だったでしょ?」
「えっ……」
美紅と悠真は目を合わせた。
瑞稀はニヤリと笑いながら言った。
「いいじゃん。
全国の視聴者に、**“本物の愛”見せつけてやりなさいよ。
あんたたち、最強の夫婦なんだから」
――それは“夫婦”であることを隠していても、
隠しきれないほどにあふれる、
ふたりの“本当の愛”の証だった。
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