特別編3話「記者会見と、ふたりだけのルール」
――数日後。
CMの全国放送による反響は、想像以上だった。
テレビ番組やネットニュースでは“理想の夫婦”として取り上げられ、SNSでは「本当に結婚してるのが尊い」「現実にいた…」と話題に。
そして事務所はその反響を受け、美紅の所属事務所とメーカー合同の小さな記者会見を企画した。
美紅のマネージャーから、正式に「夫の立場で同席を」と依頼された悠真は、慎重に返事をした。
「俺で本当にいいんですか?」
「あなたしかいないでしょ。あなたは、“演じた夫”じゃなくて、“本物の夫”なんだから」
その言葉に、美紅が隣で頷いた。
「……ねえ悠真くん、今日も隣にいてくれる?」
「うん。……ずっと、君の隣にいるって決めたから」
◇
記者会見当日。
小規模ながら、カメラのフラッシュと記者の視線に囲まれるという異様な空気に、悠真は少し緊張していた。
しかし、美紅は落ち着いた笑みで、司会者からの質問に答えていた。
「今回のCMは“自然体な夫婦”がテーマでしたが、演技はされていたんですか?」
「いえ……私たち、演技というより“普段のまま”で過ごしていました。
――だって、隣にいるのは、本物の夫ですから」
会場が一瞬ざわついた。
だがその静けさをやさしく打ち消すように、美紅が微笑んだ。
「このCMが、誰かの“理想”に映ったのなら、それはたぶん、私たちが“本気で向き合ってきた”証だと思っています」
隣でその言葉を聞いた悠真は、深くうなずいた。
「僕は芸能人じゃないけど、彼女が撮影で疲れて帰ってきたときに、
“ただの夫”として迎えてあげられる存在でいたいと思ってます。
――彼女が“篠原美紅”じゃなく、“僕の妻”に戻れる場所を、守りたいんです」
そのコメントに、場内からは自然と拍手が沸き起こった。
◇
会見後――
帰りの車内、静まり返った後部座席で、美紅がふと呟く。
「……ねえ悠真くん」
「うん?」
「私たち、“夫婦”としてだけじゃなくて、“仕事仲間”としても、ちゃんと前を向けた気がする」
「……うん、そうだね」
「だから、これからも撮影が続く中で……ふたりだけのルール、作らない?」
「ルール?」
「うん。たとえば――撮影中は“お互いを演じない”。
そして撮影が終わったら、“ちゃんと夫婦に戻る”。
どこまでいっても、演技に飲まれないようにしたいの」
「……いいね、それ。君らしい」
悠真は笑って、彼女の手を握った。
「じゃあ、俺からもルール追加していい?」
「なに?」
「“お互いが頑張った日には、夜にキスをする”。ご褒美として」
「ふふっ……それ、嬉しい」
ふたりの手は、どこまでも温かかった。
舞台裏で重ねたこの“約束”こそ、表に見えないふたりの本当の絆。
今後も続いていく共演の中で、
どこまで本気になっても、ふたりの根っこは変わらない。
“愛してる”という言葉が、演技よりも先にある世界。
そんな世界で、ふたりはこれからも手を取り合って生きていく。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます!
もしこの物語に少しでも「面白い!」と感じていただけたなら——
ブックマーク & 評価★5 をぜひお願いします!
その一つひとつが、次の章を書き進める力になります。
読者の皆さまの応援が、物語の未来を動かします。
「続きが気になる!」と思った方は、ぜひ、見逃さないようブックマークを!
皆さまの応援がある限り、次の物語はまだまだ紡がれていきます。