第10話「ふたりで選んだ未来、交際0日婚のその先へ」
春の足音が近づき、大学2年生の後期授業もいよいよ終盤へ――。
学食の窓際の席に、悠真はいつものように親友3人と並んで昼食を囲んでいた。
「お前ももう、人妻と2年目だもんなぁ……なんか感慨深いわ」
そう言って箸を止めたのは、陽気な航。
「てかさ、結婚しても全然変わってねーの、逆に尊敬するわ」
と、やや皮肉めいたように笑った**圭吾**が続き、
「俺なんか、もし結婚してたらもう“嫁怖い”って叫んでる頃だわ……なぁ、憲剛?」
「……無理無理無理、俺、美紅さんと同じ空気吸うのすら緊張するのに」
そんな憲剛の言葉に、みんなが吹き出した。
そのときだった。
「あの……失礼します!」
ふと声がして、4人の女の子がテーブルの前に立った。
少し緊張気味に名乗るのは――
茜・灯里・詩織・栞
全員、文学部の1年後輩で、以前の講義で悠真と話したことがある子たちだった。
「結婚、おめでとうございます。最初ニュース見たとき、びっくりしましたけど……」
「でも、本当にお似合いで、羨ましいです!」
「いつも仲良く登校してるの見てて、こっちまで幸せになります!」
「……よかったら、また学食でお会いしたら、声かけてもいいですか?」
悠真は一瞬驚きつつも、丁寧に頭を下げた。
「ありがとう。もちろん、声かけて。俺なんかでよければ、いつでも」
彼女たちは顔を輝かせながら去っていき、次の瞬間――
「おいおい、今度は先輩が来たぞ」
そう言いながら現れたのは、学内で有名な4人組。
圭介・景・優・勝
いずれも落ち着いた雰囲気を持つ3年の先輩たちだ。
「おーい、神谷。ちょっとだけ時間いいか?」
「……はい」
景と圭介は、どこか照れたように笑いながら悠真に近づき――
「……実は俺たち、美紅さんの大ファンだったんだよな」
「ほんと、デビューの頃からずっと追ってた。……で、正直、最初はマジかよって思ったけど」
「でも、今のお前ら見てて、納得した」
「ちゃんと、幸せにしろよ。俺らの推しだったからな」
悠真は一瞬、何も言えず、そして深く頭を下げた。
「……はい、必ず」
◇
一方、その直後――
授業前の教室。悠真が席に着こうとしたとき、ひとりの男子学生が鋭い視線を投げてきた。
一樹。同じ学部で、無口だが成績も優秀な男だ。
「……納得、いかないな」
「……え?」
「なんでお前が、あの美紅さんなんだよ」
その空気をすぐに制したのは、彼の隣にいた女子学生たち――
**千帆と叶恵**だった。
「しょうがないよ、一樹。もう**“奪える立場”じゃないんだから」
「うん。相手は本気だった。悠真くんと彼女、ちゃんと“夫婦”だったよ」
その言葉に、一樹は唇を噛み、何も言わず席に沈んだ。
悠真は振り返らず、ただ前を見つめていた。
彼女を選んだのも、自分を選んでくれたのも――真実だから。
◇
その頃――
美紅の撮影現場では、衣装替えの合間に周囲のスタッフたちが次々と声をかけてきた。
「美紅ちゃん、ほんとにおめでとう!」
「撮影よりドキドキしたわよ、ニュースのとき」
「まさか、うちのチームから先に“既婚者”が出るとはね~」
女性ネイリスト、女性カメラマン、メイク、スタイリスト――
どれも、美紅が気を許せる“戦友”のような存在だった。
その少し離れた場所に――瑞希が立っていた。
「……まったく、どんだけ愛されてんのよ。あんたらしいけどさ」
姉として、モデル仲間として。
どこか嬉しそうに、どこか寂しそうに、微笑んでいた。
◇
その夜。
3人で並んだ食卓。
食後のほっとした時間に、瑞希がふたりに向かって言った。
「ねえ、あんたたち。これからのこと、ちゃんと考えてる?」
「……うん」
悠真は、美紅の手をそっと取った。
「最初は“交際0日婚”だったけど、今は……一緒に笑える時間が増えた。朝も夜も、家でも学校でも」
「私たち、自分で選んだの。この形で生きていくって」
「……だからこれからも、ゆっくりだけど、一歩ずつ進んでいきたい」
瑞希は黙って聞いていたが、やがて立ち上がって、
「……なら、ちゃんと“選び続けなさい”。未来を、互いに」
そう言って、自室へと戻っていった。
◇
夜。
ベッドの中、静かに灯りを落とした部屋で、美紅がぽつりと呟いた。
「ねえ……私、今すごく幸せだよ」
「俺も。……推しが、妻だからな」
「ふふっ、もう“推し”じゃないんじゃない?」
「いいや。“ずっと推し”で、ずっと妻でいて」
その言葉に、美紅はそっと身を寄せ、ふたりは静かに唇を重ねた。
――交際0日から始まった、ふたりの物語。
それは“夢”なんかじゃなかった。
確かに選び、歩き、重ねてきた、ふたりで選んだ現実だった。
そしてこの先も、きっと。
――手をつないで、寄り添って。
ふたりだけの未来を、共に描いていく。
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