表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/51

第9話「君が、僕の“いちばんの推し”だから」




土曜の午後、少し曇り空。

悠真と美紅は、静かに並んで歩いていた。

向かう先は、都内某所にあるモデル業界の小さな展示会。

業界関係者だけが集まる非公開のイベントに、美紅がゲストとして呼ばれたのだった。


「緊張してる?」


「ううん。……でも、ちょっとだけ不安」


「……どうして?」


「こうして“既婚者モデル”って呼ばれるの、たぶん今日が初めてだから」


美紅は小さく笑って言った。

だがその笑顔の奥に、プロとしての覚悟と迷いが重なるのを、悠真は感じていた。


「俺、いても邪魔じゃない?」


「違うよ。悠真くんがいてくれるから、私はちゃんと立てるの」


そう言って、美紅はそっと手を握ってきた。

一瞬のぬくもりが、互いを支える合図になる。


展示会の控室では、すでにスタッフやメイク担当、スタイリストが出迎えてくれた。


「美紅ちゃん、今日の衣装はこれ。奥さんになったってことで、ちょっと大人っぽく仕上げてみたよ」


「わ、綺麗……ありがとうございます」


メイク中、美紅は鏡越しに悠真を見つめる。


「……見ててくれる?」


「もちろん。……世界で一番、見てる」


その言葉に、美紅の頬が、ほんのり赤くなった。



展示会ステージ――


小さな会場に、温かいライトが注ぐ。

美紅が登壇した瞬間、拍手と共に会場が華やぐ。


だがその中で、質問タイムに入ると、ある関係者がマイクを持った。


「篠原さん。あえてお聞きしますが、“交際0日婚”を選んだ理由は?」


少し空気が張り詰めた。

カメラが向けられ、美紅は一瞬だけ視線を伏せた後、まっすぐ顔を上げる。


「……理由は、たったひとつです」


彼女の声は、澄んでいて強かった。


「私がずっと“誰かに見てほしい”って思っていたとき、その人は……一番そばで、私を見てくれたんです。嘘も偽りもなく、“私自身”を見てくれました。だから――」


その言葉に、会場が静かになる。


「だから私は、その人の隣で生きようと決めました。恋人としてではなく、最初から夫婦として――それが、私たちの形です」


壇上のスポットライトの下、誰よりも美しく見えたその姿に、悠真は胸が熱くなるのを感じた。


彼女はもう、ただの“推し”ではなかった。

大切な人であり、守るべき家族。

誰よりも、心から誇れる――妻だった。



帰り道。

夜の街をふたりで歩きながら、悠真がふと口を開いた。


「ねえ、美紅」


「ん?」


「最初、君は“憧れの人”だったんだ」


「うん、知ってる」


「でも今は違う。……君は、**僕の“いちばんの推し”で、僕の一番大切な人”**だよ」


立ち止まった瞬間、街の灯りがふたりを包む。


美紅はそっと微笑み、そして――


「じゃあ、その“推し”から、ちょっとだけ特別なプレゼント」


そう言って、そっと腕を回し、唇を重ねた。


一度、二度、そして深く。

ふたりは誰にも気づかれない夜の街角で、静かにキスを交わした。



その夜、瑞希が帰宅したふたりを出迎えた。


「どうだった? 展示会」


「……最高だった」


「ふぅん? ……じゃあさ、悠真?」


「な、なに」


瑞希がにやりと笑う。


「今でも、美紅のこと“推し”って思ってるの?」


「……うん。でも、俺の“嫁”でもあるし」


「へぇ、いいじゃん。推しが嫁って、人生大成功じゃん」


美紅は顔を真っ赤にして、口元を押さえながら微笑んだ。


推しと夫婦になった日常は、静かに、でも確実に幸せを積み重ねていた。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

もしこの物語に少しでも「面白い!」と感じていただけたなら——


ブックマーク & 評価★5 をぜひお願いします!


その一つひとつが、次の章を書き進める力になります。

読者の皆さまの応援が、物語の未来を動かします。


「続きが気になる!」と思った方は、ぜひ、見逃さないようブックマークを!

皆さまの応援がある限り、次の物語はまだまだ紡がれていきます。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ