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第98話 会議


 隣でもぞもぞと身を捩っている何者かによって、俺は瞼を開く。

 左右に視点を向けると、布団がふっくらと盛り上がっており、両腕は誰かによって拘束されているようだった。

 はぁ、とため息をついた俺は、いつも通りに声を掛ける。


 「レティナ。おはよう」

 「……」

 「……」

 「ん?」


 いつもなら布団から顔を覗かせて、無邪気な笑顔で返答をしてくれるはずなのに、今日は違った。

 返答の代わりに右腕の拘束が解かれ、部屋に沈黙が訪れる。


 あれ……?


 不思議に思った俺は、右手で布団を捲り上げた。


 「……ルナ。何やってるの?」

 「……」

 「いや、目瞑ってても寝たふりしてるの分かるんだけど?」

 「えぇー。びっくりさせようと思ったのにー!」


 ベッドから上半身を起き上がらせたルナは、 「むー」 と言い、恨めしそうな顔で俺を見つめる。


 「いや、普通に動いてたから、そりゃ気づくよ」

 「ふ~ん。まぁ、いいや。ねぇねぇレオン。昨日の夜は楽しかった?」

 「うん、まぁね。ルナも来ればよかったのに」

 「ルナはもう寝てたのー。でも、話は少し聞いたよ」

 「ん? 誰から?」

 「ミリカちゃんから」


 ルナが俺の左側で寝ている者に向けて、指を指す。


 「なるほどね。なんて聞いたの?」

 「えーとね? レオンに悪いことしちゃったっていうのとー、デートができるから結果的に作戦成功って」


 びくっと大きく震わせた身体の反応が、俺の左腕に伝わってくる。

 俺はもぞもぞと上半身を起こすと、布団を捲った。


 「……ミリカ。起きなさい」

 「……」

 「起きないとデートは無しだよ」

 「っ!! ご、ごしゅじん。おはよう」


 俺の腕から手を離したミリカは、綺麗に宙を舞って見せて正座をする。


 「わー。すごーい」

 「ミリカ……作戦って?」

 「わ、分かんない」

 「……」

 「か、過去の自分。罪人。でも、今のミリカは通常」

 「……はぁ」


 デートの約束をするというのが、最終目的だったのか分からないが、これ以上突き詰めても昨日の二の舞になるだけだ。

 目を逸らすミリカの頭を撫でた俺は、その場で立ち上がりベッドから降りる。


 「まぁもう何も言わないよ。とりあえず、ミリカはマリーを、ルナはレティナを起こして来て。朝食を取り終わったらカルロスの部屋に集合ね。昨日の話を聞きたいから」

 「把握した」

 「分かったー。その前にレオン、ルナにも頭ー」

 「はいはい」


 俺はルナの頭を撫でた後、二人が出て行くのと同時に、店主に朝食を頼みに行った。

 その朝食を平らげると、身支度を整えた俺はおぼんを部屋の外に置いて、カルロスの部屋へと向かう。


 今の時刻は十時過ぎだ。

 つまり、昼までには必ず会議を終わらさなければならない。

 正直自分の立てた作戦は抜け穴だらけだ。その為に、みんなの助言が必要になる。


 カルロスの部屋に辿り着いた俺は、コンコンと扉をノックする。


 「カルロス。起きてるー?」

 「おう。入っていいぞ」


 そう了承を受けた俺はそのまま部屋の中に入る。

 部屋にはマリーとミリカ以外のみんながもう集まっており、俺の顔を見たレティナはくしゃっと笑って、口を開く。


 「おはよっ。レンくん」

 「うん。おはよう。レティナ。カルロスとゼオもおはよう」

 「はよー」

 「おはようございます」


 ふむ。やはり朝からみんなの顔が見れるというのは、少し嬉しいものだ。

 拠点では大抵俺が寝ている間にみんなが出て行くのだから。


 ……まぁ、俺が悪いんだけど。


 床に座った俺はみんなと他愛のない話をする。

 すると、数分後にマリーとミリカも集まった。

 会議の場が整ったことで、一つ咳払いをした俺は話を切り出した。


 「じゃあ、みんな集まったから本題に入るね。まず、俺の方からなんだけど……今日の昼、おじさんにポーラとフェルを会わせることが決まってる。まぁ、おじさんにはもちろんその事を伝えてないけど」


 刻々と頷くみんなを見て、話を続ける。


 「まだみんなの話を聞いてないから分からないけど、策を練らずに正面からおじさんに会っても、きっとまた追い返されるだけだ。だから、作戦を立てたい」

 「なるほどな。ちなみにその作戦つーのは何か考えてんのか?」

 「んー、まぁ一応はね。俺の方からはこんな感じ。みんなは?」


 みんながおじさんと直接会って、何かを聞いたとなればその情報は欲しい。

 <魔の刻>のメンバーは優秀だ。それに情報収集に長けたミリカもいるのだ。

 少しくらいは期待できる情報を持ち帰っているだろう。


 そう考える俺に対して、カルロスは頭をかき、申し訳なさそうな顔を浮かべた。


 「すまねぇレオン。おっさんは留守だったんだ」

 「何処に行ったとかは?」

 「んー、それが分かんなかったんだ。全員で探したんだがな……」


 俺は顎を触って思考に耽る。


 珍しい。

 ただ一言それだけだ。


 基本<魔の刻>のメンバーは、人探しでもその日中には見つけれる。

 それもこの王都は俺たちが拠点を構えている王都ラードよりは狭いはず。


 うーん、と唸っている俺を困った顔で見つめるみんな。


 「……レンくん。ごめんね。ちょっと面倒事があって……」

 「ん? なんかあったの?」

 「えっとね……<海男>っていうパーティーあったでしょ?」

 「うん……えっ? まさか、また……」

 「ううん。それとは違うパーティーに絡まれて……流石にちょっとって思ったから、この王都のギルドに報告しに行ってたの……それで、時間取られちゃって」

 「なんかねー? 可愛いね君たちーって近づいてきたんだよー」

 「はぁ、なるほど……俺が一緒にいたら、そいつらの存在を消していたのに……」


 レティナの外套は割と目立つ。

 ランド王国内では、レティナの外套だけで本人だと分かる人は大勢いる。

 そんな人たちがレティナを口説こうとは絶対に思わないだろう。

 何故ならSランク冒険者というのは、一般的な冒険者の枠組みではなく、尊敬と敬意を示される存在だからだ。


 俺なんかよりレティナの方が有名なら良かったのに、と心の中で落胆していると、カルロスが口を開いた。


 「そんなことあったんだな。俺は全く絡まれなかったぞ」

 「僕もです」

 「カルロスとゼオは二人でおじさんを探してたの?」

 「おう。そうだ。まぁ、途中で昼飯食ったけどな。それでも夕方くらいまでは探したんじゃねぇか?」

 「そうですね」

 「そっか。ありがと。マリーたちは?」

 「私も探したわよ。ただ、昨日は天気が悪くて視界が悪かったでしょ? 流石に難しかったわ」

 「ミリカもマリーと同じ」

 「あぁ。だからか」


 確かに昨日は天候に恵まれなかった。

 傘や外套を着ている者の中からおじさんを探すというのは、いくら<魔の刻>と言えど困難な話だったということか。


 俺はマリーの言葉に納得して、口を開く。


 「みんなありがと。おじさんの話を聞けなかったのは残念だけど、そこは割り切ろう。えっと……それで、俺が立てた作戦なんだけど……」

 「ちょい待ったレオン。まず、なんでおっさんはあの二人に会いたくねぇんだ? 血の繋がった親子なんだろ?」

 「あぁ、それなんだけど……」


 俺はマーゼ王妃から明かされた言葉をそのままみんなに伝えた。


 おじさんが四人を斬り殺したという事件。

 正当防衛だったと訴えたが、その中には医者が居たこと。

 そして、十年の繋囚が決められたこと。


 俺が話し終わるとゼオは不思議そうに首を傾げた。


 「んーと、僕分からないんですけど、フェルさんとポーラさんのお父さんが、牢屋から出たのはいつ頃なんですか?」

 「えっと……数年前とかなんじゃない?」

 「なら、何故お父さんは二人を迎えに行かなかったのでしょう?」

 「……」


 確かにゼオの言う通りだ。

 仮に正当防衛が真実だというのなら、フェルとポーラに十年もの間待たせてしまったことを謝って、また一緒に暮らせばいい話。

 きっと俺がおじさんの立場ならそうするだろう。

 だが、現実は違う。


 ……本当に……正当防衛だったのか?


 そんな疑念を首を横に振って消し去る。

 今考えても答えなど分からない。


 「まぁ、どんな理由でもおじさんに聞かないと分からないことが多すぎるね」

 「……そうですね」

 「んで? 話を戻すが、レオンが言った作戦つーのは?」

 「うん。それはね、レティナが隠蔽魔法をフェルとポーラに掛けるんだ。おじさんと話をするのは俺一人で、みんなは外で聞き耳を。フェルとポーラには中で聞いてもらう」

 「……レンくん。それ無理だと思う……」

 「え? なんで? レティナは隠蔽魔法を行使できるよね?」

 「できるはできるけど……精度は低いの。昔、Bランク冒険者だった人が見破れないとは思えないよ?」

 「な、なるほど……」


 まさかレティナにも……苦手な魔法があるとは。


 俺の立てた作戦はすぐに瓦解した。

 レティナの隠蔽魔法を見たのは幼少期の頃に当たる。

 それ以降は見たことはなかったが、白魔法以外の基本魔法をほとんど習得したレティナは、完全無欠の魔法使いだと思っていた。


 ……そういえば獅子蛇(キマイラ)に行使した束縛(バインド)も一分が限界って言っていたっけ……


 観戦していた当時は何も思わなかったが、今にして考えればレティナの魔力量で一分しか持ち堪えれないというのは流石に早すぎる。


 次の策を考えようと顎に手を触れた時、


 「なぁレオン。作戦なんて必要ねぇよ」

 「えっ?」


 唐突なカルロスの発言によって、俺の思考が止まった。


 「単純に気配を消して、レオンとあのおっさんの話を気配を消した俺らが聞き耳を立てればいい」

 「いや、フェルとポーラは? あの二人は気配を消しきれないと思うけど?」

 「それこそレティナの隠蔽魔法の出番だろ。存在は消しきれずとも気配くれぇ消せるはずだ。そうだろ?」

 「うん、それくらいならできるよ」

 「カルロスにしてはいい提案ね。確かにそれが一番良さそうだわ。まぁ話を聞き出すレオンちゃん任せにはなっちゃうけど……」


 俺の存在をよそにみんなが意見を出し合っている。

 当の俺はまるで空気であった。


 ……ま、まぁ俺も考えていたけどね?

 参ったなー。先にカルロスに言われちゃったよ。


 「すごーい!」 とルナとゼオから賞賛の言葉を送られているカルロスは、頭をかいて視線を逸らしている。


 「……サスロス」

 「なーに言ってんだ」


 呆れた顔を浮かべたカルロスに対して、俺は少しだけしょんぼりするのであった。


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