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第79話 強さの証明


 みんなと合流できた俺は、もうすっかり茜色に染まった街中を歩いていく。

 目的地はみんなが先に支払いを済ませた宿屋のようだ。

 外套のフードを深く被っている俺、ルナ、ゼオに対して、レティナ、マリー、カルロス、ミリカはフードを被っていない。

 少し異様な集団に通りすがる人たちは皆、その光景を二度見しながらすれ違っていった。


 「そういえば、レティナ。宿屋って何部屋取れたの? 流石にみんなの部屋は取れなかったと思うんだけど」

 「う、うん。えっと、一応四部屋まで取れたよ」

 「? そうなんだ?」

 「う、うん」


 レティナの手を握りながら、カルロスとマリーの後ろからついて行く俺。

 いつもと変わらない拠点のみんなとは違い、レティナだけは何か挙動がおかしかった。

 俺を見つけてくれた時は目を合わせてくれたのだが、今は俺の目とレティナの目が合うことがない。

 喋り掛けてみても顔を覗こうとしてみても、パッと顔を背けるのだ。

 そんなレティナと俺の様子を見たルナが口を開く。


 「ねぇねぇ。レティナちゃんなんかおかしいー」

 「え? どうして?」

 「だってね? こーやってー」


 と言いながら俺の左手を握るルナ。


 「レオンの手を握るとね。嬉しくなるの。でも、今のレティナちゃん嬉しくなさそうー」

 「そ、そうかな? 私は嬉しいよ」

 「えー。ほんとかなー?」


 ルナが不思議そうな表情をして、レティナを見つめている。


 レティナが顔を合わしてくれない理由。

 そんなもの一つしか考えられない。

 原因はきっとあのキスのせいだろう。

 あの日から顔も合わせていなかった為か、レティナから読み取れる表情は照れくささと少しの気まずさであった。

 もちろんそんな俺もレティナと久々に顔を合わせて、照れていないということはない。

 ただ、それ以上に一緒に居られることが嬉しくて、レティナやミリカが言う 「補給」 を俺も同じようにしたいのだ。

 つまり、早くレティナをいつも通りのレティナに戻さなければならない。


 さて、どうしようか。

 と考えていると、先導していたカルロスが振り向く。


 「なぁ、レオン。腹減ってね?」

 「うん。まぁ」

 「じゃあ、そこで夜飯でも食べていこうぜ?」

 「おっ。カルロスにしてはいい提案じゃない。レオンちゃん行きましょ?」

 「そうだね。じゃあ、今後の作戦会議も含めて、少し早いけどここで食べていこうか」


 流石カルロスだ。

 俺とレティナの空気を察したかは分からないが、そう言ってくれて助かった。

 多分、他のみんなも気づいているみたいだし、ここでなんとかしよう。


 カルロスが指を指した看板には<猫虎亭>と書いていた。

 その<猫虎亭>にみんなが入って行く。

 が、そこで問題が起きる。


 「ごしゅじん。席ない」


 まだ夕食どきではないので、どの店も空いていると思ったのだが、<虎猫亭>の店内は活気で溢れていた。

 店内を見ると、七人が座れる席はあるようだが、テーブルは離れておりバラバラで座ることになってしまう。

 ん~、と悩む俺に店員さんが駆け寄ってくる。


 「いらっしゃいませ。えーと、七名様で?」

 「まぁ……はい」

 「えーと、只今、七名様分のテーブルは空いていなくて、離れた席のご案内はできるのですが、どうしますか?」

 「んー」


 俺は店員さんから視線を逸らしてみんなを見る。

 明らかに嫌そうな顔をしているみんなは意見が一致してるようだった。


 まぁ、他の店探すか……


 「あー……じゃあ、他の店を探します」

 「なんだてめぇら!」


 いきなりの怒声にルナとゼオがびくりと反応する。

 声の方に目を向けると、三人組の冒険者が俺たちを睨みつけていた。

 ヒックヒックと顔を赤らめながらその中の一人が席を立ち上がる。

 無精髭が生えているその男は、おぼつかない足取りで俺たちの目の前まで来ると、先程と同様の声量で口を開いた。


 「見ねぇ顔だな? <猫虎亭>の飯が食えねえって言うのか? あぁ?」


 左手が強く握られるのを感じた俺は、ルナをチラリと見る。

 ルナは震えこそしないが、あからさまに声を掛けてきた人物を警戒していた。


 「えっと……いきなりなんですか? 子供もいるので、少し声のトーン下げてもらえます?」

 「なんだぁ? その口の聞き方。俺たち<海男>にする態度じゃねえな?」

 「ぶはっ」

 「ぶっ」


 髭男の言葉にカルロスとマリーが吹き出す。


 「ははははっ。なんだそのパーティー名っ。おいっレオン聞いたか? ……う、うみおと……ぶははははっ」

 「ふっ……ふふっ……ちょ、ちょっと……っその名前は……センスないわねっ」


 二人の反応に赤くなっていた頬をこれでもかと赤くする髭男はプルプルと振えている。


 「て、てめえら……」

 「あははっ。おじちゃんのパーティー変な名前ですね」


 カルロスとマリーに続いて、ゼオも笑い出す。

 すると、俺たちの様子を見ていた周囲の人たちもどっと笑い出した。


 「がはははっ。子供に笑われるようじゃ、冒険者も大したことねえな」

 「うふふふっ。<海男>だって〜」

 「そ、それ以上言うなっ。俺も耐えてんだから」


 いつの間にか座っていた<海男>のパーティーメンバーの二人も席を立って、俺たちをギラリと睨みつけていた。


 「お、表でろ。てめぇら! ボコボコにして二度と顔を見せれなくしてやる!」


 なんて命知らずの発言だろうか。

 笑っていたカルロスとマリー、そして、ゼオまでもがすっと真顔になる。


 「ちょ、ちょっと困りますお客さん!」

 「黙りやがれ!! 早く表出ろってんだ!」


 表情を見て、誰もがこう思うだろう。

 こいつらに何を言っても止まる気がないのだと。


 はぁ……めんどくさい。


 俺はため息を吐きながら、外に出ようとした。

 だが、カルロスの信じられない言葉によって俺の足が止まる。


 「よしっ。じゃあ、今回はゼオとルナに譲ってやるか」

 「はっ?」

 「どうだ? ゼオ。やれるか?」

 「は、はい。多分大丈夫だと思います」

 「ルナは?」

 「んー、少し怖いけどルナ頑張る」


 いや、待て待て待て。

 ルナとゼオが、冒険者と戦う?

 そんな事許すはずないじゃないか。


 俺はルナの手をぎゅっと握り、カルロスの顔を見つめる。


 「ダメだ。ルナとゼオを危ない目に遭わすくらいなら、俺がやるよ」

 「かぁー。レオンは過保護すぎたっつーの」

 「て、てめぇら何を言ってーー「少し黙ってくれる?」


 髭男の言葉を遮ったマリーがふっと微笑んだ。


 「ねぇ、レオンちゃん。私はカルロスに賛成なんだけど。ルナちゃんとゼオ君は、レオンちゃんにとってどういう存在なの?」

 「えっ?」


 そんなの決まっている。

 俺が守らなければならない存在だ。

 二人に笑ってほしくて、綺麗な世界だけを見せたくて。


 「俺にとって……」

 「レンくん。信じてみよ?」


 隣でずっと黙っていたレティナが俺の右手をぎゅっと握ってくる。

 そんなレティナの瞳には何の不安も持ち合わせていないようだった。

 まだ決心がつかない俺に対して、ルナが繋いでいた手を離して俺の正面に立つ。

 俺を見上げているルナの瞳は、少し怖いと言っていたのが嘘のように決意で満ち溢れていた。


 「レオン。ルナね? もうあの時とは違うよ?」


 そう言いながらフードをパサっと取るルナに、周囲がざわめきだす。

 俺は目の前に立っているルナの言葉を聞き逃さないように、膝を曲げ耳を傾けた。


 「レオンが言ってくれたの。悲しいことがあったら周りに頼ればいいんだよって。だから、ルナとゼオはレティナちゃんやカルロス、ミリカちゃんやマリーちゃんに支えられて今ここに立ってるの」

 「……うん」

 「だからね? レオン」


 ルナはそう言って、ゼオの手を取り満面の笑みを浮かべた。


 「ルナはもう大丈夫ってレオンに見せるの。ね? ゼオ」

 「うん! カルロスさんと沢山修練を積んだんだ。レオンさんにも見せてあげたい」


 その笑顔はとても無邪気で、その反面、とても強い意志が感じられた。


 子供が親から巣立つ。


 俺はもちろん子供なんて育てたことはないが、一番その言葉がしっくりときた。


 「そっか。じゃあ……見せてもらおっかな」

 「うん!」

 「見てて!」

 「どーでもいいから、早く表出ろや」


 髭男の言葉に俺は笑顔を取り繕い、無言で外へと出る。

 <猫虎亭>から出た路地は割と広さもあり、人通りはあまり多い方ではない。

 拠点のメンバー全員が外に出ると、何故か中に居た人たちも続いて外に出る。


 まぁ……いいか。


 野次馬にも見てもらおう。

 この哀れな冒険者が負ける姿を。


 「あぁ? てめえら舐めてんのか??」

 「ん? 何が?」

 「ガキ相手でも容赦しねぇぞ!!」


 <海男>の前に立つルナとゼオは準備運動をしていた。

 ギラっと睨む<海男>たちに怯みもしない二人。


 「弱いと思うけど……気をつけてね」

 「あぁ?」

 「うん」

 「頑張りますね」

 「じゃあ……始め」


 唐突な俺の言葉にゼオが反応し、<海男>たちの背後に回る。

 突然のことで、反応が遅れた三人だったが冒険者をしていることだけはある。

 背後に回ったゼオの行動に髭男の後ろに居た二人が反応して剣を抜いた。


 その瞬間、俺の黒い感情がドッと沸く。

 たかが喧嘩程度で剣を抜くなんて、なんて思慮浅く短気な者たちであろうか。

 ジリっと前に出ようとする自分の身体をなんとか抑える。


 ルナとゼオを信じなくちゃ。

 ここで俺が出ればルナとゼオの言葉を否定することになる。


 拳をぎゅっと握り、俺はその結末を見届ける。


 男二人が振り下ろした剣を難なく避けたゼオは、男の溝落ちに拳を叩き込んだ。


 「ぐはっ」


 苦悶の表情を浮かべた男は、腹を抱えながら地面に膝を落す。


 「雷の弾(サンダーボール)

 「ちぃっ! 魔術師か!」


 ルナの魔法を剣で弾く髭男。

 ただ、雷属性の魔法を剣で弾いたのだ。

 少なからず、痺れは手に残るだろう。

 その瞬間をルナは見逃さなかった。


 「炎の槍(ファイアランス)


 剣に向けて放ったその魔法は見事に直撃し、そのまま人の居ない場所に飛んでいく。


 「ッ! くっそっがあ!」


 無防備な状態でルナを殴ろうとする髭男の姿はあまりに滑稽であった。


 「!?」

 「お姉ちゃんに指一本触れさせないよ」


 髭男の背後で二人と戦っていたゼオは勝負をつかせて、ルナを守るように男の首元に剣を突きつける。


 十秒も経ったかどうかも分からない時間。

 その早すぎる時間で勝敗が決したことに、シーンと静まり返っていた野次馬が一斉に声を上げた。


 「うわぁ! すっげ!」

 「何あのエルフの子たち……」

 「がっははは。こりゃたまげたわ」


 髭男も自分が負けたことを理解したのか、その場でプルプルと唇を噛み締めていた。


 「レオーン、どうだった? ルナ頑張ったよ!」

 「レオンさん。修練の成果見てくれましたか?」


 駆け寄って来る二人を思わず抱きしめる。


 「きゃっ……レオン……?」

 「わっ……ど、どうしました?」

 「二人とも……すごく強くなったね。正直びっくりしたよ」

 「やたー!」

 「カルロスさんのお陰です」


 そっと身体を離すとルナとゼオは本当に嬉しいのか、ニコニコと俺を見つめる。

 こんなにも小さな身体で、屈強な冒険者にたじろぎもしなかった二人。


 予想以上の結果に、俺はもう一度二人を抱きしめて、優しく頭を撫でるのだった。


申し訳ございません。

以前、20時頃にできるだけ更新と書きましたが、平日は19時頃に変更させていただきます。

これからも応援よろしくお願い致します。

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